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ラットの Ca および Mg 吸収に対するマルトビオン酸の有効性評

価実験( Exp. 2 )

第1節 緒言

炭酸 Caは非常に安価な Ca素材として 菓子,乳飲料,パン,麺類 など Ca強化食 品中に最も広く利用されており,日本での年間使用量は 13,000 トンにも及ぶ

(Miyagawa 2017)。前章で述べた通り,各無機塩の水に対する溶解度と腸管吸収効率 には正の相関を有することが知られている。よって溶解度が非常に低い炭酸CaはCa 吸収性に乏しく Ca強化素材としては課題が残る。第2章では,マルトビオン酸Caは 炭酸 Caやグルコン酸 Caと比較し,有意に高いCa 吸収率であることを示した。そこ で炭酸Caを溶解性に優れるマルトビオン酸Caで置き換えた飼料をラットへ投与した 際の,CaおよびMg吸収増進効果について検討することを目的とした。

第2節 動物実験方法 2-1 実験動物

実験動物は,5週齢のWistar/ST系Clean雄ラット(体重 120~140 g)を日本エ スエルシー株式会社から購入した。

2-2 マルトビオン酸Caの調製

飼料中に用いたマルトビオン酸Caは,第2章 第2節 2-2準じて調製した。

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2-3 実験飼料の調製

試験飼育の飼料組成をTable 3-1に示した。飼料はAIN-76飼料組成を一部改変し,

Ca源として炭酸Caのみで調製した飼料(Control:C群),炭酸CaのCa相当量の25%

をマルトビオン酸 Ca に置換えて調製した飼料(MBCa-25 群),50%を置換えた飼料 (MBCa-50群),そして全てを置換えた飼料(MBCa-100群)の計4種を用いた。また,飼 料中のCa含量は日本人におけるCa摂取不足を想定し,今回は通常飼料の50%量とし た。また飼料成分の購入先は第2章 第2節 2-3に準じた

2-4 動物実験方法

試験飼育期間中の体重および飼料摂取量は毎日測定した。実験飼料投与後 3~5 日 目(1週目),10~12日目(2週目),17~19日目(3週目),24~26日目(4週目)の 3日間,計4回糞尿を回収し,糞は凍結乾燥後にミルサー(IFM-600DG,岩谷産業,大 阪,日本)で粉砕し,尿は1,500×g,4℃にて15 分間遠心分離した後上清を採取し,

それぞれCaおよびMgの測定に供した。

2-5 解剖

ラットは本飼育開始後29日目の9:30 am にペントバルビタールナトリウム(共立 製薬,東京,日本)麻酔下で開腹後,ヘパリン処理したシリンジを用いて腹部大動脈 から採血後,頸椎脱臼により安楽死させた。小腸(空腸+回腸)は取り出し内容物を 採取した。盲腸は総重量を測定して内容物を採取した後に生理食塩水で洗浄後,盲腸 組織重量を測定し,その差から盲腸内容物重量を求めた。盲腸内容物の pH は採取後

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一部をすぐに5倍量のイオン交換水で希釈し,コンパクトpHメーター(B-212,堀場 製作所,京都,日本)で測定した。残りの盲腸内容物は,SCFAの測定およびCaの可 溶化率の測定に供した。また左大腿骨は膝関節部と骨盤ヒンジ骨より脱離した大腿骨 から骨膜と腱を除去した後,骨長はノギスを用いて測定し,110℃で15時間乾燥させ,

乾燥重量を測定した。

第3節 各サンプルの調製法および分析方法 3-1 盲腸内容物の分析法

3-1-1 盲腸内容物中のSCFA量の測定 第2章 第3節 3-1-1に準じた。

3-1-2 盲腸内容物中のpH測定 第2章 第3節 3-1-2に準じた。

3-2 乾燥糞のサンプル調製および分析方法

3-2-1 凍結乾燥糞サンプルの調製法

第2章 第3節 3-2-1に準じた。

3-3 Caの定量方法

第2章 第3節 3-3に準じた。

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3-4 Mgの定量方法

Mg の定量は高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES; Optima7300DV,

Perkin Elmer,米国)にて定量を行った。

3-4 尿中CaおよびMg量の測定 第2章 第3節 3-4に準じた。

3-5 Caおよび出納試験

3-5-1 飼料中のCaおよびMg含有量の測定

実験飼料を,CaおよびMg量は第2章 第2節 3-3に準じて測定を行った。

3-5-2 CaおよびMgの体内保留率の測定

CaおよびMgの体内保留率は以下の式を用いて計算した。

Ca体内保留率(%)=100×{(Ca摂取量-糞中Ca量-尿中Ca量)/(Ca摂取量)} Mg体内保留率(%)=100×{(Mg摂取量-糞中Mg量-尿中Mg量)/(Mg摂取量)}

3-6 小腸内容物および盲腸内容物中のCa可溶化率の測定

小腸内容物および盲腸内容物 0.1gを秤りとり,0.4 mL のイオン交換水で懸濁した 後,ホモジナイズ(HG-30,日立工機,東京,日本)した。小腸内容物および盲腸内容物 中の総 Ca 量は湿式灰化後,OCPC 法で測定した。ホモジネートを超遠心(30,000×g 20分,4℃)した上清は, Ca可溶化率を以下の式を用いて計算した。

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小腸内容物中 Ca の可溶化率(%)={(盲腸内容物中の液相部分の Ca 量)/(盲腸内容物 中の総Ca量)}×100

盲腸内容物中 Ca の可溶化率(%)={(盲腸内容物中の液相部分の Ca 量)/(盲腸内容物 中の総Ca量)}×100

第4節 統計解析

第2章 第4節に準じた。

第5節 結果

5-1 成長パラメーター

最終体重,体重増加量,飼料摂取量,飼料効率をTable 3-2に示した。各項目とも 群間に差は見られなかった。

5-2 盲腸重量,盲腸内容物中のSCFA量

盲腸組織重量,盲腸内容物湿重量,盲腸内容物pH,盲腸内容物中のSCFA量をTable 3-3に示した。盲腸組織重量,盲腸内容物重量ともにC群に対して,MBCa-100%群で有 意な増加が認められた。また盲腸当たりの総 SCFA 量は,C 群と比較し,MBCa-50 群,

MBCa-100群で有意な高値を示し,酢酸およびプロピオン酸の盲腸当たりのSCFA量に

ついてもMBCa-50群,MBCa-100群で有意な増加が認められた。

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5-3 試験期間中のCaおよびMgの体内保留率の推移

試験期間中のCaおよびMgの体内保留率の推移をFig. 3-a,Fig. 3-bに示した。

Caの体内保留率は,C群と比較してマルトビオン酸Caの置換えが25%を越える群で 全期間を通して有意な上昇が観察された。Mgの体内保留率はC群と比較して,1週目 においてはマルトビオン酸Caの置換えが50%を越える群で,そして2週目以降は,

25%置換え以上で有意に高い値であった。またこれらの体内保留率の増加はマルトビ オン酸Caへの置換え割合が高くなるにつれて顕著であった。

5-4 小腸内容物および盲腸内容物中のCa可溶化率と内容物pH

小腸内容物および盲腸内容物中の可溶化Caの割合および内容物pHをTable 3-4に 示す。小腸内容物および盲腸内容物ともに,C群と比較してMBCa-100群のCa可溶化 率は,有意に高い値を示した。またMBCa-25群およびMBCa-50群においては有意では ないものの,C群と比較して高値であった。内容物中pHは,空腸,回腸,盲腸ともに 群間で差は見られなかった。

5-5 左大腿骨の骨重量,骨長,骨中Ca量

左大腿骨の骨長,骨重量,骨中Ca量をTable 3-5に示した。骨重量,骨長につい ては差が見られなかったが,骨中Ca量は,C群に比べマルトビオン酸Caの置換えが 50%を越える群で有意に高い値を示した。

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第6節 考察

第3章では,食品中へのCa強化目的として安価で広く使用されている炭酸Caをマ ルトビオン酸Caに置き換えた際のCaおよびMgの吸収効率について検証を行った。

C群の飼料として用いた炭酸Caの溶解性は低く,アルカリpH条件下では不溶性の 塩を形成する。従って,CaやMgの体内保留率は低いと予想された。実際に不溶性の 炭酸Caから,Caの可溶化に優れるマルトビオン酸Caへ25%以上置換えた群のCa体 内保留率は,C群と比較して全期間を通して有意な高値を示した。更に大腿骨中Ca量 も,C群に比べマルトビオン酸Caの置換えが50%以上の群で有意に高い値を示した。

よって炭酸 Caの一部をマルトビオン酸 Caに置換えするだけでもCa の吸収増進効果 を発揮し,また効率的に腸管吸収された Ca は体外に排泄されることなく骨形成に向 かうことが推測された。

Mg の体内保留率についてはマルトビオン酸 Ca を 25%以上置き換えることで摂取 2 週目以降において有意に高い値を示した(Fig.3-b)。Mg は正常な骨代謝や体内の Ca 濃度の調節など,Ca代謝に密接に関与していることが知られており,マルトビオン酸 はCaだけではなくMg吸収増進効果を併せ持つことが明らかとなった。

今回,マルトビオン酸Caの摂取による盲腸内の有意なpH低下は見られず,従来の フラクトオリゴ糖をはじめとした難消化性オリゴ糖のミネラル吸収増進機構とは異 なり,マルトビオン酸 Ca を摂取し吸収を免れたマルトビオン酸が腸管内に存在し,

CaおよびMgの可溶化状態を維持し腸管全体で効率良く腸管吸収が行われたと考えら れる。それらを裏付ける結果として,マルトビオン酸 Ca 摂取により,小腸および盲 腸内容物中の pH に差がない一方で,Ca および Mg 可溶化率は C 群と比較して有意に

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高い可溶化状態を維持していた。

以上の結果をまとめると,吸収性に乏しい炭酸Caの一部をマルトビオン酸Caに置 換えるだけで非常に優れた Caや Mgの吸収増進効果および大腿骨中の Ca量を高める ことが明らかとなり, これらの結果はマルトビオン酸が腸管全体で Ca や Mg 可溶化 状態を維持したことで,効率的なCaやMg吸収が行われたためと推測された。

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Table 3-2 Growth parametersfood intake and feed efficiency of rats fed the experimental diets (Exp. 2)

Final body weight (g) 309 ±5 312 ±6 307 ±7 313 ±5

Body weight gain (g/day)4.15 ± 0.13 4.24 ± 0.13 4.08 ± 0.18 4.30 ± 0.09

Food intake (g/day) 15.9 ± 0.2 15.9 ± 0.2 15.8 ± 0.2 15.9 ± 0.2

Feed efficiency 1) 0.262 ±0.006 0.266 ± 0.006 0.258 ± 0.009 0.270 ±0.004

Rats were fed the experimental diets listed in Table 1 for 28 d. Values are means±SE (n=7).

1) Feed efficiency = body weight gain/food intake

Control MBCa-25 MBCa-50 MBCa-100

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Table 3-3 Weight of cecal tissue and cecal contents and amount of short-chain fatty acids in the cecal content       of rats fed the experimental diets (Exp. 2)

Cecal tissue (g) 0.94±0.01 b 1.04±0.02 ab 1.13 ±0.04 ab 1.28±0.04 a

Cecal contents (g) 1) 2.34 ± 0.24 b 3.31 ± 0.37 ab 3.43 ± 0.39 ab 4.61 ± 0.28 a

Acetate  (μmol/cecum)269 ± 31 b 283 ± 35 ab 504 ± 69 a 510 ± 44 a

Propionate (μmol/cecum)36.8 ± 4.3 b 44.7 ± 6.9 b 72.6 ± 10.3 a 84.6 ± 6.8 a

n-Butyrate (μmol/cecum)13.7 ± 2.1 b 13.8 ± 2.3 b 17.2 ± 3.3 ab 19.7 ± 1.9 b

Total SCFA 2) (μmol/cecum)319 ± 37 b 345 ± 45 b 590 ± 86 a 615 ± 52 a

Rats were fed the experimental diets listed in Table 1 for 28 d. On the final day of the experimental period, ceca were excised and SCFAs in each cecal content sample were analyzed by gas-liquid

chromatography as noted in Materials and Methods.

Data are means±SE (n=7).

Means in the same row not sharing the same superscript letter are significantly different at p<0.05.

1) Wet weight

2) Total SCFA = acetate + propionate + n-butyrate

Control MBCa-25 MBCa-50 MBCa-100