本研究では,ターゲットへの遭遇機会と,その際の道路周辺の環境要因が犯行企図者の 行動に与える影響を考慮し,犯罪発生のメカニズムを表現するモデルを作成する.提案す るモデルは社会科学の方法論のひとつに基づく.この社会科学の方法論は,社会現象は,
すべて,それに関係している個人の状況及びその諸個人の行動に関する法則や理論に還元 して,記述され,分析され,そして説明されるべきであるという「方法論的個体主義
(methodological individualism) 41), 42)」,人間はその時々直面する状況に応じて行動する傾向が
あり,更に,その行動がその場の状況の論理に従っている時にはその行動を合理的な行動 だとみなす傾向にあることをふまえて人間行動についての暫定的,推測的説明を行う方法 である「状況(事態)の論理(logic of situation,最適化行動) 41),42)」,介在する諸個人がす べてまったき合理性をもつという仮定の上にモデルを構築して,人々の現実の行動がその モデルの行動とどれほど偏差するかを評価する「ゼロ方式(zero method) 42)」からなる.
以上の方法論に基づいて,路上犯罪のうち,通学児童を対象とした犯罪・不審行為とひ ったくりを対象とし,その発生について犯行企図者やターゲットおよび目撃者の状況や行 動の法則・理論で説明するようなモデルの作成を試みた上で,現実の犯罪発生状況との偏 差を評価し,モデルの性能を検討する.この2種類の路上犯罪を対象とした理由としては,
前述のように,ともに発生現場のほぼすべてが路上およびその周辺であるため,交通計画 手法による防犯対策が有効であると考えられることが挙げられる.ひったくりは言うまで もなく,児童を対象とした犯罪の多くが通学路をはじめとした路上で発生しているという ことが明らかになっている.さらに,発生時刻の特定が容易であることや,ターゲットが 女性や児童に限られているなど,犯人の行動に何らかの合理性に基づいた法則があると考 えられるため,モデル化に必要な犯人の行動に関する仮説が立てやすいことなども理由と なる.特にひったくりは,その多くが犯行にバイクを使用し,より交通工学理論に従う行 動様式をとることから,交通計画手法での制御効果が期待できる.それぞれの犯罪の特徴 については,後に続く各章で詳しく述べることとする.
これら 2 種類の路上犯罪のモデル化においては,それぞれ考慮する影響要因を極力排除 したシチュエーションを想定した初期モデルを作成し,その後別のシチュエーションを想 定するのに応じて初期モデルの結果を利用しながら順次要因を追加していくという方法を 採る.このような方法により,比較的容易にモデルの拡張が可能となると考える.
33 参考文献
36) 警察庁:平成23年の犯罪情勢,凡例,2012,6.
37) 福岡県警ホームページ:http://police.pref.fukuoka.jp/data/open/cnt/3/1466/1/H23Hassei.pdf,2012.12取得 38) 高瀬恵悟:「防犯環境設計」の導入における地域コミュニティの役割に関する一考察,21世紀社会デ
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39) Cohen, L. E. and Felson, M.: Social Change and Crime Rate Trends: A Routine Activity Approach, American Sociology Review, Vol.44, No.4, pp.588-608, 1979.
40) 小宮信夫:犯罪機会論と安全・安心なまちづくり―機会なければ犯罪なし―,マッセOsaka研究紀要
(公益財団法人大阪府市町村振興協会),第7号,pp.3-11,2004. 3.
41) 小島三郎:現代経営学辞典,pp73-87,税務経理協会,1978.
42) ポパー,K.R(久野収・市井三郎共訳):歴史主義の貧困 社会科学の方法と実践,pp. 205-206,212-213,
225,中央公論新社,1961 .
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3 章 通学児童を対象とした犯罪・不審行為に対する
物理的環境要因の影響の分析とモデル化
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