第 3 章 高キャリア寿命を持つ 4H-SiC pin ダイオード
3.2 実験方法
図3. 1に作製した4H-SiC pinダイオードの構造図を示す。n+基板には、<112-0>方向に8 度オフした(0001)Si面の 4H-SiC 基板を使用した。n-ドリフト層および p+アノード層は、n+
Ni
n
+SiC substrate Ti/Al anode
cathode
n
-p
+32
基板上にエピタキシャル成長で形成した。n-ドリフト層とp+アノード層の成長は、縦型ホッ トウォール反応炉3,4を用いて、別々に行った。n-ドリフト層の厚みは120mである。ドナー として窒素を用い、ドナー密度は 7×1013cm-3である。n-ドリフト層の厚みとドナー密度か ら計算した耐電圧値は、18.5kV である。p+アノード層の厚みは、3m である。バルクのキ ャリア寿命が十分長いとすると、順方向電流密度100A/cm2での順方向電圧はおよそ3V 程 度となる。メサ構造の形成は、反応性イオンエッチングで行った。メサの高さは、4m で ある。順方向の電流-電圧特性の確認を目的としたため、メサ周辺の電界緩和構造は設けず、
表面も熱酸化による酸化膜形成を行わなかった。アノードコンタクトとして、50nm の Ti
と175nmのAl を蒸着し、900℃で3 分間アニールした。カソードコンタクトは、50nmの
Niを蒸着し、700℃で3分間アニールした。作製した4H-SiC pinダイオードのサイズは、1.0
×1.0mm2と2.3×2.3mm2である。
(a) (b)
図3. 2 (a)炭素注入プロセス、および、(b)熱酸化プロセスにより作製した4H-SiC pinダイオ
ードの作製フロー: 赤字で示す箇所が、標準プロセスに対して、追加したプロセスである。
試作したサンプルでは、炭素空孔低減による順方向の電流-電圧特性への影響を調べるた めに、炭素注入プロセスと熱酸化プロセスといった炭素空孔低減プロセスにより作製した。
図3. 2(a)に炭素注入プロセスにより作製した4H-SiC pinダイオードの作製フローを示す1。
p+アノード層をエピタキシャル成長で形成した後、炭素イオンを600℃で注入した。炭素イ オン注入は、5 段階(40、60、90、120、140keV)の注入エネルギーを用いて、炭素密度が 5
×1020cm-3で、深さが250nmのボックスプロファイルを形成するように実施した。注入した epitaxial growth
carbon implantation
5 × 10
20cm
-3,600
oC annealing
1730oC,30min removing
implantation layer
mesa etching
metallization
epitaxial growth
thermal oxidation dry O2,1300oC,5h×2 mesa etching
Ar annealing 1550oC,30min
metallization
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炭素の活性化アニールは、1730℃で20分行った。活性化アニール後、注入した炭素が残っ ている層は反応性イオンエッチングで除去した。このエッチングにより、500nm の層を除 去した。
次に熱酸化プロセスについて説明する。 図 3. 2(b)に熱酸化プロセスにより作製した
4H-SiC pinダイオードの作製フローを示す5。まず、1回目の熱酸化を、p+アノード層を形成
した後、ドライ酸素中で1300℃、5時間行った。1回目の酸化膜を除去した後、さらに、2 回目の熱酸化を、1回目と同様にドライ酸素中で、1300℃、5時間行った。2回目の酸化膜 を、除去したあと、電極形成の前に、Ar雰囲気中で、1550℃、30分のアニールを行った。
順方向の電流-電圧特性は、高出力カーブトレーサ(テクトロニクス371A)のパルスモード で測定した。逆回復特性は、順方向が5.18A、電流減少率が150A/s、逆電圧が200Vの条 件で測定した。測定は、ダイオード逆回復測定装置(Lemsys LEMQRR15A)で電圧電流波形を 発生し、オシロスコープ(レクロイ WaveRunner6050A)で行った。順方向の電流-電圧特性お よび逆回復特性は、室温と50℃~250℃まで50℃ステップで測定した。
炭素注入プロセスや熱酸化プロセスといった炭素空孔低減プロセスにより作製した
4H-SiC pinダイオードの電気特性の考察を行うため、二次元数値デバイスシミュレーション
をTCAD DESSIS(シノプシス)6を用いて行った。DESSISは、輸送方程式、連続方程式、ポ
アソン方程式を解くことによって、デバイスの特性を計算する。
図3. 3 作製した4H-SiC pinダイオードの典型的な順方向の電流密度-電圧特性の温度依存性
(測定温度RT~250℃)
0 2 4 6
50 100
Forward Voltage [V]
F o rw ar d C u rr e n t D e n si ty [ A /cm
2] RT
50
oC
100
oC
150
oC
200
oC
250
oC
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