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コスメトロジー研究報告 10号(2002)

糖転移酵素の関与するメラニン産生制御の解析

谷  口  直  之 大阪大学大学院  医学系研究科

糖タンパク質糖鎖には、アスパラギン結合型(N型)糖鎖とムチン型(O型)糖鎖があり、N型 糖鎖をもつものが多い。N 型糖鎖のコア分岐構造は 6 つの N-アセチルグルコサミン転移酵素

(GnT-Ⅰ〜Ⅵ)によって合成される。GnT-Ⅰ〜Ⅴはヒトに存在し、ヒト遺伝子が同定されてい るが、GnT-Ⅵは魚類や鳥類では見つかっているが、哺乳動物からはまだ見つかっていない。GnT-

Ⅳあるいは GnT-Ⅴで合成される高分岐糖鎖構造は、癌細胞の転移や受精、受容体機能、免疫反 応などに関係している。糖鎖が高分岐化すると、多価性が付与されて糖鎖受容体との親和性が非 常に高まることから、GnT-Ⅵの導入によりさまざまな生物作用が生じることが予想された。ま た、ヒトの GnT-Ⅵ相同遺伝子 hGnT-Ⅵh に関しては、試験管内で糖転移酵素活性はみられてい ないが、未知の糖鎖修飾反応を触媒する可能性が考えられた。

メラニン細胞のメラニン産生のキー酵素であるチロシナーゼは、チロシン加水分解活性とドーパ 酸化活性を同時にもつが、その活性には N型糖鎖が必須であることが知られている。また、α -MSH等によるcAMP産生刺激によってメラノーマ細胞のメラニン産生が増加する際、さまざま なタンパク質の N 型糖鎖の合成が促進される。このように、メラニン細胞におけるメラニン産 生には N型糖鎖が深く関わっていることがわかっているが、実際どのような糖鎖構造が関与し ているのか、また、どのような糖転移酵素が関与しているのかは不明である。われわれは、最近、

GnT-Ⅲ遺伝子をマウスメラノーマ細胞 B16細胞に発現させると、チロシナーゼの糖鎖構造が変 化するとともに、その活性が上昇して、メラニン産生が増大することを見出した。そこで他の糖 転移酵素の影響を調べるために、トリのgalGnT-ⅥとhGnT-ⅥhのcDNAをマウスメラノーマ細

胞B16F1に導入してその効果を調べた。

【結果および考察】

チロシナーゼの活性を規定する因子は複数あり、糖鎖もその一因と考えられる。実際、チロシナ ーゼについている N 型糖鎖は分子シャペロンとの結合に関わり、酵素活性の発現に必要である ことが証明されている。以前、我々はN-アセチルグルコサミン転移酵素GnT-Ⅲ遺伝子をマウス メラノーマ B16 細胞に導入するとチロシナーゼ活性の上昇に伴いメラニン産生が増加すること を見出した。

本研究では、galGnT-Ⅵ遺伝子導入細胞ではチロシナーゼ活性の低下に伴ってメラニン産生が抑 制され、一方、hGnT-Ⅵh 遺伝子導入細胞では逆にチロシナーゼ活性の上昇に伴いメラニン産生 が亢進することを見い出した。Gn-ⅥはN型糖鎖の分岐形成により、また、hGnT-Ⅵhも未知では あるが糖転移酵素である可能性が高いので、これらの遺伝子導入は、チロシナーゼを含む糖タン パク質糖鎖の構造を改変し、活性に影響を及ぼすことが予想された。しかし両者のトランスフェ

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コスメトロジー研究報告 10号(2002)

クタントにおいて、導入した遺伝子が発現していることをmRNAレベルでは確認できるものの、

GnT-Ⅵの活性は検出できなかった。

一方、ポリ N-アセチルラクトサミンとβ1,6GlcNAc 分岐部を認識する植物レクチン DSA と

L-PHA を用いたフローサイトメトリーにより細胞表面の糖鎖構造の変化を調べたところ、

galGnT-Ⅵ遺伝子導入細胞と hGnT-Ⅵh 遺伝子導入細胞における細胞表面の糖鎖変化は逆に動い

た。このレクチンとの反応性が、導入遺伝子産物の直接的な糖転移酵素活性に基づくものである か、それとも他の糖転移酵素群の撹乱に基づくものであるかは不明である。

チロシナーゼの活性変化とチロシナーゼのmRNAの発現が相関していたことから、本研究で観

察された galGnT-ⅥあるいはhGnT-Ⅵh 遺伝子導入によるメラニン産生量の変化は、一つにはチ

ロシナーゼ遺伝子の発現が変化したためと思われる。この原因としては、galGnT-ⅥhGnT-Ⅵh のmRNAが直接チロシナーゼ遺伝子の転写あるいはチロシナーゼmRNAの安定性に干渉した可 能性が考えられる。別の可能性としては、細胞表面の糖鎖変化が、チロシナーゼ遺伝子の発現に 影響を及ぼしたか、あるいは別の分子を介してチロシナーゼmRNAの安定性を調節しているこ とが考えられる。

以上をまとめると、トリGnT-Ⅵ遺伝子およびヒトGnT-Ⅵh遺伝子のマウスメラノーマ細胞にお ける発現は、チロシナーゼの発現変化を介して、メラニン産生を制御することが明らかとなった。

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