いは主に常緑広葉樹からなる森林である。
B1 はサンショウウオの沢の小川が干上がった部分,
B2 はサンショウウオの沢に近い常緑林内である。この 沢の周囲には高茎草本のほかササ Sasa sp. やノイバラ
Rosa multifl ora
等の低木が見られる。また,沢の両側から高木の樹冠が張り出しており,林縁的環境となってい る。なお,調査期間中サンショウウオの沢は水が流下す ることはなかった。
2. 捕獲によるモグラ類とネズミ類の調査
2018 年 12 月 3 〜 4 日に A 地点でモグラ類の捕獲を行 なった。モグラ用捕獲罠は筒状の本体にワイヤーを備え たバネが取り付けられたもので,モグラ類が良く使用し ていると思われる坑道を露出して埋設設置した.モグラ 類が筒の中に入って,奥にあるトリガーを押すと,バネ がはじけてワイヤーを引き上げ,モグラ類を保定するも のである。ネズミ用捕獲罠はパンチュートラップを使用 した.これは二枚のプラスチック板で構成されたもので,
薄いプラスチック板を湾曲させて,トリガー部分にピー ナッツなどの餌を挟んで設置する.ネズミが餌を齧り取 ったら,プラスチックが平面に戻ろうとする力でネズミ を挟み込んで捕獲するものである.捕獲は,天然記念物 および史跡「旧白金御料地」の現状変更(28 港区教文第 336 号)及び東京都の鳥獣捕獲許可を取得して行なった。
3. センサーカメラによる記録
2018 年 9 月 23 日〜 12 月 14 日の間,2 台のセンサー カメラ(TREL 20J, GISuppy)を設置して,無人状態
はじめに
東京では 1900 年代に進んだ植生や土地利用の変化に より哺乳類が大きく減少した(高岡,2013)。しかし,
近 年 は, タ ヌ キ Nyctereutes procyonoidesや ハ ク ビ シ ン
Paguma larvata
が各所で観察されるなど,都心での哺乳類の生息事例が増加している(斎藤ら,2017)。国立科 学博物館附属自然教育園では,過去の各種目録に 12 種 の哺乳類の記録がある(まとめとして国立科学博物館附 属自然教育園,2007)。しかし,調査方法や同定の根拠 が記されたものではなく,正確な哺乳類相の記載が必要 となっている。
哺乳類は夜行性のものが多く,またヒトの目を逃れる 警戒心の強い種も多いので,種や生息密度を正確に調査 することは難しい。そこで,今回は罠による小哺乳類の 捕獲と,センサーカメラによる夜間を含む長期間の撮影 記録によって,哺乳類の生息状況を調査した。
方 法
1. 調査場所
調査は国立科学博物館附属自然教育園(北緯 35 度 38 分, 東 経 139 度 43 分; 標 高 15 〜 30m) 内 の A,B1,
B2 の 3 つの地点で行なった。A は中央湿地内を流れる 小川である。小川は水性植物園の池の水が流下するた め常に一定の水量がある。中央湿地はヨシ Phragmites
australis
等草本植物の群落が広がり,背後の森の小道沿自然教育園の哺乳類(2018 年)
川田伸一郎・長岡浩子・濱尾章二*
国立科学博物館動物研究部
Shin-ichiro Kawada, Hiroko Nagaoka, Shoji Hamao: Mammal fauna of the Institute for Nature Study, Tokyo, 2018. Miscellaneous Reports of the Institute for Nature Study (51): 1–5, 2019.
Department of Zoology, National Museum of Nature and Science
*
E-mail: [email protected]
(a) (b)
(c) (d)
図 2.センサーカメラによる調査.カメラ設置風景(a)。撮影された画像の例:ネズミ類(b),タヌキ(c),ハクビシン(d)。
Fig. 2. Camera trapping. Setting (a) and mammals photographed (b: Rattus sp., c: Nyctereutes procyonoides, d: Paguma larvata).
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A (2018/9/23–2018/12/14)
B2 (2018/11/15–2018/12/14) B1 (2018/9/23–2018/11/15)
図 1.調査場所.星印の地点にセンサーカメラを設置した。A 地点ではモグラ類捕獲用の罠も設置した。
Fig. 1. Study sites. Stars show the sites where camera traps were located. Mole traps were also located at site A.
PIR センサーにより動物が発する赤外線に反応して撮影 が行なわれる。2 台はいずれも調査期間中の 11 月 15 日 に,バッテリーと撮影画像を保存した SD カードを交換 した。この作業はカメラ設置地点で行なったので,撮影 を中断した時間は短いものであった。この作業の後,A ではカメラの設置場所を変えなかったが,B1 ではタヌ キのカメラへの接近,接触が多かったため,30m ほど離 れた B2 にカメラを移動した。
撮影された画像には鳥類やヒト,そして風雨に反応し たと思われる,哺乳類(ヒトを除く)が撮影されていな いものもあったが,これらは除外した。また,同種の動 物が 30 秒以内に再度撮影されていた場合には,同一個 体の可能性が高いと考え分析から除外した。
結 果
1. 哺乳類目録
罠を用いた調査で,アズマモグラ Mogera imaizumii 1 個体が捕獲された。ネズミ類については捕獲すること ができなかった。また,センサーカメラによってネズ ミ類 Rattus sp.,タヌキ,ハクビシンが記録された(図 2b‒d)。ネズミ類は比較的大型であることからクマネズ ミ R. rattus かドブネズミ R. norvegicusと考えられるが同 定することはできなかった。
センサーカメラによる記録個体は,タヌキとハクビシ ンでは A よりも B 地点の方が多い傾向があった。しか し,ネズミ類は A 地点でのみ記録され,B 地点ではまっ たく記録されなかった(表 1)。A,B 両地点間の記録個 体数の多寡は種によって異なっていた(カイ二乗検定;
χ2= 177.9,d.f. = 2,P<0.001)。
また,撮影期間を 7 日間ごとに分けて記録個体数の時 期的な変動をみると,タヌキでは時期が進むに連れて増 加 し て い た(Spearman の 順 位 相 関 係 数;rs= 0.81,n
=
12,P<0.01)が,ネズミ類とハクビシンでは時期的な 増加あるいは減少の傾向は認められなかった(ネズミ類:r
s=− 0.55,n= 12,P= 0.07;ハクビシン:rs= 0.27,n
= 12,P= 0.38;図 3)。図 3.記録個体数の時期的変化.
Fig. 3. Seasonal changes in number of individuals recorded by camera traps. Open circles, closed circles, and asterisks show Rattus sp., Nyctereutes procyonoides, and Paguma larvata, respectively.
表 1. センサーカメラによる撮影地点と哺乳類 3 種の記 録個体数.
Table 1. Number of individuals recorded of three mammalians at two photograph sites.
撮影地点
Site
ネズミ類
Rattus sp.
タヌキ
Nyctereutes procyonoides
ハクビシン
Paguma
larvata
AB
112 0
164 322
4 16
3. 時刻による記録個体数の変化
センサーカメラによる記録個体は夜間に集中し,昼間 はほとんど記録がなかった(図 4)。何れの種も 17 〜 18 時台から記録されるようになり,5 〜 6 時台になると記 録がほとんどなくなった。
考 察
今回,罠とセンサーカメラによる調査から 4 種(ただ し,ネズミ類は同定不能)の哺乳類が記録された。調査 期間の秋から冬にかけて,1 週間にタヌキは数十個体,
ネズミ類は 10 〜 20 個体がセンサーカメラによって撮影 されており,これらの哺乳類が多く生息していること が示唆された。ネズミ類が撮影されている画像ではクマ ネズミ属のいずれの種であるか同定ができなかったが,
2018 年 12 月に園内で拾得された個体を調査したところ クマネズミであったため,写真に写っていた個体も本種 である可能性が高い。複数の画像に同一個体が撮影され ていた可能性は排除できず,今回の記録個体数をもって 生息個体数であると理解することはできないが,ある程 度の個体数が生息していることは明らかである。
9 月から 12 月の調査期間中,タヌキの記録個体数は顕 著に増加していた。これは,冬に向かって個体数が増加 したり,活動が活発になったりしたことを示しているの かもしれない。また,各種ともほとんどの記録が夜間の ものであった。調査期間中の日の出時刻は 5 時 28 分か
ら 6 時 42 分,日の入り時刻は 16 時 29 分から 17 時 39 分であり(国立天文台,2019),日の出ている時間帯は 活動が顕著に低下するようである。哺乳類の生息確認に は夜の出現状況を記録するセンサーカメラや罠が有用で あることがあらためて示されたと言えよう。
自然教育園の哺乳類相については,1949 年に国立自 然教育園として開園されて以来,確認されたとして目 録(国立科学博物館附属自然教育園,1984,2007)に 12 種の記載がある。これらの内,アカネズミ Apodemus
speciosus
とアズマモグラに関しては,1960 年代に複数の標本が採集され,現在も当館のコレクションとして保 管されている。もっとも古いものは 1962 年 12 月 4 日に 採集されたアズマモグラで,台帳の情報によれば「手塚 氏」が採集したとされているので,埼玉県の高等学校教 師として教鞭をとる傍ら,モグラ類などの哺乳類を研究 した手塚甫氏によるものであろう。1963 年 12 月から翌 1964 年 4 月にかけてはアカネズミ 9 個体,アズマモグ ラ 28 個体が小原巌氏により採集されている。今回の罠 を用いた調査は十分に行えたとは言えないが,アズマモ グラについては 1 個体の捕獲があったことや,園内外に 広く分布する「モグラ塚」の様子から,現在も安定した 生息が確認できたこととなる。一方アカネズミについて は 1964 年に標本が採集されて以来,確実な生息情報を 欠いている。本種は草原性のネズミであり,自然教育園 より広い敷地面積を持つ皇居でも確認されていない種で ある。おそらくこの間に絶滅したのではなかろうかと推 測される。
図 4.記録個体数の時刻変化.
Fig. 4. Temporal changes in number of individuals recorded by camera traps. Symbols are the same as Figure 3.
らず,全貌は明らかではない。ただし,1984 年の目録には,
ネズミ類 Rattus spp. は「稀に確認されるだけ」,タヌキ は「現在未確認」となっている。東京都のタヌキは 1950 年代初頭までは捕獲例があり,1970 年代までに都西部へ と分布が後退したとされている(小原,1982)が,近年 都市部への進出が著しく,都東部の 23 区全てで生息が 確認されるに至っている。自然教育園と同じ港区の赤坂 御用地においては,1990 年代前半からタヌキが目撃され ている(手塚・遠藤,2005)。今回のセンサーカメラに よる調査でこれらが多く記録されたことは,これらの種 の個体数が増加していることを表していると言えるだろ う。
また,2008 年にセンサーカメラによってタヌキが 3 回,
ハクビシンが 1 回撮影されたという記録がある(吉野・
萩原,2010)。その調査が自然教育園内の 2 地点に 155 日間カメラを設置したものであることを考えると,今回 の調査に比べて記録数が著しく少ない。カメラの性能や 設定は異なるものの,2008 年から今回の調査の間にタヌ キ,ハクビシンとも生息個体数が大きく増加したものと 考えられる。
ハクビシンは戦時中に毛皮用に持ち込まれたとも(国 立環境研究所,2012),江戸時代から存在したとも言わ れる(農林水産省農村振興局,2018)が,いずれにせよ 元々は日本に生息しない移入種であると考えられてい る。ハクビシンやタヌキの増加は,捕食者や競争者とし て生態系に影響を及ぼす可能性が懸念される。雑食性で 年間産仔数が比較的多い中型哺乳類は都市環境への進出 が顕著であるといわれており(Saito & Koike,2015),
今後の動向を調査し続ける必要があるだろう。
国立科学博物館附属自然教育園.1984.国立科学博物館 附属自然教育園動植物目録.国立科学博物館附属自然 教育園,東京.
国立環境研究所.2012.侵入生物データベース 2012.
http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/
(2019/7/11 参照)
国立天文台.2019.国立天文台暦計算室.https://eco.
mtk.nao.ac.jp/koyomi/(2019/7/11 参照)
農林水産省農村振興局(監).2018.野性鳥獣被害防止 マニュアル─アライグマ,ハクビシン,タヌキ,アナ グマ─(中型獣類編).95pp.農文協プロダクション,
東京.
小原秀雄.1982.東京のほ乳類.沼田真・小原秀雄(編)
東京の生物史.197 pp. 65-73.紀伊国屋書店,東京.
Saito, M. U. & Koike, F. 2015. Trait-dependent changes in assemblages of mid-sized and large mammals along an Asian urban gradient. Acta Oecologia,67:
34-39.
斎藤昌幸・金子弥生・増田隆一・園田陽一・保坂哲朗.
2017.都市における食肉目動物研究.哺乳類科学,
57:157‒158.
高岡貞夫.2013.過去百年間における都市化にともなう 東京の生物相の変化.地学雑誌,122:1020-1038.
手塚牧人・遠藤秀紀.2005.赤坂御用地に生息するタヌ キのタメフン場利用と食性について.国立科学博物館 専報,(39):35-46.
吉野勲・萩原信介.2010.自然教育園におけるホンドタ ヌキとハクビシンの自動撮影記録と糞の分析.自然教 育園報告,(41):79-83.