次に,本研究の潜在呈示条件では,視線データが無呈 示条件との間に差異を示したことから学習の効果があっ たと結論づけたが,この点に関して,それが十分な強度 だったのか,あるいは別の要因の影響による見かけ上の 学習効果ではないのか,といった批判も想定される。こ れについては正解試行と不正解試行の比較からも傍証が 得られてはいるが,決定的な説得力を持つとは言いがた い。そこでこの点に関しては,学習効果を視線以外のデー タから評価できる工夫をすることを今後の課題としたい。 以上より,本研究はいくつかの課題が残されてはいる が,視線の動きには参加者の有している潜在的な情報が 反映される可能性と,意思決定を行う際にその視線の動 きが判断に影響を与えている可能性を示した点で,重要 な知見であると言える。視線カスケード現象は,反応 キーを押す前にすでに複雑な情報処理過程が生起してお り,なおかつ人間はそれに自覚的でないことを示す,極 めて興味深い現象である。この現象に,CFSのような心 理物理的方法論を組み合わせ,そのメカニズムを検討す ることは,人間の内部で生起する情報処理活動の理解に 決定的な役割を果たす可能性がある。例えば今後,計測 する視線運動をより不随意的な成分,例えば固視微動な どに限定することで,意思決定における潜在的な情報処 理の詳細について明らかにしていくことが期待される。
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