第 3 章 【観光につながる事例と観光産業について】
3.2 観光産業の事例について .1 旅行業関連
3.2.3 イベント・コンベンション業
イベントやコンベンションを「業」としている企業や団体は少ないため、体験イベント を含むイベントとそれを運営する事例を挙げる。
【YES工房】
東日本大震災後、南三陸町で収入を得る場をつくろうと町の有志が「復興タコの会」を 結成し、廃校を利用した工房でモノづくりを始めた。南三陸の土産品「オクトパス君」の 商品、間伐材を利活用した商品などを製造販売している。オクトパス君の文鎮は、「置くと パス」するという合格祈願にも使われ、この文鎮の色つけをする体験や、地域産業を伝え る繭細工の体験などが工房内でできる。
【さとうみファーム】
東日本大震災の後、復興支援で南三陸町を訪れていた金藤氏が歌津地区に開いた牧場。
ワカメなど海産物を餌にしている羊は、肉も上質で販売もしている。体験メニューも豊富 で、バーベキュー、シーカヤックや羊毛フェルト体験など、自団体がもつ能力を様々な体 験メニューに置き換えて提供している。
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【南三陸ブルーツーリズム船団「歌津海しょくにん」】
東日本大震災後、若手の漁師たちで漁師体験、釣り体験などの受入をしている。
【復興イベント】
復興イベントの始まりは、名取市の閖上地区で開催されていた「ゆりあげ港朝市」が場 所をかえて 2011 年 3 月 27 日に再開したことである。新しくつくられた組織ではないが、
発災後いち早くたちあがったことにより、地域住民の買物における不便さの解消と、地域 の元気発信の両方につながった。現在は、会場を閖上に戻し、毎週日曜日の朝、開催され ている。
南三陸町では、2011 年 4 月 29 日に「福興市」を開催。ほぼ、毎月 1 回のペースで開催 しており、現在は復興市実行委員会という組織が出店者とのやりとりや広報活動等を行っ ている。委員会には地元の商工業者が多数参加しており、商店街と福興市や観光の相乗効 果を考えている。
女川町では毎年 1 回 3 月に「復幸祭」が開催されている。特長は「津波伝承復幸男」と いう目玉イベントである。兵庫県西宮市の西宮神社で「福男」が選ばれるイベントとよく 似ている。異なるのは、「津波伝承復幸男」の役割だ。「津波がきたら逃げる」という避難 の基本を伝えることが大きな目的で、スタートの合図は「逃げろ!」の掛け声である。2018 年には、230 人が「津波伝承復幸男」として参加をし、復幸祭全体では 1.8 万人の参加が あった(主催者発表)。
石巻市では沿岸部を中心に、リボーンアートフェスティバルが開催されている。2 年に 1 回開催される、アートイベントである。新潟の中越地震における新潟県の観光復興には、
3 年に一度開催されているイベントであるが、定期開催されていた実績があり、震災後の 誘客にも力を発揮したと考えられる。リボーンアートフェスティバルは、2 年に 1 回とい うことで、まだ実績が少なく本当の成果がわかるのはこれからだと考える。
【語り部】
東日本大震災の後、南三陸町だけではなく、被災地ではその被災状況を語り継ぐ、語り 部が登場した。宮城県内に、20 あまりの語り部団体(語り部専門とは限らない)があり、南 三陸町以外の地域の語り部の料金について、図表 80 にとりまとめた。被災地沿岸部の自治 体には、ほぼ全域に「語り部」を行っている団体がある。観光協会が主催をしているもの や、民間の団体や企業が主催をしているものなど様々で、料金についても、名取市や亘理 町の団体がバス 1 台に対し 5,000 円で実施、女川町、石巻市、東松島市などではバス 1 台 に対し 3,000 円のところが多いとバラバラである。時間については、ほとんどの団体が 1 時間から 1 時間 30 分を通常としている。女川町の語り部ガイドの場合には、女川駅付近か
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ら、お客様のバスに乗り込み約 1 時間 30 分で案内をするが、料金は一人当たり 500 円か、
またはバス 1 台で 3,000 円となっている。語り部という地域の資源も、それぞれの地域に 存在することで、ある意味では被災地間の競争ともなっている。その地域ならではの「語 り部」である必要があるが、地震が発生して避難をした、津波が地域に大きな被害をもた らした、という点はどこの地域でも共通である。その地域ならではの話ができる「語り部」
でなくてはならない。専門知識まですべて語れる必要はないが、震災当時の話だけではな く、復興しつつある現在の状況や、今後の街並みの予測など、地域全体を語れる必要があ る。真板(2016)が「復興のプロセスにおいて観光の中味や果たす役割は変わるため変化 に適応する必要がある」と指摘しているが、まさしくその通りである。「語り部」を商品と してとらえるのであれば、震災当時の様子のみを語る語り部ではなく、時代のニーズやお 客様のウォンツをとらえていかなくてはならない。石巻でボランティアガイドをしている 石巻観光ボランティア協会によると、震災についてのガイドをしてほしいという要望は 年々減少しているという。少しずつ、平時のコンテンツも加えてガイドをする必要がある という。このように考えていくと、語り部の役割は震災を語るだけの役割ではなく、地域 全体を語れる必要があり、語りの内容の一部のテーマが「震災」であるという考え方も必 要となる。
図表 80 宮城県内における語り部の料金目安について
出典:各観光協会より抜粋して筆者作成
【まちあるき語り部(まあるき観光)】
南三陸町観光協会では、「語り部」の商品を団体向けに提供してきたが、個人客向けの
「語り部」開催の要望に応えるべく、「まちあるき語り部」を商品化した。旅行商品として 企画された団体旅行などで来訪者が乗車して移動してきたバスであれば、安全性も確保さ れ語り部が同乗することは可能だが、語り部が自身の自家用車に来訪者を同乗させて案内 して料金をいただくことはできない。南三陸町観光協会では、「歩く」ことで様々なリスク を回避し、お客様を満足させようと考えた。石巻市では、ボランティアガイドのメンバー が中心となり、被災地の情報と観光の情報を織り交ぜながらまちあるき観光ができないか
図表 宮城県内における語り部の料金目安について
気仙沼市 南三陸町 石巻市 女川町 東松島市 名取市 岩沼市 亘理町
料金 学生対象2,000円、
一般対象3,000円
バス1台10,000円
から バス1台3,000円 バス1台3,000円 バス1台3,000円か
ら 5,000円から 5,000円から
ガイド時間 1時間 1時間から 1時間30分 1時間30分 1時間から
ガイド人数 30名 石巻観光ボラン
ティア協会
閖上震災を伝える 会
受付窓口 気仙沼観光コンベ
ンション協会 南三陸町観光協会 石巻市観光協会 女川町観光協会 東松島市観光物産 協会
名取市観光物産協 会
千年希望の丘古流 センター
震災語り部の会 ワッタリ
120 案を練っている。
まちあるき観光は、昨今、ブームになりつつあり、各地で旅行商品として販売されてい る。流れをつくったのは「長崎さるく」という長崎市の観光まちあるきであり、「さるく博」
というまちなか観光の博覧会を開催したことから人気に火がついた。まちあるき観光は、
90 分から 120 分程度で、地域内を歩いてまわり、途中で観光スポットに立寄ったり、買い 物をしたりするものが多く、大きな消費に直結しないが、地域のファンづくり、再来意識 への効果などがうたわれている。長崎さるく以外にも、大阪市を中心とする「おおさかあ そ歩(ぼ)」、京都を中心に関西方面での「まいまい京都」、新潟県を中心とした「ブラ新潟」、
東京を中心とする「まいまい東京」などがある。青森県では着地型観光の一環でまちある き観光に力をいれており、弘前市の「路地裏探偵団」をはじめ各自治体でのガイド教育に も力をいれている。仙台でもテレビ番組「ブラタモリ」の影響で、まちなかをあるく「仙 台ふららん」が人気である。
まちあるき観光の中には、単にガイド役が地域を案内するだけではなく、購買活動につ なげようという動きもある。まちあるき観光の道中で参加費の中から地域の店舗でお菓子 や飲み物を購入して参加者に渡したり、訪問先で参加者の買物につなげられるよう自然風 景だけでなく商店に立寄るなどの工夫もされている。稲葉(2017)は、単なるまちあるき 観光ではなく、スタンプラリーなど何らかの目的をもち、多くの自由になる時間をもって まちあるきをすることが、地域にお金を落とすことにつながると述べている。
山下(2013)は、群馬県甘楽郡の話題から、「生きたまちを見せるためことから考えると、
まちあるきの主体は地域住民である」と述べている。「語り部」は被災地にとって、貴重な 地域の資源である。これを単なる「今ある資源」としてとらえるばかりではなく、「伝承の ツール」「教育のツール」としてのとらえ方もある。これは、南三陸町の復興計画の中にも ある。