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られようが,現在の分布からは「くすし指」も現存せず,

その可能性がうすいと思われる。なお,「薬」を意味する クスという語は,「薬玉」などの複合語はあっても,単独 には『全国方言辞典』および,この地方の方言資料を見て も発見できない。おそらく,「指」と複合した揚合に音節 数の関係でRIの部分が脱落したものであろう。新潟と 三宅島にKUSO〜が見られるが,これらは周囲の分布 から考えてKUSU〜からの変化であろう。この2地点

とも,U>0の傾向が多くの単語に見られているところ

である。

 静岡・長野県境のK:USURISASI〜は「薬をつける」

の意から発生したとも考えられるが,分布から考えて,

ベニサシ類との接触が,この語形形成に強く働いたこと を考慮しなければならない。

 ベニ類・ベニサシ類・ベニッケ類は,たがいに分布地 域が重なり合う様相を呈しているので,まず,この3類を まとめて,これらとクスリ類との関係を考えてみたい。

このべニなどの類は西日本に広く分布するが,奄美がク スリ〜であることは注目される。また,東日本でもベニ などの類は,日本海側を新潟西部海岸・佐渡・津軽と北 上し,北海道・三陸地方にまで至っており,太平洋側で は伊豆半島や房総半島へと侵入した形跡を示している。

すなわち,古くは全国的にクスリ類が分布していたとこ ろ,近畿でベニなどの類が広まり,これが西日本方面で は九州まで達し,東日本方面では,中部山地等では進展 がくいとめられたが,海岸沿いにはかなり東方まで侵入

したということになろうか。

 西日本のべニなどの類の分布地域でも,この類の分布 の密度はそれほど濃くなく,クスリ類のかなり混入して いることが,地図から感じられる。このことは,のちに広 まったベニなどの類も,完全にはクスリ類を駆逐せず,

何らかのニュアンスの差を分担しながら併存の状態で広 まったことを思わせる。なお,分布図をこまかく見る と,西日本でも中国地方山地・四国山地・紀伊半島の辺 地などに,クスリ類が比較的多いように見える。これ は,ベニなどの類がまだ山間辺地までは十分浸透してい ない状態を示すものと考える材料となろうか。ベニなど の類の分布しているところヘクスリ類が後に侵入してき たと考えるより,可能性がある。なお,ベニなどの類の 歴史を考えるには,口紅の使用, そのつけ方などに関す

る歴史や伝播をも参照することが必要となろう。

 次に,ベニなどの類の中におけるこまかい語形につい

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て説明しておく。ベニ類・ベニサシ類・ベニツケ類に共 通してBEN〜は円弧の形の符号を与えてあるが,これ はBENIからの変化と考えられる。おもな地域は,ま ず九州一帯であって,ここはNIの音がNになる傾向 が強く,とくに南部では音韻法則として存在する。BE N〜となるもうひとつの地域は,近畿中央部から北陸に かけての地帯である。おそらく近畿で発生したものが伝 播したのであろう。なお,122図「人差し指」の説明でも 触れたが,2拍形のべニ類の場合は,濃尾平野の2地点を 除く以外は,必ず「ゆび」部分がついているのに対して,

4拍形であるベニサシ類とべニツケ類の場合は,「ゆび」

部分のない形もかなり認められる。しかも,122図の説 明でも指摘したとおり,九州と北陸にこれらの傾向がい ちじるしい。なお,岩手は3拍のクスリなので,「ゆび」

部分脱落がほとんどない。

 福岡のBENSOのソについては,123図「中指」の タカンと地域的に一致する。当然関係があろう。福井の BENTAROOは,この地域に,ほかの指で〜タロオの 見られないところである。しかし,各地で,ある任意の 指を擬人化して呼ぶことは自然なことと思われる。熊本 のBENSASIDONも擬人化の現われであろう。

 ベニなどの≡つの類どうしの歴史的関係を考えてみよ う。ベニ類は,ベニサシ類やベニッケ類より辺境に離れ て分布しているので,3者の中で一番古いものの残存の ようにも思われる。しかし,意味的にはべニサシやベニ ツケの方が,ただベニとだけ言うよりは古い形とするほ うが自然のようにも思える。その後,〜サシや〜ツケの 部分を省略するという同じ傾向が辺境の各地に生じ,そ れが部分的に広まっていくことも十分考えられる。津軽 のものは,この地方で脱落したというより,北陸方面か らベニユビという語形で侵入したものと考えるべきであ ろ弓。前掲の前田氏論文でも,ベニユビという語形の報 告はないので,この語形は,あるいは近畿地方ではつい ぞ姿を見せなかったものではないかとも思われる。な お,山口のBENSIのSIは「指」の音読みかと思われ

るが,BENSASIのSAの脱落とも考えられる。さ

きに触れたBENSOなどとも比較すべきものかも知れ

ない。

 ベニサシ類とべニツケ類の前後関係は,分布からでは 何とも言えない。量の上ではべニサシが圧倒的である が,近畿中央部・山陰・中国中央部・佐賀などには比較

的ベニツケが多く見られる。あるいは,これらの地点で は,サスという動詞の意味がはっきりしなくなり,なじ みの深いツケルに言いかえてベニツケが発生したかとも 思われる。

 紺の符号で示したもののうち,凡例のNANASINO−

YUBIからNANINUBIIまでをナナシ類と呼ぼう。

これらは「名無し」に由来する形と思われる。AZA〜も

「字」すなわち「名」にあたるものかと思われる。ナナシ類 を大別すると,ナナシ・ナナイ,さらにナに何らかの形 がついたものの3種になり,それぞれに助詞の「の」がっ

くかどうかという分類になる。これらのほとんどが奄 美・沖縄に分布するが,ナナシは本土にも見られる。

 ナナシ類の分布は沖縄のほか,岩手の三陸・三宅島。

岐阜・紀伊半島山地などに分布し,古い形の残存を思わ せる。この類は「呼び名が無い」の意にあたる語形である から,無回答として扱った報告にも通じる面がある。

「無回答」が沖縄に多いことは,分布の上からもナナシと

「無回答」の性格の近似性を暗示しているようである。沖 縄以外で無回答の多い地帯を指摘すると,青森全県・岩 手東部・北陸・岐阜・中国山地の東端および西端・四国 東南部・大分南部・鹿児島西部など辺境が多い。すなわ ち,ナナシ類と「無回答」は,クスリ類よりも古いものの 残存ということができよう。これは,121図の説明に示

した一覧表に照らし合わせても矛盾はない。さきに,ク スリ類とベニなどの類との考察で中国地方山地・四国山 地・紀伊半島の辺地などのクスリ類を残存と考えたが,

実は,この地域は元来「無回答」地域であって,固有の形 がないため標準語形を受け入れやすかったという考え方 のあることを付記しておく。

 中央の古い文献に見えるクスシユビについては,地図 では1地点も見出すことができなかった。ただ,青森・

岩手・宮城・栃木などのイシャ〜の類がその言いかえか と思われる。

 KANE〜, K:ANESASI〜, KANECUKE〜など

は「鉄漿(かね)」に由来するものと思われる。さらに,

KAN〜もKANE〜から,1(ANSIもKANESASI

からの変化と思われる。薬指を「三指」と言弓術語がある ようだが,おそらく無関係であろう。これらはすべて中 国地方に点在し,ベニサシやベニツケの分布地域に含ま れている。

125、こゆび(小指)

 「ゆび」部分に関する符号,および凡例における切れ目 表示は121図の説明の冒頭に述べたとおりである。

 緑の符号で示したコユビ類が全国的に分布し,ほか,

草の符号を与えたユビノコ類が沖縄に,茶のコヤユビ類 が北陸と九州に,赤のピコユビ類が東北と南関東に,榿 のシりユビ類が岩手と能登半島と山陰に,空のコトユビ 類が東北北部に,また,紺で示したうち,チイユビが.静 岡,コンチユビが北陸に分布している。

 コユビ類のうち,奄美・沖縄でKU〜となっているの はコが規則的に音韻対応をしているものと考えられる。

奄美のKA〜, KIWA〜, KWAA〜はコにあたる形で あり,これは「小」とい5より「子」を意味するであろう。

 草で示したものは,すべて,ユビノコ・ユピコにあたる 形であって,〜KIWAの中には「子」を意味するものもあ ろうし,東北方言などの指小辞に通ずるものもあろ5と思

われる。〜GWAは〜KIWAと同じ類である。〜KAA

は〜KIWAからの音変化であろう。〜GAMAも〜K:一 WA・〜GWAと同じ意味を持つものであろう。〜MA は〜GAMAの一MAと関係があろう。ただし,〜GA−

MA,〜MAの項の中には, UIBINUKWAAなどのよ

弓な,ノにあたる助詞を介して接尾するものはない。〜MA の接尾する直前はかならず長母音である。r入重山語剰 にはマを愛情を表わす接尾辞として,タルに接尾するタ ローマ,ナビに接尾するナベーマなどの例を挙げてい る。別にアーマという見出しもあるが(例はサラに接尾 するサラーマなど),実はマ・アーマと見るよりアマと

して一括説明したほうがいいものかも知れない。

 第1集の21図「小さい」における形容詞の語幹と通ず る形を持つものとしては,紺で示したうちのCIIBI,

IMI UIBI, IMI,UIBIGAMA, MINAGAMA,UI−

BI, MINA UIBIなどしかないが,「小」を意味する形 態素のコは,コユビの中に含まれ全国的にあるものと思 われる(17図「大きい」でフトイ類が分布する九州でも,

121図でオオユビが「大指」にあたるのと同じような関係 である)。しかし,コユビ類やユビ(ノ)コ類のコは,大小 の小のほか親子の子の意味をも持ちうると考えられる。

とくに,121図「親指」における語形の分布と対照させて 考えると,現在は大小より親子の意識が優勢なのではな いか,と思われる。元来は大指対小指の意識であったも        一44

のが,のち親指対子指の意識が生じて,このような分布 を呈するに至ったものかと思われる.』

 コや指は,2箇所に離れて分布しているが,両地域で 各々「親指」のオヤユビという語形からの類推でコヤユビ を生じたものであろう。

 ヒコ類は,親に対する「子」を更に強めたため生じたも のであろ5。この類の分布する地方は概して曾孫をピコ という地方であるが(139図参照),正確に曾孫の意かど

うか疑問もある。r和名抄』には「孫比古」とあるので,こ の類は,あるいは「孫指」の意に由来するかも知れない。

この類は岩手と関東という離れた地域に分布している が,古く連続領域があったと考えるより,それぞれの地 域で,たとえばオヤが「祖」と考えられ,それに対するも のとしてピコが生まれたと考える方が穏当であろう。古

く広い連続領域があったとは考えないとしたが,関東に 限れば,房総・神奈川・東京西部・埼玉のものは,ひと 昔前には分布が連続していたであろ5。なお,関東でヒ を〔∫i〕と発音する地方の〔∫iko〕は,音の対応と考えて HIKOと表示しておいた。ここは岩手と異なってシリコ と分布が接していないので,シリコの音変化である恐れ がないと思ったからである。

 シリ類は,「後」の意によるものと思われる。ヒコ類とも とは何か関係があったものかも知れないが,よくわから ない。岩手における三巴の関係についてはあとで述べる。

 山陰のSIRIKO〜は, SIRI〜に近隣…して分布する KO〜のK:0がついてできたものであろら。能登のシリ 類はKO〜と分布がほとんど接していないのでSIRI−

KO〜という語形を生じなかったと説明されようか。

能登に分布しているSIRO〜は「うしろ」の頭音の脱落 したものと思われる。その南に接するSIRAYU81,

SIRAIBIなどは,上記のSIROが「白」のように意識 されたか,あるいはシロが複合.語を構成する場合,交替 してシラとなることの類推で生じたものであろう。出雲

のSIKOはSIROKO〜の音節脱落によるものと思わ

れるが,岩手のSIKOは,そうとも考えられるほか,

前述の赤で示したヒコ類に対応する語形なのかも知れな い。シリ類は,岩手・能登・山陰という辺境の地に離れ て分布することから,古いものの残存かと思われるが,

前掲の前田氏の論文に見あたらないものであり,断言は できない。あるいは,文献時代よりもさらに古い時期 に全国的に連続して分布していたものかも知れない。

SIROKUYUBIが兵庫の北に見られるが,129図「か

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