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延性破壊条件式の板材への適用

ドキュメント内 Ductile fracture mechanism of metal foil (ページ 56-60)

第3章 延性破壊条件式の金属箔材への適用

3.2 金属板材における延性破壊条件式の利用

3.2.3 延性破壊条件式の板材への適用

板材を単軸引張試験すると,拡散くびれの後に局部くびれが生じ,破断に至るのが一般 的である.特に局部くびれにおいては,その発生をもって成形限界とされることが多い.

局部くびれが発生すると,その部分に変形が集中して破断に至るためである.このため板 材に関してはその幾何学的特徴,つまり板面に対する垂直方向の寸法(板厚)が板面内寸 法に比して圧倒的に小さいことから,その成形限界の理論的予測方法は,局部くびれの発 生を予測する,塑性不安定理論あるいは分岐理論によって発展してきた.

しかし近年,材料の軽量化や高機能化などから,板材成形の分野でもこれまで成形の対 象としてこなかったような材料,さらには積層材料などへの対応がせまられている.材料 によっては,上記の理論解析では成形限界の予測がかなり困難な場合がある。例えば,単 軸引張試験の結果がFig.3.2.4のような三種類の材料を考える28).材料Aは局部伸びも十分 大きな材料で,仮に上記の理論解析に適した材料であるとする.それに対して材料 B は一 様伸びにおいて材料Aと同じであるが,局部伸びが非常に小さな材料,さらに材料Cはま だ加工硬化中にくびれの発生無しにいきなり破断するような材料である.材料B の例はア ルミニウム合金板などでよく見られ,材料C は延性のやや乏しい材料に見られる.これら 板材の成形限界は互いに異なるのはいうまでもない.しかし,これらの材料の変形抵抗を 次のような単純な式で近似すると,

𝜎=𝐾𝜀𝑛 (3 − 7)

K値やn値は全く同じ値になる.とりわけ加工硬化指数n値は,上記の理論で大きな役割を 果たしており,極論すればこの変形抵抗式からは三種類の材料の成形限界は同じであると 予測がなされる.したがって上記の理論解析の適用が困難な場合も多いと考えられる.

Fig.3.2.4 Difference of ductile in tensile test

第3章 延性破壊条件式の金属箔材への適用

そこで成形限界では局部くびれ発生の予測という観点にとらわれるのではなく,破断そ のものの発生を予測すれば良いと考え,これまで延性破壊条件式の板材への導入が行われ てきた.その結果,明瞭なくびれ発生前に破断するような延性の乏しいアルミニウム合金 板での深絞り成形における破断予測29),高張力鋼板での穴広げ成形における破断予測30)の 成功が報告されている.

また各々の延性破壊条件式を板材へ適用し,その破断予測結果の比較と検証も行われて きた 31).延性破壊条件式が板材へ適用できる理由としては,その成形限界線図が挙げられ る.

Fig.3.2.5 は二軸張出し試験によって得られた三種類の鋼板の成形限界線図である.白丸

は破断部近傍の格子寸法の測定による限界ひずみ,黒丸は破断部そのものの破断ひずみで ある.(Fig.3.2.6)これからわかることは二つある.一つは等二軸引張(β=ε21=1)に近づく につれて白丸と黒丸で表されるひずみの差が小さくなる,すなわち一様変形後のくびれの 量が小さくなること.もう一つは黒丸で表される破断部のひずみ,いわゆる極限変形能が 直線的に分布していることである.これらは古くから吉田ら 32)の種々の鋼板を使った実験 でも指摘されている.

一方,延性破壊条件式から得られる成形限界線図を考えてみる.Hill の異方性材料に対 する降伏条件式において,材料に面内異方性はないものと仮定すると,Cockcroft&Latam の式(式(3-1))とBrrozoの式(式(3-3))の各項は,二軸張出状態ではr 値とひずみ比βの関数 としてそれぞれ次式で表される.

𝜎max= (𝛽𝑟 + 𝑟 + 𝑎)√ 2(2 + 𝑟)

3{𝑟(1 − 𝛽)2+ (𝛽𝑟 + 𝛽 + 𝑟)2+ (𝛽𝑟 + 𝑟 + 1)2}𝜎̅ (3 − 8) 𝜎m

𝜎max=2𝛽𝑟 + 𝛽 + 2𝑟 + 1

3(𝛽𝑟 + 𝑟 + 1) (3 − 9)

𝑑𝜀 = 1

1 + 2𝑟√2(2 + 𝑟)

3 {𝑟(1 − 𝛽)2+ (𝛽𝑟 + 𝛽 + 𝑟)2+ (𝛽𝑟 + 𝑟 + 1)2}𝑑𝜀1 (3 − 10)

延性破壊発生までβが一定とし,式(3-7)の変形抵抗式を用いると,式(3-1)と式(3-3)の延性 破壊条件式が与える二軸張出し状態における破断ひずみは次のように表すことができる.

𝜀1𝑓 = √ 3(1 + 2𝑟)2

2(2 + 𝑟){𝑟(1 − 𝛽)2+ (𝛽𝑟 + 𝛽 + 𝑟)2+ (𝛽𝑟 + 𝑟 + 1)2}

× [ 𝐶1(𝑛 + 1)

(𝛽𝑟 + 𝑟 + 1)𝐾√3𝑟(1 − 𝛽)2+ (𝛽𝑟 + 𝛽 + 𝑟)2+ (𝛽𝑟 + 𝑟 + 1)2

2(2 + 𝑟) ]

1/(𝑛+1)

(3 − 11)

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𝜀1𝑓 =𝐶3(𝛽𝑟 − 𝛽 + 𝑟 + 2) 2(𝛽𝑟 + 𝑟 + 1)

× √ 3(1 + 2𝑟)2

2(2 + 𝑟){𝑟(1 − 𝛽)2+ (𝛽𝑟 + 𝛽 + 𝑟)2+ (𝛽𝑟 + 𝑟 + 1)2} (3 − 12)

これらに,引張特性値を含む材料定数を与え得られた成形限界線図はFig.3.2.7に示すとお りである.いずれも破断予測は直線的な分布になっており,Fig.3.2.5の破断ひずみと同じ 傾向を確認することができる.また Fig.3.2.8 に各材料の実際の引張特性値と材料定数 C1

として材料 A,B および C にそれぞれ 600,620 および 640MP を与えたときの Cockcroft&Latham の 式 か ら 得 ら れ る 成 形 限 界 線 図 を 実 測 値 と 比 較 し て 示 す .

Cockcroft&Latham の式による破断ひずみの計算値は,実測値と定性的にも定量的にもよ

く一致していることがわかる.

以上より,延性破壊条件式によって板材の破断ひずみを与えることができるため,延性 破壊条件式は板材の破断予測手法の一つとして用いられてきた.

なお本研究では単純で簡便なため,Cockcroft&Latham の式,Ayada の式(式(3-2))およ

びBrozzoの式を利用して箔材の破断を予測した.

Fig.3.2.5 Experimentally obtained limit strains for the materials A, B and C

Fig.1-2-8 大矢根の延性破壊条件式が与える成形限界線図

(a) Material A (b)Material B (c) Material C

Fig.3.2.6 Lattice on specimen with fracture

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Fig.3.2.7 Fracture limit diagram obtained by ductile fracture criteria (a) Cockcroft&Latham

(C1=200, K=300, n=0.1) (b) Brrozo (C2=0.7)

Fig.3.2.8 Fracture strains calculated from the criterion by Cockcroft&Latham for actual values of tensile properties, in comparison with measured ones

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