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板厚に対する表面粗さの変形に対する増加割合 α

ドキュメント内 Ductile fracture mechanism of metal foil (ページ 118-131)

第5章 金属箔材の延性破壊メカニズム

5.3 金属箔材における破壊形態の決定因子

5.3.1 板厚に対する表面粗さの変形に対する増加割合 α

表面あれの影響を受けるものと表面あれの影響を受けないもので,箔材の破壊形態が大 別されることから,その決定因子には表面あれの影響度が大きく関わっている.第4章で は,板厚に対する表面粗さRz/tの変形に対する増加割合αが大きいと,表面あれが延性破 壊挙動に影響を及ぼし,板材とは異なる破壊形態を示すと述べた.そこで表面あれの影響 度を表すものとして,α値に着目した.α値はFig.4.2.35に示すように,板厚に対する表面 あれの傾きを表している.

一方,4.2.3節でも述べたように表面あれは結晶粒径dと相当ひずみε に比例して増加す

ることが経験的に知られている.

𝑅𝑍= 𝑐𝑑𝜀+𝑅0 (4 − 1) (𝑐:材料定数

𝑅0:初期粗さ)

これに対し,式(4-1)の両辺を板厚tで割ると,式(5-1)が得られる.

𝑅𝑍/𝑡 = 𝑐

𝑡/𝑑𝜀+𝑅0/𝑡 (5 − 1)

α値は,板厚に対する表面あれの傾きを表していることから,式(5-1)は式(5-2)のように置き 換えることができる.

𝑅𝑍/𝑡 = 𝛼𝜀+𝑅0/𝑡 (5 − 2) したがって,α値は式(5-3)で与えることができる.

α= 𝑐

𝑡/𝑑 (5 − 3)

式(5-3)より,α値は,板厚に対する結晶粒の数n(=t/d)と反比例の関係であることがわかる.

したがって,板厚に対する結晶粒の数を変化させることによって,α値も変化し,表面あれ の影響度を変化させることができる.そこで,従来の板材と同様の破壊形態を示した純銅

板(t=0.5mm)と純チタン箔(t=0.05mm)の板厚に対する結晶粒の数を少なくすることによっ

て,表面あれの影響度を大きくし,その破壊形態が変化するのか観察した.

第5章 金属箔材の延性破壊メカニズム 純銅板(t=0.5mm)における検討

純銅板(t=0.5mm)を1000℃で1時間焼なまし,結晶粒径dを大きくした.焼なまし後の 結晶組織はFig.5.3.1に示すとおりである.なお結晶組織観察のため行った研磨およびエッ チングの条件は,2.2.1節で述べたとおりである.焼なまし前後における板厚に対する結晶 粒の数の変化は,Table5.3.1に示すとおりである.Table.5.3.1より,焼なますことによっ て板厚に対する結晶粒の数は10個から3.3個へ減少した.箔材(t=0.05mm)では板厚に対す る結晶粒の数が3.0個であったため,板厚に対する結晶粒の数において,焼なまし後の板材 は箔材に近い状態になったといえる.焼きなまし後の板材の単軸引張試験を2.2.2節と同条 件で行い,その破壊形態を観察した.

50μm

Fig.5.3.1 Microstructure of Annealed copper sheet metal

0.05 Annealed Non-annealed Non-annealed

n 3.3 1.0 3.0

t/mm 0.5

Table.5.3.1 Number of grains in thickness

第5章 金属箔材の延性破壊メカニズム 焼なまし後の板材における表面あれ進展挙動をFig.5.3.2に示す. Fig.5.3.2より,焼な まし後の板材のα値は大きくなり,箔材と同程度になっていることがわかる.したがって,

板厚に対する結晶粒の数を少なくすることにより,α値は大きくなった.その増加割合が箔 材と同程度になったことから,α値は,焼なまし後の板材は箔材と近い状態になったといえ る.

0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

Ratio of surface roughness to thickness Rz/t

Strain ε

Annealed(t=0.5mm) α=0.193

Non-annealed ( t =0.05mm) α= 0.256

Non-annealed(t=0.5mm) α=0.038

Fig.5.3.2 Increasing ratio of surface roughness to thickness α for annealed C1020-O (t=0.5mm)

第5章 金属箔材の延性破壊メカニズム 焼なまし後の板材の真応力ひずみ線図をFig.5.3.3に示す.Fig.5.3.3より,焼なまし後の 板材の破断ひずみは低下し,箔材の破断ひずみと近い値を示した.Fig.5.3.3 より焼なまし 後の板材は表面あれの影響を受けたため,破断ひずみが低下したと考えられる.

焼なまし後の板材の変形挙動を一様変形,くびれ変形,破断面で区分し,各々の変形挙 動の変化を観察した.それぞれの変形過程を区別するため用いた公称応力ひずみ線図は

Fig.5.3.4 に示すとおりである.公称応力ひずみ線図において,最大荷重に達するまでの変

形を一様変形,最大荷重後の変形をくびれ変形とした.なお破断時は,板厚方向に亀裂が 貫通した時点とした.

Fig.5.3.3 True stress- true strain curve for annealed C1020-O (t=0.5mm)

Fig.5.3.4 Engineering stress-strain curve for annealed C1020-O (t=0.5mm) 0

50 100 150 200 250 300 350

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4 0.45

True stress σt/MPa

True strain εt

Annealed(t=0.5mm) Non-annealed(t=0.05mm)

Non-annealed(t=0.5mm)

0 50 100 150 200 250

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

Engineering stress σ/MPa

Engineering strain ε

Annealed(t=0.5mm) Non-annealed(t=0.05mm)

Non-annealed(t=0.5mm)

第5章 金属箔材の延性破壊メカニズム

板材の一様変形においては,力学的関係より一様変形限界ひずみεu=ボイド発生時のひず み εvの関係が成り立つ.そこで焼なまし後の板材でも εu=εvの関係が成り立つのか検討を 行った.ボイド発生時のひずみεvの算出方法は2.4.1 節に示すとおりで,求めたn,K,ε0

値をTable5.3.2に示す.焼なまし後の板材,焼なまし前の板材および箔材におけるεuv

Fig.5.3.5 に示す.Fig.5.3.5 より焼なまし後の板材は,表面があれやすくなったことによっ

て εuvは低下し,箔材と同程度の値を示した.したがって,焼なまし後の板材は箔材のよ うに表面あれの影響を受けεu=εvの関係は成り立たなくなり,理論上より早い段階で一様変 形限界に至ったといえる.

Table 5.3.2 n,K,ε0 value of annealed C1020-O (t=0.5mm)

Thickness t/ mm n K ε

0

0.5 0.681 802 0.0165

Fig.5.3.5 Ratio of uniform strain to work-hardening exponent for C1020-O 0.00

0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20

Ratio of uniform strain to void strain εu/εv

Annealed (t=0.5mm)

Non-annealed (t=0.5mm)

Non-annealed (t=0.05mm) 1.00

ε

u

v

第5章 金属箔材の延性破壊メカニズム

くびれ変形における変形挙動を評価するため,破断ひずみに対するくびれ変形限界ひず みεfnに着目した.その結果をFig.5.3.6に示す.Fig.5.3.6より,焼きなまし前の箔材は板 材よりも εfnが非常に小さく,くびれ後すぐに破断に至ったと考えられる.これに対し焼 なまし後の板材は,焼きなまし前の板材に比べて,εfnは低下し,箔材に似た傾向を示した ことがわかる.

さらにくびれ変形における挙動を数値のみならず,現象としても評価するため,拡散くび れおよび局部くびれの有無にも着目した.Fig.5.3.7-8に焼なまし後の板材における拡散くび れおよび局部くびれを示す.Fig.5.3.7より,焼なまし前および焼なまし後の板材においては 明瞭な拡散くびれが見られたのに対し,箔材においては明瞭な拡散くびれが確認できなか った.局部くびれに関しては Fig.5.3.8 に示すように,焼なまし後の板材,焼なまし前の板 材および箔材において明瞭な局部くびれを確認できる.局部くびれの形状に着目してみる と,焼なまし前の板材では平面を有して破断しているのに対し,箔材および焼なまし後の 板材では,材料が極限まで伸びて破断していることがわかる.この違いは板厚に対する結 晶粒の数によるものだと考えられる.焼なまし前の板材では,板厚に対する結晶粒の数が 多く,結晶粒界も多い.ボイドは介在物や結晶粒界で発生しやすいといわれているため,

焼なまし前の板材では結晶粒界においてボイドが発生・成長・合体したため,材料が伸び きることなく,平面を有して破断に至ったと考えられる.一方,焼なまし後の板材および 箔材では,板厚に対する結晶粒の数が少なく,結晶粒界も少ないため,ボイドが発生しづ らい状態となる.したがって,破断箇所ではボイドが発生することなく,材料が極限まで 伸びて破断に至ったと考えられる.以上の結果を踏まえ,焼なまし後の板材におけるくび れ変形量や局部くびれの形状は箔材に酷似しており,くびれ変形において,焼なまし後の 板材は箔材に近い変形挙動を示したといえる.

Fig.5.3.6 Ratio of necking strain to fracture strain for C1020-O

0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25

Ratio of necking strain to fracture strainεn/εf

Annealed (t=0.5mm)

Non-annealed (t=0.5mm)

Non-annealed (t=0.05mm)

第5章 金属箔材の延性破壊メカニズム

Fig.5.3.7 Diffuse necking of C1020-O 0.25mm

(a) Annealed sheet metal (t=0.5mm)

0.25mm

(b) Non-annealed sheet metal (t=0.5mm)

0.25mm

(c) Non-annealed metal foil (t=0.05mm)

第5章 金属箔材の延性破壊メカニズム

Fig.5.3.8 Localized necking of C1020-O

50μm

(a) Annealed sheet metal (t=0.5mm)

50μm

(b) Non-annealed sheet metal (t=0.5mm)

50μm

(c) Non-annealed metal foil (t=0.05mm)

第5章 金属箔材の延性破壊メカニズム

焼なまし後の板材における破断面をFig.5.3.9に示す.Fig.5.3.9より,焼なまし後の板材の 破断面では,焼なまし前の板材で見られたディンプルは見られず,その形態は箔材とよく 似ていることがわかる.したがって,破断面において,焼なまし後の板材は箔材と同様の 挙動を示したといえる.

T ensile dir ec tion 10μm

(a) Annealed sheet metal (t=0.5mm)

T ensile dir ec tion

10μm

(b) Non-annealed sheet metal (t=0.5mm)

10μm

T ensile dir ec ti on

(c) Non-annealed metal foil (t=0.05mm) Fig.5.3.9 Fracture surface of C1020-O

第5章 金属箔材の延性破壊メカニズム

以上の結果より,一様変形,くびれ変形,破断面において焼なまし後の板材は箔材と似 た延性破壊挙動を示した.したがって,板厚に対する結晶粒の数を少なくし,α値を大きく することによって,表面あれの影響を受けない破壊形態から表面あれの影響を受ける破壊 形態へと変化したことがわかった.

一方,板厚に対する結晶粒の数が多い純銅箔(t=0.035mm)の破断面では,板材と同様にデ ィンプルを確認できたという報告がある36).(Fig.5.3.10)これは,板厚に対する結晶粒の数 が多く α 値が小さかったため,表面あれの影響を受けずに板材と同様の破壊形態を示した のだと考えられる.

これらの結果より,純銅ではα値を変化させることによってその破壊形態は変化した.

Fig.5.3.10 Fracture surface of pure copper foil (t=0.035mm) (a) d=20μm,n=1.75

(b) d=3.5μm,n=10

第5章 金属箔材の延性破壊メカニズム 純チタン(t=0.05mm)における検討

純チタン箔(t=0.05mm)を700℃で1時間焼なまし,結晶粒径dを大きくした.焼なまし 後の結晶組織はFig.5.3.11に示すとおりである.なお結晶組織観察のため行った研磨およ びエッチングの条件は,2.2.1節で述べた純チタン(t=0.1,0.3,0.5mm)と同条件である.

また焼なまし前後における板厚に対する結晶粒の数の変化はTable.5.3.3に示すとおりであ る.Table5.3.3より,板厚に対する結晶粒の数は6.6個から0.99個へ減少したことがわか る.焼きなまし後の箔材の単軸引張試験を2.2.2節と同条件で行い,その破壊形態を観察し た.

焼なまし後の箔材の表面あれ進展挙動をFig.5.3.12に示す. Fig.5.3.12より,焼なまし 後の箔材におけるα値は大きくなっていることがわかる.したがって,板厚に対する結晶 粒の数を少なくすることによりα値は大きくなった.

20μm

10μm

Fig.5.3.11 Microstructure of annealed titanium foil

Fig.5.3.12 Ratio of surface roughness to thickness in TR270C-O (t=0.05mm) 0.00

0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

Ratio of surface roughness to thickness Rz/t

Strain ε

Annealed α =0.691

Non-annealed α =0.271

Annealed Non-annealed

n 0.99 6.6

Table5.3.3 Number of grains in thickness

第5章 金属箔材の延性破壊メカニズム 焼なまし後の箔材の真応力ひずみ線図をFig.5.3.13に示す.Fig.5.3.13より,焼なまし後 の箔材の破断ひずみが向上していることがわかる.これは焼なましによって,蓄積してい たひずみエネルギーが解放され,より材料が伸びやすくなったためだと考えられる.

純チタンの一様変形においては,板厚に依存することなく一様変形限界ひずみεu=ボイド発 生時のひずみεvの関係が成り立った.(2.4.1節)そこで焼なまし後の箔材でも εu=εvの関係 が成り立つのか検討を行った.ボイド発生時のひずみεvの算出方法は2.4.1節に示すとおり で,求めたn,K,ε0値をTable5.3.4に示す.焼なまし前後の箔材におけるεuvFig.5.3.14 に示す.Fig.5.3.14より,焼なまし後にεuvは1.0より大きくなっていることがわかる.こ れは焼きなますことにより板厚に対する結晶粒の数が 1.0 個未満になったからだと考えら れる.しかし,εu=εvの関係が成り立たなくても,εuはεvより大きく,板材と同様に最大荷 重点に至ってから破断したと考えられる.

Table 5.3.4 n,K,ε0 value of annealed TR270C-O (t=0.05mm) 0

100 200 300 400 500 600

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4

True stress σt/MPa

True strain εt

Annealed

Non-annealed

Fig.5.3.13 True stress- true strain curve for annealed TR270C-O(t=0.05mm)

Thickness t/ mm n K ε

0

0.5 0.248 650 0.0700

ドキュメント内 Ductile fracture mechanism of metal foil (ページ 118-131)