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第 4 章 「生活」と流行色

4.2 流行色とは

流行色を考察する際、まず流行色の定義を把握しておきた い。『色彩常識』(1926)では、流行色について、次のよう に定義されている。

婦人の使用する着物・帯・肩掛・洋傘等にあらはれる色 彩に毎年或は流行色なるものがある。人は元来變化と新 奇を愛し、又一方には社會的生活をなす上より一般の傾 向を順應せんとする本性を持つてゐる。流行色も此の本 性より生ずるもので、從つて同一社會に生活するものは 自然的にある特定の色彩に向つて同時に嗜好が赴くもの である26

ここから、流行色の発生は女性からなることが多いという ことを示唆している。また、流行色というものは、同一社会 で生活していくうちに、自然的に特定の色彩に目をむくとい う特性が生まれるのである。それから、長崎(1974)は流行 色の出現について、次のように述べている。

色彩文化史上、時代色に対して流行色が現われるのは江 戸時代からとされているが、それは上述の江戸初期では なく、だいたい元禄時代以後のことである。それまでの 時代の色は、いずれも貴族あるいは寺院、武家などの特 権階級を中心としたもので、色彩はすべてそれらの上 層階級の占有物であり、社会の大部分を占める庶民には 無縁に近いものであった。したがって、そいう時代では、

社会大衆の趣味嗜好を反映する、いわゆる流行色の現象

26 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/925070 p.169

は起こらない27

要するに、色彩の使用が自由になってからこそ、流行色と いうものが成立したのである。伊原(1994)は流行色の特質 について、次のように述べている。

色の「流行」というのは大体、それぞれの年代年代の人 びとの感情にかかわりながら消長を繰り返していくもの のようである。すなわち、息長く「流行」し続ける色も あり、逆にすぐ廃れてしまう色もあり、あるいは、一度 は忘れ去られても、また復活して再「流行」する色もあ る、といった具合である28

以上の内容をまとめてみると、流行色というものは、次の ような特質を持っていると考えられる。

1.女性の流行、そして、同一社会から発生しやすいというと ころである。

2.一時的な現象として広く世間でもてはやされ、長続き はしないものであるが、循環性がある。

3.他人の主張、意見、態度などに合わせ、社会的に同調行 動をとると同時に、その同一心理の反映であるという現象 である。

27 長崎盛輝(1974)『色の日本史』淡交社 p.171

28 伊原昭(1994)『文学にみる日本の色』朝日新聞社 p.167

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