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ナポリ東洋大学政治学部 専任講師 シルヴァーナ・デマイオ

はじめに

 ただ今ご紹介にあずかりましたデマイオでございます。この度、「世界の日本語・日本学 〜教育・

研究の現状と課題〜」に参加させていただいたこと、主催の東京外国語大学国際日本研究センター の野本京子センター長をはじめ、この場をお借りして厚くお礼を申し上げたいと思います。

 では、時間が限られていますので、早速はじめさせていただきます。

 本日の発表の構成ですが、次のようになっています。まずは1)ナポリ東洋大学:十八世紀から の伝統について若干話し、次に2)の文学哲学部と政治学部での日本語講座について触れます。そ れから3)では日本の大学、EU の大学との協定を紹介し、4)では「ソフト・パワー」の力と学生 のナポリ東洋大学入学の動機についてはなしたあと、最後に結びに入りたいと思っております。

1)ナポリ東洋大学:十八世紀からの伝統

 さて、ナポリ東洋大学は1732年に「コッレージョ・デ・チネー シ」、「中国人寄宿学校」という名前で設立されました。これは、

1710年から1724年まで清朝の中国に滞在したマッテオ・リー パ(写真1)が四人の中国人を連れて帰国してきたことがきっ かけです。当時「コッレージョ・デ・チネーシ」ではカトリッ ク宣教師になろうとした中国人の宗教教育が行われていまし た。しかし、それだけではなく、オステンド会社及びオラン ダ東インド会社のアジア諸国との経営に必要な通訳の教育も 行われました。

 1860年のイタリア統一後も、「コッレージョ・デ・チネーシ」

には二つのセクションがあり、一つのセクションでは宣教師 の教育、もう一つのセクションでは宗教教育と関係なく、中

国語などが教えられていました。1868年に「コッレージョ・デ・チネーシ」の名前は「レアレ・コッ レージョ・アジアティコ」(王立アジア寄宿学校)に変わり、1870年代には本機関の規約上で日本 語講座が加えられました。しかし、実際に、『日本語会話の文法』の編集者であるジュリオ・ガッティ ノニによって初めて日本語講座が設けられたのは1903年のことです。その後については、詳しい ことは省略いたしますが、1973年に政治学部ができ、そちらにも独立した日本語講座が設立され ました。

 イタリアのほとんどの大学にキャンパスがないのはご存知だと思います。その関係で、ナポリ東 洋大学は都内の建物を購入しており、現在アジア研究科附属図書館(マウリツィオ・タッデイ図書 館)(写真2)、教員のオフィスはナポリの中心部にあるパラッツォ・コリリアーノ(コリリアーノ

写真 1:マッテオ・リーパ

宮、写真3)にあり、教室、ラボ、各学部長室などは港周辺にあるパラッツォ・メディテッラネオ

(写真4)にあります。ちなみに本学の学生数は約13,000人で、教師数は約300人です。日本学の学 部生及び大学院生の学生数は、文学哲学部、政治学部あわせて、約500人となっています。

 文学哲学部と政治学部において、それぞれの日本語講座が存在していることはイタリアの日本文 化・日本語教育学界のなかで一つの大きな特徴です。まずは前者の文学哲学部の日本語講座につい てお話ししたいと思います。

2) ナポリ東洋大学文学哲学部と政治学部での日本語講座  まずは文学哲学部についてみておきましょう。

スタッフですが、現在表1のように6人となっています。

写真 4:パラッツォ・メディテッラネオ 写真 3:パラッツォ・コリリアーノ

表 1:文学哲学部のスタッフ

大上順一 (専任講師・研究員)

ネグリ・カルラ (非常勤講師)

コチ・ルカ (非常勤講師)

西山邦子 (専任外国人教師)

林直美 (非常勤外国人教師)

三角陽子 (非常勤外国人教師)

写真 2:マウリツィオ・タッデイ図書館

 日本語授業の構成ですが、イタリア人とネーティブ・スピーカーが、それぞれ導入(読解及び構 文)と練習(応用練習及び会話)プラス漢字(表記)の授業を持っています。

 各クラスで学生が日本語をとる時間数は週に8時間です。

なお、各学年のために日本文学の授業は前期もしくは後期に行われています。

 現在授業で使われている教科書などは表2と表3にまとめておきました。

次に後者の政治学部日本語講座についてご説明します。

 政治学部・国際関係学科アジア・アフリカ研究専攻(3年課程)では、外国語履修科目として EU 主要国言語(英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語)から1科目、日本語・中国語・アラ ビア語・ロシア語から1科目を必修選択しなければならないことになっています。日本語を選択し た学生たちは,3年課程のうち最初の1、2年次で初級日本語を学習し、3年次の学年後期からは,

それに加えて日本語による専門教育科目を履修することになっています。

 授業現場において教員は、初級日本語クラスの段階から原則として日本語を使いますが、基礎的 な文法解説はイタリア語を併用し、日本語によるコミュニケーションやディスカッションに接する 機会をなるべく多く学生に提供するよう配慮しています。とくに、3年次および大学院専攻課程で の初級日本語能力を向上させながら、たんに外交問題だけでなく日本に関する幅広い知識をいかに 習得させるかが大きな課題となっており、母国語や英語による専門教育とは異なる工夫が必要と なっています。そのため授業では、学生たちの日本に対する興味関心を最大限引きだすために、日 本語による専門用語や時事問題の解説だけでなく、日本人の行動様式・生活習慣、価値観、世論傾 向など、ひろく日本の社会文化全般にかかわるトピックスも積極的に紹介するよう努めています。

 卒業後に国際関係機関 [ イタリア外交機関や NGO など ] での就職を希望する多くの学生たちに とって、「道具」としての日本語ならびに日本に関する知識を習得することは、たんに日本のみな らずアジア地域全体で活躍するために大変有用かつ重要なことと認識されています。実際、多くの

表 2: 学部での教材

学部一年生 S. De Maio, C. Negri, J. Oue (eds), Corso di lingua giapponese 1 [Italian edition of: ICU (ed.), Japanese for College Students (Basic) 1, Tokyo, 1996], Milan, Hoepli, 2007; S. De Maio, C.

Negri, J. Oue (eds), Corso di lingua giapponese 2 [Italian edition of: ICU (ed.), Japanese for College Students Basic 2, Tokyo, 1996], Milan, Hoepli, 2007 (第 1 課〜第 18 課)

副教材:『みんなの日本語』よりJCSの各課に関する練習を選択

学部二年生 S. De Maio, C. Negri, J. Oue (eds), Corso di lingua giapponese 2 [Italian edition of: ICU (ed.), Japanese for College Students (Basic) 2, Tokyo, 1996], Milan, Hoepli, 2007; S. De Maio, C.

Negri, J. Oue (eds), Corso di lingua giapponese 3 [Italian edition of: ICU (ed.), Japanese for College Students (Basic) 3, Tokyo, 1996], Milan, Hoepli, 2008 (第 19 課〜第 30 課)

副教材:『みんなの日本語』よりJCSの各課に関する練習を選択+

『初級でよめるトピック 25』

学部三年生 『文化中級I』+『なめらか日本語』

表 3: 専攻過程での教材

攻課程一年生 『文化中級Ⅱ』

専攻課程二年生 生教材+『中級から上級への日本語』

表 4:政治学部のスタッフ アミトラノ・ジョルジョ (教授)

デマイオ・シルヴァーナ (専任講師・研究員)

鈴木庸子 (非常勤外国人教師)

野口芙美 (非常勤外国人教師)

学生たちは、本大学での授業をつうじて日本への留学を強く希望しつつ、ナポリという遠き地にて 日本を夢見ながら、日本語学習に熱い情熱を傾けています。

 次に具体的な話に移りますが、まずは週の時間数について言わせていただくと各クラスで学生が 日本語をとる時間数は週に8時間です。

 現在授業で使われている教科書などは次の表5と表6にまとめておきました。

  余談になり、私事で恐縮ですが、直接法のおかげで、私は留学中、特に、修士課程のとき、全 く苦労しなかったというと、大げさですが、けれども日本に着いてまもなく、指導教官、チュー ター、同級生とコミュニケーションがとれるようになりました。

 しかし、今度はイタリアに帰国後、逆カルチャー・ショックを受け、日本関係の仕事、日本関係 の研究すべてをイタリア語で通していました。そこで、翻訳の必要性を実感し、本当に苦労しまし たので、講師になったとき、必ず自分の学生に最初から翻訳の練習もさせようと決めました。

 特に、政治学部の学生は二つあるいは二つ以上の文化と接触する可能性がありますから、言語の 切り替えが早くなる訓練も受けなければならないと思っています。

3) 日本の大学、EU の大学との協定

 1990年代の半ばから本学は学生のための留学の可能性もかなり増やしてきました。まず、日本 の大学と研究機関との協定について触れておきたいと思います。

 東京外国語大学(1981年締結)、上智大学、学習院、早稲田大学、慶応大学、立命館、京都外国 語大学、大阪外国語大学(現在の大阪大学)との協定を結んでおり、わずかではありますが奨学金 を付与し、各大学に毎年平均2名の学生を本学留学生として受け入れていただいており、本学とし ては、学生の動機の向上、また、実質的な日本語能力の向上に貢献をしていると考えております。

更にまた、国文学研究資料館とも学術交流協定が締結され、研究者の交流、共同研究の実施などの 促進計画をたてております。

 その他、ヨーロッパ内ではエラスムス・プログラムがありますが、毎年ナポリ東洋大学からロン

表 5:学部での教材

学部一年生 S. De Maio, C. Negri, J. Oue (eds), Corso di lingua giapponese 1 [Italian edition of: ICU (ed.), Japanese for College Students Basic 1, Tokyo, 1996], Milan, Hoepli, 2007; S. De Maio, C.

Negri, J. Oue (eds), Corso di lingua giapponese 2 [Italian edition of: ICU (ed.), Japanese for College Students (Basic) 2, Tokyo, 1996], Milan, Hoepli, 2007 (第 1 課〜第 12 課)

副教材:『みんなの日本語』及び e ラーニング JPLANG よりJCSの各課に関する練習を選択 学部二年生 S. De Maio, C. Negri, J. Oue (eds), Corso di lingua giapponese 2 [Italian edition of: ICU (ed.),

Japanese for College Students (Basic) 2, Tokyo, 1996], Milan, Hoepli, 2007; S. De Maio, C.

Negri, J. Oue (eds), Corso di lingua giapponese 3 [Italian edition of: ICU (ed.), Japanese for College Students (Basic) 3, Tokyo, 1996], Milan, Hoepli, 2008 (第 13 課〜第 26 課)

副教材:『みんなの日本語』及び e ラーニング JPLANG よりJCSの各課に関する練習を選択 学部三年生 S. De Maio, C. Negri, J. Oue (eds), Corso di lingua giapponese 3 [Italian edition of: ICU (ed.),

Japanese for College Students (Basic) 3, Tokyo, 1996], Milan, Hoepli, 2008 (第 26 課〜第 30 課)

副教材:『みんなの日本語』及び e ラーニング JPLANG よりJCSの各課に関する練習を選択

+東京外国語大学(編)『留学生のための国際関係』東京 三省堂 1992 (第 1 章から第 3 章まで)

表 6:専攻過程での教材

専攻課程一年生 東京外国語大学(編)『留学生のための国際関係』東京

三省堂 1992 (第 4 章から第 7 章まで)+ 生教材

専攻課程二年生 東京外国語大学(編)『留学生のための日本経済』東京

三省堂 1992 + 生教材