G- lambda
4.3 パケット交換方式による消費電力
4.3.1 アクセス回線網における消費電力
アクセス回線網における消費電力は家庭内の光回線終端装置 (ONU)とプロバイダー 内の光回線終端装置(OLT) による消費電力である. 本研究では1回線あたりの消費電
力をそれぞれ代表的な機器の仕様から算出した. ギガビットイーサ型PONシステムに おける機器の消費電力は富士通FA2232 GE-PON OLT, FA2132 GE-PON ONU [32]を
用いて, ONUとOLTの1回線あたりの消費電力の合計とした. 利用者の最大回線速度
を用いることでアクセス回線網における1ビットあたりの消費電力は7.43×10−1μJと なる. アクセス回線機器は最大通信容量と比較して少ない通信量で利用され, 広域中継 網, 中核拠点網で利用される機器の利用効率に比べると低いと想定される. しかし, ア クセス回線網で利用される機器は待機電力による電力消費が大きく,本研究ではアクセ ス回線網における機器利用率が与える消費電力への影響は小さいと想定した.
4.3.2 広域中継網における消費電力
広域中継網における消費電力はエッジスイッチ, ゲートウェイルータ,エッジルータ による消費電力である. 具体的な消費電力などの現時点での数値を得るため, アクセス 回線網を接続するエッジスイッチとしてCisco Catalyst 6513,エッジスイッチを接続す るゲートウェイルータとしてCisco 10008, 中核拠点網と接続を行うエッジルータとし
てCisco 12816を想定し,仕様で示されている消費電力などの数値を用いた[33].エッ
ジスイッチの消費電力を3.2kW,ゲートウェイルータの消費電力PGRを1.2kW,エッジ ルータの消費電力PERを4.2kWとした. また,広域中継網における運用においては1つ の回線を複数の利用者で共有していることから総アクセス回線帯域に対するエッジの バックボーン帯域の共有を32とした. また,エッジルータの回線容量CERを160Gbps, エッジスイッチのギガビットイーサネットポートの数を384, ゲートウェイルータの回 線容量CGRを8Gbpsとし,利用者のピークアクセスをT,エッジスイッチの1ユーザあ たりの消費電力をPESとし, 1ユーザあたりの消費電力PpsMetroを次のように求めた.
PpsMetro = 2×
PES+ 2× T 32
PGR
CGR +PER CER
ここで右辺に乗じた係数2は局社設備の冷却, 右辺のルータの消費電力に乗じた係数2 は回線の冗長性のために乗じた係数である.この冗長性を考慮したことで広域中継網と 中核拠点網間の回線の利用率は1/2となる. ユーザあたりのピークアクセスで除する ことで,広域中継網における1ビット当たりの消費電力は2.20×10−2μJとなる.
4.3.3 中核拠点網における消費電力
中核拠点網における消費電力は, 大型ルータによる消費電力であり, 通信の際に経 由したルータの数に比例する. 中核拠点網において利用される大型ルータの消費電力
はCisco CRS-1による消費電力の値を参照し, 中核拠点網のルータの消費電力PCRを 10.9kWとした[33].中核拠点網で利用されるルータの容量CCR を640 Gbps, 中核拠 点網におけるホップ数Hとしてユーザあたりの中核拠点網の消費電力PpsCoreを次の式 から求めた.
PpsCore= 8× T
32×(H+ 1)PCR CCR
ここで係数8は4.2と同様の冷却, 冗長性に加えて中核拠点網の通信容量に余裕をも たせるネットワーク設計を加味して乗じた. 中核拠点網における1ビットあたりの消費 電力は4.69×10−2μJとなる.
4.3.4 総トラフィック量の変化
総トラフィック量の変化を利用者数と一人当たりの利用するトラフィック量から算出 する. 利用者の推移は国立社会保障・人口問題研究所による日本における世帯数の推移 を基に算出することで, 2030年に5000万回線まで増加するとした.
インターネットトラフィックに関する研究はCisco [34] によって行われており, 2008 年の1ヶ月あたりのIPトラフィックは10エクサバイトを超えると報告されている. ま た, 同研究ではコンテンツの高品質化によりインターネットのトラフィックは2013年 には5倍となることが予測されている.
Sadreら[24]はHTTPレスポンスサイズとインターネットトラフィックの変化につ
いて研究を行なっている. また, 2008年時点でのHTTPレスポンスサイズについては Chu[35]によってGoogle Chrome の利用データに基づく実測値が公表されている.
我が国のインターネットユーザのトラフィックに関してはCho, Fukudaら[21]によ る研究が行なわており,個人ユーザの利用するコンテンツは多岐に渡っていることが報 告されている. 特に個人ユーザの利用するコンテンツは高品質の画像やビデオとなっ ており, 過去に主流であったテキストに代わっている. また, 同研究では他の国のトラ フィックは日本と同様の傾向を示していると報告している.
1ユーザあたりのトラフィックの増加率は年率30%とした.この増加率はCho, Fukuda ら[21]によって報告されている日本のトラフィックの増加率である.また同報告の2008 年時点の1ユーザあたりの日次トラフィック量を用いて日次の1ユーザあたりのトラ フィック量を862MBとした.その結果, 2030年時点での1ユーザあたりのトラフィッ
クは27.7GBとなる.利用者数と1ユーザあたりのトラフィック量の積をとることで,日
本全体のトラフィック量は1日あたり2008年に28ペタバイト, 2030年に13.9エクサバ イトとなる.
表 4.1 1ユーザあたりのトラフィック量 年 トラフィック量(MB/day)
2008 862.70
2009 1121.51
2010 1457.96
2011 1895.35
2012 2463.96
2013 3203.14
2014 4164.09
2015 5413.31
2016 7037.31
2017 9148.50
2018 11893.05
2019 15460.97
2020 20099.26
2021 26129.04
2022 33967.75
2023 44158.07
2024 57405.49
2025 74627.14
2026 97015.28
2027 126119.86 2028 163955.82 2029 213142.57 2030 277085.34
将来のトラフィック予測は困難であるが, 近年の傾向から類似研究と同様に本研究で もトラフィック量は今後も指数的に増加すると予測した[11][36].本研究では今後トラ フィック量を指数的に増加するとして仮定したが, 指数的増大はDesurvire [36] による 技術変化と需要の変化を考慮した予測においても用いられている手法である.
表 4.2 日本全体のトラフィック量の推移 年 トラフィック量(TB/day) 2008 28820.1749
2009 38305.73593 2010 54777.20237 2011 76195.0885 2012 104996.832 2013 144685.6344 2014 199376.8043 2015 272149.3378 2016 353794.1392 2017 459932.3809 2018 597912.0952 2019 777285.7237 2020 1010471.441 2021 1313612.873 2022 1707696.735 2023 2220005.756 2024 2886007.482 2025 3751809.727 2026 4877352.645 2027 6340558.438 2028 8242725.97 2029 10715543.76 2030 13930206.89
4.3.5 技術変化による消費電力削減効果
技術の変化によりネットワーク機器の処理能力が向上することから,機器の消費電力 の改善効果を検討する. LSI技術の進化は年間10%の電力効率の改善につながっている. 実際, 中核拠点網で用いられる大型ルータJuniper T1600とT640の比較においては5
年間で66.4%の消費電力改善が見られている(表4.3)[37].将来のルータやスイッチ等
のネットワークで使用される機器は高い効率性で動作することが予想されるため,今後 も技術進化が続くことが予想される.
表 4.3 技術変化による消費電力削減効果 機種名 容量 消費電力 発表年 Juniper T1600 1600 Gbps 8.3 kW 2007
Juniper T640 640 Gbps 5.5 kW 2002
そのため本研究では技術力変化による消費電力削減効果を10%とした.これより広 域中継網, 中核拠点網における機器に関して1ビットあたりの消費電力量を年率10%削 減することと仮定した. Baligaらによれば技術変化による消費電力削減効果を20%と 仮定したとき,にネットワークが消費する電力の世界全体が消費する電力に占める割合 を維持すると報告されている.トラフィックの増大による急激な消費電力の増大が抑え られ, 全世界の消費エネルギーに占めるネットワーク分の割合は一定となる [11].
4.3.6 消費電力の検討
パケット交換方式による消費電力の検討にあたっては階層化されたネットワークの 1ビットあたりの消費電力を日本全体の総トラフィック量に乗じることで消費電力の検 討を行った.
技術変化による消費電力削減効果年率10%を各ネットワークで利用される機器の消 費電力に乗じることで消費電力の削減効果を反映させた.その結果パケット交換方式 による消費電力使用量は2008年時点で年間3.25TWh (32.5億kWh), 2011年時点で 4.05TWh (40.5億kWh), 2030年時点で17.52TWh (175.2億kWh)となる.一方,由比 藤らの評価[38]によると2008年の国内のネットワーク機器の総消費電力は8.5TWh(85 億kWh)程度と予測されている.この値にはホームルータ,データセンター内の機器な ど本研究で考慮していない通信事業者以外の機器が含まれていることを考慮すれば異 なる評価モデル・パラメータで算出した我々の結果とよく一致している.
本研究で得られた結果から1ビットあたりの消費電力(図4.2)をみると広域中継網, 中核拠点網の消費電力の占める割合が増大することを示した[39].このため本研究で は広域中継網と中核拠点網による消費電力の削減方法として光回線交換方式とCDN方 式を検討する.
表 4.4 パケット交換方式による消費電力量 Year
Access Network [TWh/year]
Metro Network [TWh/year]
Core Network [TWh/year]
Whole Network [TWh/year]
2007 2.82 0.10 0.21 3.13
2008 2.93 0.10 0.22 3.25
2009 2.99 0.11 0.22 3.32
2010 3.29 0.14 0.29 3.72
2011 3.52 0.17 0.36 4.05
2012 3.73 0.21 0.45 4.39
2013 3.96 0.26 0.56 4.77
2014 4.19 0.32 0.69 5.21
2015 4.40 0.40 0.85 5.65
2016 4.40 0.47 0.99 5.86
2017 4.40 0.55 1.16 6.11
2018 4.40 0.64 1.36 6.40
2019 4.40 0.75 1.59 6.74
2020 4.40 0.87 1.86 7.13
2021 4.40 1.02 2.17 7.60
2022 4.40 1.20 2.54 8.14
2023 4.40 1.40 2.97 8.78
2024 4.40 1.64 3.48 9.52
2025 4.40 1.92 4.07 10.39
2026 4.40 2.24 4.76 11.41
2027 4.40 2.62 5.57 12.60
2028 4.40 3.07 6.52 13.99
2029 4.40 3.59 7.63 15.62
2030 4.40 4.20 8.92 17.52
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
2010 2015 2020 2025 2030
Ratio of Power Consumption
Year
MetroCore Access
図 4.2 ビットあたりの消費電力構成
図 4.3 パケット交換網におけるネットワーク構成