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WILLER TRAINS 社が提案している価値とは

ドキュメント内 利用者視点を重視した新たな交通政策の展開 (ページ 132-138)

第6章 地域における交通サービスの保障に関する事例分析-地域交通の活性化

第3節 京丹後で行われている鉄道の上下分離とまちづくり

3.3. WILLER TRAINS 社が提案している価値とは

ここでは、WILLER TRAINS社が提案している価値について検討してみたい。WILLER 社は鉄道事業の運営のみを行うわけではない、ということが非常に重要な点である。つまり、

鉄道を軸として新たなまちづくりをおこなっていく、ということである。様々な交通モード の特性を生かしながら乗継利便性の改善をおこなっていくということである。鉄道からバ スに乗り継ぐときに、その時刻表があらかじめ調整されていてスムーズに乗り換えること が出来れば移動のストレスは減る。自宅からの移動がさまざまなモードで自在に選択でき るようになっていれば、高齢の運転手がもっと積極的に自動車を手放すことができるよう になるだろう。送迎を手伝う、といった家族の手助けも軽減することができるようになる。

移動が便利にできるときには、供給主体である事業者の姿を意識する必要がなくなって

92 この小型モビリティは、自動運転車などが想定されている。

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いるのではないだろうか。例えば、駅のホームを降りて、目的地へのバスがわかりやすい場 所に停車していれば、そのバスを提供している事業者名などを気にする必要は無くなる。相 互乗り入れが実現してからは、その列車をどこの鉄道会社が運行しているのかは気になら なくなってきた。カードの決済ができず、現金での決済が必要になると、事業者の存在が気 になることになる。移動するときには集落や行政界を気にすることなく通り過ぎて行くこ とになるので、そうした行政界で区切ることには意味がない。本来の地域公共交通会議は、

そのような自由な移動を実現することを目指す場になるはずである。そうした利用者主体 の移動が確立されるための取り組みが求められる。移動が便利になることによって、人々の 交流が活発に、さらに豊かなものになっていく。

第4節 課題の提示

地域交通を活性化するに際して、様々な課題が存在する。その課題の提示を行った。

4.1. 既存事業者の反対

地域の交通を維持していくために、2014年の改正地域公共交通活性化再生法施行によっ て、市町村が地域協議会を開催し、地域公共交通網形成計画を作成していくことになった。

しかしながら、こうした協議会には既存事業者の意見が通りやすく、新規事業者の意見は通 りにくい構造になっている。例えば、京丹後の支え合い交通の事例では、発地・着地に制限 があり、丹後町でしか利用の呼び出しができない。利用者の観点からすれば、こうした制限 は不便なものである。しかし、地域の公共交通事業者を守るために、利用者にとっては不便 なことが維持されてしまう。地域計画を作る際には、その計画が地域の利用者の意向を反映 したものになっているのかについて検討していく必要がある。

富山県南砺市ではUberによるライドシェア実験構想があったにもかかわらず、地元の業 界団体の反対により、実験予算の撤回に至ってしまった(日本経済新聞(2016b))。記事によれ ば、「南砺市やウーバー側はライドシェアについて既存の事業者が営業していない過疎地で あれば、反対の声は上がりにくいと考えていた。」とあり、既存事業者が営業していない地 域であっても既存事業者の反対によって実現が困難となってしまうことが示されている(日 本経済新聞(2016b)。事業者と利用者の意見調整をはかっていく必要がある。

4.2. 地方交通線問題への対応

地方における利用低迷の影響を受けて、地方交通線の維持が困難なものとなっている。赤 字だから廃止をするという考え方は事業採算性の観点からは正しい。地方路線維持には膨 大な費用が必要となる。交通に振り向けられる財源も限られている。

利用可能性の観点からは、そこに鉄道があることによる価値をどうとらえるかというこ とが重要となってくる。ネットワーク外部性の観点からは、つながっていることによって、

当該路線のみならず、アクセスを担う他の事業者が恩恵を受けることになる。北海道新幹線

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が開業すれば、JR東日本の東北本線が、九州新幹線が開業すればJR西日本の山陽新幹線 の利用が増える。このようなネットワーク外部性を考慮すれば、地方で過少投資となってし まう部分については、都市部から地方へ資源配分することも考えられる。しかしながら、株 式会社に費用負担を求めることは困難なことである。

そこで上下分離によって費用負担する主体を増やすという方法が進展してきた。下物の 線路・車両などのインフラを自治体が保有し、運営を鉄道会社が担う。鉄道会社がインフラ の整備費用や維持管理を担う必要が無くなり、固定資産税負担からも解放されることにな り、運営に専念できるようになる。鳥取県の若桜鉄道や、滋賀県の信楽高原鉄道などの第三 セクター鉄道で行われている方式である。運営に専念できる京都丹後鉄道は様々な取り組 みによって地域活性化をはかっている。一方で、自治体にとってはインフラの維持管理費と して長期的に負担が増えることとなる。地域交通の維持によって人々が健康的に移動する ことができて、地域経済が改善し、地方交通の財源負担に耐えられるという姿が望ましい。

4.3. 交通インフラの優先順位

交通インフラについては、人口減少社会を見据えて需要に即した整備と維持更新を行っ ていくことが求められる。これまでのインフラは計画側からのアプローチで整備が行われ てきた。あるいは過大な需要予測によって整備を行うことが正当化されてきた。しかしなが ら人口減少によって需要が頭打ちとなり、利用されない過大な交通インフラが地域に残さ れていく。交通インフラの整備・維持更新において優先順位をどのように考えていけばよい のだろうか。

例えば都市間交通においては、既に在来の鉄道ネットワーク、航空ネットワーク、高速道 路が整備されているにもかかわらず、新たな新幹線が整備される。その路線だけを取り出し て費用便益分析を行えば採算が取れるため、その事業は実施される。しかしながらその新幹 線に乗客を奪われる航空路線など、在来の交通ネットワークはその維持が困難となってい く。

新しいネットワークが生まれたときに、交通需要が補完的ではなく代替的になったとき のことを考えていかなくてはならない。古いネットワークを維持し続けられるのか、国、地 元、利用者がどのような負担をしていくのか。古いネットワークの維持が困難となって初め て、新しいネットワークは本当に必要だったのだろうか、という問いが地域にとって重要な ものとなる。

新しいもの、高速のもの、遠くから人を運んできてくれるもの、その期待感、高揚は地元 の人たちを活気づける。新しいネットワークの到来を見越して商業・宿泊など様々な施設も 立地される。そうした果実を地元は先に手にすることができるため、新しいネットワークの 誘致を望む。新しいものを誘致した政治家はそのことを功績として票を集めることができ る。利用者にとっては、利便性が増す。

新しいネットワークの到来によって、その都市は都市間競争に晒される。日帰り圏が拡大

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することで、支社の統廃合、地元百貨店の衰退、宿泊客の減少などが起きる。しかしこうい った状況は、東京より魅力的なオンリーワンを持っている都市においては全く起こらない ことである。その地域で固有の都市機能を有している都市は、新しいネットワークをさらな る発展の足掛かりにすることができる。

その一方で、魅力的な比較優位を持っていない都市は、その都市機能が東京にスプロール され、地域経済に大きな打撃を受ける。東京から日帰りできるようになったことで、支店は 閉鎖される。地元の百貨店を利用していた買い物客は東京で済ませてしまい、商業施設の品 ぞろえはますます魅力の乏しいものとなり、空きテナントが増えてくる。特需で観光客が増 えても、時間とともにいずれ減少していく。そこで営んでいる地域の人々にとって、地域経 済の落ち込みは厳しい問題となる。地元が新しいネットワークの果実を手にする、それによ って同様の問題が日本全国で繰り広げられていくことになる。利用者の利便性が増すこと、

選択肢が増え、機会が増えること、地域経済の発展を望むことは自然の成り行きである。第 2章9.3.でも見たように、鉄道も航空もそのネットワークが発達しているからこそ、それぞ れの分担率の利用が拮抗している。しかしながら人口が減少していくことが確実視され、イ ンフラ整備が充実していく中で、地域独自のものをいかにつくり、残し、守っていくかを考 える必要がある。

4.4. 冗長性の考え方

交通ネットワークの機能として、冗長性(リダンダンシー)という考え方がある。国土交

通省(2003b)によると、「国土計画上では、自然災害等による障害発生時に、一部の区間の途

絶や一部施設の破壊が全体の機能不全につながらないように、予め交通ネットワークやラ イフライン施設を多重化したり、予備の手段が用意されている様な性質を示す。」という意 味である。

例えば、東海地震の発生を危惧してリニア中央新幹線が整備される予定である。国土交通

省(2013c)によれば、「中央新幹線及び東海道新幹線による大動脈の二重系化をもたらし、東

海地震など東海道新幹線の走行地域に存在する災害リスクへの備えとなる。」とその意義が 述べられている(国土交通省(2013c):2)。

これまで利用の少なかった花巻空港・山形空港は、東日本大震災において緊急物資輸送の 拠点として極めて重要な役割を果たした(国土交通省(2014))。

また、利用が少ない地方空港がインバウンドの受け皿となり、海外旅行者の増加に貢献し ているという面もある。ただし海外旅行者の増減は為替や治安状況といった外部要因に影 響を受けることが大きく、空港収入の安定的な財源と見なすことは厳しい。

交通インフラは供給側から整備される側面が非常に強い。そして冗長性という観点を重 視すれば、地震列島、火山大国である日本ではいくらでも整備することができてしまう。東 日本大震災のショックから国土強靭化という言葉は私たちの心を強く揺さぶり、投資を行 うことが正当化される。しかしその言葉から整備を行ったとしても人口が減少している中

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