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5. プロジェクトを通じて得られる経済的効果とその他の効果に関する検討

5.2 アフリカ、中南米諸国等への横展開の可能性の検討

ティブの一部として実証事業を進め、REDD+事業がスムースに開始される事を期 待する。

REDD+活動としている。本REDD+プロジェクトのアプローチや方法論、モニタリング 方法は泥炭地やマングローブ林でのREDD+に比べ比較的手軽かつコスト低減も図れる ことから、アフリカ、中南米諸国等への横展開の可能性が考えられる。泥炭地以外の 森林域での農地拡大が森林減少・劣化のドライバーとなっている地域での展開可能性 がある地域としては以下のような地域が考えられる。

1) 西アフリカ地域

西アフリカのギニア熱帯雨林(GRF)は、世界の中でも有数の生物多様性のホットスポ ットであるが、その面積は 2000年に入ってから 113,000km2 にまで減少している。こ れは当初面積のわずか18%である。Gockowskiらによると、GRFでの森林減少の主な要 因は、小規模農家による過剰な農地拡大である9。GRF地域では、1988年から 2007 年 までに小規模農家により 68,000km2 の農地が拡大した。これら地域ではゴロンタロ州 同様に貧困農家による焼畑(slash-and-burn)が行われている。この農地拡大は、GRF 周辺国(シエラレオネ、リベリア、ギニア、コートジボワール、ガーナ、ナイジェリ ア、カメルーン)での急速な都市人口の増加(1987年から2009年までの年間平均増加

率は4.2%)とそれに関連する食料需要の増加により生じたものである。また、西アフ

リカはカカオの主要産地であり、カカオ生産の集約化(intensification)は生産性と農家 の収入向上のために重要になる。そのためには老齢樹の入れ替えと良質な農業資材の 活用がキーとなる。Gockowskiらは、複数のカカオの生産様式を比較し必要な農地の増 加がどの程度になるかを検討している。これによると、肥料等の農業資材の適切な使 用により、生産面積のわずかな増加、あるいはほとんど増加させずに生産量の向上を 十分に実現できることを示している。こうした取り組みをした場合、農家の収入は現 状の水準から1haあたり、98%から 160%増加することが推測され、210万haの森林減 少、森林劣化を回避できるとしている。これにより13.6億トンのCO2排出の回避され、

1トンのCO2クレジットを1.2ドルとした場合での試算では16億ドルの価値を創出さ れる。この結果は、農業の集約化、高度化はGRF地域の7カ国においてREDD戦略の基 本的なコンポーネントであることを示唆している。現金や現物支給、あるいはコミュ ニティに対して土地利用の転換させるような戦略よりも、農業の集約化、高度化の普 及促進にREDDの基金を用いることで、農業生産性の向上により農村地域の収入向上と 食糧安全保障の確保、GHG排出削減を実現できるのではないかとGockowskiらは結論づ けている。つまり、土地の低生産性が熱帯林減少の基本的なドライバーであることか ら、熱帯生物圏では農業生産性の向上により森林減少を抑制回避できるものと考えら れる。ただし、農業生産性の実現には、融資(credit)へのアクセスの難しさ、優良な 肥料等の農業資材が利用可能でないこと、輸送道路の貧弱さ、農業普及組織のキャパ シティ不足などの制約要因を改善しない限り、農家が農業におけるイノベーションを 取り入れることができないままとなる。本FSで検討しているREDDプロジェクトではト

9 “Cocoa Intensification Scenarios and Their Predicted Impact on CO2 Emissions, Biodiversity Conservation, and Rural Livelihoods in the Guinea Rain Forest of West Africa,” Gockowski, et al. Environmental Management (2011) 48:307-321

ウモロコシの焼畑の代替として非林地での高付加価値カカオ生産の導入・普及とその 生産物のバリューチェーン導入をREDD+活動としており、上記で述べたようなこれら の制約要因に対してソリューションを提供するものであると言え、ゴロンタロでのア プローチは西アフリカ地域でも展開可能性があると考えられる。

図5.2-1:西アフリカのギニア熱帯雨林地域の位置

(出所:UNEP http://www.unep.org/dewa/Africa/publications/AEO-1/143.htm

2) 南部アフリカ地域(サブサハラアフリカ地域)

南部アフリカでは、森林資源と農村地域のコミュニティの生活は切っても切り離せな い関係にある。サブサハラアフリカ地域の農村人口の 80%以上は貧困にあり、燃料と しての薪、木材、非木材林産物など、森林資源にその生活を依存してきた。南部アフ リカでは薪が家庭用での総エネルギー需要の大半を占めており、モザンビークで85%、

ザンビアで76%、タンザニアで91%、南アフリカで14%となっている10。また、こう した南部アフリカ地域では、貧困に起因して土地の過剰利用、農地への転換、焼畑農 業、木炭生産などによる森林減少が生じている。こうした地域も本REDDプロジェクト と類似のドライバーによる非泥炭地での森林減少であることから、方法論やモニタリ ングの展開先の候補として考えられる。

【ザンビア】

ザンビアの森林面積は約50百万haで年間の森林消失面積(減少率)は、約17万ha(0.3%)

にのぼる(FAO,2010)。森林減少の主な原因は、焼畑や家庭用燃料として木材を使用す ることによる。ザンビアでは伝統的な焼畑農業“Chitemene”があり、近年そのサイクル が早まり森林資源の急激な減少が問題となっている。Chitemeneは直径約150~200m内の 一定サイズの成木(概ね直径15cm以上)を伐採し(図5.2-2左)高さ50-70cm程度に積

10 “Contribution of agroforestry to biodiversity and livelihoods improvement in rural communities of

み上げて火を付ける。出来上がった灰(図5.2-2 右)は、キャッサバやメイズの肥料と して利用し伐採地でそれらを育てる。概ね 3 年程度で一旦このような農地利用をやめ、

その後、成木ができるまで休耕地とし、別の場所の成木を伐採して農地として利用する

(図5.2-2)。このような利用方法は、一定人口のもとでは過剰な伐採(成木となる前の

伐採)は行われず、持続的な農地利用方法であった。しかし、近年の急激な人口増加に よって単位面積当たりのChitemene数が著しく増加し、過度の森林伐採が進んでいる

(Araki,201011)。このようなChitemeneは直径 150-200m程度の小規模な範囲で森林伐採 が行われることから、本FSで提案する小規模伐採地の地上モニタリング手法は、ザンビ アにおけるREDD+プロジェクトを実施する場合、GPSを利用した地元住民による伐採地 モニタリングのツールとして有効な手段と言える。

図5.2-2:(左)典型的なChitemene焼畑の伐採の様子、(右)伐採された木と火入れ後の灰

図5.2-3:Landsat-8画像上の図5.2-2 (左)の様子。周辺の肌色の部分も焼畑による裸地

11 Araki(2010) Ten Years of Population Change and the Chitemene Slash-and-Burn Syst em around the Mpika Area, Northern Zambia, African Study Monographs, Suppl.34: 75-89, 461–476

【ペルー】

ペルーは約 68百万haの森林面積(世界 11 位)を有し、年間の森林消失面積(減少率)

は、約15万ha(0.2%)である(FAO,2010)。森林の約80%は、東部のアマゾン地域に分 布しているが、違法採掘や農地転換による森林伐採が問題となっている。違法採掘の初 期段階は森林に覆われた河川で採掘を行うため、衛星画像で抽出することが困難な場合 もある。近年違法採掘や農地開発による森林伐採が国立公園境界付近または侵入してし て問題となっている例として、Madre de Dios州がある。現地SERNAMP(El Servicio Nacional de Áreas Naturales Protegidas por el Estado)事務所との意見交換によると、

SERNAMPのTambopata公園のレンジャーは 31 名いるものの公園全域を十分に監視す

ることは難しい状況にあるとのこと。しかし、本FSで提案する地元住民によるGPSを 利用した地上データ収集とレンジャーの情報と合わせてGISに取り込む方法は、限られ た人的リソースの中で公園を管理するためには、有用な手段となる可能性があるとのこ と。もともと、ペルーアマゾンには35万人以上と言われる先住民が暮らしているので、

先住民と共同でGPSデータを利用した森林管理を行えば、REDD+プロジェクトとして成 立する可能性がある。以上の通り、本FSで提案する小規模伐採地の地上モニタリング手 法は、ザンビア及びペルーで見られる小規模伐採地に展開できる可能性がある。

図5.2-4:(左)伐採直後の違法採掘現場、(右)採掘に伴う土砂(灰色)の様子

図5.2-5:Landsat-8画像上で確認できる小規模違法採掘現場。画像左側はすでに大規模

5.3 対象地での生物多様性保全や地方政府による土地利用管理改善への貢献可能性