性
概念 から 日本 文化 を論 ずる のは 容易 では ない と思 う︒ 西洋 包丁 で日 本料 理を つく ると いう 比喩 で合 うか どう か︑ その 後︑ 日本 人の 感 性 論が 書か れた のは 二一 世紀 にな って から︒佐 々木 健一
﹃日 本的 感性
﹄︵ 二
〇一
〇年 で︶ ある
︒冒 頭に
﹁日 本人 の個 性的 な感 じ方 に注 目し
︑そ こか ら新 しい 美学 のモ チー フを
汲
み 取り たい﹂ とい う意 図を もっ て︑
美 に 注目 する とい う︒ 西洋 の﹁ 感性﹂の 学が 日本 の﹁ 美﹂ の学 であ ると いう 執筆 意図 は 明白 であ る︒ 何故 なら
︑感 性は 文化 的個 性の 基盤 であ って
︑そ れを もと に﹁ 美﹂ が生 まれ るか らで ある
︑と
︒ 日本 的美 学と いえ ば︑ これ まで
︑幽 玄・ あは れ・ わび
・さ び・ いき など を個 性的 感性 とし て取 り上 げて きた
︒ が︑ 佐々 木の 場合 は︑ 日本 的感 性の 構造 を
和歌 に 求め︑世 界の 美学 に寄 与し たい
︑と いう
︒
①そ の冒 頭に
﹁感 性と は何 か﹂ が論 じら れて いる ので
︑再 論を いと わず
︑そ こか ら話 を始 める こと にす る︒ 彼に よれ ば︑ 感性 とは
﹁感 ずる はた らき
﹂で あり
︑a 身体 的感 覚︑ b美 的知 覚︑ cそ こに 発す る連 想︑ d情 感的 なも の︑ e感 覚︵ 漠た る知 覚︶
︑f 心の なか にお こる 情感
・情 念︑ g行 動に つな がる 共感
︑と 極め て多 義に わた るた め曖 昧さ を免 れえ ない
︑と
︒ 筆者 も︑
﹁感 受性
﹂と どう 違う のか が気 にな る︒ カン トは
︑﹁ 感受 性﹂ は心 理的 な︑
﹁感 性﹂ は哲 学的 なニ ュア ン スが あり
︑﹁ 悟性
﹂﹁ 理性
﹂と 区別 され た人 間の 能力 であ ると いう が︑ 本書 での 吟味 を続 けて みよ う︒ 感性 とは 感ず る能 力あ るい は働 き︑ また
︑感 覚的 な刺 激が 引き 起こ す反 響で ある
︒﹁ 侘し い﹂ と感 ずる のは
︑自 分が 侘し くな って いる ので はな く︑ 感性 への 反響 を指 して おり
︑精 神の 働き を含 んで いる
︒感 性が 実存 に触 れた と きの 最た るも のが 感受 性で ある
︒
﹁感 性に は︑ 文化 によ り︑ 個人 によ って 個性 的な 感性 があ る﹂︵ 一六 頁︶ と︒
②ま ず︑
﹁花
﹂に 対す る感 性で ある
︒日 本の 桜と 西洋 のバ ラを とり あげ
︑西 洋で は人 間の 主観 がバ ラを 対象 とし
て︵ 客観 化し て︶ 捉え
︑意 識を 集中 して 感ず るの に対 し︑ 日本 では 数点 の対 象を 視覚 的に 捉え
︑全 身で 触覚 的に 感 じと ると 対比 させ る︒ もっ とも
︑近 代に 入り
︑日 本で も
一点 集中 型 の感 性を 示す 和歌 も多 くな るが︑フ レー ム の意 識が ない とい う点 で︑ 西洋 の対 象志 向的 なも のと は異 なる
︵四
〇︱ 四二 頁︶
︒日 本の 場合 は︑ 実景 では なく
︑イ メー ジ︵ おも かげ ︶ であ る︒ 面影 とは 記憶 像が 心に 深く 浸透 して いる こと で︑
名な 残ごり が 連想 を生 み︑ 実体 の変 容を 創出 する こと もあ る︒﹁な ごり
﹂は
﹁尽 きぬ
﹂も ので
︑﹁ なつ かし さ﹂ を想 起さ せる
︒そ れは
︑心 に沁 みる 思い
︵ しみ じみ の 情感 を︶ 感じ させ るか らで
︑そ れが 懐旧 の契 機と なっ てい る︵ 五七 頁︶
︒ しか し︑ この 過去 的契 機は
は かな い︵典 型的 事例 は 香り ︶ もの の滞 留で あり
︑こ の精 妙な 経験 こそ 文化 の しる しと して 日本 的感 性の 特徴 とな って いる
︒ 日本 人に は﹁ なん とな く﹂ とい う心 情︑ つま り︑ こと がら を突 き詰 めて 考え ない とい う傾 向が 強い
︒そ れは
︑
﹁そ こは かと なく
﹂あ るい は﹁ わけ もな く﹂ 物悲 しい とい う心 性︑ 心の 拡散 であ る︒ 言葉 にし たく も捉 えが たく 内 面に 傾斜 した 精神 のあ りよ うと いえ よう
︵七 八︱ 八〇 頁︶
︒ とこ ろで
︑心 は﹁ うた
﹂に よっ て造 形す るこ とが でき るが
︑そ れ自 体は 無で ある とい える
︒し かし
︑﹁ うた
﹂に おけ る叙 情の 根底 にあ る感 性こ そ心 であ る︒ しか も心 は︑ 鏡を 用い て世 界を 認識 して いる とい うよ うな もの では な く︵ 鏡は 道具 では ない
︶︑ 心は あく まで 虚無 であ り︑ 感性 的経 験だ けが 現実 を写 しと るの であ る︒ 見る もの の感 性が 心の あり よう を決 定す ると いっ ても よい
︵一 三六 頁︶
︒ つま り︑ 日本 的感 性が
︑︵ 心の あり よう で︶ われ と外 の世 界の 一体 化を もた らす ので ある
︵筆 者・ 感性 によ る主 体と 客体 の合 一か
︒︶ 俗に いえ ば︑ われ は感 性に うっ たえ たも のに 注目 し︑ それ と結 びつ くこ とで 安心 する とい えば よか ろう か︵ 西洋 では 感性 は対 象と 常時 むき 合っ てい ると いう こと だろ う︶
︒
日本 の絵 画的 表現 にみ られ る感 性は
︑遠 景と 近景 の取 り合 わせ で中 景を 欠い てい る︒ 西洋 の遠 近法 が計 算さ れた よう に遠 景・ 中景
・近 景が 連続 的に つな がっ てい るの に対 し︑ 日本 では
﹁行 き渡 る﹂
﹁冴 え渡 る﹂
﹁知 れ渡 る﹂
﹁晴 れ渡 る﹂ など
︑空 間的 広が りと 時間 的持 続を 含む 広大 な描 写を 示し
︑﹁ 中景 を飛 ばし て遠 景を 近景 と結 ぶそ の構 造 こそ
︑日 本的 感性 に固 有の 空間 性と 見る こと がで きる
﹂︵ 一五 五頁
︑﹁ 間﹂ の話
‼︶ と︒ 西洋 の透 視的 画法 では
︑中 景が 中心 とな って
︑遠 景・ 近景 とは 均質 であ り︑ 遠近 法に よっ て位 置の 違い を表 して いる
︒日 本の 場合 は︑ 空間 に 関す る客 観的 論理 に従 うの では なく
︑感 性的 論理 によ って 支え られ てい る︒ 例え ば︑ 近景 を支 えと して 遠景 を捉 え ると いう 空間 の認 識方 法に
︑そ の特 徴を みる こと がで きる
︵一 五六 頁︶ と︒ 遠景 を近 景と 均質 にし たの では 望遠 鏡 で覗 いた のと 同じ であ ると もい う︒ また
︑近 景に われ が参 与す るこ とで
︑遠 景も 具体 的な もの とな り︑ 全体 がわ た しの もの にな る︑ とも いう
︒
③﹁ 結び
﹂は
﹁日 本的 感性 の構 造﹂ であ る︒ ここ で扱 われ るの は﹁ 一つ の文 化の なか で形 成さ れて きた 感じ 方の あり よう であ る﹂︵ 二五 二頁
︒︶ 結論 を先 取り すれ ば﹁ 西洋 近代 の世 界認 識の かた ちは
︑主 観が 対象 に向 かい 合う とい う構 図﹂ であ り︑
﹁そ こで は感 性そ のも の も知 覚に 傾斜 する
﹂の に対 し︑
﹁日 本的 精神 は︑ 本質 的に 感性 的で ある
﹂︵ 唐木 順三
﹃日 本の 心﹄
﹃日 本人 の心 の歴 史
︱︱ 季節 美感 の変 遷を 中心 に﹄ 参照
︶と
︒知ヽ 性ヽ 的ヽ 西ヽ 洋ヽ 対感ヽ 性ヽ 的ヽ 日ヽ 本ヽ の構 図で ある
︵傍 点は 筆者
︶︒ ここ で著 者は いう
︒ 素材 を和 歌に 絞っ て考 察し たの は︑ そこ に日 本文 化に 固有 の感 性の 構造 をみ るこ とが でき るか らで ある
︑と
︒ その 第一 は︑ 美的 対象 に集 中す る感 性に よっ て︑ 心に 焼き つい た残 像が
︑﹁ われ
﹂を
﹁包 む空 間﹂ に接 触す るか たち で﹁ 世界
﹂に 結び つく 関係 にな ると いう 触覚 的性 格の もの であ るこ と︒ つま り︑ この 触覚 性を 基調 にし て︑ わ れと 世界 の関 係性 と動 性を 変数 とし て構 造化 され るの が日 本的 感性 であ る︵ 二五 六︱ 二五 七頁 と︶ いう
︒ 次に
︑残 像の 広が りと 射程 であ るが
︑ま ず﹁ おも かげ
﹂と いう 経験 があ る︒ 陰かげ にし ろ影かげ
にし ろ︑ 光に 対す る反 対
語と して 二元 的に 捉え がち であ るが
︑月 影に しろ 山影 にし ろ一 つの もの であ って
︑純 粋に 自然 現象 であ るが
︑そ こ には 残像 のメ カニ ズム が存 在す る︒ この 残像 は名 残で あり
︑心 に残 る情 感の
﹁な つか しさ
﹂で ある
︒そ して
︑﹁ な つか しさ
﹂は 派生 的な もの では なく
︑元 のも のと 等価 な隠 喩的 交感 とも いう べき もの で︑ 元と 名残 は生 きる ドラ マ のな かに おけ る照 応関 係に ある
︵二 六九 頁︶
︒
④世 界と わた しの 交感 は︑
﹁け しき
﹂︵ 気色
↓景 色︶ とし て独 特の 感性 に結 晶し
︑空 間の 全体 につ いて の特 性︑ つ まり 雰囲 気︵ 大気 の感 性的 特性 と︶ して
︑風 が宇 宙と 人と のあ いだ を循 環し てい るこ とだ
︵二 七〇 頁︶ とい う︒ こう して
︑﹁ われ
﹂は 固定 的で はな く︑ 過去 の残 像を みつ め︑ 強い 内省 的意 識を 伴っ て︑ 豊か な記 憶を 形成 する こと にな る︒
﹁日 本的 感性 が自 然と 想像 力を 活性 化す る﹂
︵二 七九 頁︶ とい って もよ い︵ 原点 の浮 遊化
︶︒ 最後 に﹁ 日本 的感 性の 構造
﹂を
︑次 のよ うに した ため る︒ 感性 とは 世界 の状 況や 対象 を知 覚し つつ
︑わ たし のな かで その 反響 を聴 く働 きで ある
︒こ の点 につ いて
︑西 洋で は﹁ 世界 に対 して 距離 をと り︑ 明晰 判明 な像 を結 ぼう とす る﹂ のに 対し
︑﹁ 日本 的感 性は 直接 の接 触感 を求 める
﹂ とい う︑
﹁知 覚と 感性 的認 識の 違い だと 言っ ても よい
﹂︵ 二八 三頁
︶と
︒美 しい 空間 の広 がり のな かで
︑そ の空 間に 包ま れる 触覚 性︑ 端的 にい えば 自然 に注 目し 好ん でそ れに 感応 する 感性 の日 本︒ 感性 は身 体的 記憶 とな り︑ 残像 の 記憶 は豊 饒な もの とな る︒
き よい=さ やか
は 日本 的美 意識 の代 表的 概念 であ る︒ それ は月 のひ かり と水 の流 れ・ 瀬音 を想 起さ せる 天地 照応 の概 念で︑そ の残 像に より 隠喩 的交 感が 実現 した 触覚 的感 性で ある
︒つ まり
︑こ の天 地照 応の 概念 が︑
き よい=さ やか
に よっ て日 本的 伝統 とな った こと によ り︑﹁世 界︱ われ
﹂の 基軸 の上 に︑ 時間 と変 化に よる 自然 およ び意 識の 動き が感 性の 多様 な具 体相 を演 出し たと いえ る︵ 二 八七
︱二 九〇 頁︶
︒
﹁か くし て日 本的 感性 は︑ 触覚 性を 本質 的要 素と し︑
︿世 界︱ われ
﹀の 基軸 上の 位置 と︑ 宇宙 と意 識そ れぞ れの 動 性と いう 二つ のパ ラメ ータ ーが
︑触 覚性 を多 様化 する こと によ って 展開 する
﹂と 結ぶ
︒
⑤な お︑ 著者 には
﹃美 学へ の招 待﹄
︵二
〇〇 四年
︶の 前著 があ り︵ 後述
︶︑ 本書 はそ の続
篇
で︑日 本的 感性 の全 体 像を 論ず るも のと され てい る︒ その さい
︑新ヽ しヽ いヽ 美学 を構 想す るた め︑ モチ ーフ の
汲
み取 り方 に二 一世 紀的 試み が なさ れ︑ 題材 はあ くま で和ヽ 歌ヽ であ りな がら︑分 析概 念と その 用い 方に は西 洋型 の論 理的 方策 がと られ
︑西 洋側 を向 いた 視角 が用 いら れて いる
︒︿ 世界
︱わ れ﹀ の関 係論 など
︑和 歌の 通人 には 理解 しが たい 概念 構成 であ るし
︑隠 喩 的交 感と か天 地照 応な どの 用語 は日 本通 に理 解さ れう るか どう か︒ ただ 文化 論か らみ て︑ 客体 に対 する 主体 は一 点集 中視 覚型 の後 者重 視︵ 西洋
︶に 対し
︑客 体が 主体 を包 み込 む雰 囲気 体感 型の 前者 重視
︵日 本︶ は︑ これ まで にも 本稿 で取 り上 げた 比較 ポイ ント で︑ それ を和 歌に より 詳細 に論 じ た点 は参 考に なろ う︒ それ にし ても
︑主 体を 包む 客体 環境 につ いて の感 性︑ つま り
わびさび
いき
幽玄 など の観 念が 一向 に姿 をみ せな かっ たの は何 故か
︒ま た︑ 邦語 特製 の
心 とか 心 情 の日 常語 が消 えた のも 気 にか かる とこ ろで ある︒
ઇ
そこ で︑ 美と は何 か︑ 美学 の方 法論 はい かが かに つい て尋 ねた い気 にな るの は当 然で ある︒中 井正 一﹃ 美学 入門
﹄︵ 一九 七五 年︶ の題 名と 目次 に惹 かれ て︑ まず この 本か ら︒
⑴
﹁第 一部
︱美 学と は﹂
﹁第 二部
︱美 学の 歴史
﹂と ある
︒
①冒 頭︑
﹁美 とは 何で ある か﹂ から
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︒﹁ 美し いこ とと は何 であ るか
︑芸 術と は何 であ るか を考 え︑ たず ねて い くこ とが 美学 なの であ る﹂ と︒ ただ し︑
﹁景 色が 美し い﹂
︑﹁ 建物 が美 しい
﹂︑
﹁絵 画が 美し い﹂ はそ れぞ れ異 なる と 思わ れる
︒ 第一 に自 然が 美し いと いう が︑ この 未だ 解け てい ない 問題 に対 する 疑問 の数 々が 美学 の歴 史に ほか なら ない
︒し