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ツェムリンスキーの音楽的特徴

ドキュメント内 A.Zemlinskyの研究 : 歌曲を中心として (ページ 74-79)

第3章  ッェムリンスキーの音楽的特徴と

第1節  ツェムリンスキーの音楽的特徴

第2章での楽曲分析を通して明らかとなったッェムリンスキーの歌曲作品に見られ る音楽的特徴を以下の項目別に分け、考察する。

1.テキストと音楽の関連について

 テキストの選択は第2章で述べた通り、各創作期において過去の作品から同時代の 最も前衛的な作品に及ぶ多様性を見せている。テキストが第1曲目の過ぎ去ろうとし ていた後期ロマン派の野情的作子から第2、3、4曲自の同時代の象徴的作晶を経て 第5曲召の異国趣味作子へと推移するのに従い、ツェムリンスキーの作品への作曲上 の取り組みとその手法にも変化が見られる。

 第1曲目と第2曲目では各々の言葉、単語の持つ意味を重視し、それを和声的基盤 に基づいた音楽上で細かく描写し、再現しようとするストレートな表現が特徴的であ ると思われる。疑問文、命令文、感嘆文の持つ動的な部分とその他の冷静で内向的な 部分とのコントラストは鮮やかで、和声、転調などの手法も駆使して詩の持つ雰囲気 を具現している。

 第3曲目でもこのような傾向は見られるが、第1、2曲目に比べてモティーフの重 視、また装飾的な旋律線の使用によって表現自体に率直さが失われ、やや隠喩的、象 徴的色合いを増しているといえる。

 第4曲目では機能和声からの大福な離脱によって一層自由な音楽上の進行が可能に なり、各々の語や詩句が持つ意味合いや語勢を極限まで旋律に結び付けているため、

凹凸の激しいモティーフを形成している。

 第5曲目も第4曲目同様にモティーフによって詩全体が支配されているといえる が、テキストの持つ色彩感や異国情緒、雰囲気は教会旋法と保持されている調性感に

よって描写されている。言葉一つ一つに音楽が対応しているというよりむしろ、旋

律、語勢などはすべて旋法にゆだねられ、それによってモティーフは単純化、透明化 されている。このような各々のモティーフを対照的に配置することによって、詩の内 容の変化、雰囲気の変化を具現しているといえる。時代と共に移り変わるツェムリン

スキーの音楽的描写方法の変遷と、彼なりに新しい境地を見い出そうとした軌跡がこ れらから見受けられる。

2.旋i律・モティーフについて

 第1品目では全体的には全音階的で素朴な旋律で統一されており、感情の起伏と情 景に合致した伸びやかな旋律が特徴的である。それに加えて安定したバスによって旋 律が支えられ、表情を与えられているこの作品にははっきりとブラームスの影響が感

じられる。

 第2、第3曲冒では旋律は半音階的要素と全音階的要素を巧みに使い分けて「混沌 とした世界」一「素朴な世界」を対比させ、あるいは半音階的ピアノ・パートと全音 階的声楽パートとの融合によって旋律を際立たせるといった複雑化した旋律の用法が 見受けられる。またモティーフの重要性や支配力が高まり、それへの従属によって第 1曲目と比較して節制された感情表現へと移っていく傾向が見られる。ワーグナーの 示導動機法の影響を受けたと考えられるモティーフはそれぞれ暗示的な意味合いを持

ち、その直接的な表現を避けるかのように漂い、ぼやかされた装飾的な旋律を形作っ ている。その装飾的で流れるようなモティーフの繰り返しはユーゲント・シュティー ルの特徴と合致し、音楽上のそれを具現しているようである。

 第4曲擦になると機能和声による統一感に代わってモティーフによる楽曲全体の統 一が行なわれる。和声的束縛から解放されることによって旋律線は今まで以上に雷葉 の持つ意味やニュアンス、語勢を如実に写し出し、その連なりによって形成されたモ ティーフはもはやシュプレッヒシュティンメ(Spτcchst㎞me)に近づきつつあったシュ プレッヒゲサング(Sprechgesang)のようであったということができる。また「語り」に 近づくにつれて旋律のリズムもほぼ均一となり、12音を等価に用いて偶成和音によっ て曲全体をぼかしているので、この曲ではモティーフ操作によってのみはっきりとし た秩序が与えられており、ッェムリンスキーの創作課程における極限への試みの作品 であると思われる。また詩の意味内容の関連のある箇所同士を同一のモティーフに よって結び付けることによって、テキストの内面的構造を音楽を介して示している。

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ここではモティーフに象徴的、暗示的意味合いを最大限に与えていると思われる。

 第5曲冒になると再びツェムリンスキニのお理性は教会旋法とその上に成り立つモ ティーフの範囲内で取り戻され、その全音階的で単純化されたモティーフを中心とし たこの作品は、初期の作晶のような表現の率直:さを示しているようではあるが、それ は象徴的な次元へと昇華された単純性であり、内容的には全く異質なものであるとい

える。

3.和声と調性について

 第1曲日では声楽パートに対するバスの対位法的旋律:が特徴的であり、そのバスに 支えられた和声は機能和声の範囲内で充実した響きと安定感を与えている。また調性

は作品を:通して。−moH−Es−d瀞(c一搬oll/)Es・撮011−c−mo11となっており、 c−mollの範囲の和声

の使用はほぼ同一となっていることから、作並全体がシンメトリック構造をなしてい るといえる。またツェムリンスキーの特徴的な手法として多用されるエンハーモニッ ク転調もすでにこの頃から効果的に用いられている。

 第2曲目では平行調への転調が何度も繰り返され、決定的な変化を要求する箇所で 遠隔調へと転調することによって調の変化による強い対照を示している。ツェムリン スキーは第2曲目辺りから機能和声の範囲内で、あるいは機能和声の枠を越え自在に 調牲を操り、それによってテキストの持つ細やかな陰影の表現を可能にしている。和 声は経過音や刺しゅう音的要素が加わって複雑になり、後期ロマン派の濃密な和声に

よって作品を内的に凝縮させようとする意図が見受けられる。

 第3曲目は曲頭から斬新な4度和声が印象的に用いられ、旧来の3度構成の和声か らの離脱が伺える。調性は二重構造とエンハーモニック転調によってぼやかされるこ とによって、機能和声の劉約が拡張され無調性へと向かう傾向を示しているが、その 安定感のない壊れそうな構造の特徴こそツェムリンスキーの意図した領域であり、表 現の主要な手法であったと考えられる。彼はその中に耽美主義的美意識を見出し、自 らその帳面に留まり、最後まで広義での調性感を保ち続けることで作曲家としてのア イデンティティーを見せている。またツェムリンスキーは調性の持つ雰囲気と調の相 互間の緊張病の違いを巧みに利用して、テキストの内容に一致した調性をその都度用 いて作曲していると考えられるので、彼にとってその広義での調性とはなくてはなら ない要素であったのかも知れない。

 第4曲邑はツェムリンスキーの機能和声の限界へと行きついた頃の作晶であると考 えられる。もはや和声的支配力はなくなり、モティーフ操作による楽曲構成に重心は 移ってゆく。詩から与えられた変化を映し出し、詩と一体化したモティーフを軸に、

その要素を変化させながら構成されている。曲を区分するために部分的にカデンツや 終止感を与える要素を置き、それによって曲全体の構造的骨組みを作り出し、調性の 存在をも示している。

 第5曲目では教会旋法で構成されており、また和声の平行移動などの印象派的要素 も見せている。機能和声の概念はほぼ取り払われているように見えるが、作品の全体 の旋法上の基調はD主音ドリア(T)一G主音ドリア(S)一A主音ドリア(D》一D主音ドリア(T)一A 主音ドリア(D)という構造を形作っている。つまり全体が一種のカデンツ構造の関係で 成り立っていると見ることもできる。ツェムリンスキーが示した楽曲全体を機能的関 連に基づいて構成するといったこのような思考は、彼が結局は伝統的な形式概念から 離れることができなかったという事実を明らかにしているといえる。

 ツェムリンスキーの約5◎年にわたる創作過程において大きな変化を遂げた領域が和 声であり、その中で保ち続けたものが調性であるといえるであろう。自分の生徒であ

り、親友でもあったシェーンベルクとその弟子たちが無調、さらに12音技法へと突き 進んでいく申で、ツェムリンスキーは最後まで広義での調性感を捨て切れず、しかし その無調への一歩を踏み出す限界のところに自分とその作品を位置づけていると考え られる。これはツェムリンスキーの音楽がアカデミックな調性感を土台としているの であり、換言すれば彼はこの時代において最も調性音楽の持つ特質と効果を熟知した 作曲家の一人であったといえるであろう。

4.全体の傾向とテーマについて

 ツェムリンスキーの音楽の展開において不可欠なのが凝縮への志向であろう。拍子 を変化させることによってもたらされる時聞的凝縮、モティーフを細分化し、:再構築 することによるフレーズの凝縮、意図的に引き延ばされたサブドミナントによる不安 定なカデンツ構造から得られる緊張感、焦燥感、危うさを見事に操った緻密な作曲技 法によって、彼はユーゲント・シュティールのガラス細工のような壊れやすい構築性

と美しさを持った音楽を産み出している。

 このような独自の手法と自らの創作上の到着地点を求めて、ツエムリンスキーはそ

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