第4章 障害者和太鼓グループ「なかよし太鼓」における 新教材・指導案実践〜「なかよし箏倶楽部」〜
第1節 「なかよし太鼓」について
「なかよし太鼓」は兵庫県三木市において活動している障害者和太鼓グループで ある。三木市内の障害を持つ子供たちの親の会である「三木市手をつなぐ育成会」
が、余暇活動のひとつとして平成7年より活動を始め、現在中学生から大人までの 親子10組が三木市立三木特別支援学校の体育館を借りて月2回、第1・第3土曜目 午後4時〜午後5時30分に行われる練習に取り組んでいる。毎年5,月の「育成会 総会」、8月目「三木市加佐夏祭り」、9月の「三木市健康福祉フェスティバル」な
どのステージの他、地域の文化祭、交流事業などにも積極的に参加している。
筆者は、この「なかよし太鼓」に平成12年から指導ボランティアとして関わっ ている。メンバーの中にはかつて筆者が勤務していた養護学校(現特別支援学校)
で担任をしていた生徒もいて、その保護者との関係で指導ボランティアを依頼され たのである。1年に1演目のペースで新しい曲に取り組んでおり、八丈島太鼓・豊 年太鼓・太鼓ばやし・三宅太鼓などの古くから地域に伝わる演目だけでなく、現代 曲をアレンジしたものや、パーランクーを使った沖縄のエイサーなどさまざまな演 目をレパートリーにしている。平成16年には10周年を記念してコンサートを行っ た。和太鼓は「なかよし太鼓」が所有しているものが5基、三木特別支援学校から 借用しているものが1基、地域から借用しているものが1基あり、練習時以外は各 家庭で1基ずつ持ち帰り保管している。
「なかよし太鼓」では、「親子で集い楽しく太鼓を打つ」を基本に、親子での参加 を原則としている。現在のメンバーは、特別支援学校に通う中学生から作業所に通
う成人までの10人とその母親である。メンバーは「なかよし太鼓」の練習日以外 にも活動を共にする機会が多く、打ち解けてリラックスした雰囲気の中で楽しく和 太鼓に取り組んでいる。以下に各メンバーのプロフィールを記す。
130
なお、表中のS−M社会生活能力検査1とは、社会生活に必要な能力をいい、その 能力の発達の程度を社会成熟度という。昭和28年の「精神薄弱児の実態調査」の ために、三木安正・杉田裕らが作成した検査法で、社会生活能力の測定を通し、子
どもの社会生活に必要な基本的な生活能力の発達を明らかにする。身辺自立、移動、
作業、意志交換、集団参加、自己統制の6つの領域から、目常生活の中で容易に観 察ができ、それぞれの発達段階の社会生活能力を代表する130の生活行動項目で構 成されている。特別支援学校では、生徒の実態を把握するために、1〜2年に一度検 査を実施するところが多い。今回のなかよし箏倶楽部では、母親に任意で検査に協 力してもらった。
1S・M社会生活能力検査(平成19年12月閲覧)
htt:〃www. eocities.co。 /NeverLand・Mirai/9326/s−m.ht皿1 131
〔表5〕「なかよし太鼓」メンバーのプロフィール
名前 学年・所属 S・M社会生活能力検査 「なかよし太鼓」における様子など N・K(男) 特別支援学校
?w部1年生
社会生活年令9才2ヶ 時々車椅子を使用することがある。正確 ネリズムで和太鼓を打つことができ、学 Zの授業でも箏に取り組んだ経験:があ
驕B
K・A(女) 特別支援学校
?w部1年生
発語はほとんどないが、「アーアー」など フ声と態度で自分の意思を表示できる。
a太鼓に興味を持っているが、皆と一緒 ノ打つのではなく、休憩時間や練習後に 齔lで打つのが好きで、練習中は見てい
驍セけのことが多い。
E・A(男) 特別支援学校
s剳狽Q年生
ダウン症
ミ会生活年令5才3ヶ
発語はほとんどないが、理解力や状況判 f力があり、和太鼓のリズムも遅れがち ナはあるが、ほぼ正確に打つことができ 驕B明るい性格で、時にふざけてみたり キるのが好きである。
N・T(男) 特別支援学校
s剳狽Q年生
ダウン症
ミ会生活年令7才1ヶ
C月
発語は不明瞭だが、自分の意思を周囲に
̀えることができる。時々母親のアドバ Cスを受け付けない頑固な面もあるが、
s正確になりながらも皆に合わせて和 セ鼓を打とうとする気持ちがある。
H・N(男) 特別支援学校
s剳狽Q年生
ダウン症
ミ会生活年令8才0ヶ
正確なリズムで和太鼓を打つことがで ォ、教師のアドバイスにもすぐに対応で ォる。和太鼓を始めて一番目が浅く、し チかりとした音を出すことが課題であ 驍ェ、いつも笑顔で和太鼓を楽しんでい
驕B
K・Y(男) 20才
?ニ所通所
ダウン症
ミ会生活年令5才6ヶ
C月
リズムを覚えるのに時間がかかるがほ レ正確に和太鼓を打つことができ、音も ヘ強い。和太鼓のコンサートに行く機会 熨スく、和太鼓独特の擾さばきや振りの オ囲気をとても上手に表現することが
ナきる。
A・M(男) 23才
?ニ所通所
ダウン症
ミ会生活年令7才9ヶ
D月
力強い音で和太鼓を打つことができる 潟Yムは不正確になりやすく、一度ずれ トしまったらなかなか立て直すことが
ナきない。
Y・N(男) 31才
?ニ所通所
自閉的傾向
ミ会生活年令5才0ヶ
ほぼ正確なリズムで和太鼓を打つこと ェできるが、声掛けがないと地打ちとず 黷驍アとがある。自分の思いが通らない
ニ情緒不安定になる時がある。
F・M(男) 33才
?ニ所通所
自閉的傾向
ミ会生活年令7才1ヶ
リズムが少し複雑になると理解に時間 ェかかるが、慣れたりズムであれば、ほ レ正確に打つことができる。
S・S(男) 27才
?ニ所通所
発語はなく、和太鼓の擁を持ってもすぐ ノ放り出してしまい、打とうとしない。
sアノに興味があり、激しくリズミカル ノ和音やグリッサンドを弾く。
132
第2節 「なかよし太鼓」における箏による指導実践に至る経緯
箏を使った新しい教材をどこで指導実践すればよいのかを考えた時、最初に思い つくのは特別支援学校での実践である。しかし、筆者は特別支援学校での外部の訪 問者による指導実践にはさまざまな困難があるのではないかと感じた。
まず、多くの特別支援学校で音楽の授業が週に1回になり、指導の積み上げが難 しくなっていること、週に1回の授業は学習発表会などの行事に向けての事前学習 としての内容が多くなっている現実があることから、数回の指導実践を確保するの は時間的にかなり困難である。また、今までに筆者が勤務校で行ってきた指導では 生徒の障害の種類や程度、個性などについて十分考慮した上で教材を選定し、指導 していく中で、より生徒たちに適した指導にするために常にその内容に修正を加え てきた経験から、所属する生徒について筆者が何ら情報を持たない未知の学年集団 において、わずか数回の指導実践をしても意義のある実践にはなりにくいのではな いかと感じた。そこで、筆者が以前から指導ボランティアとして関わり、各子ども たちについてある程度なじみがある「なかよし太鼓」で指導実践ができないかと考 えた。「なかよし太鼓」なら、年齢的にも中学生、高校生が多く人数も適切である。
時間的には2週間に一度ではあるが、実践回数は特別支援学校より確保しやすい。
そこで、筆者が「なかよし箏倶楽部」と命名した、「なかよし太鼓」における箏によ る指導実践を行うにあたり、どのような意図を持って行うのかについて保護者の理 解を得るために、以下のような文書を作り読んでもらった。
「なかよし箏倶楽部について」(「なかよし太鼓」保護者向け文書)
現在、私は兵庫教育大学で「特別支援学校高等部における箏を活用した授業へ の取り組みについて」というテーマについて研究しているところですが、なぜこ のようなテーマを持つに至ったかをお話したいと思います。特別支援学校で音楽 の授業を主指導している中で、最初に頭を悩ませるのが、「どんな教材をどのよ うに指導するか」といった教材設定です。特別支援学校では音楽の授業は週1 時間、1学年全員の一斉授業で行われていますが、その中でどの生徒にも適した 133
教材を選ぶことは大変難しいのです。歌える生徒や発語がなく歌えない生徒、楽 器を大音響で打ち鳴らすのが大好きな生徒や楽器の音が苦手で教室にも入って
こられない生徒、童謡が大好きな生徒や今流行のJポップでなければ興味を示そ うとしない生徒… 障害や発達年齢に適しているだけでなく、高等部にもなれ ば興味・関心について生活年齢(実年齢)に配慮した教材を選択する必要もあり
ます。
そうは言っても、音楽室は狭く、楽器の種類も数が限られ、高等部の1学年が 一斉授業するには不十分な環境と言わざるを得ません。高等部の生徒にとっては 最後の学校教育の機会でもあります。自分の世界を広げる機会となるような新し い音楽や楽器との出会いに導く教材が必要なのではないかと、私はこれまで試行 錯誤してきました。
そんな中で10年ほど前から和太鼓に取り組むようになりました。和太鼓は能 力に応じてみんなで楽しむことができ、生徒たちも大好きでしたが、学校で取り 組むにはいくつか困難な点がありました。たくさんの太鼓を長期にわたって借用 する必要があること、保管場所がないこと、高価なためなかなか学校で購入して
もらえないこと… 近隣の学校から借りてきた古い和太鼓を破ってしまったこ ともありました。(打ち方のせいではありません。)そんな時に、小学校における 箏を使った実践について、ある先生の講演を聴く機会があり、箏を活用した取り 組みに大変興味を持ちました。箏は13本の弦を張った楽器ですが、琴柱の並べ 方を工夫することでいろいろな音列を作ったり、1面の箏を複数人数使用するこ
とで合奏が楽しめたりします。障害を持つ生徒にも演奏可能で、また和太鼓に比 べて安く購i入することができます。
新学習指導要領において、平成14年度から中学校で1種類以上の和楽・器の体 験が必須になりました。学校教育に日本音楽を取り入れる意義には、西洋音楽と は異なった美しさや表現、楽しみがあることを知ること、自国の文化と伝統を尊 重する姿勢を育てることなどいろいろあります。特に、特別支援学校においては、
日本音楽を取り入れることは生徒の持つ可能性を広げることにつながるのでは ないかと思います。西洋音楽とは違った表現方法を知ることで、生徒によっては 今まで表現し切れなかったものが可能になるかもしれない。日本人が潜在的に持 134