Autumn workshop report (Sep., 2000)
Langlands の 次元公式
橋本喜一朗 ( 早稲田大学・理工 )
§ 0. 序文
本稿の目的はR.Langlands の論文 [La1] :
The dimension of spaces of automorphic forms, Amer. J. Math. 85 (1963), 99–125.
の内容紹介をすることである(従って本質的に新しいことは何も含まれない). この論 文はSelberg(1956) による「跡公式」の理論と, 当時正に建設途上にあった Harish-
Chandra による半単純 Lie群の(無限次元)表現論とをいち早く組み合わせて 複素
有界対称領域上の保型形式の空間の次元を, ある種の条件(後述)の下で, 閉じた有 限和の形で求めたものであり,理論的には最も一般的なアプローチであるといえる. が,
• (1) 正則保型形式に(従って 群 G も)限定されている,
• (2) 離散群 Γ(⊂G) は cocompact なる場合に限られている,
• (3) 一般の G,Γ に対する公式であり, 個々の実例に具体的に使える段階(数論 的公式)ではない, 特に
• (4) 公式中の vol(Gγ/Γγ) を計算する一般的メカニズムはその後の「玉河数の 理論」まで待たねばならないこと,および
• (5) [La2]で Langlands自身が述べているように, singularな楕円元の共役類の 寄与に現れる定数達の関係が不明であり,一般公式としても最終的な解決とは いえない.
という側面をもっており, その後の膨大な研究で一般化されたり解決されたりして いる点も多いが未解決の部分もある. 実際,例えば保型形式の次元は非負整数である (!!)から,これを有限和として表す公式の各項は有理数である(あるいは,無理数の因 子が必然的に現れる場合は,それらが打ち消すメカニズムが存在する)ことが期待さ れるが, その種の議論は現在まで(非常に特殊な例を除いて)扱われていない. また
Γ が cocompact なる制限から, rankの高い群 G で身近かな具体例を与えることは
自明ではない. この様な事情からこの論文の公式が実際の次元の計算に応用された 例は皆無と思われる.
にも拘わらず,この論文は「保型形式」と「Lie群の表現論」の深い関係を定量的・
定性的の両面で明らかにしており「次元公式」の(正統的)原典ともいうべきもので ある. また, この次元公式に現れるのは, 離散群 Γ の 楕円元の共役類からの寄与の
み(双曲元の共役類からの寄与は0 である)であるが,ここで与えられた計算結果は,
cocompact でない Γ に対する次元公式に対しても有効である, という点は非常に重 要である.
以上のような事情を踏まえて, 原論分[La1] の主要な結果を紹介するが, 部分的には その後の文献(特にR.Hotta, R.Parthasarathy の論文 [HP-1],[HP-2])を参考にして アレンジした.
さて論文 [La1] の内容は 順に以下のようになっている:
1. Harish-Chandra realization of bounded symmetric domain 2. Automorphic forms, Selberg’s Trace Formula (1)
3. Selberg’s Trace Formula (2): orbital integral χ(γ) 4. Evaluation of χ(1) (Formal degree)
5-1. Evaluation of χ(γ) forγ: regular elliptic (Character Formula) 5-2. Vanishing of χ(γ) for γ: regular hyperbolic (Selberg Principle) 5-3. Evaluation of χ(1) for γ: singular (Limit Formula)
6. Justification for the Limit Formula of Harish-Chandra
本稿は主としてこの流れに沿って紹介するが, 筆者の能力と時間の不足により,残念 ながら6. には触れられなかった. その代わり, 最終節で具体例としてG= Sp(n,R
¯) の場合を挙げた.
§ 1 複素有界対称領域の Harish-Chandra realization
B ⊂CN を複素有界対称領域とする. このときB の(正則)自己同型群の単位元を含 む連結成分G は 以下の条件 (i),(ii)をみたす非コンパクトな連結半単純(実) Lie 群 となる.
(i) Z(G) = {1}
(ii) G=G1×. . .×Gr, dimZ(Ki)>0 (1≤i≤r).
ただし (ii)において Gi は単純 Lie 群, Ki はその極大コンパクト部分群を表す. ま た(一般に)Z(G) は群G の中心を表す. このとき
B=B1×. . .×Br, Bi ∼=Gi/Ki (1≤i≤r)
となる. 逆に, (i),(ii) をみたす連結半単純(実) Lie 群 G に対して複素有界対称領域 B が存在してB ∼=G/K となる(K は G の極大コンパクト部分群).
(注意) dimZ(Ki)>0 ⇔ Bi が hermitian type.
本節では逆にG からB を構成(実現)する手順を述べる.
G の Lie 環を g とし, gC := g⊗RC を g の複素化とすると gC を Lie 環 とす
る(Lie(GC) = gC) 単連結複素 Lie 群 GC が同型を除き unique に定まる. また Lie(G) = g なる連結実 Lie 群G ⊂ GC が定まる. K ⊂ G をその極大コンパクト 部分群, k = Lie(K) を K の Lie 環とする. このとき dimZ(Ki) > 0 (1 ≤ i ≤ r) なる条件の下で g の Cartan subalgebra h で h ⊂k をみたすものが存在する事が示 される. g の Killing 形式 B(X, Y) := Tr ad(X)ad(Y) に関する k の直交補空間を
℘ :=k⊥ とおく: g=k⊕℘. このときK×℘−→ G, (k, X) 7→k·exp(X) は微分同相 写像となる. また
[k,k]⊆k, [k, ℘]⊆℘, [℘, ℘]⊆k.
定義(1-1) α∈h∗C:= HomC(hC,C) が(gC,hC) の ルートであるとは
gα := {X ∈gC; [H, X] =α(H)X (∀H ∈hC)} ̸={0} (1) となることである. ルートの全体をΦ とおく.
ルート α は gα ⊆ kC のとき (G に関して)コンパクト, gα ⊆ ℘C のとき非コンパ クトと呼ばれる. コンパクトルート, 非コンパクトの全体を各々 ΦK, Φn と記す:
Φ = ΦK∪Φn. このとき次の分解が成立する:
kC = hC+ ∑
α∈ΦK
gα, (2)
℘C = ∑
α∈Φn
gα. (3)
h∼=Rℓ の基底(順序付き)を一組選んでその実双対空間に辞書式順序を定め, Φ+ = {α >0}∩Φとおく. このときルートの基本系∆ ={α1, . . . , αℓ} ⊆Φ+ (ℓ= dimRh) が存在し, 各 α ∈ Φ+ は ∆ の元の非負整数係数の一次結合で表される. Φn,+ :=
Φn∩{α >0}, Φn,− := Φn∩{α <0} 等とおく. このとき
gC=kC⊕℘+,C⊕℘−,C, ℘+,C =∑α∈Φn,+gα, ℘−,C = ∑
α∈Φn,−
gα. (4)
P+, P−, KC ⊂GC を 各々
Lie(P+) =℘+,C, Lie(P−) = ℘−,C, Lie(KC) =kC
なる連結部分群とする. このときG ⊆ P+KCP−, G∩KCP− = K が成立する. ま た P+∩KCP−={1}なることから
(∗) : P+KCP−/KCP− −→∼= P+ ∼=℘+,C. (5) 微分同相写像exp :℘+,C −→∼= P+ によって P+ に ℘+,C のベクトル空間としての構造 が移される.
定義(1-2) (∗)において G の像を B とする. 上記の注意から B ∼= G/K.
またGc を GC のコンパクトな実型(real form) とすると
Gc∩KCP− = K, GcKCP−=GC (6)
となっている. さらに KCP− は GC の放物(parabolic)部分群で X :=GC/KCP− ∼= Gc/K
は射影的代数多様体となる:
B −−−→⊂ ℘+,C −−−→⊂ X
y∼= (exp) ∥
y∼= P+ Gc/K
y∼= ∥≀
G/K −−−→⊂ P+KCP−/KCP− −−−→⊂ GC/KCP−.
(7)
§ 2. Automorphic forms, Selberg’s Trace Formula (1)
複素有界対称領域 B ⊂CN 上の正則保型形式を定義するため,まず保型因子を以下 のように定める. 前節のように同型 P+KCP−/KCP− ∼= ℘+,C( ∼= CN) により両 者を同一視する. これより G の ℘+,C) の自然な作用が定まる.
定義(2-1) g ∈ G に対してz ∈ ℘+,C における g の作用のヤコビ行列をµ(g, z) と 書く:
dg(z) = µ(g, z) dz, µ(g, z)∈GL(℘+,C) ∼= GL(N,C). (8) KC も adjoint action により ℘+,C に作用している. ここで KC := Ad(KC)|℘+,C ⊂ GL(℘+,C) とおくとき, 次の関係が成立する.
Lemma(2-1) (i) 任意のg ∈G に対してµ(g, z)∈KC. (ii) µ(g, z) は z に関して正則である.
(iii) 任意の g1, g2 ∈G, z ∈℘+,C に対してµ(g1g2, z) = µ(g1, g2(z))µ(g1, z) 2 次に保型形式の ”weight” として KC の有限次正則既約表現 σ :KC → GLd(C) で 条件σ(K) ⊆ U(d)を充たすものを取り
σ(g, z) = σ(µ((g, z)) (9)
とおく. C 上のベクトル空間 H(σ) とその上へのG の表現を次式で定める.
H(σ) := {f :B →Cd| f は正則関数} (10) (g−1f)(z) := σ−1(g, z)f(g(z)) (f ∈H(σ), z∈ B) (11) 定義(2-2) Γ ⊂ G を離散部分群とする. Γ に関する weightσ の(正則)保型形式の 空間を次式で定める:
H(Γ, σ) := {f ∈H(σ) | γf =f ∀γ ∈Γ} (12)
Fact(2-1) (Godement [Go]) vol(G/Γ)<+∞ ⇒ dimH(Γ, σ)<+∞.
問題はこの空間の次元 N(Γ, σ) := dimH(Γ, σ) を求めることである. すなわち 与 えられたデータ(G, B, Γ, σ) を用いて N(Γ, σ) を表す(有限な)表示(次元公式)を 求めることである.
まず主結果を述べる.
主定理 G/Γがコンパクトと仮定する. このとき, σ に対応する G の離散系列表 現が可積分であるという条件(後述)の下で, 次の公式が成立する:
N(Γ, σ) = ∑
{γ}
vol(Gγ/Γγ)χ(γ), (13)
χ(γ) = (−1)bγ{[Gγ :Goγ]eργ(H) ∏
α∈Pγ
ργ(Hα) ∏
α∈P\Pγ
(eα(H)/2−e−α(H)/2)}−1
× ∑
Wγ\W
ε(s) ∏
α∈Pγ
s(Λ +ρ)(Hα)es(Λ+ρ)(H). (14)
(注意) 元論文[La1] では主結果・証明の両方でχ(γ) の因子eργ(H) が落ちている.
• 右辺の和は B に固定点を持つ(i.e. FixB(γ) :={z ∈ B | γ(z) =z} ̸=∅ )ような Γ の共役類 {γ} を走る.
(注意) 一般に g ∈ G の条件FixB(g) ̸= ∅ は g が G のある極大コンパクト部分群 (すなわち K の共役)に属することと同値である. このとき g ∈G は 広義の楕円的
(elliptic)元と呼ばれる. Γ が離散部分群だから γ ∈Γ が楕円的なら有限位数となり
逆も真である. 更に Γ の B への作用が不連続であることと, G/Γ がコンパクトと いう仮定から, Γ の楕円的共役類の個数は有限であることが示される. この主張は G/Γが非コンパクトでも正しいが, その場合は次元公式に寄与するΓ の共役類が無 限に存在する.
• Gγ は γ の Gにおける中心化群を表す. すなわちGγ :={g ∈G| gγ =γg}. 同様にΓγ := Γ∩Gγ ={δ ∈Γ| δγ =γδ}.
その他の記号は, 以下で上記公式を導く過程で順に説明される.
• ℘+,C ∼= CN の原点0 を取り z :=g(0)∈ B とおく. また dv(z) = |det(µ(g,0)|−2·∏
i
dxidyi (z = (z1, . . . , zN), zi =xi+√
−1yi).
とおくと, dv(z) は B 上のG-不変な 2N 次形式となる. 次に z = g(0), σ∗ =tσ と おいて G(z) を次式で定める.
G(z) = σ∗ −1(g,0)σ−1(g,0) (15)
このとき
G∗(z) =G(z), G(g(z)) =σ∗ −1(g, z)G(z)σ−1(g, z) (g ∈G, z ∈ B) が成立することは容易に示される. これらを用いて
H2(σ) := {f ∈H(σ) | ||f||2σ :=
∫
Bf∗(z)G(z)f(z)dz <+∞} (16) を考えると, H2(σ) はノルム < f, f >:= ||f||2σ に関してHilbert 空間となる. 更に H2(σ) への G の作用(10) は ||gf||σ =||f||σ (∀g ∈G) を充たし, (G, H2(σ))はユ ニタリー表現を定める.
• f(z)∈ H2(σ) の成分をf(z) = (f1(z), . . . , fd(z))∈ H2(σ) と書く. リースの定理 により 各 j (1≤j ≤d = deg(σ)) に対して
< f(z2), gj(z1, z2)>z2=fj(z1) (∀f(z)∈H2(σ)) をみたす gj(z1,∗)∈H2(σ) が唯一つ存在する. そこで
K(z1, z2) := (g1(z1, z2), . . . , gd(z1, z2))∗ ∈Md(C). (17) とおくと 任意のf ∈H2(σ) に対して次式が成り立つ:
f(z1) =
∫
BK(z1, z2)G(z2)f(z2)dz2 (18) この等式(18)は(直交)射影L2(σ)→H(σ)を定める. これからH(Γ, σ)の再生核を 求めることができる.
まず
KΓ(z1, z2) := ∑
γ∈Γ
K(z1, γ(z2))γ∗−1(γ, z2) (19) とおく. このときK(g(z1), g(z2)) =σ(g, z1)K(z1, z2)σ∗(g2, z)に注意すると容易に次 式が示される:
∫
BK(z1, z2)G(z2)f(z2)dz2 =
∫
FKΓ(z1, z2)G(z2)f(z2)dz2 (20)
Lemma(2-2) H(Γ, σ)の任意の正規直交基底を{ωi(z)} (1≤i≤N(Γ, σ) とすると KΓ(z1, z2) =
N(Γ,σ)∑
i=1
ωi(z1)ωi∗(z2). (21)
Corollary(2-3)
N(Γ, σ) =
N(Γ,σ)∑
i=1
∫
F
∑
j,ℓ
ωiℓ(z)Gℓj(z)ωij(z)dz
=
∫
Ftr{KΓ(z, z)G(z)}dz (22)
Selberg [Se] に従って上記の右辺は以下のように変形される:
N(Γ, σ) = ∑
{γ}
∑
β∈Γγ\Γ
∫
Ftr{K(z, β−1γβz)σ∗−1(β−1γβ, z)G(z)}dz
= ∑
{γ}
∑
β∈Γγ\Γ
∫
Ftr{σ−1(β, z)K(βz, γβz)σ∗−1(γβ, z)G(z)}dz
= ∑
{γ}
∫
Fγ
tr{σ−1(β, z)K(z, γz)σ∗−1(γ, z)G(z)}dz
= ∑
{γ}
∫
G/Γγ
tr{K(gγg−1,1)}dg
= ∑
{γ}
v(Gγ/Γγ)χ(γ), (23)
ここで
K(g1, g2) := σ−1(g1−1,0)K(g1−1(0), g2−1(0))σ∗−1(g2−1,0), (24)
χ(γ) :=
∫
G/Gγ
tr{K(gγg−1,1)}dsγ. (25) ただし,dsγ は 商空間G/Gγ 上の相対不変測度を表す.
§ 3 Selberg’s Trace Formula (2): orbital integral χ(γ)
前節の結果から, 問題は Γ の全ての共役類に対して軌道積分 χ(γ) を求めることに 帰着した. 論文 [La1] の最も重要なポイントは, χ(γ) がHarish-Chandra による G の離散系列表現の指標の理論に現れる積分計算により求められる, という点である.
定義(3-1) Hπ を Hilbert 空間とする. G の既約ユニタリー表現 (π, Hπ) が離散系 列表現であるとは, (π, Hπ)がL2(G)の部分表現と同値であることをいう. すなわち, 任意の v1, v2 ∈ Hπ に対して Hπ における内積(π の行列係数) < π(g)v1, v2 > が G 上の関数として L2(G) に属すること.
• Fact(3-1)([HC1]) 半単純実 Lie群 G が離散系列表現を持つための必要十分要件 は rank(G) = rank(K), すなわちG がコンパクト Cartan 部分群 H (H ⊂K)を持
つことである.
§1 で述べたように我々のG はこの条件を充たす.
離散系列表現はコンパクト群の既約表現と多くの類似点を持つ. その典型的な例は 行列係数に関する次の直交関係が成立することである:
∫
G
< π(g)v1, v2 > < π′(g)w1, w2 > dg (26)
=
{ d−π1 < v1, w1 > < v2, w2 > π =π′
0 π ̸∼=π′
ここで dπ は(π, Hπ)の fromal degree と呼ばれる定数で, その値は以下の(30)で与 えられる.
離散系列表現は, (π, Vπ)達は以下のようにパラメ−タ付けされる. まずH のLie 環をh とすると G の weight lattice L が
L := {λ∈HomC(hC,C) | 2< λ, α >
< α, α > ∈Z (∀α∈Φ+)} (27) で定義される.
L′ := {λ ∈L| < λ+ρ, α ≯= 0 (∀α∈Φ+)},
ρ := 1 2
∑
α∈Φ+
α, (28)
L′0 := {λ∈L | < λ+ρ, α >> 0 (∀α ∈ΦK,+)} (29) とおくとき
Fact(3-1)([HC3]) Gの離散系列表現の同値類の集合Gbd は L′0 と 1 : 1 に対応する: Gbd={(πλ, Vπλ)| λ ∈L′0} この対応は (πλ, Vπλ)の formal degree をによって一意的 に定まる:
dλ = ∏
β∈Φ+
ρ(Hβ)}−1 ∏
β∈Φ+
(λ+ρ)(Hβ). (30)
Fact(3-2)([HC1]) (πλ, Vπλ)が正則離散系列となる条件は
< λ+ρ, α > < 0 (∀α∈Φn,+). (31) さらに 正則離散系列が可積分である条件は
< λ+ 2ρ, α > < 0 (∀α ∈Φn,+). (32)
f ∈L1(G) を可積分関数とし
π(f) :=
∫
G
f(g)π(g) dg
とおくと π(f) は Hπ の有界作用素でありf ∈C0∞(G) ならばπ(f) trace class に属 し, Θπ(f) := trπ(f) はG 上のdistribution となる. そして
Θπ = Θπ′ ⇔ π∼=π′ となる. Θπ を (π, Hπ) の指標(character)という. さらに
• Fact(3-3)([HC1]) Θπ は G 上の局所可積分関数となる: tr π(f) =
∫
G
f(g)Θπ(g) dg
さらに G の 正則元の集合 Greg 上解析的な関数となる. γ ∈Greg を 正則元とする.
γ は θ(j) = j をみたす Cartan subalgebra j を Lie 環とするCartan 部分群に属す るとしてよい. ここで
j = j1+j2, j1 :=j∩k, j2 :=j∩℘ (33) と分解する. いまGss を Gの semi-simple elements の集合とし,
Gell := {γ ∈Gss | FixB(γ)̸=∅}, (34) Gregell := Greg∩Gell
とおくと,
• Fact(3-4)(指標公式) [HC1]) π = πΛ, γ = exp(Hγ)∈ Gregell, (Hγ ∈ h)に対して 次が成り立つ:
Θπλ(γ) = (−1)dimCB∑s∈W(G,H)ε(s)es(λ+ρ)(Hγ)
∏
α∈Φ+(eα(Hγ)/2−e−α(Hγ)/2) . (35) ただし W(G, H) = NG(H)/H は (G, H) の Weyl群を表す.
§ 4 Evaluation of χ(1) and χ(γ) γ: regular elliptic
さて§2の表現(G, H2(σ))を以上の枠組みで捉えるため,原論文[La1]ではH2(σ)を 以下のようにG上の関数空間にliftしている. W を 写像GC→G−C1 →G−C1/KCP− における B の逆像とする:
j : GC → G−C1 → G−C1/KCP−
∪ ∪
W :=j−1(B) =P−KCB−1 → B ⊂P+
G⊂W に注意する. f ∈H2(σ)に対して W 上の関数を
f(g) := σ−1(g−1,0)f(g−1(0)) (36) で定めると f(g)は W 上正則であって
f(pkg) = σ(k)f(g) (p∈P−, k∈KC) (37)
||f||2 :=
∫
Bf∗(z)G(z)f(z)dz =
∫
G||f(g)||2 dg
が成立しf(z)7→f(g)は isometryである. このとき liftされた空間の核関数は (24) である. ここで kC=k′C+cを kC の半単純成分と中心への分解とする. σ の k′Cへの 制限は既約である. これを同じく σ と表し, hC の順序から誘導されるh′C :=hC∩k′C
の順序に関する σ の最高 weight に属する長さ 1 のベクトルを ψ0 とする. このと き λ∈Hom(hC,C) が存在して
H·ψ0 = λ(H)ψ0 (∀H∈hC). (38) 通常の呼び方を一般化して λ を σ の最高weight という.
(37) をみたす W 上の正則関数 f(g) に対して
h(g) := (f(g), ψ0)Cd (39)
とおく. このとき次が成立する.
(a) h(pg) = h(g), (p∈P−)
(b) h(ng) =h(g), (n∈N′; Lie(N′) =∑α>0g−α ⊂KC) (c) h(ag) =eΛ(H)h(g), (a= exp(H))
逆に, (a),(b),(c) をみたす W 上の正則関数 h(g) に対して(39) をみたす f(g) が存 在する. 最後に コンパクト群 K 上の関数に関するSchur orthogonality から
∫
G|h(g)|2dg =
∫
G|(f(g), ψ0)|2dg
=
∫
G
∫
K
(f(kg), ψ0)(f(kg), ψ0)dg
= d−1
∫
G
(f(g), f(g))(ψ0, ψ0)dg
= d−1
∫
G|f(g)|2 dg.
かくして
H2(σ) ∼= Hλ := {h:W →Cd | (a),(b),(c)}. (40)
以上から次元公式に現れる積分(25) についてγ が semi-simple のとき χ(γ) = d
∫
G/Gγ
∫
K
K(kgγg−1k−1·ψ0, ψ0)dk dsγ
= dλ
∫
G/Gγ
∫
K
ψλ(kgγg−1k−1)dk dsγ
= dΛ
[Gγ :Goγ]
∫
G/Gγ
ψΛ(gγg−1)dk dsγ. (41) ここで
ψλ(g) := δ−1(K(g,1)ψ0, ψ0). (42) また
dλ := d·δ = (ψ0, ψ0) (43) は (πλ, Hλ)の formal degree で(30) で与えられる.
§ 5 Evaluation of χ(γ) γ: regular hyperbolic.
γ ∈ Greg を 正則(regular)元とする. γ ∈ Gss は (33) において j2 ̸={0} なるとき
「双曲的(hyperbolic)」と呼ばれる. すなわち, γ が semi-simple で |ε| ̸= 1 なる実数 の固有値をもつ場合である.
Ghyp := {γ ∈Gss | FixB(γ) = ∅}, (44) Greghyp := Greg∩Ghyp.
• (Selberg Principle) γ が regular hyperbolicのときは軌道積分 χ(γ) = 0 とな る. この現象は一般に「Selberg Principle」と呼ばれる.
この証明は, 岩澤分解と変数変換を用いて軌道積分を累次積分で表すとき, γ が双 曲的ならある変数 t に関して
∫ +∞
−∞ (t の正則関数) dt の形の積分が現れる. ここで
|t| → ∞ のとき被積分関数が O((1 +|t|)−2) に属することが示され, Cauchy の積分 定理を適用することによって, 上記の積分が 0, 従ってχ(γ) = 0 となることが示さ れる.
§ 6 Evaluation of χ(γ) γ: singular (Limit Formula)
ここでは, 残った場合, すなわち γ が非正則(singular)元の場合を扱う. これは正則 元が退化した場合であり, 表現論的には全体の中でマイナーな部分とみなされるが, 次元公式の中では単位元の次に大きな寄与をする部分であり非常に重要である.
• 記号: γ ∈ZG(j) s.t. θ(j) = j (Cartan 部分環) とする. また gγ :=Zg(γ) とお く. このとき θ(gγ) =gγ) となり, gγ =a⊕g1, (a は abelian, g1 は半単純) の形に分 解する. 一般に半単純Lie 環 g のCartan 部分環が fundamental とは, 分解(33) に おいて j1 の部分が最大となるものをいう. いまj1 が g1 の fundamental な Cartan 部分環とすると, a+j1 は g の Cartan 部分環 となる. そこで, j =a+j1 と仮定し ても一般性を失わない. G1 を Lie(G1) = g1 なる G の連結部分群, B :=ZG(j),とお き B の単位連結成分を Bo, B1 :=Bo∩G1 とする.
• γ1 ∈B を単位元 1 の十分近くに取って γγ1 ∈ Greg とする. このとき次の積分 公式が成立する:
[B1 :B1o]
∫
G/Bo
f(gγγ1g−1)d¯g (45)
=
∫
G/Goγ
dsoγ
∫
G1o/B1of(gγg1γ1g1−1g−1)dg¯1
G1, B1 の普遍被覆群をそれぞれ G˜1, ˜B1 とする. ˜G1 上の 関数m(γ1)∈Cc∞( ˜G1) に対してB˜1 上の 関数を次式で定める:
ϕm(γ1) :=
∫
G1o/B1om(g1γ1g1−1)dg¯1, (46) ただし,
∆1(γ1) := ∏
α∈Φ(G1,j1)+
(eα(H1)/2−e−α(H1)/2) (γ1 = exp(H1)). (47) (G1,j1) の各正ルート α ∈ Φ(G1,j1)+ に対してHα ∈ j1C は B˜1 上の不変微分作 用素Dα を定める. これらの積を D1 とおく:
D1 := ∏
α∈Φ(G1,j1)+
Hα. (48)
以上の記号と仮定の下で次の極限公式が成立する.
• Fact(6-1)(limit formula) [HC5])
γlim1→1D1ϕm(γ1) = a·m(1), (49) ただし a は関数 m に無関係な定数で, j1 が g1 のfundamental な Cartan 部分環の ときa ̸= 0. また, 正確には関数ϕm(γ1) は γ1 が正則な処で定義されているので, 極 限は正則元の集合上で取るものとする.
この極限公式を (45) および
f(g) = dλψλ(g), m(g1) =dλψλ(gγg1g−1), m(1) =dλψλ(gγg−1) に適用すると
[B1 :B1o]
∫
G/Bo
f(gγγ1g−1) d¯g =
∫
G/Goγ
dsoγ
∫
G1o/B1om(g1γ1g1−1) dg¯1
= ∆1(γ1)−1
∫
G1o/B1oϕm(γ1) dg¯1. これより次式を得る.
γlim1→1D1∆1(γ1)[B1 :B1o]
∫
G/Bo
dλψλ(gγγ1g−1) d¯g =
∫
G/Goγ
a·dλψΛ(gγγ1g−1)dsoγ
= a·χ(γ). (50)
ここで
• Bo が非コンパクトのときは Selberg Principle により左辺が0 となり, その極限 も消える: χ(γ) = 0.
• Bo がコンパクトのときは
a
∫
G/Goγ
dλψλ(gγγ1g−1)dsoγ
= lim
H1→0D1{ ∏
αΣ\Σ1
(eα(H+H1)/2−e−α(H+H1)/2)}−1{∑
s∈W
ε(s)es(Λ+ρ)(H+H1)}
= e−ρ1(H){ ∏
αΣ\Σ1
(eα(H)/2−e−α(H)/2)}−1 lim
H1→0D1{∑
s∈W
ε(s)es(Λ+ρ)(H+H1)}
= e−ρ1(H){ ∏
αΣ\Σ1
(eα(H)/2−e−α(H)/2)}−1#(W1) ∑
s∈W
ε(s) ∏
α∈Σ1
(s(λ+ρ)(Hα)es(λ+ρ)(Hα).
ここに現れる定数 a は関数 dλ1ψλ1(g1)) に同じ極限公式を適用して以下のように計 算される:
adλ1 = lim
H1→0D1{∑
s∈W1
ε(s)es(λ1+ρ1)(H1)}
= #(W1) ∏
α∈Σ1
(λ1+ρ1)(Hα).
λ1, dλ1 は G1 に対してλ, dλ と同様に定まる. すなわちB1 を G1 から得られる有界 対称領域とするとき
dλ1 = (−1)b1{v(B1) ∏
β∈Σ1
ρ1(Hβ)}−1 ∏
β∈Σ1
(λ1+ρ1)(Hβ), b1 := dimCB1.
§ 7 Example : G = Sp(n, R)
ここでは, 具体例として n 次 Symplectic 群 の場合に以上の結果を書き下してみる. G: = Sp(n,R) ={g =
( A B
C D
)
∈M(2n,C)| gJntg = Jn},
K : = {
( A B
−B A
)
∈M(2n,C) | A+√
−1B ∈U(n)} (極大コンパクト部分群).
ここに Jn :=
( 0 In
−In 0
)
. このとき g : Z 7→ (AZ +B)(CZ + D)−1 により G=G/{±1}= Aut(Hn) となる. ただし
Hn = {Z ∈M(n,C)| Z =tZ, Im(Z)>0}
は n 次 Siegel 上半平面でこれは 対称空間 G/K の非有界モデルである. GC =
Sp(n,C) の元C := √ 1
2√
−1
( √
−1In √
−1In
−In In
)
を用いてその内部自己同型 φ = Int(C) :g 7→C−1gC を定め, G∗ :=φ(G) , K∗ :=φ(K) とおく. このとき
G∗ = {g =
( A B
B A
)
∈M(2n,C) | AtB =BtA, AtA−BtB =In}, K∗ = {
( A 0 0 A
)
∈M(2n,C) | A∈U(n) : AtA =In}. また
Bn = {Z ∈M(n,C) |Z =tZ, In−ZZ >0}
が G∗ に付随する有界対称領域で, g : Z 7→ (AZ +B)(BZ +A)−1 によりG∗ = G∗/{±1}= Aut(Bn)となる. 以下G∗, K∗ を G, K と記す. これらの Lie環は
g = {g =
( A B B A
)
∈M(2n,C) |A+tA= 0, B =tB},
k = {
( A 0 0 A
)
∈M(2n,C) | A+tA= 0}.
そこで k内の Cartan部分環として
h = {H(⃗a) =
( diag(⃗a)√
−1 0
0 −diag(⃗a)√
−1
)
∈M(2n,C)|⃗a∈Rn}