第 5 章 機械参加型リスクマネジメントの提案と評価
5.6. まとめ
本章では、まず、⼈間の意思決定プロセスを中⼼に置き、それと機械学習モデルが 相互作⽤する機械参加型(machine-in-the-loop)意思決定プロセスを提⽰した。⼈間の 意思決定プロセスはデフォルトではシステムⅠが起動しているが、機械学習の介⼊に よりシステムⅡが喚起され、⼈間と機械学習が協調した合理的な意思決定が促される。
その結果、⼈間の意思決定における認知バイアスの影響の低減が期待できる。
プロジェクト・リスクマネジメントは⼀連の意思決定プロセスとみなすことにより、
その各ステップに機械学習モデルの構築・活⽤のステップを対応付けた機械参加型
(machine-in-the-loop)リスクマネジメントを提案した。この提案アプローチに適した 機械学習モデルとして、ナイーブベイズ分類器が挙げられる。ナイーブベイズは、ベ イズの定理に基づいた機械学習モデルであり、変数間に条件付き独⽴性の仮定を置く ことで確率計算を単純化し、新たな情報追加による事前確率の逐次更新アルゴリズム を実現している。このような確率更新のメカニズムは“ベイズ更新”と呼ばれ、リスク マネジメントにおける⼈間の思考プロセスに⽐較的近いと考えられている。
機械参加型リスクマネジメントは、リスクマネジメントを⾏うプロジェクト実務者 と機械学習を活⽤するデータ分析者の双⽅がそれぞれ不完全な知識に基づいて⾏動し ていることが前提となっている。すなわち、機械参加型リスクマネジメントの知識更 新は、プロジェクト側のリスク知識更新のサイクルと機械学習側のモデル化知識更新 のサイクルが相互に連携しながら、それぞれ SECI モデルを回すという2サイクル構 造となる。⼀⽅のサイクルが他⽅のサイクルの駆動⼒となり、互いの知識を補完しな がらスパイラルアップしていくことで、機械参加型リスクマネジメントの継続的な進 化が期待される。
機械参加型リスクマネジメントの適⽤効果として、(1)不確実さの低減による意思 決定の合理化、(2)利害関係者間の合意形成による取引コストの低減、(3)システ ムⅠとシステムⅡの連携による認知バイアスの影響の緩和、などが想定される。そこ で、提案アプローチの適⽤部⾨の実務者2名に対して、新たにインタビュー調査を実 施した。イ ンタビュー 結果を演繹 的テーマテ ィック・ア ナリシス法 (TA: Thematic Analysis)を⽤いて分析し、上記仮説の妥当性を検証した。その⼀⽅、データ収集・蓄 積・前処理の負荷や組織マインド醸成の難しさなど、いくつかの阻害要因も明らかと
5.6まとめ 105
なり、その緩和や解消にも今後、継続的に取り組んでいく必要がある。