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リンゴ小球形潜在ウイルスとFT遺伝子を利用した ... - J-Stage

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化学と生物 Vol. 50, No. 3, 2012

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今日の話題

有機物からの発電などを総合して,90%以上の省エネと 汚泥廃棄物の削減が期待される.そこで,排水処理を目 的としたMFCの研究開発も現在盛んに行なわれてお り,総説なども発表されている(6)

筆者らのグループでは,バイオマス発電用に設計した カセット電極型MFC(7)を改良して複合高分子有機物を 含む模擬下水の処理実験を行なっているが,現在までに 水滞留時間12時間程度でCOD除去率80%以上の処理に 成功し,このときのクーロン効率(電子回収率)は40%

程度であった.つまり,現在のMFC技術は活性汚泥プ ロセスの半分程度の速度で下水を処理できるところまで 到達したと言え,今後のさらなる高効率化に期待が寄せ られる.

このような水処理用MFCにおいては,活性汚泥法と 同様に,自然に形成される微生物群集を用いる.した がって,アノード触媒となる微生物を育種したり改変し たりすることはできない.また,生物学的手法により微 生物群集を制御することも,現在の微生物学,微生物工 学では非常に難しい.したがって,このタイプのMFC を高効率化するために,まずは電極や装置の改良を行 なっていかなければならない.また,排水処理にプラチ ナなど高価な触媒を用いることはできず,低価格なカ ソード触媒や電極素材を開発していくことも実用化には 必須である.一方,微生物群集の制御技術も,今後の課 題として研究していく必要があると考えられている.

以上に述べたように,MFCは多様な応用分野を対象 とした微生物プロセスの基本コンセプトであり,目的に 応じて装置の形状などは大きく異なる.一方,そこで用

いられる微生物は細胞外電子伝達系を用いて電極呼吸

(電極を電子受容体とした呼吸)するものであるが,こ れは新たに発見されたエネルギー代謝系として,基礎生 物学的に大変興味深いものである.MFCの研究は,生 物学的新発見を我々の生活に役立てようとするもので,

生命科学のグリーンイノベーションへの挑戦の典型的例 と思われる.さらに最近,有用物質生産のために微生物 代謝を電極により制御する試みも開始され(8),MFC技 術の新たな展開も見えてきている.今後,微生物学,分 子生物学に加え,電気化学,材料工学,ナノテクなど,

様々な分野の研究者の参加が期待される分野である.

  1)  K. Watanabe : , 106, 528 (2008).

  2)  B. H. Kim, H. J. Kim, M. S. Moon & D. H. Park : , 9, 127 (1999).

  3)  K. P.  Nevin,  H.  Richter,  S. F.  Covalla,  J. P.  Johnson,  T. L. 

Woodard, A. L. Orloff, H. Jia, M. Zhang & D. R. Lovley :   , 10, 2505 (2008).

  4)  H. Sakai, T. Nakagawa, Y. Tokita, T. Hatazawa, T. Ikeda,  S.  Tsujimura  &  K.  Kano : , 2,  133 

(2009).

  5)  Y.  Zhao,  K.  Watanabe  &  K.  Hashimoto : , 13, 15016 (2011).

  6)  Z. Du, H. Li & T. Gu : , 25, 464 (2007).

  7)  T. Shimoyama, S. Komukai, A. Yamazawa, Y. Ueno, B. E. 

Logan & K. Watanabe : , 79

325 (2008).

  8)  K. P. Nevin, T. L. Woodard, A. E. Franks, Z. M. Summers 

& D. R. Lovley : , 1, e00103 (2010).

(高 妻 篤 史*1,宮 原 盛 夫*1,渡 邉 一 哉*1, 2, 3,*1JST  ERATO橋本光エネルギー変換システムプロジェク ト,*2東京大学先端科学技術研究センター,*3東京 薬科大学生命科学部)

リンゴ小球形潜在ウイルスと FT 遺伝子を利用したリンゴの早期開花

果樹の品種改良にとって強力な新手法となるか

「桃栗三年,柿八年」といわれるように,果樹のよう な木本植物には長い幼若期間 (juvenile phase) があり,

播種してから開花・結実するまでには数年〜十数年を要 する.たとえば,リンゴの主要品種 ふじ は, 国光 と デリシャス を掛け合わせて育成された品種である が,交配種子を播いてから初結実するまで10年以上,

品種として認定されるまで約23年かかっている.また,

米国でリンゴの野生種 ( ) が保有する リンゴ黒星病抵抗性遺伝子を栽培リンゴに導入するの

に,交雑を7世代,約40 〜 50年(1世代に約6 〜 7年)

かけて行ない,ようやく栽培品種並の果実品質を示す系

統 ʻGoldrushʼ  が作出された(1).このように,リンゴの

実生が開花するまでには長い年月が必要で,台木の種類 や接ぎ木技術を利用して開花期を短縮しようとしても2

〜3年を要していた.この幼若期間の長さは,果樹の育 種や遺伝の研究にとって大きな障壁となっている.

果樹類の花成制御機構はまだ解明されていないが,シ ロイヌナズナやイネなどのモデル植物では,日長に応答

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今日の話題

して花成を促進させる遺伝子

( )(イネでは と呼ばれる)が同定され,花成 誘導の中心的役割を果たす フロリゲン であることが 証明された(2).シロイヌナズナでは,花成制御経路の一 つとして,葉が適切な光周期(長日条件)を感じとる と,葉の篩部組織で 遺伝子の転写を促進するCOタ ンパク質が合成され,続いて 遺伝子の発現が誘導さ れる.翻訳されたFTタンパク質は篩管を通って茎頂分 裂組織へと輸送され,核局在性の転写因子(FDタンパ ク質)と結合する.こうして活性化されたFDタンパク 質が花芽組織を発生させる ( ) の転写 を促進し,花芽形成が開始される.現在, 遺伝子は 種子植物に広く保存され,植物種によってその機能に差 異はあるが,花成を促進させるという点では共通の機能 をもつようである(3)

筆者らは,落葉果樹の潜在性ウイルス(感染しても病 気を起こさないウイルス)を利用した遺伝子発現用ウイ ルスベクターの開発研究に取り組んできた.従来のアグ ロバクテリウムを用いた形質転換法は,果樹の種類や品 種によっては組織培養が難しいことや形質転換効率が低 いため,利用が困難な場合が多い.これに対して,適当 なウイルスベクターが利用できれば,目的遺伝子の発現 やノックダウンを迅速に行なうことができる.また,ウ イルスベクターによる遺伝子発現系は,植物ゲノムに遺 伝子を組み込むわけではないので,交配や世代促進を目 的に開花を促進させたい場合にはきわめて有効な方法と いえる.

リンゴ小球形潜在ウイルス (ALSV) は2種類の一本 鎖RNAと3種類の外被タンパク質からなる径約30 nm の小球形ウイルスである.ALSVの自然感染宿主はリン ゴのみであるが,実験的には多数の植物種に感染し,ほ とんどの植物種で潜在感染する.筆者らは,ALSVゲノ ム(RNA1とRNA2)の完全長DNAを大腸菌プラスミ ド (pUC18) の35Sプロモーター下流に連結し,さらに RNA2クローン (pEALSR2) の一部に制限酵素サイト を導入し,ALSVをウイルスベクター化した(4).ALSV は,他の多くのウイルスと異なり,成長点に侵入するた め,茎頂分裂組織での遺伝子発現に利用できる.もし ALSVベクターを利用して果樹類の開花時期を自由に制 御し,草本植物と同程度に開花を早めることができれ ば,果樹の品種改良や各種遺伝子の機能解析の効率を格 段に早めることができる.

そこで筆者らは,農研機構果樹研究所と共同で,まず シロイヌナズナの完全長 遺伝子をALSV-RNA2ク ローンに連結してFTタンパク質を発現するベクター 

(FT-ALSV) を構築した.FT-ALSVをシロイヌナズナ やタバコ属植物,ペチュニアなどの実験植物に感染させ ると,感染個体すべてが,対象(非接種)区と比べて,

著しい早期開花を示した(5).すなわち,FT-ALSVを利 用することで,日長などの環境要因や植物の生育特性に 関係なく,植物の花成を誘導できることが明らかになっ た.

ウイルスベクターを利用する場合,対象植物へウイル スを効率的に感染させる技術が前提となるが,シロイヌ ナズナやタバコの場合と異なり,リンゴなどの果樹類へ の安定したウイルス接種はウイルスの種類にかかわらず 非常に難しかった.筆者らは,リンゴ発芽期の子葉にウ イルスRNAをパーティクルガンで接種することで,ほ ぼ100%の感染が得られる方法を確立した(図1(5).そ こで,リンゴの発根直後の種子(子葉)にFT-ALSVを 接種したところ,約30%の感染個体が接種後1.5 〜 2 ヵ 月(7 〜8本葉期)で早期開花した(図1).早期開花リ ンゴの花粉は発芽能力を有し,これを自然開花したリン ゴ成木の花へ授粉すると正常な果実および種子が形成さ

図1FT-ALSVベクターを利用したリンゴ実生の開花促進技

種皮を取り除いた発根直後の種子(子葉)(A) に,FT-ALSV感 染葉から抽出したRNAをパーティクルガン接種し (B), シャーレ で5日間育成した後 (C), ポットに移植する (D). その後インキュ ベータ内で育成すると,接種後1.5 〜 2 ヵ月(7 〜 8本葉期)でリ ンゴ実生苗が早期開花する (E). 早期開花した花の葯 (F) から採 取した花粉は発芽能力をもっている (G). 接種から開花までのすべ てを実験室(インキュベーター)内で行なうことができる.

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今日の話題

れた.これは,FT-ALSVがリンゴの早期開花を誘導で きると同時に,通常5 〜12年かかるリンゴ1世代の時間 を1年未満に短縮する大幅な世代促進が可能であること を示している.また,リンゴでのALSVの種子伝染率

(花粉経由)は非常に低率で,早期開花リンゴの花粉か らできた次世代実生(47個体)のすべてがウイルスフ リーであった(5).ウイルスフリーの個体は外来遺伝子を 含まないので,直接の育種素材として利用することも可 能である.

FT-ALSV感染により,シロイヌナズナやタバコ,リ ンゴ以外にもダイズなどのマメ科作物(6),ウリ科植物,

トルコギキョウやリンドウなどの花卉類でも開花時期を 大幅に短縮することが可能であった.これはシロイヌナ ズナのFTタンパク質がかなり広範な植物種で開花促進 因子として働くことを示しているが,一方,リンゴの 遺伝子オルソログはALSVベクターを使って発現し てもリンゴの開花を誘導しなかった.このように植物種

によりFTタンパク質の活性や機能に差異が存在するら しい.現在,シロイヌナズナ 遺伝子以外の約20種類 の 遺伝子オルソログをALSVベクターに組み込み,

各種植物での開花促進効果を解析中である.今後,対象 植物それぞれに適した 遺伝子を選択することで,各 種の果樹,野菜,花卉で開花時期の制御や迅速な世代促 進が可能になるかもしれない.

  1)  J. A.  Crosby,  J.  Janick  &  P. C.  Pecknold : , 29,  827 (1994).

  2)  L. Corbesier  : , 316, 1030 (2007).

  3)  K. Hiraoka, Y. Daimon & T. Araki : ., 19, 3 

(2008).

  4)  C. Li, N. Sasaki, M. Isogai & N. Yoshikawa : .,  149, 1541 (2004).

  5)  N.  Yamagishi,  S.  Sasaki,  K.  Yamagata,  S.  Komori,  M. 

Nagase, M. Wada, T. Yamamoto & N. Yoshikawa : ., 75, 193 (2011).

  6)  N. Yamagishi & N. Yoshikawa : , 233, 561 (2011).

(吉川信幸,山岸紀子,岩手大学農学部)

トランスシナプス標識法による神経回路の可視化と機能解析

高解像度の神経接続マップがひらく新しい脳科学の世界

脳の機能は,相互に複雑にからみあったニューロンの ネットワークが生み出す活動電位のパターンに基礎づけ られている.ニューロンのつながり方を正確に記述する ことは,そこで行なわれる情報処理の原理を理解する第 一歩である.およそ120年前,近代脳科学の父ラモン・

イ・カハールはゴルジ染色法により神経回路の詳細な構 造を観察・記載する手法を開発した.以来,局所的な神 経回路はそれぞれの細胞の樹状突起や軸索を丹念に追跡 することで予測され,脳切片の電気生理学によって検証 されてきた.近年,光で活性化されるイオンチャネルや 活動電位/Ca2+シグナルを検出するタンパク質などが相 次いで開発・改良され,局所的な神経回路を記述する方 法は飛躍的に発展している(1, 2).また,電子顕微鏡によ る超高解像度の3次元像を自動的に作製する試みも進展 している.これに対し,長距離の軸索投射による神経接 続を正確に記述するのはきわめて困難である.トレー サーの局所注入などの古典的な手法は,低解像度で定性 的な軸索投射を記述することしかできない.

このような状況のもと,遺伝学的に制御できシナプス を越えて広がる トランスシナプス 標識法が注目され

ている(3).中でも標的の細胞から一段階だけ上流の前シ ナプス細胞を特異的に標識することのできる変異型の狂 犬病ウイルスはすぐれたツールである.この手法では,

狂犬病ウイルスのゲノムから必須の膜タンパク質 (G) 

をコードする遺伝子を取り除き,代わりに蛍光タンパク 質の遺伝子を挿入した変異型ウイルスを用いる(図1 この変異型ウイルスの外殻は,トリ白血病肉腫ウイルス に由来するEnvAというタンパク質で偽型されており,

野生型の哺乳類の細胞には感染しない.しかし,標的の 細胞にトリ由来のTVA(EnvA受容体)という膜タン パク質を導入すればウイルスを感染させることができ る.さらに,同じ細胞に狂犬病ウイルスの 遺伝子を 導入すれば狂犬病ウイルスの変異ゲノムが相補され,そ の細胞に限って機能的なウイルス粒子が再構成される.

再構成されたウイルス粒子は前シナプス細胞にシナプス をこえて感染し,その細胞を標識する.しかし,前シナ プス細胞は狂犬病ウイルス 遺伝子を発現していない のでウイルスはさらに広がることができず,はじめに感 染させた標識の出発点となる ʻstarterʼ  細胞から一段階 のシナプスを移動したところで止まる.このようにし

参照

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