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RNA代謝に関与するタンパク質CDK12、Brr2およびeIF4A3を標的とした選択的阻害剤の発見

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Academic year: 2021

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(1)

RNA代謝に関与するタンパク質CDK12、Brr2および

eIF4A3を標的とした選択的阻害剤の発見

著者

伊東 昌宏

18

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

生第33号

URL

http://hdl.handle.net/10097/00129512

(2)

東北大学第65号

博士論文内容の要旨及び

審査結果の要旨

生 命 科 学 第 18 集(論文博士)

(令和2年度授与)

東 北 大 学

令 和 2 年 度

(3)

氏 名

学 位 の 種 類

学 位 記 番 号

学 位 授 与 年 月 日

学 位 授 与 の 要 件

博士論文審査委員

いとう まさひろ

伊東 昌宏

博士(生命科学)

生第 33号

令和2年8月13日

学位規則第4条第2項該当

RNA 代謝に関与するタンパク質 CDK12、Brr2 および eIF4A3

を標的とした選択的阻害剤の発見

(主査) 教授 有本 博一

教授

佐々木 誠

教授

石川 稔

(4)

論文内容の要旨

<緒言> 転写直後の mRNA 前駆体は、そのままタンパク質翻訳に用いられる訳ではなく、プロセシングによ る成熟を必要とする。RNA 転写後のプロセスはタンパク質の発現制御において転写と同様に重要なステ ップであり、転写後プロセスの異常は、癌や様々な疾患の原因となる。したがって、転写後プロセスを 調節する低分子化合物の探索や創薬展開は重要と考えられる。筆者は、3種のタンパク質に対する選択 的阻害剤の探索に取り組んだ。本論文では、この成果を五章に分けて論述する。まず、第一章では、緒 言として RNA 代謝に関するこれまでの研究をまとめ、医薬品開発の標的バリデーションの視点からケ ミカルプローブの必要性について論じた。第二章では、Cyclin-dependent kinase 12 (CDK12) 阻害剤の発 見について、第三章では、Bad response to refrigeration 2 (Brr2) 阻害剤の探索に関して、第四章では、 Eukaryotic initiation factor 4A3 (eIF4A3) 阻害剤発見について述べた。最後に第五章では研究全体を総括し、 将来の研究展望を論じた。本研究で得られた阻害剤は、ケミカルプローブとして RNA 代謝に関する生 命科学のより深い理解に貢献し、また選択した標的タンパク質の創薬ターゲットとしての可能性を検証 するために用いられるであろう。 実際の研究成果を記載した第二章から第四章の要点を以下にまとめる。 <第二章> 選択的 CDK12 阻害剤、3-ベンジル-1-(trans-4-((5-シアノピリジン-2-イル)アミノ)シクロヘキシル)-1-ア リルウレア誘導体の発見 CDK12 は、RNA ポリメラーゼ II の C 末端ドメイン (CTD) をリン酸化するキナーゼの一つであり、 転写とスプライシングや 3’-end RNA プロセッシングの連携に寄与することが知られている。さらに、 CDK12 は DNA 損傷応答経路に関わる遺伝子の発現制御を通じて、ゲノムの安定性維持に関わっている。 様々な癌種で、CDK12 の機能に影響を与える変異が報告されており、それらの CDK12 変異は古典的な 抗癌剤や DNA 修復阻害剤 (PARP 阻害剤) に対する腫瘍の感受性を高めることが知られている。これら の事実は、CDK12 が臨床試験における癌患者の層別化のためのバイオマーカーとなり得るだけでなく、 CDK12 阻害薬が DNA 修復遺伝子の調節を通じて、癌細胞の合成致死を誘起する治療薬として働く可能 性を示唆している。 筆者は、CDK12 の癌治療薬標的としてのターゲットバリデーションを目的とし、ケミカルプローブ としても利用可能な選択的 CDK12 阻害剤の創出に取り組んだ。ハイスループットスクリーニング (HTS) により見出されたアミノピリジン誘導体 1 を起点とし、タンパク質の結晶構造情報や低分子 X 線結晶構 造のビッグデータである Cambridge structural database の配座情報を活用し、リンカー部分に特徴的なベ ンジルウレア構造を有する選択的 CDK12 阻害剤 2 を見出した。化合物 2 は、強力な CDK12 阻害活性と 転写制御 CDK に対する高い CDK12 選択性を示し、物性面でも優れていた。さらに、2 は SK-BR-3 細胞 において CTD の Ser2 のリン酸化の阻害、および同細胞の増殖阻害活性を示した。化合物 2 は、CDK12 のスプライシング、RNA プロセッシング、およびその他の生物学的役割を解明するための価値のある分 子プローブであると言える。加えて、これらの化合物は CDK12 阻害剤を化学療法薬として開発するた めの強力なリード化合物となる。

(5)

<第三章>

選択的 Brr2 阻害剤、4,6-ジヒドロピリド[4,3-d]ピリミジン-2,7(1H,3H)-ジオン誘導体およびスピロ[イン ドール-3,2’-ピロリジン]-2(1H)-オン誘導体の発見

Brr2 は、Ski-like RNA ヘリカーゼファミリーに属するタンパク質であり、スプライソソームを構成す る 5 つの核内低分子リボ核タンパク質 (snRNP) の一つである U5 の重要な構成成分である。Brr2 は、 U4/U6 snRNP の RNA 二本鎖を ATP 依存的に解くことで、U4 と U6 を引き離し、スプライソソームの活 性化に寄与する。Brr2 の変異は、常染色体優性の網膜色素変性症を引き起こすことが知られている。ま た Brr2 阻害剤はスプライシング変異を有する癌種に対して合成致死を誘導する薬剤となる可能性や AML 患者の白血病細胞膜上に発現した U5-Brr2 複合体をターゲッティングするのに利用できる可能性が ある。 筆者は、癌治療薬の標的としての Brr2 のバリデーションを目的とし、ケミカルプローブとしても利用 可能な選択的 Brr2 阻害剤の創出に取り組んだ。RNA 依存 ATPase アッセイを用いた HTS により、4,6-ジヒドロピリド[4,3-d]ピリミジン-2,7(1H,3H)-ジオン誘導体 48 およびスピロ[インドール-3,2’-ピロリジ ン]-2(1H)-オン誘導体 50 をヒット化合物として得た。まず化合物 48 を起点とし、共結晶構造解析および SBDD を駆使して構造単純化および末端芳香環の変換を行い、より強力かつ Brr2 選択的な阻害剤 60 を 見出した。次に、構造的に異なるヒット化合物 50 に関しても最適化を行い、インドリノン環へのフッ素 原子の導入、アシル基の最適化、エステル基のメチル基への変換により、さらに強力な Brr2 阻害活性お よび優れた選択性を示す化合物 89a および 90a を見出した。化合物 60、89a および 90a は、マイクロ モーラーからサブマイクロモーラーの化合物濃度で Brr2 のヘリカーゼ活性を阻害する。これらの化合物 は活性および選択性に優れるだけでなく、良好な物性プロファイルも示すことから、Brr2 の分子プロー ブ創出のための優れた出発点となり得る。筆者の見出した知見や化合物は上述した Brr2 を標的とした抗 癌剤研究の礎にもなると考えている。 <第四章> 選択的 eIF4A3 阻害剤、インドール-2-カルボン酸誘導体および 1,4-ジアシルピペラジン誘導体の発見 eIF4A3 は、DEAD-box RNA ヘリカーゼファミリーに属するタンパク質であり、成熟 mRNA のエクソ

ン-エクソン接合部に結合するタンパク質複合体 (EJC) の中核を担う。EJC は、mRNA のスプライシン グ、輸送、翻訳、およびナンセンス変異依存 mRNA 分解機構 (NMD) に関与することが知られている。 これらの EJC の役割の中でも、最も良く研究されているのは先に述べた NMD であり、siRNA を用いて EJC のコアタンパク質である eIF4A3 をノックダウンすると NMD が起きなくなることが報告されている。 筆者は、eIF4A3 の機能解明および癌や遺伝病の治療薬の標的としてのターゲットバリデーションを目 的とし、RNA 代謝における EJC の機能や NMD のプロセスを調査するためのケミカルプローブとしても 利用可能な選択的低分子 eIFA3 阻害剤の創出に取り組んだ。HTS によりインドール-2-カルボン酸誘導体 103 および 1,4-ジアシルピペラジン誘導体 104 をヒット化合物として見出した。まず、化合物 103 のイ ンドール環上にハロゲン原子を導入することにより eIF4A3 の ATPase 活性をサブマイクロモーラーの化 合物濃度で阻害する4置換インドール誘導体 120 を見出した。化合物 120 は、eIF4A3 選択的であり、 ATP 拮抗型阻害剤であることを明らかにした。化合物 120 は、細胞系アッセイで NMD 阻害作用を示さ なかったため、次にもう一つのヒット化合物 1,4-ジアシルピペラジン誘導体 104 の最適化に取り組んだ。 化合物 104 の二つのアシル基を最適化することで、細胞系で NMD を阻害する初の eIF4A3 阻害剤、ピラ ゾロピリジン誘導体 153a およびフェニルピラゾール誘導体 154a を見出すことに成功した。化合物 153a および 154a は、同じ eIF4A ファミリーの eIF4A1 および eIF4A2 だけでなく他のヘリカーゼに対して

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ATPase 阻害活性を示さず、高い eIF4A3 選択性を有していた。また 153a を用いた SPR バイオセンシン グアッセイにより、1,4-ジアシルピペラジン誘導体が非 ATP 結合サイトに結合していることを示した。 筆者が見出した化合物 153a および 154a は、eIF4A3 および EJC の機能や NMD の詳細なメカニズムを 研究するための分子プローブとなる。また、遺伝病や癌の治療薬を見出すためのリード化合物としての 利用価値も有している。

<総括と展望>

本研究の成果として得られた CDK12、Brr2 および eIF4A3 選択的阻害剤は、それぞれのタンパク質 の機能解析に加え、RNA 代謝の各ステップのメカニズムを解明するための有用な分子プローブとなり得 る。既に、eIF4A3 阻害剤に関しては、共同研究者の Aparicio 等により 153a および 154a を分子プローブ として利用した研究が報告されている。また、いずれの化合物も癌や遺伝病の治療薬として利用できる 可能性があり、創薬研究における優れたリード化合物となる。CDK12 および eIF4A3 阻害剤に関しては、 筆者の見出した化合物をリードとして用いた論文や特許が既に公開されている。研究開始時点では、い ずれのタンパク質に関しても選択的な阻害剤が全くなく、創薬標的としてのポテンシャルも明らかでは なかったことから、RNA 生物学の分野および RNA 代謝を標的とした創薬研究の分野の進展に貢献でき たものと考えている。

(7)

論文審査結果の要旨

遺伝情報の転写によって生じるRNA は,プロセシングによる成熟を経て,タンパク質翻訳に用い られる mRNA となる。この転写後プロセスはタンパク質発現制御に重要な役割を果たしており, がんを含む種々の疾患と関連している。伊東昌宏氏提出の博士論文は、化合物を用いて生命現象の 解明を進めるケミカルバイオロジーの観点から,RNA 転写後のプロセス制御に役立つ化学プロー ブの創出についてまとめたものである。 第一章では,化学プローブが医薬品開発における標的妥当性の検証に果たす重要性を論じ、併せて RNA 代謝の概要と関連研究について述べた。続いて、第二章では cyclin-dependent kinase 12 (CDK12)阻害剤の創製に取り組んだ。CDK12 は RNA ポリメラーゼ II をリン酸化するキナーゼで ある。CDK12 変異が一部の抗がん剤の効果を高めることから,CDK12 阻害剤は DNA 修復遺伝子 調節を介してがん細胞を殺傷する治療薬となる可能性を示唆している。ハイスループットスクリー ニングにより取得したシード化合物をもとに強い阻害活性と高いCDK12 選択性を有する阻害剤を 創製した。第三章では,Ski-like RNA ヘリカーゼファミリーに属する Brr2 タンパク質の阻害剤創 製について記述した。Brr2 はスプライソソームの活性化に寄与している。RNA 依存 ATPase アッ セイを指標に取得した化合物とタンパク質との共結晶構造解析をもとに SBDD 法によって構造最 適化を進めて高活性の阻害剤を創製することに成功した。

第四章では, eIF4A3 の選択的阻害剤の発見について記述した。eIF4A3 は成熟 mRNA の exon-exon

接合部に結合するタンパク質複合体EJC の中核的因子であり,EJC はナンセンス変異依存 mRNA

分解機構NMD に関与している。筆者はインドール-2-カルボン酸および 1,4-ジアシルピペラジンを 出発点として構造変換し,前者からeIF4A3 の ATPase 活性を阻害する化合物を創製した。この化 合物は培養細胞を用いた評価においてNMD を阻害しなかった。後者からは、ピラゾロピリジン誘 導体およびフェニルピラゾール誘導体を導いた。これらは同じeIF4A1 や 2 のみならず、調べた範 囲で他のヘリカーゼにATPase 阻害活性を示さない高選択的な阻害剤であることが判明した。 このように,3種類の重要なRNA 代謝関連酵素について世界初の低分子阻害剤が創製された。が んや遺伝病の治療薬開発の重要な研究ツールとなる。これらの研究は極めて先進的なものであり, 伊東氏が自立して研究活動を行うに必要な高度の研究能力と学識を有することを示している。した がって,伊東昌宏氏提出の論文は,博士(生命科学)の博士論文として合格と認める。

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