第 3 章 Amper プロジェクト
第 3 節 Amper 先行研究
1. スペインの各地域における研究
前述の通り、Amper en Españaはスペイン国内で11のグループに分かれ、
それぞれが担当する地域の方言のコーパスを作成し、分析を進めている。
Fernández Planas (2005) では以下の名称が挙げられているが、研究者によっ て異なる表記も見られるし、筆者はこれ以外に Amper-Cantabria を確認して いる。各グループの担当地域は右に示した。
Amper-CAT:CataluñaからMurcia、Balearesにかけて Amper-ARAG:Aragón
Amper-MAD:MadridからCastilla - La Manchaにかけて Amper-AND-OR:Andalucía東部
Amper-AND-OC:Andalucía西部からExtremaduraにかけて Amper-CyL:Castilla y León
Amper-GAL:Galicia Amper-ASTUR:Asturias
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Amper-EUSK:País Vasco Amper-CAN:Islas Canarias
1.1. Amper-CAT
Amper en Españaの中でも最初に研究が始まった地域であり、カタルーニ
ャ地方のcastellanoとcatalánの両方を分析対象とし、北はAndorraから南は
Murcia まで、東はバレアレス諸島やイタリアのサルデーニャ島までも視野に
入れた地中海沿岸の広い地域を担当している。
他の地域から来た移民のスペイン語や完全なバイリンガルのスペイン語にも 注目し、2言語間の干渉について調査することも目的の1つになっている。
Amper en Españaの中でも比較的活動が進んでいるグループであり、すで
にウェブサイト15においてマルチメディア韻律地図の作成も行われている。
図1:Amper-CATのウェブサイト画面。地図にはカタルーニャ地方、
バレンシア地方、およびバレアレス諸島が含まれている。
15 http://stel.ub.edu/labfon/amper/cast/ampercat_resultados.html (最終閲覧日:
2012年11月21日)
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ここではまずカタルーニャ語かカスティーリャ語かを選択すると、地図上に アイコンが現れる。現在選択できる都市は、カタルーニャ語で14箇所16、カス ティーリャ語で 8 箇所17である。都市のアイコンをクリックすると個々の文例 やインフォーマントの情報などが表示され、発話音声を分析したデータやそれ を信号音に変換したメロディーを見たり聴いたりすることができる。
しかし現在のところ、表示できるようになっている文例は限られている。文 の種類は定型文のうち平叙文で3種類、全体疑問文で3種類、そして語順を入 れ替えて前に接続詞 “que” をつけた疑問文3種類が選択できる。
Amper-CATに関連する近年の研究としては、Van Oosterzee et al. (2007) が ある。カタルーニャ地方のTortosaとLleidaのカタルーニャ語における疑問文 の韻律を対照した論文で、SVO構造とVOS構造の全体疑問文のコーパスを作 成して分析している。具体的な文例が論文中に紹介されていないのが問題では あるが、SVO構造の疑問文とは例えば El copista no porta la caputxa?、VOS 構造の疑問文とは例えば Que no porta la caputxa, el copista? のようなもの であろうと思われる。このような文のS とOのストレス音節の位置を aguda, llana, esdrújulaと変化させ18、それぞれのパターンごとに発話がどのようなメ ロディーを描いたかを比較している。
また後半ではコーパスの発話音声で知覚実験もしており、両方言をそれぞれ のインフォーマントに聴かせてどちらがよりよくその疑問文だと認識できたか 調査している。
その結果によると、Lleida方言ではqueを伴う疑問文で必ず最後のストレス 音節以降が上昇し、特に最後の単語がesdrújulaのとき高いピッチまで上がる。
この文全体のメロディーは、話者の声域内の比較的高いピッチから始まって、
2番目のピッチアクセントのストレス音節、つまりOのストレス音節までその
16 Perpinyà, Andorra la Vella, Girona, Barcelona, Lleida, Tarragona, Tortosa, Castelló de la Plana, València, Maó, Palma, St. Antoni de Portmany, Novelda, L’Alguer (Sardenya)
17 Barcelona, Lleida, Tortosa, València, Palma, Novelda, Bullas, Caravaca de la Cruz
18 Vは常にllanaの単語を使用。
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高さが維持され、そこから急激に下降して、最後のストレス音節でまた上昇す るという曲線を描く。queを伴わない疑問文のメロディーは、最初のSのスト レス音節に非常にはっきりしたピッチの頂点があり、次の頂点は2番目のスト レス音節後の音節、つまりVのストレス後音節で作られる。最後のOで作られ る頂点は、文中でもっとも大きな頂点ではない(最初のピークの方が高い)。
図2:Van Oosterzee et al. (2007)より
Lleida(左)とTortosa(右)のqueのない全体疑問文のピッチ曲線
Tortosa方言では、queを伴う疑問文は中間より少し高いくらいのピッチか
ら始まって、最初のストレスの前の音節、つまり V のストレス前音節で一度 頂点を作る。そこから最後のストレス音節の前の音節、つまり S のストレス 前音節まで徐々に下降の一途をたどり、そこから最後に急激に上昇する。この
上昇は、Lleida 方言の文末上昇より大きい。que を伴わない疑問文のメロデ
ィーは、前者よりも低めのピッチから始まり、最初の頂点を最初のストレス後 音節で作る。あとはそこから最後のストレス前音節まで徐々に下降していき、
最後に一気に上昇する。
知覚実験に関しては、Lleida方言よりもTortosa方言の方が上昇が明確に知 覚されたため、F0の上昇がはっきりしているという結論で終わっている。
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1.2. Amper-CAN
Amper-CanariasはJosefa Dortaが中心となり、カナリア諸島19のスペイン 語を研究対象として進められている。ウェブページが作成されており20、カナ リア諸島の地図から地域を選択して各地のデータを視聴できる。まだデータの 数がそろっていないが、モダリティ、定型文のタイプ、具体的な文の順に項目 を選択していくとインフォーマントの発話音声を分析した画像が表示され、平 叙文と疑問文の図を重ねて比較することもできるようになっている。
1.3. Amper-Cant
Amper-CantabriaはFernández Planas (2005) で名前を挙げられていない が、2007年から研究を開始しているグループであり、ウェブページを作成して いる。21 しかしこのウェブページはまだ情報量が少なく、地図にデータがア ップされていない。
1.4. Amper-Andalucía y Extremadura
さらに下位分類として Amper-Andalucía Occidental y Extremadura と Amper-Andalucía Oriental に分かれており、前者はYolanda Congostoが、
後者はAntonio Pamiesが中心となって進められている。
作成されているウェブページ22にはインフォーマントの情報が表示されるよ うにはなっているものの、発話音声のデータはアップされていない。準備中と 表示されている項目も多く、情報量はまだ少ない。