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第 3 章 大正時代の『讀賣新聞』の見出しにみる色彩語

3.3 見出しにみる色彩語の特質

大正時代の『讀賣新聞』の見出しにみる色彩語の使用を分 類ごとに表 3-3-1 にまとめてみた。

表 3-3-1

記事分類 種類数 色彩語(出現頻度)

25 伊藤雅光(1997)「ユ-ミンの言語学-6-ユ-ミンの色彩(1)」『日本 語学』明治書院 16-9 p.64

生活 44 白白白白(428)(428)(428)(428)赤赤赤赤(384)(384)(384)青(384)青青(295)青(295)(295)(295)黒(161)紅 (121)紫(108)緑(43)黄(38)紺(17)藍 (7)納戸(7)緋(5)ホワイト(4)鼠色 (3)灰色(2)金色(2)青磁色(2)藤色 (2)草色(2)萌黄色(2)茄子紺(2)古代 紫(1)鶯色(1)鳶色(1)出藍色(1)小花 色(1)青島色(1)牡丹色(1)紅梅色(1) 焦茶(1)金茶(1)水浅黄(1)瑠璃紺(1) ミルク色(1)ピンク色(1)茶色(1)水 色(1)海老茶色(1)青竹色(1)浅黄(1) 縹色(1)ローズ(1)朱(1)春潮色 (1)

文化 23 白白白白(1,493)(1,493)(1,493)(1,493)紅紅紅(1,364)紅(1,364)(1,364)緑(1,364)緑緑緑(1,249)(1,249)(1,249)(1,249)青 (1,050)黒(869)紫(428)赤(395)黄 (254)灰色(33)金色(23)藍(17)緋 (16)紺(11)朱(9)桃色(3)茶色(2)金 銀色(2)紫紺(2)水色(1)褐色(1)藤色 (1)古代紫(1)黄橙色(1)

社会 22 青青青青(674)(674)(674)(674)紫紫紫紫(439)(439)(439)白(439)白白(436)白(436)(436)(436)赤(388)黒 (238)紅(95)緑(73)藍(36)黄(17)紺 (10)緋(5)灰色(3)金色(3)桃色(3)ブ ラック(3)海老茶色(2)納戸(1)水色 (1)藤色(1)茶褐色(1)浅黄(1)青竹色

(1)

経済 18 白白白白(618)(618)(618)(618)青青青青(564)(564)(564)紫(564)紫紫(226)紫(226)(226)(226)黒(194)赤 (174)紅(105)緑(80)黄(58)藍(18)朱 (9)紺(4)金色(4)灰色(3)桃色(3)茶 色(2)緋(1)褐色(1)ブラック(1) 国際 18 赤赤赤赤(461)(461)(461)(461)青青青青(419)(419)(419)白(419)白白(256)白(256)(256)(256)黒(220)黄

(110)緑(45)紫(42)紅(27)桃色(11) ホワイト(9)藍(7)紫紺(2)金色(1)緋 (1)褐色(1)茶色(1)濃藍色(1) 皇室 17 白白白白(314)(314)(314)(314)青青青青(231)(231)(231)赤(231)赤赤(142)赤(142)(142)(142)紫(61)黒

(56)緑(20)紅(19)黄(11)褐色(11)黄 櫨染(4)青磁色(2)茶褐色(2)金色(1) 緋(1)鈍色(1)黄卵色(1)水浅黄(1)朱

(1)

政治 16 青青青青(844)(844)(844)(844)白白白白(415)(415)(415)紫(415)紫紫(386)紫(386)(386)(386)黒(316)赤 (303)紅(36)緑(34)黄(34)藍(7)紺 (7)ブラック(5)灰色(1)桃色(1)鼠色 (1)水色(1)カーキー色(1)

事件・事故 13 白白白白(396)(396)(396)(396)青青青青(381)(381)(381)赤(381)赤赤(306)赤(306)(306)(306)黒(175)紫 (97)黄(20)紅(14)紺(14)緑(13)藍 (4)緋(3)金色(1)ブラック(1) 科学 13 白白白白(53)(53)(53)(53)赤赤赤赤(26)(26)(26)(26)紫紫紫(26)紫(26)(26)黒(20)黄(12)紅(26)

(12)緑(7)藍(1)灰色(1)金色(1)桃色

(1)茶褐色(1)黄褐色(1)

スポーツ 11 白白白白(61)(61)(61)(61)青青青青(59)(59)(59)(59)黒黒黒(51)黒(51)(51)紫(45)紅(20)赤(51) (20)緑(7)黄(5)紫紺(1)水色(1)草色 (1)

社説 3 紫(13)白(3)青(1)

以上の表からわかるように、色彩語の種類数を分類ごとを 見てみる、、最上位は「生活」、最下位は「社説」となって いる。すなわち、全体としては、「生活」において、色彩語 の使用が最も豊富であるということを意味している。次は分 類ごとに色彩語の使用を概要的に説明したい。

「生活」の下位分類は、「健康」「衣」「食」「住宅」

「余暇」「行事」からなっている。「生活」にみる出現頻度 が高い色彩語は、「白」「赤」「青」、出現頻度が低い色彩 語は、「鶯色」「鳶色」「出藍色」「小花色」「青島色」

「牡丹色」「紅梅色」」「ミルク色」「ピンク色」「春潮 色」「茶色」「水色」「海老茶色」「青竹色」「縹色」「焦 茶」「金茶」「古代紫」「水浅黄」「瑠璃紺」「ローズ」

「朱」「浅黄」である。

「生活」にみる色彩語の使用をまとめてみると、色を直接 指示するものが多く見られ、象徴的な意味を表わす色彩語は 少ない。例をあげると、「白酒」「白米」「白魚」「赤貝」

「赤糖」「黒豆」「黒胡麻」「黒鯛」「青ソース」「青豆」

「緑大根」「紅鮭」「ピンク色の林檎」などの飲食物と、

「白孔雀」「青芝」「青葉」「青草」「緑蔭」「緑葉」「黄 菊」「白菊」など、自然、動植物の色を指示する例が多く見 られる。それから、服装の色を描写する、流行の色を紹介す るなどの表現が多い。具体例をあげると、「肉色の絹靴下」

「流行の草色縮緬」「金茶と草色の袴」「鼠色と鶯色の流 行」「お納戸の羽二重」「色合は茄子紺」「色合は茶と青 磁」「今春東京の流行は紫京大阪は茶」などがある。

「社会」の下位分類は、「市民運動」「社会保障」「環 境」「婦人」「子供」「中高年」「勲章」「労働」「教育」

からなっている。つまり、社会の出来事などが「社会」に収 められているのである。「社会」にみる出現頻度が高い色彩 語は、「青」「紫」「白」、出現頻度が低い色彩語は、「納 戸」「水色」「藤色」「茶褐色」「浅黄」「青竹色」である。

「社会」にみる色彩語の特徴については、「紅い気炎(女性 の盛んな意気)」「万緑叢中の紅一点・紅一点・紅三点・紅 八十点(多くの男性の中に一人の女性がいること)」「丑紅

(寒の丑の日に売る紅)」「紅灯の巷(花柳街)」「紅い叫 び」「黄色い声(女性のかん高い声)」「新興女性の黄色な 気焔」「黄色な顔の婦人」「色の黒く写る婦人」など、女性 を描写する表現が多いことである。ここから、当時の女性の 社会進出の様子が反映されていると思われる。

「政治」の下位分類は、「右翼左翼」「選挙」「行政」

「地方」「司法」「警察」「日本外交」「軍事」「戦争」か らなっている。すなわち、これらに関わる記事が収められて いるのである。「政治」にみる出現頻度が高い色彩語は、

「青」「白」「紫」、出現頻度が低い色彩語は、「灰色」

「桃色」「鼠色」「水色」「カーキー色」である。「政治」

にみる色彩語の使用は、「潔白」「建白」「白票」「白熱 戦」「明白」「白紙」「白露」「黒白が決まる」「対議会策 鼠色か」「暗黒面」「赤軍」「赤毛布」「赤化」(社会主義 化・左翼化)「赤誠」(真心)「青軍」といった象徴的な表 現が多く見られる。

「皇室」にみる出現頻度が高い色彩語は、「白」「青」

「赤」、出現頻度が低い色彩語は、「金色」「緋」「鈍色」

「黄卵色」「水浅黄」「朱」である。「皇室」にみる色彩語 の使用は、「白麻」「白き絹」「白衣」「白斑の美鳥」「白 砂」「白木造り(木地のままの木材でつくること)」「黒リ ボン」「黒章」「黒紗」「黒布」「黒幕」「黒塗(車体を黒 く塗った自動車など)」「黒犬(毛の黒い犬)」「黒木造り

(皮つきの丸太のままの材で造った建物)」「白酒黒酒」

「紅白の水引」「紅白の提灯」「紅白の餅」など、白、黒、

紅白に集中し、直接色を指示する例が多い。

「科学」の下位分類は、「宇宙」「地球」「理工学」「生 命工学」「動植物」からなっている。「科学」にみる出現頻 度が高い色彩語は、「白」「赤」「紫」で、出現頻度が低い 色彩語は、「藍」「灰色」「金色」「桃色」「茶褐色」「黄 褐色」である。「科学」にみる色彩語の使用は、ほとんど自 然、動植物の色を表わす。具体例をあげると、「白色の名 花」、「白熊」、白蛇」「黒黴」「黒虎」「赤蟻」「黄砂」

「紅梅」「桃色や黄金色の繭」「黄褐色の日月」「翠緑」

「葉緑素」などがある。

「スポーツ」にみる色彩語の種類が少なく、「白軍」「紅 軍」「紅白試合」といった表現しか現われなかった。

全体から見ると、大正時代の『讀賣新聞』の見出しにみる 色彩語の出現頻度については、最も多いのは青(4,630)で ある。その次は、白(4,559)、赤(2,649)、黒(2,369)、紅 (2,134)、紫(1,897)という順になっている。また、色彩語の 複合的な表現から見ると、「青年」の出現頻度が上位で、

「赤十字」「赤化」「赤ん坊」「青物」「告白」「白昼」

「赤旗」「黒幕」などの出現頻度も高かったことがわかった。

一方、出現頻度から見れば、大正時代の『讀賣新聞』の見 出しにみる色彩語の種類数は豊富のようにみえるが、必ずと いって色彩を指示するとは限らない。それは、色彩語だけで なく、色彩語と他の言葉と組み合わせ、すなわち複合語とし て現われる場合が多いためである。複合語になる場合は、色 彩語本来の意味がなくなり、象徴的な概念になったというこ とが多い。例えば「青年」は若さや未熟を表わす意味で、

「青春」は中国伝来の五行説と深い関係をもつなど、色とは 必然的な関係は読み取りにくいのである。このほか、地名、

人名、雑誌、書籍、連載小説など、色彩語からの複合語が多 く使われている。例えば、「青森」「青島」「青山」「黒竜 江」「黒海」「黄河」「紅瓦店」「紅河」などの例がある。

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