第5章 中学校三年間を見通したカリキュラム構想
第1節中学校における「総合的な学習の時間」
1 「総合的な学習の時間」の意義
戦後日本の教育界は、社会の要請に応じながらも対峙する学力観の問 を、振り子のように左右に揺れ動いてきた。一方は、社会科の創設と自 由研究を設けた1947(昭和22)年の学習指導要領(試案)が指し示す 学力観であり、経験主義を背景とした生きて働く「自己教育力」重視の 学力観である。しかし、この学力観に基づく教育では、基礎学力の低下 を危惧する批判の世論が高まり、「読み・書き・算」の重要性が説かれ た。このような基礎学力を重視する学力観は、1958(昭和33)年の学 習指導要領で具現化された。この学習指導要領は、系統主義に基づく教 科学習と道徳の時間を創設を特徴とするであり、系統学習重視の路線は、
1968(昭和43)年の改訂で更に強化された。しかし、学校の荒廃の現 実から社会の要請は一転し「知識偏重」「詰め込み教育」の批判の声が 挙がり、「ゆとりの時間」を設けた1977(昭和52)年の改訂、新学力観 を掲げ小学校の生活科を設けた1989(平成元)年の改訂、さらには教 科の時間数を削減し、「総合的な学習の時間」を設け、選択教科の幅の 拡大した今回の改訂を導いた。しかし、現在のマスコミの論調は、「学 力低下」「ゆとり教育亡国論」などの批判であり、学校現場はもとより、
教育行政も揺れ動いている現実がある。
このように戦後の教育界は、対峙する二つの学力観、経験主義のカリ
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キュラムか系統主義のカリキュラムのどちらかの排他的な選択関係とし て論議されてきた。しかし、親や地域の学校教育対する要求は、このよ うな排他的な選択関係でカリキュラムを位置づけ子どもたちを教育して いくのではなく、生きていくための確かな力を身につけさせることであ ると考える。そのためには、過去の教育実践をカリキュラム論の観点で 整理し、両者を相互補完の関係でとらえ位置づけたうえでの「生きる力」
を身につけさせていく必要があると考える。
このような観点に立脚し、学校教育での学習活動を次の3点に分類し、
具体的な位置づけを整理した。
1.教科学習では、学習指導要領に示された「基礎・基本」を確実に 身につけさせる学習活動。
2.選択教科では、教科学習の発展的・補充的な学習活動。
3.「総合的な学習の時間」では、各教科学習や選択教科で身につけ た学習の成果を自己の経験に基づき総合化していく学習活動。
学習指導要領「総則」に例示された「環境・国際・情報」などを主題 として取りあげた実践が多いなか、地域に根ざしたカリキュラムの開発 の必要性を感じる。地域の教育力を活用し、生徒が身近に感じる地域を 素材とする学習から多様な展開に発展していくカリキュラムを開発しな ければならないと考える。
2 「総合的な学習の時間」の位置づけ
平成8年7月19日の中央教育審議i会 第一次答申「21世紀を展望
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した我が国の教育の在り方について」においても述べられているが、各 教科、道徳、特別活動で身に付いた力を横断的・総合的に関連づけた学 習活動を展開することにより、これからの社会で必要な全人的な「生き
る力」を身につけさせることができると考える。「総合的な学習の時間」
が、単なる遊び的な学習、子ども迎合的で教師手抜きの学習、何でも子 どもありきの発想に立つ学習から脱却するためにも、この学習活動を通 して、どのようなスキルズを身につけるかを明確にしてカリキュラムを 編成する必要がある。
この学習活動を通して身につけられるスキルズは、問題解決能力、情 報活用能力、表現力、コミュニケーション能力、意思決定能力、主体的 な判断力、創作能力などをあげることができるが、これらは、「総合的 な学習の時間」だけでなく・教科の学習活動を進めていく場合も必要な スキルズであるといえる。
また、「総合的な学習の時間」の位置づけを明確にするため、カリキ ュラムの類型を明確にしておく必要がある。カリキュラムを編成する場 合、文化遺産や体系的知識と学習主体の経験・欲求・興味のどちらかに ウエイトを置くかにより、教科カリキュラムと経験カリキュラムとに分 けることができる。これまでの学校教育を、この分類方法で位置づける と、各教科、道徳、特別活動の3領域に分かれ、領域間、各教科問の関 連がない分離教科カリキュラムであるといえる。 09教科カリキュラムは、
教育目標を達成するために、学習内容を分けて学習者の発達に応じて、
最も効果的に習得できるよう系統的に組織されたものであるが、教科乱 立による学習者の負担の増大、知識詰め込みの授業、習得された知識と
109天野正輝『総合的学習のカリキュラム開発と評価』晃洋書房,2000年,p.84
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実生活との乖離といった問題も過去にも指摘されてきた。このような状 態を克服するために、「合科」・「統合」の理念を導入したカリキュラ ム開発の試みが実践されている。
我が国においては、戦前の奈良女子高等師範学校附属小学校、長野師 範附属小学校の合科・総合学習の実践をはじめ、戦後のコア・カリキュ
ラム運動、教育制度検討委員会・中央教育課程検討委員会(日教組が委 嘱)が提言する「総合学習」、70年代の合科学習、前回の学習指導要領 の改訂で社会科と理科が統合されて登場した小学校低学年での「生活科」
などは、分離教科カリキュラムがもつ問題点を克服する試みであったと
言える110。
このようなカリキュラム統合の考え方は、1930年中のアメリカのホ プキンスにより整理されたということができる。教育内容構成になんら かの「統合」の原理1 を導入し、学習者中心のカリキュラムに改良し ていこうとするとらえ方である。ホプキンスの「統合」の理論が示唆す るところを参考にして、学力低下が問題とされる学習指導要領の下での
「総合的な学習の時間」のカリキュラムを開発しなければならないと考 える。既存の教科や特別活動の枠にとらわれず、子どもの日常生活に根 ざした活動や体験・経験を生かし、更に教科学習の内容を深める視点を もって、教育課程の第4の領域として位置づけ、相対的独自性を保ちな がらも関連づけるようなカリキュラム開発をする必要があるu2。
110天野正輝『カリキュラムと教育評価の探求』文化書房博文社,2001年,pp.51−54
111LT.ホプキンス他著(勝田守一・白根孝之共訳)rインテグレーション』櫻井書店,1950年, pp.193−195 112金丸晃二「統合カリキュラム」,天野正輝編著r総合的学習のカリキュラム創造』ミネルヴァ書房 1999年, PP.50−51
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3 「総合的な学習の時間」の学習方法
「総合的な学習の時間」では、横断的・総合的な学習や生徒の興味・
関心に基づく学習展開が求められ、ねらいとしては、主体的、創造的に とりくむ態度の育成をあげている。
また、学習活動では、自然体験やボランティア活動などの社会体験、
観察・実験:、見学や調査、発表や討論、ものづくりや生産活動など体験 的な学習、問題解決的な学習を積極的に導入することが求められている。
平成元年の学習指導要領の改訂から、高等学校の専門教育を主とする 学科においては、問題解決の能力の育成や自発的、創造的な学習態度を 育てることを目標とした「課題研究」が導入されている。この課題研究 の目標・方法については、「総合的な学習の時間」と関連するところが 多分にあると考え、和歌山県立和歌山工業高等学校電子機械科での課題 研究について検証し、体験:中心の学習の問題点を整理する。
1)高等学校の専門教育学校における課題研究
県立和歌山工業高等学校(以下和戦と略)は、9学科、約1500名 を擁する工業高校である。なかでも電子機械科は、昭和61年に新設さ
れた学科である。
電子機械科は、電子、機械、情報の技術を学び、新しい時代のニーズ に対応できる人材を養成することを目標とし、先端技術産業の発展に対 応し、機械、電子、情報、制御などの各分野にわたって幅広い知識・技 術を有機的、総合的に身につけるため、産業用ロボットやNC工作機械 など、機械電子と情報の相互領域を有機的に総合した技術を学習してい
る。
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