第3章 地域に根ざした思想とカリキュラム論
第2節 コミュニティ・スクール論
地域社会を学習素材としてとりあげる教育実践の発想の源泉の一つ は、1930年代からのアメリカにおいて展開されたコミュニティ・スク ール(community school)運動に求めることができる。当時のアメリカ は、全世界を襲った経済恐慌のため市民生活の影響は大きく、地方自治 を立前としていたこともあり、地域ごとの自力更正策が採用され、画一 的な政策からの転換が求められることになった。このような社会情勢の 中で、対面的な人間関係が衰退し、重要な地域社会活動に効果的な青少 年教育の適切な機会が失われてきた。教育の分野においても、書物中心 の伝統的学校教育はもとより、それへの反動や批判として展開された児 童中心主義の進歩的学校の在り方も再検討を余儀なくされ、学校の存立 する地域社会の生活問題や生活過程をコアとする、いわゆる生活中心の コミュニティ・スクールの実践と、それを基礎づける理論的体系的研究
が行われはじめ、地域社会的基盤を重視する「地域社会的研究
(community approach to education)」が隆盛を見るに至った。
学校を地域社会と密接に関連させ、そこでのリアルな生活問題や社会 的課題に子どもを取り組ませようとするコミュニティ・スクール運動の 展開は、従来の経験主義教育のもつ児童中心主義的な傾向を社会生活中 心主義的な方向へ転化させていく原動力の一つとなった。84
このような学校と地域社会との関係を密にする考えや理論や実践は、
L.A.クックの『教育とコンミュニティ』やE.G.オルセンの『学校と地域 社会』に著されている。
84平田嘉三・社会科地域学習研究会著 「オルセンのコミュニティ・スクール論における地域学習」『社会科 地域学習の授業モデル』,明治図書,1980年,pp.20−22
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第3章 地域に根ざした思想とカリキュラム論
本節においては、戦後の日本の地域社会と学校の学校の関係に大きな 影響を与えた両著作から、アメリカにおける地域社会と学校の関係をあ
きらかにする視点から「コミュニティ・スクール」について概観するこ
とを試みる。
1クックの『教育とコンミュニティ』
1)教育の背景
クックは、子どもたちの就学以前の生活経験を占める大きさから、
教育の背景としての生徒とコミュニティの関係に着目し、「教師が彼等 を理解しようとするなら、かれらの教室外での生活と背景を知らなけれ ばならない」「学校の問題にするような社会力についても知らなければ ならない」85と述べている。
初期の教育においては、教育の大部分は地域社会が担い、学校は基本 的な読み、書き、算術に限られたものであった。しかし、工業の進歩、
人口の増加、交通機関の発達、家族構成の変化など、社会の著しい変化 に伴い古い地域社会が解体し、社会生活が複雑になるにつれ、地域社会 は新しい問題に直面する。その役割を教育の専門機関としての学校に託 したのである。換言すれば、「学校とは、もはやコンミュニティの手に 負えなくなったこと、つまり児童を教育することを引受けて行うよう、
コンミュニティが創り出した考案物なのである」8 と地域社会と学校の 関係を位置づけている。
85LAクック(五來要人訳)『教育とコンミュニティ』,リスナー社,1950年, p.140 86前掲書,P7
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第3章 地域に根ざした思想とカリキュラム論
2)コミュニティの定義
言葉には多様な意味を持ち使われ方をするため学術的な言葉には、定 義が必要である。「コミュニティ」の場合も、大家族、特定の社会集団、
包括的な人種・文化のグループ、相互利用する世界を指す場合も使用さ れ、多様で紛らわしいものである。しかし、いずれの場合共通している のは、「共通の価値目的で結び合わされていると感ずる、大勢の人々を 指している」ということである。87
教育との関係を研究する観点からコミュニティとは、「ある場所を占 める特殊の型のグループ、プラスその文化、すなわち、一地域住民を包 括し、特定の方法で機能を現す活動圏」と定義づけられる。さらに具体 的には、「接触する地域に住み」「共通の経験によって統一され」「幾つ かの基本的奉仕設備を持ち」「地方的団結を意識し」「団体組織の資格 で行動できる」このような要件を備えた住民総体または社会総体という ことができる。これらの全ての要件を充足しない地域は、コミュニティ と位置づけることができず、「隣接地区」と呼ばれる。大抵の田園ある いは都市の隣接地域は、三位のコミュニティであり、「隣接地区」とな
る。88
3)地域社会の研究方法
教育社会学は、様々な方法で学校の問題を取り扱ってきた。学校が地 域で役立つ存在となるためには、学校を真の地域の中心に位置づけてい
くことが必要となる。そのためには、教育のねらいを作りかえ、地域社 会での生活を理解し、子どもたちの自我を形成に与える影響力を分析し、
87前掲書,p.41 88前掲書,PP.41−43
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第3章 地域に根ざした思想とカリキュラム論 教師と学校を地域社会と関係づけて見ることが必要となる。
クックは、教育の地域社会的基盤に関する研究を取りあげ、教育問題 に対する地域社会学的研究は、社会学的観点と教育的観点の二つの観点 にたつものがあるとした。89
社会学観点から地域社会を研究すると
・小さな地域社会であっても、より大きい社会で見られるあらゆる 要素や過程を含んでいること。
・抽象的な概念とは別に、具体的な実際性をもっている
・生活と構造を分析する場合、構成要素が抜け落ちないような正確さ が必要である
地域社会は、独立した存在ではないので、国家的規模での変化と関連 づけて研究しなければならない、としている。
教育的観点からの研究では、
・地方的な地域社会は、勉強と教授の基本的単元になること
・地域社会で子どもが成長するが故に、地域社会での生活様式、地域 集団での経験は、学校での学習することに影響を与える。
・地域社会で子どもたちに影響を与えることは、教材の出典となる。
・教師が地域社会に同化することにより、教育の成否がかかる。
地域社会は、学校の効果的な環境を構成し、生活全体が教師にとって 関心をもたなければならないものであるとしている。
4)学校の役割
共同体としての地域社会が本来の機能を失っていることは、明らかで
89前掲書,p.21−22
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第3章 地域に根ざした思想とカリキュラム論
ある。生活様式は、都会的・産業的になり、分業化している。このよう な実態のなかで、民主主義を可能にする思想と感情の連帯を取り戻す方 法は、学校教育にゆだねなければならない状態である。そのため教師の 仕事は、「充分に社会のことに参加するよう、若い人々を教育すること」
であり、地域社会からの信頼を受けるような方法を考えるなら、学校は、
「従来にない大責任を児童と大人の生活に対して引きうけなけねばなら ない」とし、「学校の役割は、ますます責任あるものになってくる」と している。また、学校の持つ機能のなかでは「社会的ガイダンス」とい う観念は、「学校と生徒の間隙に橋を架け、個人と人格を発達させ、地 方のコンミュニティを更に住み心地よう所にしょうと努力させること」go を子どもたちへの教育として効果的だとしている。
当時のアメリカの社会では、経済恐慌のなか地域的な自力更正が求め られていたため、社会的連帯が必要となった。社会生活を中心とする「地 域社会学校」の運動と連携し、教育の改革を社会改造の基盤の上に展開 するため、コミュニティを分析し、そこから教育の具体的な目標を設定 し、カリキュラムを構成しようとした。地域や集団が子どもたちのパー ソナリティーの形成におよぼす影響のなかで、学校教育を正しく位置づ けようとする試みは、クックの著作に負うところが多分にある。
90前掲書,p.11
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第3章 地域に根ざした思想とカリキュラム論
2オルセンの『学校と地域社会』
1)教育理念
オルセンは、学校が地域社会における多くの生活問題や社会的課題か ら遊離していることをふり返り、学校の基礎的役割を人間生活の質の改 善におき、そのためには、学校と地域社会との問の協力を密接に関連づ けなければならないとした。従って、オルセンの構想した「地域社会学 校」の主要な任務は、地域社会の要求に応じることであり、その意味に おいて「地域社会学校」は学習と生活との結合の場に位置づけられる。
生活中心の教育を考える場合、学校の位置づけを5点の見解にまとめ
ている。91
1.学校は、成人教育の中心として働くものでなくてはならぬ。
2.学校は、協定した計画を強化するため、地域社会の諸材料を利用 しなくてはならぬ。
3.学校は、その学校の教育課程を、地域社会の機構・過程および諸 問題に、その中心を置くものでなくてはならぬ。
4.学校は、地域社会の諸活動に参加することによって、その社会を 発展させなくてはならぬ。
5.学校は、地域社会の教育的な努力を組織立てる指導者とならなく てはならぬ。
これに5点の見解のうち第1・第2・第3は、地域社会を学校の中に 取り入れようとするものであり、第4・第5は、学校を地域社会の中に 取り出そうとするものである。
91E.G.オルセン他著(宗像誠也他訳)『学校と地域社会』,小学館,1950年, pp26−27
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