細胞損傷タンパク質パラスポリンを通して見るCryタンパク質
の可能性
誌名
誌名
蚕糸・昆虫バイオテック = Sanshi-konchu biotec
ISSN
ISSN
18810551
著者
著者
早川, 徹
酒井, 裕
巻/号
巻/号
77巻3号
掲載ページ
掲載ページ
p. 205-210
発行年月
発行年月
2008年12月
農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat
蚕糸昆虫バイオテック77(3)、205-210(2008) SANSHI-KONCHU BIOTEC
←
特
集
1
.
1
:
.
l
d
j
;
究 の 最 前 蜘
│
細胞損傷タンパク質パラスポリンを通して見る
Cry
タンパク質の可能性
早 川 徹
*
酒 井 裕
岡山大学大学院自然科学研究科
はじめに
Baci/lus thuringiensisは芽胞形成期にタンパク質結晶 (クリスタ lレ)を産生するが(図 1),クリスタルの主成 分である Cryタンパク質の中には様々な細胞損傷活性を 示 す も のがある。パ ラ ス ポ リ ン (Parasporin)はB thuringiensis及び近縁の細菌が産生するCryタンパク質 のうち,溶血活性を待たないが,ガン細胞に選択的な細 胞損傷活性を示すものと定義され, Cryタンパク質の中 でも特に新しいタイプのものとして注目されている。 Cryタンパク質の命名と分類はトキシン命名委員会 (http://www.lifesci.sussex.ac.uk/home/Neil_Crickmore/Bt1) が担っており,リストには現時点でも400以上ものCry トキシンが55種のグループ (Cryl~ 55)に分類されて いる。また,非特異的な活性を示す30近いCytトキシ ンも加わっており,これからもその数は増えていくと考 えられる。リストに記載されている Clyタンパク質の半 分近くは鱗題目毘虫(蝶や蛾など)に活性老示す殺虫毒 素である。 とれは農薬の標的となる重要な畑作害虫の多 くが鱗麹目昆虫に属するため,それを対象とする毒素の 研究が精力的になされたことによると考えられる。実際, 受容体の同定などを含む作用機構に関する研究は鱗麹目 毘虫特異的な殺虫毒素Cryl等在中心に強力に推し進め られている。一方, Cryタンパク質の活性は多岐に渡り, 中には鱗題目毘虫以外にも蚊,ハエなどの衛生害虫が属 する双題目やコガネムシ ハムシなどの鞘題目毘虫,さ らには線虫に活性を示すものなど様々な標的を持つこと *干700-0082 岡山市津島中3-1-1 連絡先:hayakawa@biotech.okayama-u.acj.p が明らかになっている。特に興味深いのは, 最近,殺虫 スペクトルの明らかでないCryタンパク質の中から人の ガン細胞に対して特異的な細胞損傷活性を示すパラスポ リンが見つかっていることである。様々な活性を示す Cryタンパク質が存在することは ,B.thw・ingiensisが, そしてCryタンパク質がどのように進化してきたのかっ という難解な疑問をさらに複雑化するものであるが,同 時に Cryタンパク質が持つ潜在的な可能J性を示唆するも のでもある。 本稿ではCryタンパク質の中でも新しいタイプである パラスポリンについて紹介するとともに, Cryタンパク 質が潜在的に持つ可能性について考察する。なお,Cry タンパク質の構造や機能に関しては,詳しい解説を部分 的に省略するが,それらについては他の解説書IiBacillus thuringiensis殺虫蛋白質の科学Jj(大庭道夫,堀秀隆,酒 井裕編,アイピーシー)を参照されたい。1
.
ガン細胞損傷活性を持つ Cryタンパク質,パ
ラスポリン
一般的にCryタンパク質は生物学的 ・生化学的な性質 の違いから大きく 2種に分類でき,それぞれCryトキシ ン及びCytトキシンと呼ばれている。 Cryトキシンは高 い殺虫特異性を示す毒素であり,プロトキシンの大きさ で70kDa型と 130kDa型に細分されるが,活性化され ると何れも大きさ約6
0
ゆ aの,プロテアーゼ耐性を示 す活性化ペプチドとなる(図 2)。この活性ペプチドは 分子内切断によってセグメントに分かれている場合もあ る。一方, Cytトキシンは大きさ 25-30kDa程度の毒素 であり, Cryトキシンとは全く異なる構造を持っている。 Cytトキシンの標的はCryトキシンと異なり,哨乳類宅E 酬 米 ・ 岡 田 二 、 ﹁ 斗 J W , い ¥ 山 川 く O 吋 吋 Z0 ・ωSANSHI-KONCHU BIOTEC Vo
.
l
77No.3含む脊椎動物や毘虫などの無脊椎動物を問わず非特異的
な活性を示す
(Crickmoreet a.
l
,
1998)。
パラスポ
リ
ンは
,
B
.
t
h
u
r
i
n
g
i
e
n
s
i
s及び近縁の細菌が産
生する
Crγタンパク質の中で溶血活性を待たないが
,
ガ
ン細胞に選択的な細胞損傷活性を
示すもの
と
定義され
る
。
Cryタンパク質の中で
、
は
Cytトキシンも晴乳類由
来
の培養細胞に毒性を示すが
,
ガン細胞に対する特異性と
いう点で、パラスポ
リ
ンとは異なるため同じグル
ー
プとは
考えられていない
(Mizukiet a.
l
,
2000)。
パラスポ
リ
ン
としての活性を示す
Cryタンパク質はこれまでに
4種類
が報告され
(http://parasporin白tc.pref.fukuokaj
.
p/in仕o.h加 1),
パラスポリン 1 ~4 と命名されているが,同時にパラスポ
リ
ン
1: Cry31,
パラスポ
リン
2: Cry46,パラスポリ
ン
3: Cry41,パラスポリン
4: Cry45として
Cryタンパ
ク質としての命名もされている
。
2
.
パラスポリンー構造の多様性と類似点一
4種類のパラスポリンは,ガン細胞損傷活性というあ
る意味で類似した活性を共有するにも関わらず,パラス
クリスタル
芽胞
図1
.
B
.
t
h
u
r
i
n
g
i
e
n
s
i
s
subsp.s
o
t
t
o
T84AIが産生する芽胞と
ク
リス
タ
ル
ポ
リ
ン一般に共通する構造的な特徴は見
つか
っていな
い
。
むしろアミノ酸配列上では他の
Cryト
キシンや
Cytト
キシンどころか
,
異なるグ
ルー
プのパラスポ
リンとも
低い相向性しか示さず,活性化のパタ
ー
ンにも類似性が
ない(図
2)。例えばパラスポ
リ
ン
I(Cry3IAaI
)
のプ
ロトキ
シンは
81kDaであり,プロテアーゼによるプロ
セッシングを受けて部
分分解され
,
さらに分子内切断を
受けて
15kDa (S94_R231)と
56ゆa (M232-S723)のサブ
ユ
ニットが形成される
。
15ゆ aと
56kDaのペプチ
ド
は活
性分子の精製過程で挙動を共
Lこするととからヘテロダイ
マ
ー
を 形 成 す る と 考 え ら れ て い る
(Katayal11aet a.
l
,
2005)。一
方
,
パラスポリン
2(Cry46Aal)は
37kDaの
プロ
ト
キシンを持ち,プロテア
ー
ゼによるプロセッシン
グを受けると
N末端と
C末端両方のペプチ
ド
が除かれ
て
30kDaの活性化ペプチ
ドに
なる
(Kitadaet a.
l
,
2006)。
パラスポリン
3(Cry4IA)の場合,プロ
トキ
シンはパラ
スポリン
lと類似の
88kDaで
,
活性化さ
れ
ると
N末端
側のペプチドが除かれて
64kDaの
活性
化
ペプチドにな
る
(Yal11ashitaet a.
l
,
2005)。
パラスポリン
4(Cry45Aa)のプロ
ト
キシンはパラスポリン
2と類似の
30kDaであ
るが
,
活性
化され
ると
C末端
側
のペプチ
ドが
除かれて
27ゆaの活性化ペプチドになる
(Okul11uraeta,
.
l
2005)。
プロ
ト
キシン及び活性化ペプチドの大きさから考える
とパラスポリン
l及び
3は
Cryト
キシン型となる
。
アミ
ノ酸配列上の相向性
自体は
低いものの,
Cryト
キシン聞
で
高度に保存されているブ
ロック配列
(Block1-5)に類
似する配列がパラスポリンの
l及び
3でも見つかるため
(
図
2),
Cryトキシンと同様な
3つ
の
ドメイジ(I
~ III)Cry4Aa
(
1
3
0
kDa)
2o kDa
,
45 kDa
Cry11Aa
(
7
0
kDa)
P
a
r
a
s
p
o
r
i
n
-
1
(
8
1
kDa)
P
a
r
a
s
p
o
r
i
n
・2
(
3
7
k
D
a
)
P
a
r
a
s
p
o
r
i
n
聞3
(
8
8
kDa)
│
1
-
111
1
1
1 1
36 kDa
,
32 kDa
│ 1
1
ι
1
15 kDa
,
56 kDa
│ 1
1
・
・
1 1
1
3o kDa
│ │ I
I
64 kDa
ll
・
・
・
1 1
27 kDa
Paraspor
i
n
-
4
││
(
3
1
kDa)
図2パ
ラスポリンの活性化
ペプ
チド
日
・
活性
化
ペプチ
ド 日:
プロセッシングによって除かれる領域
l
:
分子内切断が起こるサイ
ト
1
:
ブロック配列
206HeLa細胞(ヒト子宮頚ガン細胞)に投与しでも細胞膜 上に小孔が形成されたことを示す細胞内lactated巴hydro -genase (LDH)の漏出やpropidiumiodid巴 (pI)の流入は 観察されず,代わりに細胞外 Ca2 +の細胞内への涜入や 続く caspase-3の活性化, PARPの断片化などアポトー シスに特徴的な現象が観察される。これはパラスポリン lが小孔形成ではなく, Ca2 +の細胞内流入を引き金とす るアポトーシスによって標的細胞を殺すことを示してい る (Katayamaet a,.l2007)。パラスポリン lに小孔形成 能がない,もしくは小孔形成能があっても HeLa細胞上 の特異的受容体との結合ではそれが発揮されない可能性 も考えられるが,詳細は不明である。 パラスポリンlが標的細胞にアポトーシスを誘導する ことは Cryタンパク質の中では珍しい現象であるが,常 識的に考えればそれほど不思議なものでもない。つまり, 一般的に細胞表面には情報伝達に関わる様々な膜タンパ ク質が存在しており, Cryタンパク質の結合が何らかの シグナルを細胞内に発信する契機になることは十分に想 定される。実際に Cryトキシンの結合が細胞死に向かう シグナルトランスダクションの引き金になる例も最近に なって報告されている。例えば イラクサキンウワパ由 来の培養細胞,High five細胞において,鱗題目特異的殺 虫毒素 CrylAbの受容体と考えられるカドヘリン様タン パク質 (Bt-R)を発現させた場合, CrylAbが細胞表面 に提示されたBt-R1に結合すると細胞の Gタンパク質が 活性化され,続いて adenylylcyclase/proteinkinaseA経路 を介した細胞死が誘発されると報告されている (Zhang el al, 2006) 0 Cryトキシンと毘虫種の組み合わせによっ てはパラスポリンlと同様の作用を引き起こしているも のがあるかも知れない。 一方,パラスポリン 2は小孔を形成する毒素と考えら れる。パ ラ ス ポ リ ン 2 (Parasporin-2Ab)を 投 与 し た で構成される高次構造を持つと考えられる (Mizukiet a 2000 ,.l ; Yamashitaet a 2005),.l 。ちなみに Cryトキシン はドメイン
I
の αヘリックス領域が貫入して標的細胞膜 上に小孔を形成すると考えられているため,小孔形成毒 素 (Pore-formingtoxin, PFT)の分類においてかPFT(図 3)に分類される (Parker&
Feil, 2005)。 一方,パラスポリン 2及び 4のプロトキシン及び活性 化ペプチドの大きさは CryトキシンよりもCytトキシン に類似している。 Cytトキシンは0
バレルに基づいた小 孔形成を行うと考えられており, Cryトキシンの α-PFT に対して s-PFT(図 3)と呼ばれている (Parker&
Feil, 2005)。実際パラスポリン2及び4は Cytトキシンと低 い相向性しか示さないものの,他のs-PFTとの類似性 が報告されている。例えばパラスポリン 2Abはグリー ンヒドラ (Chlm叫'ydraviridissima)由来のs-PFTである hydralysinと約40%と い う 比 較 的 高 い 相 向 性 を 示 す (Hayakawa et a,.l2007)。またX線結晶構造解析の結果, パラスポリン4と 38%の相同性を示す 26kDaタンパク 質(図 3)がウェルシュ菌 (ClostridiulI1perfringens) 由 来の s-PFT,Eトキシンと極めて類似した構造を持つこ とが示されている (Akibaet a.l, 2006)。パ
ラスポリンの作用
機構
パラスポリン !と 3は殺虫性の α-PFTである Cryト キシンと類似する構造を持ち パラスポリン2と4は s-PFTに類似性を示す。よって構造に違いがあるが,パ ラスポリンはすべて小孔形成という同様な作用機構を示 すと考えられる。しかし実際の作用機構についてはパラ スポリン lと2でまったく異なる結果が得られている。 構造の類似性からパラスポリン lは Cryトキシンのよ うにドメインI
の αヘリックスに依存する小孔形成を行 なうと予想される。しかし,パラスポリン lを感受性の3
.
8
・PFT
α
-PFT
酬米・周 回 二 、 六 斗 山 市 , ぃ L V く O 吋 吋26kDa
C
y
t
2
A
a
Cry4Aa
z o ω 図 3.Cry蛋白質に属する α-PFT及びs-PFTの精造 Crγ4Aa, Boonsermet al. (2006) ; Cyt2Aa, Lietal.(1996) ; 26kDa, Akibaetal.(2006)より引用改変SANSHI-KONCHU BIOTEC Vo
.
l
77 NO.3 MOLT-4細胞(ヒト白血病ガン細胞)では,投与後
1時間で縮胞の膨張や核の凝縮が観察される(図
4)。また
パラスポリン
2 (Parasporin問2Aa)在日
epG2細胞(ヒト
肝臓ガン細胞)に投与すると細胞膜上に小孔が形成され
たことを示す細抱内
LDHの漏出や
PIの流入が観察され
る
(Kitadaet a,
.
l
2006) 0 HepG2細胞ではそれ以外にもパ
ラスポリン
2を低濃度で投与した場合でのみ
caspase陶3や同
7の活性化が観察される
Otoet a,
.
l
2004)。またパラ
スポリン
2と類似の
29kDaタンパク質が
Iurkat結胞(ヒ
ト白血病ガン細胞)にアポトーシスを誘導することも報
告されている
(Amanoet a,
.
l
2005)。これらはパラスポ
リン
2が小孔形成とアポトーシス誘導というこつの細胞
損傷メカニズムを有する可能性老示唆している。恐らく
はこの場合も標的となる細胞種によって若干異なる作用
を持っているかも知れない。
4
.
パラスポリンは何処から来たのか?
パラスポリンと殺虫性
Cryトキシンは各々異なる細胞
種を標的とし,構造的にも低い類似性しか示さない。し
かしすべてのパラスポリンがCl
yトキシンとしての名前
も持っていることから判るように,パラスポリンと
Cryトキシンには共通する特徴がある。
ば,パラスポリンも
Cryトキシンも
B.thuringien -sisが芽抱形成する際にクリスタルの形で産生され,昆
虫幼虫の消化液と同様のアルカリ牲の条件下で可溶化す
る。クリスタル中でトキシンはプロトキシンの状態で存
をしており,活性化にはフロテアーゼによる部分消化が
必要である。また双方とも高い特異性を示すことから標
的細砲膜上の特異的な受容体が活性発現に関与すると考
えられる。これらの共通する特徴の存在は,両者が同じ
グ、ループ。のタンパク質であることを明確にしており,違
いは標的認識に関わる部分だけである可能性を示唆して
h
A Olhr
パラスポリン
2AbBSA
箇4.パラスポリン
2Abを投与した
MOl下4細飽の経時的変化
Hayakawa et al. (2007)より引用改変
208いる。
もともと
Crγトキシンは標的認識に関して多様性が観
察される毒素である。例えば
Cryトキシンでは,受容体
の結合
l
こドメイン
E
のルーフ領域が関与すると考えられ
ているが,結合部位としてはループ
lやループ
2,ルー
プ
3,
0.8ループなど分子表面に露出すると考えられる
様々な領域が候補になっている。また,それ以外にドメ
イン皿を介して
N-アセチルガラクトサミンを含むタン
パク質糖鎖と結合するトキシンも存在する。結合先とな
る受容体についてもカドヘリン様タンパク質やアミノペ
プチダーゼ
N,アルカリフォスファターゼ
¥P252など
膜タンパク質や糖脂質など,毘虫幼虫中腸上皮組織の原
IJ子縁膜上に局在する様々な分子が候補となっている。
興味深いことに, C
l
yトキシンについて報告された受
容体結合部位と標的細胞膜上で見つかる受容体候補の組
み合わせが
Cryトキシンの種類と昆虫種との組み合わせ
によって異なる場合がある。また,感受性を示さない毘
虫幼虫の中腸刷子縁膜からも
Cryトキシンと親和性を示
す膜タンパク質が見つかることが多い。これらのことは,
Cryトキシンの様々な領域が受容体結合部位として機能
する可能性を示しており,それと結合親和性老示す標的
細抱膜上の膜タンパク質や脂質は受容体として機能しう
ることを示唆する。乱暴な言い方在すれば,
Cryトキシ
ンは,連切な条件下で結合できるものが細胞膜表面に存
在しさえすれば細胞損傷活性を発指できるのかも知れな
い。そう考えればパラスポリンと
Cryトキシンの違いは
Cryトキシンのグ、ルーフ。内で見られる多様性の極端な例
と言えるのかも知れない。
以前は ,
B. thuringiensisの産生する
Cryタンパク質は
すべて殺虫活性を示し ,
B. thuringiensisや
Cryタンパク
質も昆虫と共に進化・選抜されてきたと考えられた。し
かし ,
B. thuringiensisの産生する
Cryタンパク質の中に
3hr
6hr
1
2
h
r
することで殺虫特異性が改変・拡張できることが報告さ れている CAbdullahet a,.l2003)。 パラスポリンに関する研究はそれ自体大きな意義と可 能性を持つものである。この分野の研究が進めばガン細 胞のターゲテイングが可能となり,実際のガン治療や診 断などに利用することも可能になるかも知れない。さら にCryトキシンとの構造の類似性を残しながら全く異な る特異性や作用を示すパラスポリンの存在は, Cryタン パク質全般の機能構造を理解する上で格好の比較対象に なると考えられる。 州 問 米 ・ 田 川 町 二 、 ぺ U 斗 山 ? に 山 U く O 吋 吋 Z0 ・
ω
石渡繁胤, (190]),劇烈なる一種の軟化病(卒倒病)に就て, 大日本蚕糸会報, 114, 1-5.Abdullah, M. A..,FAlzate 0., Mohammad M., McNall R.,.1 Ad-ang M. J. and Dean D. H. (2003) Introduction ofCulιx toxicity into Bacillus thuringiensis Cry4Ba by protein engineering.Appl Enνiron. Microbiol. 69,5343-5353 Akiba ,T.Higuchi K., Mizuki E., Ekino K., ShinT.,Ohba M., Ka -nai R. and Harata K. (2006) Nontoxic crystal protein fromBacil -lus thuringiensis demonstrates a remarkable structural similarity to beta-pore-fonning toxins. Proteins, 63, 243-248
Amano H.,Yamagiwa M., Akao ,T.Mizuki E., Ohba M. and Sakai H. (2005) A novel 29-kDa crystal protein fromBacillus thuringi -ensis induce caspas巴activationand cell death of Jurkat T cells. Biosci. Biotechno.lBiochem. 69, 2063-2072. Boonsenn, P., Mo M., Angsuthanasombat C. and Lescar1.(2006) Structure of th巴functionalform of the mosquito larvicidal Cry -4Aa toxin fromBacillus thuringiensis at a 2.8-angstrom resoltト tion.J.Bacteriol. 188,3391-3401. Crickmore N Zeigl巴rD. R., Feitelson J., Schnepf E., Van Rie J.ラ Lereclus D., Baum J. and Dean D. H. (1998) Revision ofthe no -m巴nclaturefor the Bacilllls thuringiensis pesticidal crystal pro同 tein. Microbio.lMol. Bio.lRev., 62, 807-813
Katayama H., YokotaH.ヲAkaoT.,Nakamura O.ラOhbaM., Mekada E. and Mizuki E. (2005) Parasporin-l, a novel cytotoxic protein to human cells from non-ins巴cticidalparasporal inclusions of Bacilllls thuringien幻s.J Biochemラ137,17-25
Katayama H., Kusaka Y.,Yokota H., Akao T., Kojima M., Nakamlト ra 0., Mekada E. and Mizuki E. (2007) Parasporin田1,a novel cy -totoxic protein丘omBacillus thuringiensis, induce Ca2
+ influx and a sustained elevation of th巴cytoplasmicCa2+ conc巴ntration in toxin-sensitive cells.J Biol. Chem, 282, 7742-7752
Kitada S., Ab巴Y.,Shimada H., Kusaka Y.,Matsuo Y.,Katayama H., Okumura S., Akao ,T.Mizuki E., Kuge 0., SasaguriiにOhbaM. and Ito A.,(2006) Cytocidal actions of Parasporin-
乙
ananti-tu -mor crystal toxin from Bacillus thuringiensis. J Biol. Chem, 281,26350-26360Hayakawa ,T.Kanagawa R.,KotaniY.,Kimura M., Yamagiwa M., Yamane Y.,Takebe S. and Sakai H., (2007) ParasporiJト2Ab,a newly isolated cytotoxic crystal prot巴111会omBacillus thuringi -ensis. Cun: Microbiol. 55,278-283
Kondo S., Mizuki E., Akao T.and Ohba M., (2002) Antitrichomo -nal strains ofBacillus thuringiensis. Parasito
古 田 文 献
は殺虫活性などが暁らかでないものが多く COhbaand Aizawa, 1986),また,パラスポリンのような新規な活性 を示すCryタンパク質が見つかるにつれて ,B. thuringi -ensisが昆虫とは無関係に独自の進化を遂げてきた可能 性も考えられるようになっている。 パラスポリンは如持にして生まれたか? この問題の 答えは現時点で得ょうがなく 様々な考え方ができると 思う。パラスポリンのように昆虫と無関係な活性老示す Cryタンパク質が自然環境中に広く散在していることは たしかにB.thuringiensisが毘虫とは関係なく,独自の戦 略と方向性を持って進化してきたことを示唆するもので ある。しかし,パラスボリンが持つ「アルカリ条件下で 可溶化J
,1
プロテアーゼによる活性化が必要」などの特3 徴は,毘虫との関連性があってもガン細抱とは無関係と 思われ,パラスポ1)ンと昆虫との深い関係を示唆するも のである。 B.thuringiensisは生き残り戦略として多様な Cryタンパク質を産生するシステムを持ち,その中から たまたまガン細胞に特異的な毒素が克つかっただけとい うことも考えられる。パラスポリンを通して見る
Cry
タンパク質
の可能性
5
.
近年,殺血スペクトルが明らかでないCryタンパク質 の中から昆虫以外の生物に対する新規の活性在発克しよ うとする試みが活発に行なわれている。本稿で紹介した パラスポリン以外にも病原性原生動物であるトリコモナ スに活性老示すB.thUl・ingiensisが見つかっているCKondo et a,.l2002) 0 B. thuringiensisの産生する Cryタンパク質 が上述のような戦略を持つのであれば,スクリーニング の戦略や方法次第で,今後も様々な活性を持つ新規Crγ タンパク質が見つかると考えられる。 また,今後,パラスポリンの分野でも遺伝子組換え技 術を用いたトキシン分子の改変が試みられるようになる と考えられる。特に本稿でも紹介したパラスポリン 1や 3は, 3つのドメインで構成される典型的な殺虫性Crγ トキシンと比較的似た構造を持ち,遺佳子の改変も比較 的容易と考えられる。つまり,特異性や機能などが異な るパラスポリンもしくはCryトキシンは受容体への結合 部位などの機能構造もそれぞれ異なっているはずであ る。しかし,お互いに基本骨格が類似しているのであれ ば,全体の構造を損なわずにその機能構造自体を交換も しくは改変できる可能性がある。似たようなことはCry トキシンにおいて一般的に行なわれており,ある Cryト キシンの受容体結合に関与すると考えられるドメイン H のループ構造を異なる特異性を持つCryトキシンに導入SANSHI-KONCHU BIOTEC Vol.77 NO.3 1092. LiJ, Pandelakis AK, Ellar DJ (1996) Structure ofthe mosquitocidal d-endotoxin CytB合omBaci/lus thuringiensis sp
か
ushuensis and implications for membrane pore formation.J.Mol. Biol 257, 129-152 Mizuki E., ParkY. S., Saitoh H., Yamashita S., Akao T.,日iguchiK and Ohba M. (2000) Parasporin, a human leukemic c巴ll-recog -nizing parasporal protein of Bacillus thuringiensis. Clin. Diagn. Lab. 11I1l11unol.7, 625-634Ohba M. and Aizawa K.(1986) Insect toxicity of Bacillus thuringi -ensis isolat巴dfrom soils of Japan.J.Invertebl: Pathol. 47, 12-20. Okumura S., Saitoh H., Ishikawa T., Wasano N., Yamashita S.,
Kusumoto K., Akao T., Mizuki E., Ohba M. And Inouye K., (2005) Identification of a nov巴1cytotoxic protein, Cry45Aa,企om
210
Bacillus thuringiensis AI470 and its selectiv巴cytotoxicactivity against various mammalian cell lin巴s.J.Agric. Food Chell1.53,
6313-6318 Park巴rM. W. and Feil S.