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第 6 章 結論

6.1 まとめ

本稿で明らかになったことを以下のように要約しておこう。

第一、明治時代の日本に流入した西洋文化は、大正時代に なると、人々の生活に浸透し、あたり前のものとして受け入 れられるように定着しはじめた。大正時代の人々は、日本風 と西洋風をほどよく混ぜ合わせる、いわゆる、和洋折衷の生 活で暮らしていた。この時代の日本と西洋の文化が互いに憧 れ、刺激し合っていた様子を、当時の流行色に見ることがで きる。流行色の由来を見てみると、植物(藤、牡丹、松葉色、

青柳色、紅梅、オリーブ、ローズ)、磁器(青磁)、動物

(鼠、鶯、鳩羽)、地名(青島色、新橋)、飲食物(小豆・

クリーム)、自然現象(水色、空色)、染料(臙脂)、物

(納戸)など、生活のものをとりあげ、多種多様な表現が見 られる。それから、「薄藤」「薄鶯」「薄紅梅」「薄納戸」

「薄鳩羽」「薄藍」「薄浅黄」「濃鼠」「素鼠」「焦茶」

「錆青磁」「錆裏葉」「古代紫」「古代桔梗」「鼠系統」

「紫系統」「茶系統」「鳩羽系統」「ローズ系統」など、

「薄」「濃」「素」「錆」「焦」「古代」「系統」のような 濃淡を表わす修飾語による流行色は、日本の染色文化を反映 するいい例であろう。また、「萌葉」「裏葉」「若竹」「若 草」「朽葉色」「初櫻」など、植物の様子を繊細に観察され た流行色は、日本人の自然に対する感情を表わす表現であろ

う。さらに、化学染料の流入により、「新橋」「藤紫」がこ の時代を代表する新しい流行色も生まれた。そして、流行色 の特質を反映する「千家鼠」「龍鼠」「小町藤」「みやび鳩 羽」「呉羽納戸」「鶴羽納戸」「御殿藤」「近衛藤」「濱浅 黄」といったユニークな流行色も見られた。さらに、社会情 勢によって生まれた「黒」「復興緑」「復興朱」「復興紫」

「新勝色」「青島色」「平和緑」「やまと紫」「日の出色」

「孔雀緑」といった流行色はその時代を反映するいい例であ ろう。要するに、大正時代の日本は様々な形で西洋文化が流 入し、価値観や生活様式の変化から、和風と洋風をほどよく 取り合わせる和洋折衷の異色な文化が形成された時代である。

この時代の流行色の特質といえば、化学染料が一般化により、

天然の染料では生み出せない鮮やかな色が生まれたが、それ にもかかわらす、植物や日本人の周りにあるものに因んだ伝 統的な色彩語は存在していることが明らかになった。それは 四季折々の豊かな自然に恵まれた日本の風土と、それを愛す る文化の反映といえよう。さらに、服装と流行色については、

半襟は着物の一部分として、日本の伝統的な美意識を表わし、

自然環境とよく調和のとれた生活をしようとする。外来の洋 傘も日本の生活に取り込まれ、色彩や年齢といった条件に従 い、色の濃淡で調和する、表現する。

第二、大正時代はアメリカやフランスなどの新しい文化が 流入、受容されるなか、その影響を独自に消化し、吸収した 文化が徐々に作り出されていった。大正時代の『讀賣新聞』

の見出しにみる「赤」は、「花」「果物」「髪」「顔」

「血」「煉瓦」「空」「夕焼け」などの色を表わすほか、

「めでたい」「まったく」「徹底」「「情熱」「闘志」「興 奮」「停止」「危険」「注意」「警戒」「革命」「過激化」

「共産党」「労働運動」「廉価」「下等」「特別な事項」

「田舎物」といった象徴的な意味も含まれる。「紅」は、

「真紅」「薄紅」「深紅」「千紫万紅」で「植物」「花」

「織物」の色を表わすほか、「女性」「化粧料」という意味 もある。さらに、「紅白」で「めでたい」や「勝敗を争う二 組の一つ」を表わすことができる。「緋」は赤く染めたもの で、おもに鮮やかな赤色や深い赤色の織物を描写するに用い られる。「朱」は「紅」や「緋」より黄みによった赤のこと をいい、すなわち、黄みを帯びる赤色の顔料を表わす。

以上、大正時代の『讀賣新聞』の見出しにみる「赤系統」

はそれぞれ違う意味をもっていることが明らかになった。

「赤」は色を表現する場合は、おもに赤色や赤みを帯びた茶 色を表わす。そして、象徴的な意味を表現するに用いられる。

「紅」は色を表現する場合は、「薄」「深」「真」といった 修飾語で植物の色や服の色を表わす。「紅一点」「紅い叫 び」「紅い気焔」の場合は、おもに「女性」を表わす。「丑 紅」「寒紅」の場合は、「化粧料」を表わす。「緋」はおも に茜や紅花で赤く染めたものを表わす。「朱」は黄色を含ん だ赤色の顔料を表わす。

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