第1節 緒言
第2章,第3章においてマルトビオン酸は,消化吸収率,体内保留率の観点から非 常に優れたミネラル吸収増進作用を有する糖質であることが明らかとなった。しかし ながら,マルトビオン酸の腸管での具体的な吸収促進部位や吸収増進機構については 明らかとなっていない。このような腸管吸収を考察する際に有用な実験手法の一つと して腸管反転サック法がある。この手法はin vitro における物質の腸管吸収を測定 する方法として広く使用されてきた(WilsonとWiseman 1954)。
そこで第4章では,炭酸Caとマルトビオン酸Caの腸管吸収効率の比較を,腸管反 転サック法を用いてin vitro系にて検証することを目的とした。
第2節 動物実験方法 2-1 実験動物
実験動物は,6週齢のWistar/ST系Clean雄ラット(体重 160~180 g)を日本エス エルシー株式会社から購入した。
2-2 飼育方法と腸管反転サック法による評価方法
ラットは5連の個別ゲージに入れ,実験環境に慣らすために3日間,AIN-76標準飼 料と水道水を自由摂取させた。そして解剖 24 時間前に,絶食させ,水道水のみを与
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えた。なお,飼育室の温度は,23±1℃,明暗12時間サイクル(明期 AM6:00~PM6:00)
とした。
ソムノペンチル麻酔下で開腹後,空腸(空腸吻合部から 15cm の長さ)と結腸(回 盲弁から5cm離して15cmの長さ)の5 cmの連続する断片をそれぞれ切り出した。こ の腸断片は,先の鈍いガラス棒で裏返し,その末端を絹糸で結紮した。もう一方のサ ックの末端は,漿膜側溶液0.4 mL(10 mM Tris-Hcl buffer (pH 7.4),125 mM塩化 ナトリウム, 4 mM 塩化カリウム,10 mM グルコース,1.25mM 炭酸Caまたはマルト
ビオン酸 Ca)を注入後に結紮し,予め混合ガス(O₂/CO₂=95/5,V/V)で充分にバブ
リングして37℃に保温された200 mLの粘膜側溶液120 mL(10 mM Tris-Hcl buffer (pH 7.4),125 mM 塩化ナトリウム, 4 mM 塩化カリウム,10 mM グルコース ,10 mM,
20 mM,40 mM 炭酸Caまたはマルトビオン酸Ca)へ投入した。反転サック投入時を吸
収開始として,インキュベート開始後 30 分後に反転サックを取り出し, 内液中の Ca 量をOCPC 法で測定を行った。なお,小腸反転サックはWilsonと Wiseman(1954)
の方法を一部改変し作成した。
第3節 統計解析
データは平均±SE で表した。二元配置分散分析にて Factor A を Ca 源の違い,
Factor BをCa濃度とし,検定を行った。Studentのt-検定は各Ca濃度における2群 間での検定に用い,有意差がある場合はマルトビオン酸 Ca 群にアスタリスク(*)
を記載した。一元配置多重比較は同じCa源の各Ca濃度データ間での検定を行い,第
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3章と同様の手順で解析を行った。
以上の検定はすべて危険率5%未満(p<0.05)にて有意差ありと判断した。解析には,
エクセル2010およびエクセル統計2012(社会情報サービス,東京,日本)を用いた。
第4節 結果
反転サック内に取り込まれたCa量をFig. 4-a,Fig. 4-bに示した。空腸,回腸と もにマルトビオン酸Ca群のCa吸収量は炭酸Ca群と比較して有意に増加した。また,
マルトビオン酸Ca群では,空腸ではCa濃度40 mMにおいて10,20 mMよりも有意な Ca吸収の増加が見られ,回腸ではCa濃度20,40 mMにおいて,10 mMよりも有意な Ca吸収の増加が確認された。さらに,同じCa濃度間では,空腸,回腸ともにマルト ビオン酸Ca群では炭酸Ca群と比較して有意なCa吸収の増加が確認された。
第5節 考察
第4章では,ラット小腸反転サック法によるin vitroでのCa吸収動態について検 討を行った。
炭酸Ca群では,腸管吸収量に頭打ちが見られる一方,マルトビオン酸Ca群では濃 度依存的な Caの腸管吸収の増進が見られ,またどの Ca濃度においても炭酸 Ca群よ り有意な吸収の増加が確認された。これらの結果はマルトビオン酸が腸管内での Ca の可溶化を維持することでCa吸収を亢進させる作用機序を支持している。
以上の結果をまとめると,第4章で確認されたin vivo試験での,吸収性乏しい炭
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酸Caの一部をマルトビオン酸Caに置換えるだけで非常に優れたCaやMgの吸収増進 効果はマルトビオン酸が腸管全体でCaやMg可溶化状態を維持したことで,効率的な CaやMg吸収が行われたためと推測された。
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