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遺伝子発現の揺らぎを瞬時に可視化する新手法の開発 - J-Stage

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テクノロジーイノベーション

はじめに

ある微生物集団における遺伝子発現のばらつき(揺ら ぎ)が,その集団の生存・環境応答・薬剤耐性・病原性 のようなさまざまな表現型に大きく影響することが明ら かとなってきた.その結果,集団に含まれる細胞の平均 的な振る舞いではなく,個々の細胞の動態を直接観察す ることで,その集団の全体としての機能や集団における 役割分担などを総合的に理解することが重要であると認 識されつつある.このような概念の誕生には,1分子・

1細胞レベルでの解析技術の進展が大きく寄与してきた が,そういう観点からの研究は遺伝子組換えが容易に行 える生物を用いたものが主流であった.幅広い生物種に ついて研究するためには,汎用性の高い研究ツール・手 法の開発が必要であると考えられる.近年,筆者らはア ミロイド線維を検出するのに広く利用されているチオフ ラ ビ ンT(4-(3,6-dimethyl-1,3-benzothiazol-3-ium-2-yl)-

, -dimethylaniline chloride)という蛍光プローブ(図 1A)がRNAにも結合することを偶然にも発見した(1). 本稿では,その経緯と農芸化学分野を含めたさまざまな 研究分野における応用性について紹介したい.

チオフラビンTの用途

アミロイド線維は,アルツハイマー病やプリオン病な

どの重篤な神経変性疾患に共通して見られる線維状のタ ンパク質凝集体である.これらの疾患では異常な構造を とったタンパク質が深くかかわっていることから,タン パク質フォールディング病とも呼ばれる.アミロイド線 維は分子内に

β

シート構造を多く含み,SDSなどの変性 剤に対して極めて難溶性の凝集体である.アミロイド研

遺伝子発現の揺らぎを瞬時に可視化する新手法の開発

チオフラビンTの新たな機能の発見とその応用

杉本真也 *

1,2

*1東京慈恵会医科大学医学部細菌学講座,*2東京慈恵会医科大学バイオフィルム研究センター

図1チオフラビンTの特性

A)チオフラビンTの用途.B)チオフラビンTを用いたアミロイ ド線維の検出例.

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究の歴史は,1854年のVirchowらがヒトの組織から発 見したヨウ素デンプン反応を示す沈着物(アミロイド;

amyloid)に始まる(2).その約100年後,アミロイドの 主成分が微細線維状のタンパク質沈着であることが発見 され,アミロイド線維(amyloid fibril)と呼ばれるよう になった.チオフラビンTは溶液中に遊離して存在す る場合,ほとんど蛍光を発しないが,アミロイド線維に 結合すると非常に強い蛍光(励起波長385〜450 nm,蛍 光波長445〜492 nm)を発する.そのため,洗浄するこ となく直接蛍光を測定することが可能である(図1B). チオフラビンTは臨床検体におけるアミロイドーシス の診断のみならず,基礎研究においても非常に有用な ツールとなっており,アミロイド線維の形成過程を高感 度かつリアルタイムで観察することも可能である(3, 4). また,チオフラビンTは水への溶解性が高く,アミロイ ド線維への親和性が適度(数百nM〜数

μ

M)であるた め,さまざまな実験系に利用されている.しかし,チオ フラビンTのアミロイド線維への結合様式は十分には 理解されていない.その原因は,アミロイド線維は不溶 性かつ不均一な分子であるため,生体高分子の構造解析 に利用されるX線結晶構造解析や溶液核磁気共鳴スペ クトル解析が適用できないからである.これまで,

でのシミュレーションやモデルペプチドを使って 形成させたアミロイド線維の解析から,チオフラビンT のアミロイド線維への結合様式を推定する試みはなされ ているものの,原子レベルでの理解には至っていない(5)

チオフラビンTRNAに結合することを発見した 経緯

アミロイド線維は生物界に広く分布しており,動植物 だけでなく,細菌の菌体外にも存在し,バイオフィルム と呼ばれる微生物の集合体の形成や宿主細胞への接着・

感染にも重要である(6).また,あらゆるタンパク質が極 端な温度やpH条件にさらされた場合にアミロイド線維 を形成する可能性があることが報告され,アミロイド線 維の形成に重要なアミノ酸配列を予測するプログラムも 開発されている(7).しかし,細菌の菌体内にも生理的な 条件下でアミロイド線維を形成するタンパク質が存在す るかは不明であった.筆者らは酵母においてプリオンと して振舞うSup35というタンパク質とそのアミロイド線 維の形成を制御するHsp104という分子シャペロンに関 する研究の過程で,次のような奇妙な現象に遭遇した.

当時,大腸菌で大量発現したHsp104を各種クロマトグ ラフィーで精製し,Sup35アミロイド線維に対する効果 を試験管内で評価していた.そのとき,Sup35のアミロ

イド線維形成の変化をチオフラビンTを用いて解析し ていたのだが,コントロールとして行ったHsp104に ADP添加するという実験の過程で,予想外にもチオフ ラビンTの蛍光強度が時間とともに増加するという現 象を確認した.当時,DNA結合タンパク質がDNAに 結合することで構造が変化し,アミロイド線維を形成す ることが報告されたばかりであり(8),Hsp104もしくは 精製標品に含まれる微量の大腸菌由来のタンパク質(コ ンタミネーション)がADPに結合することで構造変化 し,アミロイド線維を形成するのではと考えた.もしそ のようなタンパク質が大腸菌にも存在するのであれば,

そのタンパク質は酵母プリオンのようにある特定の形質 を次世代へと継代するうえでタンパク質性の感染因子

(プリオン)として振る舞い,バクテリアにおけるプリ オン現象の発見につながるかもしれないと考えた.その 後,Hsp104ではなく精製標品に含まれていたPNPase

(polynucleotide phosphorylase; E.C. 2.7.7.8)(9)と い う タ ンパク質がこの現象を引き起こす本体であることがわ かった.PNPaseとADPを混合したときに形成された SDSに難溶性の凝集体はチオフラビンTと結合し,非 常に明るい蛍光を発した.さらに,①透過型電子顕微鏡 で線維状の凝集体が観察されたこと,②上述のアミロイ ド線維形成配列の予測プラグラム(7)を使って,PNPase のC末端の構造をとらない領域(Intrinsically disordered  region)がアミロイド線維を形成しうることを見いだ し,③実際にその配列をもったペプチドを化学合成する と自発的に

β

シート構造に富んだ線維状凝集体を形成す ることがわかった.これらの結果から,PNPaseがADP に結合することで,C末端領域が

β

シート構造へと大き く構造変化し,アミロイド線維を形成すると予想した.

し か し,透 過 電 顕 で 観 察 さ れ た 凝 集 体(PNPase+

ADP)は,PNPaseのC末端ペプチドで形成されたアミ ロイド線維や既知のアミロイド線維に比べると,非常に コントラストが低く,専門家を納得させるだけの説得力 に欠けるものであった.ましてや,PNPase全長とADP を混合したときに形成された凝集体は

β

シート構造をと るというアミロイド線維の基準を満たしておらず,この 研究は数年の間,世に出ることもなく,忘却の彼方に追 いやられるところであった.そのようななか,分岐点と なったのがドイツ留学中に作製していたPNPase変異体 タンパク質を用いた実験結果であった.PNPaseはbi- functionalなRNA代謝酵素であり(9, 10),リボヌクレオチ ド二リン酸(rNDP)濃度が高く,無機リン酸(Pi)濃 度が低い場合には,rNDP間でリン酸ジエステル結合を 形成させると同時に無機リン酸を生じる(図2A).それ

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により,リボヌクレオチド一リン酸(rNMP)の重合体 であるRNAを生成する.一方,リボヌクレオチド二リ ン酸(rNDP)の濃度が低く,無機リン酸(Pi)の濃度 が高い場合には,RNAの3′末端からリン酸ジエステル 結合を開裂し,末端のrNMPに無機リン酸を結合する ことにより,rNDPを遊離させる(図2A).筆者らは,

RNA重合活性および分解活性を大きく低下させる変 異(10)を導入したPNPase変異体タンパク質をADPと混 合した場合,チオフラビンTの蛍光が増加しないことに 気がついていた(図2B).当初は,その活性がPNPase のアミロイド線維形成に重要だと考えていたわけだが,

実はPNPaseとADPを混合したときに生じるポリリボ アデニル酸(poly-A)がチオフラビンTに結合すること が判明した.つまり,上記のPNPase変異体タンパク質 を用いた実験では,ADP存在下でpoly-Aが生成されな かったため,チオフラビンTの蛍光が増加しなかったと 解釈できる.以上の結果より,PNPaseがADP存在下 でアミロイド線維を形成するというモデルは自分たち自 身で否定することとなり,チオフラビンTはRNAにも 結合すると結論づけた.皮肉なことに,本稿を書いてい る2017年1月,米国ハーバード大学のグループによって 細菌におけるプリオン現象の存在を示唆する世界初の論 文がサイエンス誌に報告された(11)

核酸に対するチオフラビンTの反応特性

当然のことながら,当時の筆者らはそのような研究の 存在を知る由もなく,自分たちの研究を一から見直さざ るをえない状況となった.選択肢は,そこで諦め別の研 究をやるか,チオフラビンTがRNAにも結合するとい う現象を掘り下げていくかの2つである.それまで筆者 らは,タンパク質のフォールディングや品質管理を担う 分子シャペロンの研究を行っていたため(12),前者を選 択するほうが自然だったのかもしれない.しかし筆者ら は,核酸分野におけるチオフラビンTの応用例がほと んどないことを頼りに,もう少しだけ悪あがきをするこ とにした.まず,チオフラビンTがpoly-Aに結合する ことがわかったため,それ以外の核酸に対する反応性を 調べた.その結果,DNA(大腸菌ゲノムDNA)よりも RNA(大腸菌トータルRNA)に結合しやすいことを見 いだした(図3A).次に,RNAの濃度依存性を調べた ところ,少なくとも0.5〜10 µg/mLの濃度範囲において チオフラビンTの蛍光強度に直線性が見られ,RNAを 定量的に検出できることが示された(図3B).さらに,

ポリリボヌクレオチドを用いてチオフラビンTの反応 特異性を調べた.その結果,poly-Aあるいはpoly-Gと 混合した場合に蛍光強度の増大が見られたが,poly-U やpoly-C存在下では蛍光強度に変化は見られなかった 図2PNPaseの性質とチオフラビンTを用いた 酵素活性の測定

A) PNPaseの反応モデル.B)野生型PNPaseと変 異型PNPaseのポリA合成活性の比較.C)野生型 PNPaseと変異型PNPaseのポリA分解活性の比較.

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(図3C).このことから,チオフラビンTはプリン塩基 を多く含むRNAに結合しやすいことがわかった.ま た,RNAの 鎖 長 に つ い て 検 討 し,25塩 基 のRNA

(A25)よりも50塩基のRNA(A50)のほうがチオフラ ビンTの蛍光強度が格段に高いことから(図3D),ある 一定の長さのRNAがチオフラビンTの結合に必要であ ることが示された.興味深いことに,チオフラビンTと 同様にアミロイド線維の検出によく使われているチオフ ラビンSはRNAとは反応しなかった.これらのことか ら,チオフラビンTはアミロイド線維とは異なる様式で RNAに結合すると予想される.

RNA代謝酵素の活性測定への応用

従来,RNA代謝酵素の活性測定には,放射性同位元 素などで標識した基質(RNAもしくはリボヌクレオチ ド)を用いたアクリルアミドゲル電気泳動による解析が 主流であった.しかし,①取り扱いが煩雑で時間がかか る,②リアルタイムでの観察が困難であるという問題点 が存在した.上述のとおり,チオフラビンTを用いた RNAの検出法は,迅速かつ定量的である.そのため,

チオフラビンTを利用することでRNA代謝酵素の活性 をリアルタイムかつハイスループットに評価できると考 えた.筆者らはすでに,大腸菌の野生型PNPaseおよび 変異型PNPaseを取得していたため,それらを用いてチ

オフラビンTの応用性を評価した.PNPaseは基質であ るリボヌクレオチド二リン酸と無機リン酸の濃度に依存 してRNAの合成と分解を触媒するbifunctionalな酵素で ある(図2A).そこでまず,チオフラビンT存在下で野 生型PNPaseとADPをバッファー中で混合し,25 Cで インキュベートしながら蛍光強度(励起波長438 nm/蛍 光波長491 nm)の変化をリアルタイムで測定した.その 結果,時間とともに蛍光強度が増加した(図2B).一 方,RNAの重合・分解活性を失った変異型PNPaseと ADPを混合した場合では,蛍光強度の増加は見られな かった(図2B).次に,RNAの分解反応への応用を試み た.チオフラビンT存在下で,野生型PNPaseあるいは 変異型PNPaseとpoly-Aおよびリン酸カリウムを混合 し,25 Cにおいて蛍光強度の変化を経時的に測定した.

その結果,野生型PNPaseでは速やかに蛍光強度が減少 したが,変異型PNPaseではほとんど変化しなかった

(図2C).以上より,チオフラビンTを用いることによっ て,RNA代謝酵素の活性(合成と分解)をリアルタイ ムかつ定量的に解析できることを示すことができた(1)

ヌクレオチド濃度の測定への応用

生体内において,ATPやGTPのようなヌクレオチド はエネルギー通貨として用いられるだけでなく,生体分 子の構成成分となったり,タンパク質の構造変化に伴う

図3RNAに対するチオフラビンTの反応

特性

A)大腸菌ゲノムDNAとトータルRNAのチ オフラビンT蛍光スペクトル.B) RNAの濃 度 依 存 的 な チ オ フ ラ ビ ンT蛍 光 の 増 加.

491 nmの蛍光強度をRNA濃度に対してプロッ トした.C)ポリリボヌクレオチドに対するチ オフラビンTの反応特異性.D)鎖長の異なる オリゴリボヌクレオチドおよびオリゴデオキ シリボヌクレオチドに対するチオフラビンT の反応特異性.

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さまざまな生理機能と深くかかわっている.そのため,

それらの濃度を測定することはさまざまな研究分野にお いて重要であり,より高感度かつ簡便な手法が開発され れば,非常に応用価値が高いと考えられる.これまで,

ATPやADPの定量には,ルシフェリン‒ルシフェラー ゼ反応による生物発光の検出,乳酸脱水素酵素とピルビ ン酸キナーゼを共役させたNADHに由来する吸光度

(340 nm)の減少を検出する方法,高速液体クロマトグ ラフィーを用いた方法,キャピラリー電気泳動と質量分 析を組み合わせた方法などが用いられてきた.筆者ら は,チオフラビンTの蛍光検出とPNPaseの酵素活性を 組み合わせることでADPの濃度を測定できると考えた.

すなわち,一定濃度のPNPaseに異なる濃度のADPを 混合すると,最終的に生成されるpoly-Aの量は,最初 に加えたADPの量に依存するため,生成されるpoly-A 量をチオフラビンTの蛍光強度として検出できるはず である.実際に,チオフラビンT存在下で一定濃度の

PNPaseに異なる濃度のADPを混合し,蛍光強度の増 加をモニターしたところ,30分ほどで反応がプラトー に達した.その時点での蛍光強度をADPの濃度に対し てプロットすると高い正の相関(相関係数:0.995)が見 られた.この結果より,反応溶液のADP濃度を定量的 に測定できることが示された(1).しかし,夾雑するほか のrNDPや溶液中の無機リン酸がチオフラビンTの蛍光 強度とPNPaseの反応効率に大きく影響するため,複雑 な試料に含まれる特定のrNDPのみを測定することは現 時点では困難だと思われる.チオフラビンTのRNAへ の結合機構を明らかにしたうえで,特定のポリリボヌク レオチドのみと反応するチオフラビンT類縁体を作製 することができれば,目的に応じたヌクレオチドの定量 法を開発できるかもしれない.

図4 チ オ フ ラ ビ ンTを 用 い た 大 腸 菌 内 RNAレベルの可視化

A)リファンピシン処理によるRNA合成の阻害 とチオフラビンTで染色した大腸菌K-12株の 蛍光顕微鏡観察.リファンピシンを添加しな かった場合には,明るい蛍光を発する菌が多く 観察され,リファンピシリンを添加した場合に は明るい蛍光を発する菌は観察されなかった.

B)RpoS :: mCherryを発現する大腸菌を各培養 時間においてチオフラビンTで染色し,蛍光顕 微鏡を用いて観察した.取得した画像をImage  Jで解析し,それぞれの蛍光強度を定量化した.

は解析に用いた細胞数を示す.

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シングルセル解析への応用

チオフラビンTは において大腸菌のゲノム DNAよりもトータルRNAに結合して強い蛍光を発する ことが示されたため(図3A),大腸菌の細胞内RNAの 量的変動を可視化することにもチオフラビンTを利用 できると予想した.しかし,生きた菌の細胞内における RNAを特異的に検出することは可能なのか,そもそも チオフラビンTは菌の細胞膜を通過して細胞質に到達 するのか,いくつもの障壁が存在することは容易に予想 できた.幸いにも,当時そのような試みは報告されてお らず,昨今のシングルセル解析の盛隆も拍車をかけるこ ととなり,一見無謀とも思われる(?)挑戦への第一歩 を踏み出すこととした.まず,大腸菌K-12株という非 常に有名な実験室株を適度に培養し,その培養液にチオ フラビンTを添加し,そのままスライドガラスの上にの せて蛍光顕微鏡下で観察してみた.すると,実験を行う 前の懸念は単なる杞憂であったと瞬時に理解できた.

真っ黒な背景のなか,大腸菌がきれいに輝いていたので ある.しかも,その明るさは細胞ごとに適度にばらつい ており,あたかもそれらの細胞内における遺伝子発現

(mRNAの量)の揺らぎを反映しているかのようであっ た.さらに,一部の細胞の中心付近はチオフラビンT に染まっておらず,大腸菌の核様体の部分が抜け落ちて いるように見える細胞も観察された.この結果は,核様 体の周囲の細胞質に存在するRNAにチオフラビンTが 結合して蛍光を発しているということを連想させるのに 十分であった.核様体とその周囲の空間をより明確に識 別するため,細胞分裂が異常で長い線維状の形態を示す 大腸菌 変異株をチオフラビンTとDAPIで共染色 し,蛍光顕微鏡で観察した.予想どおり,チオフラビン Tに由来する蛍光は細胞質において観察され,その局在 は明らかに核様体とは異なるものであった.このことか ら,チオフラビンTは細胞質のDAPIで染色される核様 体以外の成分に結合することが示唆された.次に,リ ファンピシンでRNA合成を阻害した大腸菌とチオフラ ビンTを混合した.このとき,蛍光強度の増大は観察 されなかったことから(図4A),チオフラビンTは菌体 内のRNA,特にmRNAと結合することを確信した.

このような発見があった当時,筆者らの研究室(慈恵 医大・細菌学講座)では定期的に行っているジャーナル クラブでパーシスタンスという現象が紹介され,にわか に注目を集めていた.薬剤感受性菌の集団中のごく少数 の菌は,休眠状態にあってmRNAやタンパク質の合成 が低下しており,薬剤寛容性(トレランス)を示す.興

味深いことにそれらの菌は,抗菌薬を除くと増殖を開始 し,再び抗菌薬にさらされるとある一定の菌のみが生き 残る.この生き残った菌は変異株ではなく,野性株の表 現型の一種で,休眠という状態を経ることで死滅を逃れ ているらしい.このような細菌集団中の薬剤寛容性を示 す少数の菌は パーシスター(persister) と呼ばれて いる.パーシスターは,抗生物質が感染を排除できなく なる大きな理由の一つだと考えられており,その識別は 臨床的にも極めて重要であると考えられる(13).そこで 筆者らは,チオフラビンTを用いることでパーシスター とそうではない菌を識別できるかを検討した.チオフラ ビンTに染まらない細胞がパーシスターに相当すると 考えられたため,それを別の視点からも検証する必要が あった.コペンハーゲン大学のGerdes博士らは,大腸 菌の集団中のごく少数の細胞が定常期特異的なシグマ 因子であるRpoSを過剰に発現しており,それらが薬剤 寛容性示すことを報告していた(14).彼らはゲノムから RpoS :: mCherryを 発 現 す る 大 腸 菌 株(MG1655 

)を使用した一細胞リアルタイム解析 により,RpoS高産生細胞とパーシスターの相関性を見 事に示していた.筆者らは早速Gerdes博士にメールを 送り,MG1655  を分与していただいた.

この株とチオフラビンTを併用することで,通常の状 態からパーシスターが出現していく様子を経時的に観察 することができた(1)(図4B).さらに,チオフラビンT を用いた菌体内RNAの量的変動を可視化する方法は,

大腸菌のみならず,黄色ブドウ球菌・表皮ブドウ球菌・

バチルス属細菌・コレラ菌・緑膿菌などさまざまな細菌 にも適用可能であった(1).チオフラビンTはRNA代謝 をモニタリングできる濃度でこれらの細菌の生育を阻害 しなかったことから,一細胞ライブイメージングにも応 用できると考えられる.

今後の展望

近年,チオフラビンTがグアニン四重鎖(G-quadru- plex) DNAを検出する蛍光センサーとして利用できる ことが報告され(15〜17),アミロイド以外の研究分野にお ける応用性にも注目が集まっている.グアニン四重鎖 は,グアニン塩基を多く含む一本鎖の核酸の中の異なる 位置の4つのグアニンが,特殊な水素結合によりコンパ クトな正方形へと折り畳まれて形成される.生体内での 機能や形成メカニズムは明らかになっていないが,真核 生物のDNA鎖の端にあってDNAを保護しているテロ メアや,発がん作用のある遺伝子の発現調節にかかわる

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ゲノム領域,およびmRNAの非翻訳領域にもグアニン 四重鎖を形成する配列が存在することが示唆されいる(18). それ以外にも,DNA methyltransferase(E.C. 2.1.1.72)(19), T4 polynucleotide kinase/phosphatase(E.C. 2.7.1.78)(20), DNA polymerase(EC 2.7.7.7)(21)などの酵素活性の測定 においてもチオフラビンTが利用可能であることが報 告されている.今後,さらに核酸研究分野においてチオ フラビンTの利用価値が高まると予想される.また,

筆者らはバイオフィルムと呼ばれる構造的・機能的に分 化した微生物集団におけるRNA代謝の時空間的変動の 可視化にもチオフラビンTを応用できることを見いだ している(杉本ら未発表データ).今後,さらにさまざ まな研究分野において応用され,未解明の課題を解明す るうえでの一助になることを期待したい.

謝辞:本稿で紹介した研究は,熊本大学発生医学研究所分子細胞制御分 野(小椋 光教授),ハイデルベルク大学ZMBH(Bernd Bukau教授) 東京慈恵会医科大学医学部細菌学講座(水之江義充教授)において遂行 された.当初の目的から大きく逸脱した研究を寛大なお心で見守ってい ただいた諸先生方に深く感謝いたします.また,熊本大学小椋研究室の 山中邦俊准教授・有田健一博士(現福岡歯科大),同大学医学部腫瘍医学 分野の荒木令江准教授・小林大樹博士,ハイデルベルク大学Bukau研究 室 のAxel Mogk博 士・小 口 友 樹 博 士(現Octapharma社)・Fabian  Seyffer博士(現PromoCell社),コペンハーゲン大学のKenn Gerdes博 士をはじめとする多くの方々のご協力の賜物である.さらに,本研究の 一部は日本学術振興会特別研究員(PD)奨励費,日本学術振興会優秀若 手研究者海外派遣プログラム,日本学術振興会科学研究費補助金若手研 究(B),同若手研究(A),熊本大学発生医学研究所共同利用・共同研究 拠点「発生医学の共同研究拠点」による研究費・旅費支援,ならびに私 立大学戦略的研究基盤形成支援事業によるサポートを受けました.ここ に厚く御礼申し上げます.

文献

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プロフィール

杉本 真也(Shinya SUGIMOTO)

<略 歴>2002年 九 州 大 学 農 学 部 卒 業/

2004年同大学大学院生物資源環境化学府 博士課程前期修了/同年日本学術振興会特 別研究員DC1/2007年九州大学大学院生物 資源環境化学府博士課程後期修了/同年同 大学バイオアーキテクチャーセンター CREST研究員/2008年熊本大学発生医学 研究所分子細胞制御分野学振特別研究員 PD/2009年ハイデルベルク大学ZMBH訪 問 研 究 員(優 秀 若 手 海 外 派 遣 プ ロ グ ラ ム)/2010年東京慈恵会医科大学医学部細 菌 学 講 座 助 教/2013年 同 講 師/2017年 JST ERATO研究員兼任,現在に至る<研 究テーマと抱負>バクテリアの集団構造形 成の分子機構<趣味>バスケットボール,

似 顔 絵<所 属 研 究 室 ホ ー ム ペ ー ジ>

http://square.umin.ac.jp/saikin/

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.573

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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