第 1 章 導入
第 3 節 Sp-ToBI
4. トーン層
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IPAのような、音を表示できる文字記号を使って音節ごとに分けて記入する。
ただしここに記入されるラベルは他のプラットフォームにそのまま移植可能な ようにASCIIタグセット18かSAMPAアルファベット19を用いるべきであると されている。
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Beckman et al. (2002) では次の5種類のピッチアクセントが提案された。
ピッチアクセント(pitch accents):L*+H, L+H*, H+L*, H*, *
L*+Hは2つある上昇ピッチアクセントのうちのひとつで、ストレス音節後 にF0の頂点がくるもの (late rising accent) である。基本的には英語のときと 同じで、中立の発話に頻出する。
L+H*はもうひとつの上昇ピッチアクセントで、ストレス音節内にF0の頂点 がくるもの (early rising accent) である。カリブの方言では、ストレス音節が 短かった場合はその音節の終末直後に F0 の頂点がくる。ベネズエラのスペイ ン語の中で、平叙文の最後と狭焦点で発せられた単語において見受けられる。
つまり、これが発話末で起こるときは終末であることのサインと解釈され、発 話末以外で起こるときは、当該ピッチアクセントが結び付いている要素に焦点 が当たっていることを示している。
H+L*は下降ピッチアクセントで、ストレス音節の前にある高いピッチから ストレス音節内へ向かって F0 曲線が明らかな下降を描いているものである。
ただしこのパターンはデータが少ないため、性質を理解するためにはさらなる 研究が必要だとされている。
以上のパターンで表記しきれないがアクセントがあるように聞こえる音節に はH*が付与される。ストレス音節内で小さいが明らかなF0頂点を持ちL*+H と同じくらいのレベルにはなるが、はじめの上昇が見られない。最低値も見ら れないが、これはアップステップ (upstep)20や undershoot のためではない。
しかしこれもさらにデータを増やして研究する必要があるとされている。この ピッチアクセントはポルトガル語やカタルーニャ語など他のロマンス言語にお ける先行研究でも報告されてきた。その前に上昇しているわけでもなく、その 値が相対的に低いわけでもないため、高い F0 というよりむしろ当該ストレス 音節から漸次的に下降する場合に付与されている。
H*を付与するにもまだ足りないほど曖昧だがそれでもアクセントが知覚さ
20 本節4.2.参照
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れる場合、* が付与される。言い換えれば、ピッチアクセントがあるであろう と予想される箇所でピッチアクセントが欠如している場合に起こる現象であり、
圧縮を示し、ストレス音節にF0の上昇も下降もない。
しかしFace & Prieto (2007) では、それまで2タイプとされていた上昇ピッ チアクセントにもう1つ種類を設定し3種類を区別すべきであるという提案が された。上昇ピッチアクセントには、(1) ストレス音節の始めから上昇を開始 して頂点がストレス音節より後の音節にあるタイプのもの (Early-rising accent with delayed peak) と、(2) 同じくストレス音節の始めから上昇を開始 してストレス音節内かその直後に頂点がくるタイプのもの (Early-rising accent with non-delayed peak) と、(3) ストレス音節内で上昇を開始してその 後の音節でも上昇していくタイプのもの (Late-rising accent) の3種類がある。
オリジナルのSp-ToBI では(1)と(3)がL*+H というひとつの表記で済まされて いたが、Face & Prieto (2007) は表記方法をひとつ増やすべきであると主張し た。そしてEstebasVilaplana y Prieto (2008) が上昇ピッチアクセントのひと つにL+>H*を提案し、全部で3種類とした。“ > ” はピッチの頂点が時間的に 後ろへずれていることを表している。図 16 は EstebasVilaplana y Prieto
(2008) で示されたもので、上段がオリジナルのToBIで提案されたピッチアク
セントであり、下段がEstebasVilaplana y Prieto (2008) の提案する3種類の ピッチアクセントである。
図16:EstebasVilaplana y Prieto (2008):267より
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つまりFace & Prieto (2007) による上昇ピッチアクセントは次のように説明 される。
L*+Hは3つある上昇ピッチアクセントのうちのひとつで、ストレス音節後の 音節でF0の上昇が始まるものである。F0の頂点は必然的にストレス音節後と なる。
L+H*も 3 つある上昇ピッチアクセントのうちのひとつで、ストレス音節内に F0の頂点がくるものである。( Beckman et al. (2002) での定義と同じ)
L+>H*も3つある上昇ピッチアクセントのうちのひとつで、ストレス音節内で
F0の上昇が始まるものである。F0の頂点はL*+Hと同様ストレス音節後とな る。
EstebasVilaplana y Prieto (2008) ではFace & Prieto (2007) のL+>H*を 踏襲した上で、さらにL*が追加された結果、次の6種類が提案されている。
ピッチアクセント(acentos tonales):L*, H*, L*+H, L+H*, L+>H*, H+L*
4.2. ダウンステップとアップステップ
前節2.3.でも触れたが、ダウンステップとは「 ! 」で表され、ピッチの領域 が音韻的に圧縮される現象を指す。これによりダウンステップの後にあるどん なHトーンもF0が低められ、ピッチ幅が漸次的に圧縮される。つまり同じH トーンでもダウンステップ以降のピッチアクセントの頂点はそれまでのピッチ アクセントの頂点よりも低められたピッチ領域で発せられることを表す。
L*+!HはL*+Hと同じように上昇するピッチアクセントであるが、前者の頂点
はダウンステップのために後者の頂点より低められている。
逆にアップステップとは「 ¡ 」で表され、後に続くL とH のピッチアクセ ントのF0がそれより前のピッチアクセントのF0よりも高められる現象を指す。
ダウンステップとアップステップはアクセントに直接マークされる。ダウン ステップは当該Hトーンの直前に「 ! 」記号をつけることで表示し、L*+Hの
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ダウンステップバージョンは L*+!H、L+H*のダウンステップバージョンは
L+!H*となる。アップステップは当該Lトーンの直前に「 ¡ 」記号をつけるこ
とで表示し、L+H*のアップステップバージョンは¡L+H*となる。¡L+H*は L+H*と同じように上昇するピッチアクセントであるが、前者のF0の低い部分 は全体的に後者のF0の低い部分より高いことを表している。21
これらの提案は、Sosa (1999) やFace (2001) やHualde (2003) で研究され てきていたacentos tonales no finales (o prenucleares), con pico desplazado, acentos tonales finales (o nucleares), con pico alineadoの考え方に基づいてい る。
4.3. 境界トーン
境界トーンとしては、Beckman et al. (2002) により次の3種類が提案され ている。
境界トーン (Boundary Tones):H%, L%, M%
H%はIP末の高い境界トーンを表す。直前のピッチアクセントを問わず、全 体疑問文の文末やIP同士の間で起こる。IP 間で起こる場合、聞き手は最初の IPの終了後にも情報が続くことを期待する。
L%はL+H*などの後で F0が下降するか H+L*の後でF0 が低いレベルを維 持していることを表す。
M%はL+H*やH*などの後、IPの終わりでF0の値が発話者のピッチ帯域の 半分ほどの上昇にとどまっていたり、中くらいの高さで平板を保っていたりす ることを表す。H%のように上昇したりL%のように下降したりはしていない場 合に起こり、この後にくる IP にさらなる情報があることを示しているようで ある。
EstebasVilaplana y Prieto (2008)はこの3種類に加え、以下のような複合ト ーンからなる境界トーンも提案した。
21 Beckman et al. (2002)
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HH%, LH%, HL%, LHL%