部﹁
﹃自 然﹄ とい う概 念﹂
①第 一章
﹁﹃ 自然
﹄の 語の 二つ の意 味﹂ につ いて
︒
﹁自 然﹂ の語 には
︑﹁ 自おのづか ラ然しか リ﹂ の意 味で
︑副 詞・ 形容 詞・ その 名詞 化し たも の︑ およ び︑
﹁自 然界
﹂の 意味 で︑ 人為 によ るも の以 外の 全存 在の 総称
︵集 合名 詞︶ の二 種が ある
︒語 源的 には 前者 が古 く古 代・ 中世 に使 われ
︑後 者 は近 代に 入っ てで きた 訳語 であ る︒ 前者 は︑
﹁お のず から
﹂︵
﹃続 日本 紀﹄
︑︶
﹁ひ とり でに
﹂︵
﹃枕 草子
﹄︶
︑﹁ 天性
﹂︵
﹃古 今和 歌集
﹄︶
︑﹁ 本性
﹂︵
﹃太 平記
﹄︶ の 意で ある
︒何 れも
︑﹁ 人間 の力 が及 ばぬ 世界 で﹂
︑水 の流 れ︑ 草木 の自 生な どに 使わ れる
︒ 後者 は︑ ネー チャ ーの 訳語 で自 然界 のこ と︒ 人間 の営 為に よる 社会
・文 化を 除く
︑天 地と その 間の 万物
・万 象︒ 人間 と無 関係 に存 在す る外 界︒ 人間 社会 をと りま く環 境的 外界
︒都 市に 対す る農 村・ 山野 のこ とな どに 使わ れる 集 合名 詞で
︑現 在の
﹁自 然観
﹂﹁ 自然 科学
﹂﹁ 自然 観察
﹂﹁ 自然 保護
﹂﹁ 自然 環境
﹂﹁ 自然 改造
﹂﹁ 自然 破壊
﹂な どの
﹁自 然﹂ は︑ みな この 訳語 であ る︒
﹁シ ゼン
﹂︵ 漢音
︶と よむ も﹁ ジネ ン﹂
︵呉 音︶ とよ むも
︑意 味は 同じ
︒後 者の 典型 例は
︑親 鸞の
﹁自じ 然ねん
法ほう 爾に
﹂で あ る︵ 第一 節︶
︒ ヨー ロッ パ諸 語に おい ても
︑﹁ 生ま れつ き﹂
﹁本 性﹂
﹁生 成力
﹂︑ およ び﹁ 万物
﹂﹁ 自然 界﹂ の二 義が あっ た︵ 第二 節︶ 洋 ︒ の東 西を 問わ ず︑ 如上 の二 義が 発生 した のは 何故 か︒
﹁そ れは 人間 の自 然認 識の 過程
︑人 類の 自然 認識 の深 化・ 発展 の過 程そ のも の﹂ が二 義を 生ん だの であ る︒ 即ち
︑人 間は 自然 物を 観察 した とき
︑﹁ おの ずか ら成 るも の﹂
﹁生 成力
﹂と 認識 する
︒次 いで
︑﹁ おの ずか ら﹂ な認 識を 蓄積 した 上で
︑そ こに 共通 性・ 同質 性・ 普遍 性を 見出 し て︑ それ ら全 体を 概括 して
﹁自 然﹂ と呼 んだ から であ る︒ 従っ て﹁ 自然
﹂の 二義 とは 二つ の意 味で はな く︑ 人間 の 認識 過程 の二 段階 を意 味し てい るこ とに なる
︒﹁ 自然 性﹂ から
﹁自 然界
﹂へ の進 化の 過程 には
︑ア ニミ ズム
︑神カミ
観 念︑ 造物 主観 念が 介入 して いる こと は︑ 読者 にも お判 りだ ろう
︵第 三節
︶︒
自然 界の こと を自 然と いう 観念 は︑ 古代
・中 世に はな く︵﹁ 自おのづか ラ然しか リ﹂ の意 で︑
﹁ひ とり でに そう なる
﹂﹁ ある がま ま﹂ のこ と︶
︑当 時は
︑﹁ あめ つち
﹂﹁ 天地
﹂﹁ 造ぞう 化け
﹂等 々と いっ た︒
﹁自 然﹂ と称 した のは
︑安 藤昌 益の
﹃自ヽ 然ヽ 真営 道﹄
︵一 七五 三年
︶が 最初 であ るが
︑江 戸時 代に は︑ ほと んど 知ら れず
︑狩 野亨 吉が 一八 九九 年に 発見 し︑ 戦後
︑ノ ーマ ンに 紹介 され 有名 にな った
︵詳 しく は﹃ 日本 歴史 大事 典﹄
︒︶ もっ とも
︑ヨ ーロ ッパ で自 然界 の意 の自 然概 念が 確 立し たの も︑ 一八 世紀 のフ ラン ス百 科全 書派 によ って であ る︵ 第四 節︶
︒
②第 二章
﹁自 然界 のさ まざ まな 呼び 名﹂
﹁自 然﹂ は和 語に も漢 語に もな い︒ そこ で和 語の
﹁天 地﹂
﹁乾 坤﹂
﹁造 化﹂
⁝⁝ につ いて 検討 し︑ なぜ
﹁自 然﹂ 概 念が 成立 しな かっ たの かを 論ず る︑ と︒ まず
︑古 くか ら最 も多 く使 われ たの は﹁ 天地
﹂の 語で ある
︵﹃ 記紀
﹄﹃ 万葉 集﹄ あめ つち
︒︶
﹁天 地﹂ は上 下の 意が あ り﹁ 天﹂ が上 位で ある から
︑自 然界 は﹁ 上天
﹂に 集約 され て︑
﹁天 地﹂ と﹁ 万物
﹂は 別物 とい う思 考が 働い てい た
︵第 一節
︒︶
﹁乾 坤﹂ は易 学上 の言 葉で あり
︑﹁ 乾ヲ 天ト 為シ
︑坤 ヲ地 ト為 ス﹂
︵﹃ 易経
﹄︶ とあ る︒
﹁乾 坤一 擲﹂ は今 でも 使わ れ てい る︵ 第二 節︶
︒
﹁﹃ 宇宙
﹄と は︑ 古今
・世 界の 総体 のこ と﹂︵
﹃荘 子﹄
﹃荀 子﹄
︶︒
﹁往 古来 今︑ 之ヲ 宙ト 謂ヒ
︑四 方上 下︑ 之ヲ 宇ト 謂 フ﹂
︵﹃ 准南 子﹄
︶︒ 宇が 空間
︑宙 が時 間で
︑自 然界 の無 限の 広が りと 永遠 の流 れを 表し てい る︒ しか し︑
﹁万 物﹂ は 含ま れず
︑自 然の 実体 を表 現で きて いな い︒
﹃日 本書 紀﹄ にい う﹁ 宇宙
あめ のし
﹂た
は天 下の 意で ある
︵第 三節
︒︶
﹁世 界﹂ はサ ンス クリ ット の漢 訳語 で︑
﹁三 千大 千世 界﹂ のこ と︒
﹃傍りよう 厳ごん
経﹄ に﹁ 世ハ 遷流 ヲ為 シ︑ 界ハ 方位 ヲ為 ス﹂ とあ り︑ 時間
・空 間を 合し た﹁ 宇宙
﹂と 同義 であ る︒ 古い 日本 では
﹃竹 取物 語﹄
﹃蜻 蛉日 記﹄
﹃源 氏物 語﹄ など で︑
﹁宇 宙﹂ の意 で使 われ てい る︒ 現代 では
︑地 表上 の諸 現象 とな り︑ 天体 は除 かれ た︒ だか ら︑
﹁星 の世 界﹂ とい
わね ばな らな い︒ また
︑社 会現 象を 中心 にし た国 際関 係の 全範 囲を いい
︑自 然界 とは 無関 係で ある
︵第 四節
︒︶
﹁造ぞう 化け
﹂と は︑ 万物 を創 造し 化育 する こと で︑ 造り ださ れた 森羅 万象 の意 とも なる が︑ それ を為 す力 もし くは 者 のこ とを いう
︒初 出は
﹃荘 子﹄
︵﹁ 偉ナ ル哉
︑造 化﹂
︶で
︑造 物者 のこ と︒ 日本 では
︑記 紀︑
﹃本 朝文 粋﹄
︑﹃ 神皇 正統 記﹄
︑﹃ 笈の 小文
﹄︑
﹃お くの ほそ 道﹄ など
︑﹁ 天地 自然
﹂の 意に 多用 され てい るが
︑天 地そ のも ので はな く︑ それ を 創造 する 者の 力の 意味 に傾 いて いる
︵第 五節
︶︒
﹁風 土﹂ とは 特定 の地 域圏 の気 候・ 地味
・地 勢・ 産物 など のこ とで
︑自 然そ れ自 体で はな く︑ 社会
・文 化の 自然 環境 を意 味す る︒ 似た 言葉 に﹁ 風水
﹂と いう 語が ある
︒﹁ 天の 風気
︑地 の水 気﹂ のこ とで
︑風
・水 が生 活に 与え る 影響
︑つ まり
﹁自 然﹂ を意 味し
︑中 国で 地相 術と して 広く 使わ れた
︵第 六節
︶︒ 地上 の自 然に つい て﹁ 山河
︵山 川︶
﹂と いい
︑﹁ 山水
﹂と いう こと があ る︵ 第七 節︶
︒
﹁万 物﹂ は︑ 自然 界に ある すべ ての 事物
・現 象を 意味 する が︑
﹁天 地﹂ は含 まれ ない
︵第 八節
︶︒ 以上 のよ うに
︑自 然界 につ いて は︑ さま ざま な呼 び名 でい われ てき たが
︑天 地系
・万 物系 に分 けて 考え れば
︑両 者は 洋の 東西 をと わず
︑古 くか ら別 物と 考え られ てき た︒ しか し︑ 双方 を同 じ自 然物 と考 える よう にな らな けれ ば︑
﹁自 然﹂ の観 念は 成立 しな い︒ この 人間 の自 然認 識に つい ての 問題 が︑ 本書 の後 半と なる
︒