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FTのホスファチジルコリン結合能と光周性花成の促進 - J-Stage

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(1)

はじめに

脂質はタンパク質,核酸,糖類とならび生体分子の一 つである.植物脂質研究はこれまで,生体膜での物理化 学的機能やエネルギー貯蔵物質などを中心に生化学的な 研究が展開されてきたが,シグナル伝達などにおける多 様な脂質の機能が近年明らかにされるにつれ,植物体内 における脂質分子の不均一な分布とその生長や環境変化 に応答した動的な変化が,どのように植物の生長を制御 するかについての興味が高まっている.本稿では,こう した植物脂質の多様性に焦点をあて,筆者らが最近明ら かにしたタンパク質‒脂質相互作用に立脚した花成制御 の新たなメカニズムを例にしつつ,脂質の新たな機能的 側面についてご紹介したい.

植物の膜脂質代謝

生体膜を構成する主要な脂質成分はリン脂質である.

これはバクテリアからヒトや種子植物に至るまで広く保 存されている.しかしながら,植物や藻類などの光合成 生物では,リンを含まない糖脂質で光合成膜を主に構成 することが特徴的である.実際,これらの糖脂質は専ら 葉緑体包膜で合成され,光合成機能に不可欠であること が示されている(1).したがって,植物細胞では葉緑体

(色素体)膜は糖脂質で,それ以外の膜系はリン脂質で

主に構成されていると大まかに捉えることができる.

リン脂質や糖脂質は極性グリセロ脂質と総称され,グ リセロール骨格の -1位および -2位にアシル基(主に 炭素数16または18の長鎖脂肪酸のカルボキシル基がグ リセロール骨格の水酸基にエステル結合して生じる)

を, -3位に極性頭部をもつ.これらの極性グリセロ脂 質は極性頭部の違いによって異なる脂質クラスに分類さ れる(図1.たとえば,高等植物には主な膜構成グリ セロ脂質として,6クラスのリン脂質(PA, PC, PE, PG,  PI, PS)と3クラスの糖脂質(MGDG, DGDD, SQDG)

が知られる.これらの総脂質量に占める組成を見ると,

主要なリン脂質としてPCおよびPE,糖脂質として MGDGとDGDGが見られ,そのほかの脂質クラスは比 較的微量に存在する.しかし,これらの脂質組成は細胞 レベルで見るとオルガネラ膜ごとに異なり,たとえば葉 緑体膜が主に糖脂質(MGDGやDGDG)で占められる のに対し,ミトコンドリア膜はPCおよびPE,細胞膜で はPCおよびPEを主としながらもほかのリン脂質クラ スも分布する.脂質組成は組織や器官によっても大きく 異なる.たとえば,非光合成器官である花や根は光合成 器官に比べて糖脂質が少なくリン脂質が多い.また,同 一の器官でも生長の過程で脂質組成がダイナミックに変 化することが知られている.たとえば,シロイヌナズナ の同調花発生系を用いたリピドミクス解析では,花芽の 発達過程でそれぞれの脂質クラスの組成が異なる変化を

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セミナー室

フロリゲンと光周性花成-3

FTのホスファチジルコリン結合能と光周性花成の促進

中村友輝

アカデミアシニカ植物及微生物学研究所

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示すことが知られている(2).さらには,膜脂質組成は環 境要因によっても柔軟に変化する.たとえば,リン酸は 植物にとって不可欠な栄養素の一つであるが,これが土 壌中に欠乏すると,植物は膜リン脂質からリンを切り出 し,生存に必要なリン源として利用しつつ,失った極性 頭部は糖で置き換えて膜の機能を維持することが知られ ている(3).こうした膜脂質リモデリングはリン欠乏など の環境ストレスに植物が適応する巧妙な戦略の一つであ ると考えられている.

以上の議論は極性頭部の違いによる脂質クラスの分類 に基づいているが,同一の脂質クラス内においても,2 つのアシル基の分子種および組み合わせにはバラエティ がある.植物では主に炭素数が16ないし18,不飽和度3 までのアシル基がほとんどを占めるが,これらの組成に ついてもオルガネラや組織,器官による差異が見られ る.また,低温ストレス時にはアシル基の不飽和度を上 昇させることにより,膜の流動性を保つ適応機構が知ら れている(4)

以上のように,極性頭部の分子種とアシル基の分子種 および組み合わせを考えると,極性グリセロ脂質にはお びただしい種類の分子が存在する.これらは物理的性質 を異にし,それらがオルガネラや組織,器官のレベルで 不均一に分布し,かつ生長やストレス応答の過程でダイ ナミックに変化することは,生体膜の物理化学的環境に 大きく影響し,さまざまな分子の機能を調節する役割を 担うと考えられる.こうした脂質多様性(Lipid diversi- ty)は生命現象を分子レベルで理解するための重要なコ ンセプトと考えられ,昨今に台頭するリピドミクス技術 など高感度かつハイスループットな技術を用いることに より,その研究は今後ますます加速すると考えられる.

以下,本稿では脂質による花成の制御機構について議論 したい.

脂質と花成の関係

花成の制御は,農学的に非常に重要なテーマの一つで あり,その制御メカニズムの研究は長い歴史をもつ.こ れまでに探索された種々の花成促進/抑制因子の中には 脂質に関連する分子も知られており,その機能の詳細が 興味の対象となってきた.たとえば,

α

-ケトールリノレ ン酸の1種であるKODA(9-hydroxy-10-oxo-12( ),15

( )-octadecadienoic acid)はカテコールアミン類と反 応して花成促進因子となる(5).KODAはストレス条件に 晒されたアオウキクサから単離された物質で,この花成 促進作用はアサガオにおいても確認されているため,異 なる植物種で花成促進に作用する因子であると考えられ る(5).また,ハツカダイコンにおいて抽台を抑制する物 質としてHexadecatrienoic acid monoglyceride(alpha-

(7 ,10 ,13 )-hexadecatrienoic acid monoglyceride)が 単離されている(6).これらの化合物がどのような代謝を 経て合成されるかはまだ明らかにされていないが,

KODAなどのオキシリピン類は膜脂質のリノレン酸残 基がリパーゼにより切り出され,酸化を受けることに よって生じると考えられる.また,Hexadecatrienoic  acid(16 : 3)はMGDGのアシル基に特徴的な脂肪酸分 子種であるため,Hexadecatrienoic acid monoglyceride はMGDGの部分分解によって生じる可能性が考えられ る.これらの事例は,脂質と花成制御に密接な関係があ ることを示唆する.

花成に影響を与える主な環境要因の一つは光周性であ る.リピドミクス解析により,膜脂質の組成が明暗周期 に応じて周期的な変化をすることもわかっており(7),光 周性に依存した脂質プロファイルが花成制御の一つのイ ンプットとなる可能性が考えられている.筆者らは最 近,タンパク質−脂質相互作用に立脚した,脂質と花成 制御の直接的な関連性を明らかにしたので(8),以下,そ 図1極性グリセロ脂質の基本骨格と,植物の膜 脂質に見られる主な極性頭部の分子種

リン脂質はリン酸またはその誘導体を,糖脂質は ガラクトースまたはスルホキノボースを極性頭部 にもつ.R1およびR2,アシル基;DGDG, ジガラク トシルジアシルグリセロール;MGDG, モノガラク トシルジアシルグリセロール;PA,  ホスファチジ ン酸;PC, ホスファチジルコリン;PE, ホスファチ ジルエタノールアミン;PG,  ホスファチジルグリ セロール;PI,  ホスファチジルイノシトール;PS,  ホスファチジルセリン;SQDG, スルホキノボシル ジアシルグリセロール

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の内容を紹介したい.

FTのホスファチジルコリン結合能と光周性花成の 促進

モデル植物シロイヌナズナにおいて,FLOWERING  LOCUS T(以下FTと略記)タンパク質はフロリゲン の機能を果たすことが知られている.FTは光周性など の環境変化に応答して葉の維管束伴細胞で転写・翻訳さ れ,FT-interacting protein(FTIP)などによって細胞 間連絡(plasmodesmata)を介して篩管へと輸送され る.FTは篩管内を長距離輸送されて茎頂に到達する と,標的細胞の核内においてFDタンパク質と結合す る.こうしてできたFT-FD複合体は花発生を誘導する 転写制御因子である  ( )や

 

( )の発現を誘導することにより花成誘導の機能 を果たす.本稿ではFTと脂質結合の関係について議論 を進め,FTやフロリゲンの分子生物学的機能について は本シリーズの別の章を参照されたい.

シロイヌナズナのFTタンパク質のアミノ酸配列が決 定されると,このタンパク質が哺乳類のphosphatidyl- ethanolamine-binding protein(PEBP)と相同性がある ことが明らかとなった.PEBPは最初,ウシ血清から phosphatidylethanolamine(PE)に親和性を示すタン パク質として単離されたものであり,後にこのタンパク 質はRafキナーゼを阻害する役割をもつことからRaf-ki- nase inhibitor protein(RKIP)とも命名された.これ までの研究から,哺乳類のPEBP/RKIPがPEや他のリ ン脂質クラスに結合することは示されてきたが,結合の

での生理学的意義は不明であった.

シロイヌナズナのFTタンパク質に脂質結合性がある かについてはこれまでいくらかの議論がなされてきたも のの,結合を示す実験データはこれまで報告されていな かった.そこで,筆者らのグループは大腸菌の発現系を 用いて,FTのN末端にヒスチジンタグを融合したタン パク質(His-FT)を発現,精製し,その脂質結合性を 調べた.脂質‒タンパク質結合を調べるには,スポット アレイ法,リポソーム共沈法,表面プラスモン共鳴によ る方法などが知られているが,最も簡便なものがスポッ トアレイ法である(9).この方法では,市販されている異 なる脂質の標品をメンブレンにスポットし,精製したタ ンパク質とハイブリダイズさせた後,タンパク質が特定 の脂質スポットに結合したかどうかをタグ抗体を用いて 検出する方法である.この方法は,ウエスタンブロッ ティングと似ており,また脂質の標品をあらかじめス

ポットしたメンブレンも市販されているため簡便である が,脂質分子が必ずしも生理的な条件に近い状態にない ことや,疎水性の高いタンパク質が非特異的に複数の脂 質スポットと結合することがある.このため,スポット アレイ法は一次スクリーニングとして行い,リポソーム 共沈法や表面プラスモン共鳴による方法などと併せて,

より詳細に検証することが重要である.さて,筆者らの 実験でスポットアレイ法によりFTと結合する脂質クラ スを探索したところ,ホスファチジルコリン(PC)と 特異的に結合することがわかった.PCはPEの極性頭部 がトリメチル化された構造をもち,主に真核生物に広く 見られる主要な膜脂質である.また,興味深いことに,

哺乳類のホモログであるPEBP/RKIPが結合するPEと はFTは結合性を示さなかった.次に,筆者らはこの結 果をリポソーム共沈法で検証した.この実験法では,

PCとPEの組成が異なるリポソームを作製し,精製した His-FTとインキュベートした後に超遠心分離によりリ ポソームを沈殿させる.His-FTが結合しているかどう かは,沈殿を回収してウエスタンブロッティングにより 確認することができる.この方法により,PCとPEの組 成を異にするリポソームを調製して共沈実験を行ったと ころ,PCの組成が高くなるほどHis-FTがよく共沈する ことがわかった.以上により,FTはPCと で特 異的に結合することが示された.

次に,FTとPCの結合がFTおよび花成の促進にどの ように影響するかを植物体内( )で検証するた め,筆者らは代謝改変によりPCの量を変化させる形質 転換植物を構築した.図2に示すように,PCとPEは共 通の基質であるEtnから合成される.先行研究により,

P-EtnをCDP-Etnに変換する酵素であるPECT1はPE合 成の律速酵素であり,この酵素をノックダウンすると相 対的にPE量が減少しPC量が増えることが知られてい る(10).これは,PE合成経路の抑制により,PC合成経路 への代謝フラックスが亢進されたことによると考えられ る.そこで, を特異的に標的とする人工マイク ロRNA配列( )を設計し,これを構成的プ ロモーターにより発現する形質転換植物を構築したとこ ろ,予想どおり相対的にPC量が増え,また興味深いこ とに早咲きの表現型が見られた.上述のように,葉の維 管束伴細胞と茎頂はFTが機能を果たすうえで重要な2 つの場であるため,次に筆者らはこれらの部位に特異的 なプロモーター( および プロモーター)を用 いて同様の形質転換植物を構築したところ, プロ モーターによる発現では表現型が見られなかったもの の, プロモーターによる発現では顕著な早咲きの表

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現型が見られた(図3.さらに,人工マイクロRNAの 代わりに を プロモーターで発現することに より逆に相対的なPE量を増やすことを試みたところ,

遅咲きの表現型が見られた.このことから,茎頂での PC量は花成の促進と相関関係があることが示唆された.

こうしたPC量と花成の促進との相関関係はFTの機 能を介しているのだろうか?  プロモーターで

を発現する形質転換植物において,FTのエ フェクターである と の遺伝子発現レベルを リアルタイムPCR法により調べたところ,両者ともに 野生株に比べて顕著に高いことがわかった.次にFT機 能を欠失させた変異体( / 二重変異体)において

プロモーターで を発現すると,早咲きの表 現型は抑制された.さらには,FTの過剰発現株におい て プロモーターで を発現すると,FTの 過剰発現による早咲きの表現型はさらに亢進された.こ れらの結果から,PCは茎頂においてFTと結合して花 成を促進することが示唆された.

さて,前述のようにPCは主要な膜脂質であるので,

植物体内のさまざまな細胞の主要な膜構成成分である.

では,このような主要な脂質クラスがどのようにして特 異的なFTタンパク質の機能を制御するのだろうか? 

前述の代謝改変はPC量とFT機能の関連を で明 らかにしたものの,野生株でどのようにPCの変化が生 じFTの機能を制御するかは依然不明である.PCなど の主要な膜脂質は,安定して存在する代謝の最終産物の ような印象を受けるが,実際はダイナミックな代謝の動 的平衡の上に存在すると考えられる.また,その組成は 環境要因によって複雑に変化することも知られている.

また興味深いことに,ある種の膜脂質の組成が日周変動 をすることも指摘されている(11).そこで,筆者らはリ ピドミクス技術を用いて,シロイヌナズナの幼植物体が 長日および短日条件でどのような脂質プロファイルを示 すかを調べた.まず,シロイヌナズナを2週間短日条件 で生育した後に,そのうち半数を長日条件に移し,24 時間後から連続2日間にわたり4時間ごとにサンプルを 採取し,脂質分析を行った.その結果,PE分子種の組 成は長日および短日条件ともにほとんど変動を示さない 一方,PCについては,脂肪酸分子種の組成が明瞭な日 周変動を示すことが明らかになった.これらのデータを 詳細に検討すると,暗期に上昇するPC分子種はいずれ もリノレン酸を含むPCであることがわかった.そこ で,PCの脂肪酸組成によりFTとの結合の親和性に違 いがあるのではないかと考え,スポットアレイ法を用い て異なる脂肪酸組成をもつPCの標品とFTとの結合性 を評価したところ,リノレン酸を含むPCのみがFTと 弱く結合することがわかった.このことは,暗期に主要 なPC分子種は明期のそれに比べてFT結合性が弱いこ とを示唆する.FTは長日条件下で発現が誘導されるた め,FTタンパク質が豊富に存在する明期には,FTと の結合の親和性が高いPCの分子種が主要なPCの組成 となる.そこで,こうしたPCの分子種の違いが花成に 及ぼす影響を調べるため,代謝改変により,暗期に主要 なPC分子種が明期に蓄積するような形質転換植物を作 製した.PCのアシル基をリノレン酸に不飽和化する酵 素 はFATTY ACID DESATURASE3(FAD3) で あ り,この過剰発現はリノレン酸を含むPCの組成を増加 図2高等植物におけるホスファチジルコリン(PC)およびホ

スファチジルエタノールアミン(PE)の生合成経路

コリン(Cho)およびエタノールアミン(Etn)はまずキナーゼ反 応によりリン酸化され,つづいてシチジリルトランスフェラーゼ 反応によりCDP化されたのち,ホスホトランスフェラーゼ反応に よりジアシルグリセロール骨格に取り込まれてPCおよびPEとな る.また,ホスホエタノールアミン(P-Etn)は3段階のメチルト ランスフェラーゼ反応によりホスホコリン(P-Cho)となるため,

EtnもPC合成の前駆体となりうる.CK,  コリンキナーゼ;CCT,  ホスホコリン:コリンシチジリルトランスフェラーゼ;CPT,  CDP-コリン:コリンホスホトランスフェラーゼ;EK, エタノール アミンキナーゼ;EPT, CDP-エタノールアミン:エタノールアミ ンホスホトランスフェラーゼ;PECT, ホスホエタノールアミン:

エタノールアミンシチジリルトランスフェラーゼ;PMT, ホスホ ベースメチルトランスフェラーゼ.   

図3 を特異的に標的とする人工マイクロRNA配列

( )を茎頂で特異的に発現させて早咲きとなった形 質転換シロイヌナズナ(写真左)と野生株(写真右)   

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することが知られている.そこで,FAD3を構成的に発 現した形質転換植物の花成時期を調べたところ,野生株 に比べて顕著な遅咲きが見られた.この植物体ではFT の機能は損なわれていないので,FTの親和性が弱いリ ノレン酸を含むPCが増加したため,PC結合によるFT の活性化が弱まったことが考えられる.

以上のような実験結果から,FTタンパク質は茎頂に おいて日周変動するPCと結合することにより花成を促 進するという新しいモデルが提唱された(図4

おわりに

上述のように,PC‒FTの結合が花成に及ぼす影響の 知見は,FTによる花成制御のメカニズムの理解に新た な概念を与えるものであると言える.しかしながら,こ れにより更なる疑問も浮上する.PC‒FTの結合は細胞 内のどこで起こり,FTの機能をどのように制御するの であろうか.前述のようにPCは生体膜の主要成分であ り,細胞内小胞などの構成成分にもなる.FTは葉から 茎頂に長距離移動し,最終的には核内において お よび の発現を誘導する.したがって,PCとの結 合はFTが標的細胞の核に到達する過程での膜交通でガ イダンスの役割を果たしたり,小胞輸送に関与している 可能性も考えられる.また,PC‒FTの結合は で は特異的に示されたものの, での特異性や結合

のキネティクスは不明である.また,PCはさまざまな リパーゼの作用により脂質シグナル分子を産生すること が知られているため,こうした微量脂質分子が花成制御 の役割を担っている可能性もある.PEBP/RKIPは当初 PEと特異的に結合するタンパク質として単離されたも のの,後に複数のリン脂質分子と結合する可能性が指摘 されている.したがって, での結合実験のみに よってFTはPCと でも特異的に結合すると考え るのはいささか性急である.植物サンプルからの共沈実 験や複合体の結晶構造の解明などを明らかにすること で, での結合とそのメカニズムを明らかにする ことが急務であるといえる.さらには,リン肥料とリン 脂質,花成との関係も興味深い.リン酸肥料は古くから 花成および結実を惹起することが知られている.リン酸 はPCを含むリン脂質の構成成分であるため,リン酸肥 料の追肥はリン脂質量の増加をもたらす可能性がある.

こうした変化がPC‒FT結合を通して花成促進に影響す るかどうかを明らかにすることは農学上,今後の重要な 課題であろう.

文献

  1)  Y.  Nakamura,  K.  Kobayashi,  M.  Shimojima  &  H.  Ohta: 

The  Chloroplast  (Rebeiz,  CA  ed)   Advances  in  Photo- synthesis and Respiration, Vol. 31, Springer, 2010, 185.

  2)  Y. Nakamura, N. Z. W. Teo, G. Shui, C. H. L. Chua, W.-F. 

Cheong,  S.  Parameswaran,  R.  Koizumi,  H.  Ohta,  M.  R. 

Wenk & T. Ito:  , 203, 310 (2014).

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  6)  Y.  Yoshida,  N.  Takada  &  Y.  Koda:  ,  51, 1341 (2010).

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Williams,  X.  Wang  &  R.  Welti:  , 3,  49  (2012).

  8)  Y. Nakamura, F. Andrés, K. Kanehara, Y.-c. Liu, P. Dör- mann & G. Coupland:  , 5, 3553 (2014).

  9)  礒部俊明,中山敬一,伊藤隆司: 分子間相互作用解析ハ

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10)  J. Mizoi, M. Nakamura & I. Nishida:  , 18, 3370  (2006).

11)  Å. Ekman, L. Bülow & S. Stymne:  , 174, 591  (2007).

図4PC分子種の日周変動とフロリゲンFTタンパク質への結 合性の違いに基づく花成制御のモデル

明期に豊富なPC分子種は不飽和度の低いアシル基をもち,FTと の結合性が高い.しかし,暗期に豊富なPC分子種は不飽和度3の リノレン酸を含み,FTとの結合性が低い.PC‒FT結合は花成を 促進すると考えられるので,FTタンパク質の量が極大となる明 期の終わりにはFTとの結合性が高いPC分子種が豊富に存在する ことになる.   

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プロフィール

中村 友輝(Yuki NAKAMURA)

<略歴>2002年東京工業大学生命理工学 部生体機構学科卒業/2007年同大学院生 命理工学研究科博士課程修了/同年日本学 術振興会海外特別研究員(テマセック生命 科学研究所,シンガポール)/2009年シン ガポール国立大学ポスドク/2010年フン ボルト財団フェロー(マックスプランク植 物育種学研究所,ドイツ)/2011年アカデ ミアシニカ植物及微生物学研究所助研究 員/2013年国立中興大学客員助理教授/

2015年同副研究員および欧州分子生物学 機 構(EMBO) 若 手 主 任 研 究 員<研 究 テーマと抱負>植物の脂質多様性に関する 研究<趣味>ピアノ演奏,クラシック音楽 鑑賞,旅行<所属研究室ホームページ>

h t t p :// i p m b . s i n i c a . e d u . t w / i n d e x . html/?q=node/972&language=en

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.429

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