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丁寧形式を持つ語形は,いずれも採用することにした。

ただし,以上のような問題点に留意して取り扱うことが 必要である(なお,この問題を本格的に検証するために は,地図化しなかった0場面の《246−0》のデータとの 照合も必要だろう)。

 次に語形の統合について説明する。

 まず,表記の統合であるが,次の報告は無声化した母 音を省略した表記と考え,sの後に母音を補充して,

「→」の右の形に統合した。

  5732.77[era∬amaska]→<eras司aimasu−ka>

   ク   [egla=ska] → 〈e宙aNsu−ka>

   〃  [mε:頃:ska]→〈mεεぢaNsu−ka>

 次に音声の統合であるが,次の回答は

  0228。96 [?o?6kk6i]

〈?00N−kk奄i>に統合した。調査地点の鹿児島県大島郡笠 利町佐仁では,マ行音が変化して鼻母音化することが知 られている(中本正智『琉球方言音韻の研究』368ペー

ジ)。

 関連項目の質問表現aの多くの項目同様に,終助詞

(正確には「後部」)はハイフンの後に回して,実質的に 部分統合を行った。さらにここで扱う質問表現bでは,

「2ユ質問表現bの概要と記号化」にも触れたように,推 量形式に該当する部分もハイフンの後に回すことにし た。また,引用形式にも同様の扱いを適用している。こ の点は,質問表現aと大きく異なる点である。先に挙げ た例をもとに示すと以下のようになる(「→」の右が統 合後の形)。

・推量形式

  5597.42[イカッセルヤロカ]→〈ikasserujaroka>

  6523.87 [ikaharunqlaroka] → 〈ikaharu−nqjaroka>

  6533.61 [ikahann司aro] → 〈ikahaN−n(類aro>

  6542.64 [ikaharun司aro] → <ikaharu−nejaro>

・カシラ

  6697.59 [ikulnoka∫ira] → 〈iku−nokasira>

・引用形式

  2734.06 [igutena:] → 〈igu−tenaa>

  2761.66 [egα1t(オ。] → 〈egu戸t∈類。>

  5579.79[イカレルッテヨ]→〈ikareru−tt句。>

   ク [イクッテヨ]→〈iku−tt句。>

  6422.93 [ikutete] → <iku−tete>

   〃   [ika∬a:tete] → <ikasミjaa−tete>

   ク  [oidemasitete]→〈oidemasi−tete>

 やや特殊な語形が見られたので,説明しておく。

 次の語形は,

  5669.19 [itt∫anoYana]

茨城県の報告であるが,テヤ敬語に類似するものの,従 来知られている分布領域からは大きく外れるもので,

「行ってしまう」にあたる語形かもしれない。注意して ほしい。

 次は,過去形にも見えるが,過去形的な形はいずれも

「のだ」にあたるものの変化と考えられる。

  3710.70[iηulattabT葡a]〈ベーカイがなまったもの>

  3730.43 [ekula賃akε・]

  3731.38 [igue琉abeqja]

 次は可能形にも見えるが,可能形に類似した敬語形と 考えられる。

  6378.06 [ikeru疋}kano]

 その他,問題になる語形としては,次の報告が挙げら れる。この鼻濁音の現れは音韻対応上特殊である(第2 集解説書20ページなど参照)。

  8361.42 [iddoηa]

〔語形の記号化〕

 「2.1.質問表現bの概要と記号化」にも記したように 記号化の手続き・方法は,基本的に質問表現aに同じで

ある。

 295図では,〔語形の採用と統合〕に記した手順で採 用・統合した語形に対し,さらに動詞「行く」(一般動 詞)相当の部分に対して部分統合を行っているが,その 手順も質問表現aにおいて,当該項目同様に動詞「行く」

(一般動詞)を核とする275図に同じである。

 ただし,繰り返し記したように,推量形式を含む語形 のみ扱いが質問表現aと異なっており,当該項目ではこ れらをハイフンの後に回して統合している。そのため,

例えば,質問表現aにおいて「1.1.質問表現aの概要と 記号化」の「C.質問表現aの記号化」「C−3.記号化」「a.

一般動詞」で「1−5非尊敬非丁寧形式1」として扱った 中後部の形式は,当該項目ではおもな記号化の対象部分 にはならず,終助詞などと同等に扱うといった違いがあ

る。

 以上の点に注意した上で,記号化の詳しい手順に関し ては,質問表現aを扱う「1.L質問表現aの概要と記号 化」の「C.質問表現aの記号化」を参照のこと。

3.命令表現

3.1.命令表現の概要と記号化

A,命令表現の概要

 命令表現は,聞き手に対してある行為を行うように求 める表現である。

 調査は,動詞「行く」「来る」「いる」を用いた質問文 によって行った。質問番号の順に示す。

《255−A》近所の知り合いの人にむかって,ややていね     いに「こちらの方へ,来なさい」と言うとき,

    「来なさい」のところをどのように言いますか。

《255−B》この土地の目上の人にむかって,ひじょうに     ていねいに言うときはどうですか。

《256−A》近所の知り合いの人にむかって,ややていね     いに「この部屋にいなさい」と言うとき,「い     なさい」のところをどのように言いますか。

《256−B》この土地の目上の人にむかって,ひじょうに     ていねいに言うときはどうですか。

《257−A》近所の知り合いの人にむかって,ややていね     いに「あそこへは,バスで行きなさい」と言う     とき,「行きなさい」のところをどのように言     いますか。

《257−B》この土地の目上の人にむかって,ひじょうに     ていねいに言うときはどうですか。

 このうち地図化を行ったのは,B場面の3項目《255−

B》 (300〜302図), 《256−B》 (303〜305図), 《257−

B》 (297〜299図)である。(質問番号の順と地図番号 の順は異なっている。)

 命令表現をはじめとした聞き手に対する要求を表す表 現は,一般に,聞き手になんらかの負担を求める表現で あるため,話し手による配慮を表すのに様々な表現上の 調整が行われることが知られている。中でも,ここで取 り上げるB場面のような「目上の人にむかってひじょう にていねいに」言う場面では,表現上の調整が特に慎重 に行われることが予想される。そのような場面で,尊敬 形式や丁寧形式といった敬語の中核的な要素がどのよう に現れるか,またそれとともに,依頼や勧めといった 様々な表現類型による回答がどのように現れるか,注目

される。

 『方言文法全国地図』で命令表現を扱ったものとして 44

は,他に,第5集209〜220図の命令表現の地図があり,

「起きる」「開ける」の二つの動詞について,「やさしく」

「きびしく」という2種の発話態度による表現を取り上 げている。297〜305図の「目上にむかってひじょうに ていねいに」とは異なるタイプの発話態度による表現と

して,比較することができる。また,活用形としての命 令形は,第2集85〜91図で,「起きる」「見る」「開ける」

「任せる」「蹴る」「来る」「する」の六つの動詞が取り上 げられている。

 さらに,命令表現は動作主体が聞き手であるので,こ の点で,第6集の待遇表現項目のうち,「質問表現a

(聞き手主体)」と関連する。第6集の「命令表現」では この点を重視して,相互の比較が容易なように,「質問 表現a」に準じた方法で記号化を行った。

 地図化にあたっては, 《255−B》 《256−B》 《257−B》

とも,それぞれ3枚の地図とした。

 これは,「質問表現a」に準じて「一般動詞を用いた 回答」(297,300,303図)と「敬語動詞を用いた回答」

(298,301,304図)を別々の地図に登載したほか,「行っ てください」「行くといい」「行きませんか」など,命令 の形式以外の様々な表現類型による回答の後半部分

(「てください」「といい」「んか」等にあたる部分)を,

別の地図(299,302,305図)に登載したものである。

(「C語形の記号化」で詳述する。)

B.語形の採用

B−1.多様な表現類型の回答

 命令表現の各項目では,「行きなさい」「行かっしゃい」

「おいでなさいませ」のような命令の形(多くは尊敬形 式・丁寧形式を含む)のほか,「行ってください」のよ うな依頼の形,「行くといい」のような勧めの形,「行き ませんか」のような否定疑問の形など,様々な回答が見 られた。以下に,命令の形以外の表現類型による回答の 例を, 《255−B》 「来なさい」, 《256−B》 「いなさい」,

《257−B》「行きなさい」の各項目ごとに挙げる。

・してください

《255−B》 4742.95 [kltekuInaeN]

     5697.57 [kiteku」ra∬e:]

     6513.86 [kiteokur∈jasu]

《256−B》 5575.52 [oidenasutteokunnahaiコ      6480.23 [ot:etsuka:sai]

     8322.68[ottamonse]

《257B》 1799.94 [ittekudasai]

    2772.75 [etekehed3a]

    3722.42[o曜dzattetamore]

・してくれるか,してもらえるか  してくれないか,してもらえないか

《255−B》5568.14[キテモラエンカナ]

    5679.69 [kgtekrekka]

    8333.50[03attamohaNka]

《256−B》 1747.55[iteitadakemasuka]

    6516.13[オッテイタダケマセンカ]

    6600.34 [ottekureηkainoi]

《257−B》6477.12[オイデテクレマスカ]

・するといい,した方がいい,したらどう

《255−B》 2734ρ6 [kitaraigabe:]

    378α65 [gozattaho=e:desul]

    6498.50 [kinasattara]

《256−B》 5628,89 [oraretarai=nd3analidesulka]

《257B》 4675.45 [ikinasuttaho:gai:desune]

    6485.21[オイデタラドーデスカ]

    7342.65 [ikaQ∫aQtojoka]

・しませんか(否定疑問)

《255−B》 7341.21 [oidensara勾kanta]

《256−B》 8324.40 [o輯ansaηka]

《257−B》 6416.22[ikarema∫eOka]

・するように

《255」3》2761.66[k山r山(ミpi]〈古〉

《256−B》 6435.04[オラレマスヨ一二]

 その中でここでは,採用の範囲を,「聞き手(=この 土地の目上の人)に対して,「来る」「いる」「行く」と いう行為を行うように求める表現」とし,これに収まる と見られる回答は広く採用することにした。上記の類の 回答はすべて,採用の範囲に入るものとして扱った。

 例えば,「行ってください」「行くといい」などの表現 は,依頼する,あるいは,勧めることによって,間接的 に「行く」という行為を行うように求める機能を果たす と考えられる。「行きなさい」のような(敬語形式を含 むとはいえ)単純な命令の形による表現に比べて,行為 の決定権が話し手ではなく聞き手にあるという表現をし たり(依頼・勧め),聞き手が恩恵の受け手であること を明示したり(依頼)することが,「ていねい」な発話 態度と結びつくと見られる。尊敬形式や丁寧形式といっ た敬語の中核的な要素だけでなく,このような表現類型 の回答を広く採用することは,待遇表現としての命令表

現の項目のねらいに合致するものである。

 採用の範囲をこのように定めることによって,命令表 現の項目で不採用とするのは,『方言文法全国地図』全 体の採否の方針によるもの以外には,次の場合に限られ ることになる。

・聞き手が「この土地の目上の人」ではないことが明ら  かな回答。

・「来る」 《255−B》,「いる」 《256−B》,「行く」

 《257−B》にあたる動詞が用いられていない回答。

・意味的に,「「来る」「いる」「行く」という行為を行う  ことを求める表現」から大きくはずれている回答。

 以下は,これに沿って,具体的な語形の採否について 検討したところを述べる。

B−2.聞き手

 次の回答は,注記から,想定されている聞き手が土地 の人ではないことがわかるので,不採用とした。

《255−B》 「来なさい」

  5623.94[oidekudasai]〈外来者へ〉

《257−B》 「行きなさい」

  5623.94[oidekudasai]〈外来者へ〉

 また次の回答は,「目上」には使わないということな ので,不採用とした。

《256−B》 「いなさい」

  6422.93[ottekudasaema∫e]〈#〉(目上の者にはこう    は云わないという。)

 一方次の回答は,想定されている聞き手が限定されて はいるが,質問文の範囲内であると見て採用した。

《255−B》 「来なさい」

  2734.06[kimaseηka]〈村長さんに使う。〉

《257−B》 「行きなさい」

  2734.06[ittarai:de∫o:]<村長に対して使う。>

B−3. 「来る」「いる」「行く」にあたる動詞  「来る」 《255−B》,「いる」 《256−B》,「行く」

《257−B》にあたる動詞が用いられていない回答は不採 用とする。この点に関して検討した結果を,項目ごとに

示す。

 《255−B》 「来なさい」では,移動を表す動詞が用い られていない回答,移動を表す動詞であっても,「通る」

「あがる」を用いた回答は不採用とした。一方「出る」

「出かける」「寄る」「入る」を用いた回答は採用した。

 《256−B》 「いなさい」では,動詞が用いられていな い回答を不採用にしたほか,「待つ」「休む」「くつろぐ」

ドキュメント内 方言文法全国地図解説 6 : 付資料一覧 (ページ 49-53)