SSR0
4.1 データ取得
4.1.1 測定期間
今回のテスト測定では合計3000サイクルのデータを取得し解析に使用した。それに加えて磁石 を駆動せずに取得した200サイクル分のデータも解析に使用する。
4.1.2 取得したデータの構成
実験で得られたDAQデータはADCで記録したもので、カレントトランスを用いて得られた磁 場波形、IeとItの2種類の光検出器の出力電圧である。さらに磁石駆動時の運転サイクルに合わ せて測定データを以下のように区分する。
取得したデータの構成
ADCで取得したデータはデータ取得サイクルに従って3パターン取得してある。今後の議 論ではその3パターンを以下のように分類する。
第1データ
正充電で磁場を印加した際のデータのことを指す。具体的には磁場印加の20ms前から
600ms後までの磁場波形、Ie用光検出器、It用光検出器の出力電圧が含まれている。
第2データ
逆充電で磁場を印加した際のデータのことを指す。具体的には磁場印加の20ms前から
600ms後までの磁場波形、Ie用光検出器、It用光検出器の出力電圧が含まれている。
第3データ
コンデンサバンクの充電中に記録されたデータのことを指す。具体的には第2データ 取得2秒後から600ms後までのIe用光検出器、It用光検出器の出力電圧が含まれて いる。
62 第4章 データ取得と解析 3種類のデータ全てでサンプリングレートは100[kHz]、合計600msに渡ってデータが記録 されている。これら3種類のデータを1組としてサイクルと呼ぶ。本測定においては合計 3000サイクルのデータが取得された。
4.1.3 各種パラメータ
データ取得時のセットアップ条件についてまとめる。
セットアップ条件
本測定におけるコンデンサバンクの運転の設定と光学系のパラメーターを表4.2にまとめる。
表4.1: 真空複屈折探索のデータ取得におけるコンデンサバンクの設定。
パラメータ 値
充電電圧 +2000 [V]
逆充電電圧 −1000 [V]
サイクル繰り返し 0.06 [Hz]
表4.2: 真空複屈折探索のデータ取得におけるセットアップ条件。典型的な値をまとめる。実際に はそれぞれの値に系統的な誤差がつく。
パラメータ 値
フィネス 320,000
It用光検出器のゲイン 3.2 ×103 [V/W]
Ie用光検出器のゲイン 5.4×108 [V/W]
Γ2+σ2 7.0×10−6
取得されたデータは共振が外れる、もしくは200サイクルのデータを取得するごとに分割して 保存されている。ここから連続して共振が維持されたサイクル数を知ることができ、最長で400 サイクル、最小で15サイクルに渡って連続して共振が維持されていた。共振が維持されるサイク ル数が一定ではないのは、オートロックが発見する共振が必ず全くしも同じ擾乱耐性の共振では ないためであると考えられる。
4.1.4 データ波形
解析を行う前にこの節で得られたデータの典型的な波形とその特徴を示す。まず図4.1に第1 データにおけるIt用光検出器の出力とIe用光検出器の出力電圧を示す。以下それぞれVtとVeと
呼ぶ。グラフ上で時刻0 [ms]で磁場がパルス幅1 [ms]の磁場が印加される。上からVeとVtを示 している。磁場印加直後に出力電圧が凹状に変動していることがわかるが、これは磁場印加によ る擾乱が共振器ミラーに伝わっているからであると考えられる。磁場を印加しても共振から外れ ることはなく、600 [ms]たった後には十分安定だとわかる。
Ve[V]Vt[V]
図 4.1: 2 [kV]充電で磁場を印加した際の光検出器の読み出し電圧の変化。時刻0 [ms]でパルス
幅1 [ms]の磁場が印加される。上段がIe用光検出器の出力、下段がIe用光検出器の出力である。
最も重要となる磁場印加直後の時間帯の拡大図を図4.2に示す。同様に上からVeとVtを示し ている。図中で赤く塗りつぶされている領域がパルス磁場は発生している時間である。それぞれ の縦軸は読み出し電圧の平均値の±1%の範囲を含んでいるが、少なくともこのレンジでは磁場 に同期したものの影響は見えない。時刻5 [ms]以降から読み出し電圧が変動を開始するが、これ は音が共振器に届いたためである。解析をする際には、このような擾乱の影響が共振器に届いて いる時間の情報を用いると正しくない結果を与えるので注意が必要である。
同様に図4.3に第2データにおけるVtとVeを示す。同様に時刻0 [ms]で磁場が印加される。第 1データと比べると共振器の強度揺らぎの変動が小さく、これが印加している磁場が小さいこと に対応している。
最後に図4.4に第3データにおけるVtとVeを示す。このデータにおいては磁場が印加されてい ないため外部から磁石起因の擾乱はない。そのため共振器自身の強度揺らぎの大きさや強度スペ クトルを知ることができる。第3データの情報をもとに第1、第2データで得られた読み出し電 圧に適切なフィルタ処理を行うことで正しく複屈折シグナルを抜き出すとともに、理論値との比 較を行う際にも用いる。
また、図4.5に第3データにおける相対強度揺らぎスペクトルを示す。黄緑がVe、青がVtの相 対強度揺らぎである。1 [kHz]以上で両者のスペクトルに乖離が見られる。これは、Ieはショット ノイズがItに比べて3桁大きいためIeがショットノイズに支配されているからだと考えられる。
64 第4章 データ取得と解析
Ve[V]Vt[V]
図 4.2: 図4.1の磁場印加時間付近の拡大図。赤く塗りつぶしている領域で磁場が印加されてる。
上段がIe用光検出器の出力、下段がIe用光検出器の出力である。縦軸は出力電圧の平均値の±1%
の範囲を含んでおり、少なくともこのレンジでわかるような擾乱は磁場印加中には見られない。
Ve[V]Vt[V]
図4.3: -1 [kV]充電で磁場を印加した際の光検出器の読み出し電圧の変化。時刻0 [ms]でパルス
幅1 [ms]の磁場が印加される。上段がIe用光検出器の出力、下段がIe用光検出器の出力である。
Ve[V]Vt[V]
図4.4: 第3データでの光検出器の読み出し電圧の変化。他の2データと異なり磁場は印加されて いない。上段がIe用光検出器の出力、下段がIe用光検出器の出力である。この測定で得られる データは磁場起因の擾乱と無縁のため、共振器自身の安定性や磁場に関わらず生じている擾乱の 影響を知ることができる。
相対強度揺らぎ1/Hz1/2
図4.5: 第3データでの光検出器の読み出し電圧相対強度スペクトル、磁場が印加されていないた め共振器自身の安定性を評価できる。黄緑がVe、青がVtの相対強度揺らぎである。