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公的年金制度の考え方と抜本改革の方向性.pdf

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9 章]これからの高齢者像

第8 章では、今日の高齢者像をいくつかの資料を用いて確認してきたが、この章では、「これから の高齢者像」を基本的には前章の項目に沿ってみてゆくこととする。

1 家計

(1)世代別の貯蓄/負債 前章では、今日の高齢者が家計のストック面で豊かであることを述べた。では、現役世代の家計ス トックの状況はどのようになっているのであろうか。 図9-1-1 と 9-1-3 は各年の『貯蓄動向調査』から、1997 (平成 9) 年時点の各世代の貯蓄および負 債のそれぞれが年収に対してどのように推移してきたかを表したものである。内容に入る前に、図の 見方を簡単に述べておく。この図は97 年時点の各世代の過去の年齢時点での数値をプロットしたも のである。例えば、図中の白抜き四角点を結ぶ折線「70 後」というのは 97 年に 70 代後半であった 世代の過去の各年齢時点の貯蓄 (負債) の年収比を示したものであり、例えば、横軸の「60 前」との 交点は、彼らが60 代前半だったとき、つまり、今から 15 年前の数値を表している。このようにする ことによって、今日の各世代の足跡を、世代毎に比較することができるようになる。 まず貯蓄をみると、60 代前半での貯蓄年収比が大幅に改善している。具体的には 97 年の 70 代後 半世代が60 代前半だったとき (つまり今から 15 年前) では、平均で年収の 2 倍弱だった貯蓄水準が、 この5 間で年収の 3 倍強まで増加している。この背景には、前章でみたとおり、退職金水準の増加 と、産業構造の変化による勤労比率の上昇があるものと思われる。一方で、現役世代の貯蓄年収比の 増加は60 代と比べて非常に少ないものとなっている。 ちなみに、年収の水準を時系列で比較したものが図 9-1-2 である。ここでは、年収の金額から名目 GNP の伸び、つまり、物価上昇とマクロの所得上昇、つまり所得増のうちの経済発展分をともに除 いたものである。ここから、どの世代でも過去と比べると年収は増加しており、なかでも40 代は他 (出典:貯蓄動向調査<総務庁統計局>) (図 9-1-1) 世代別貯蓄高年収比 (図 9-1-2) 世代別年収推移

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の世代より大きく年収が増加していることがわかる。 現役世代の貯蓄年収比の伸びが60 代と比べて低い理由の 1 つには、図 9-1-2 でみることができる とおり、分母にあたる現役世代の年収の伸びが60 代より高いことも一因ではある。しかし、その点 を考慮しても、60 代の貯蓄対年収比の伸びは 40 代よりも依然として大きい。次に、同じく負債をみ てみる。 図9-1-3 は、同様に世代別の負債年収比の推移である。ここでの負債は世帯平均値であり、「負債ゼ ロ」も含んでいる。世代が若くなればなるほど、負債年収比が悪化していることがわかる。特に、今 日の30 代後半から 40 代前半の世代は、過去と比べて悪化の度合いが顕著である。図 9-1-4 は、貯蓄 と負債を相殺した「ネット貯蓄」平均値と年収平均値との間の比率の推移である。ここからも、60 代 ではネット貯蓄が増加している反面、30 代後半から 40 代にかけては、逆に減少していることが把握 できる。 (出典:貯蓄動向調査<総務庁統計局>) (出典:貯蓄動向調査<総務庁統計局>) (図 9-1-3) 世代別負債年収比 (図 9-1-4) 世代別ネット貯蓄年収比 (図 9-1-5) 世代別住宅ローン残高推移 (図 9-1-6) 世代別住宅ローン保有率

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一般の世帯での負債の中心といえば、住宅ローンである。図 9-1-5 は、住宅ローン残高の年収に対 する比率、図9-1-6 は住宅ローンの保有率を同じくプロットしたものである。なお、ここでの「住宅 ローン残高」は「負債」と同様、「住宅ローンなし」の世帯も含んだ総平均である。 住宅ローンの残高は現在の50 代前半より若い世代で、過去と比べ増加が顕著である。一方、住宅 ローンの保有率自体は、全体的に増加はしているものの、残高ほどには増加はしていない。このこと は、とりもなおさず、住宅の単価が増加していることに加え、住宅ローンを組む際の条件が緩和され たこと (あるいは多額のローンを組むことへの抵抗感の減少) を意味している。 ちなみに、住宅ローン保有世帯のネット貯蓄年収比と、ローン残高年収比の世代毎の推移を同様に プロットしたのが図9-1-7、9-1-8 である。 データの系列が減少しているのは、住宅ローン保有世帯を独立させた統計が1980 (昭和 55) 年以降 しかないためである。住宅ローン保有世帯のネット貯蓄と年収との関係では、次のようなことがうか がえる。 イ)40 代前半より若い世代では昔から負債が貯蓄を上回っている ロ)40 代後半∼50 代前半は、過去と比べ大きな変化がないが、その他の世代は 30 代後半を中心に 昔と比べネット貯蓄が大幅に悪化している ハ)また、住宅ローンの残高と年収との関係では、40 代前半より若い世代は、昔と比べ年収比で 多額の住宅ローンを抱えている 第8 章でみたとおり、意識としては、高齢期の備えにおける「自助努力」への関心が高まっている が、過去と比べてこれだけバランスシートが悪化している今日の現役世代が、果たして十分な老後の 備えを築けるのであろうか。次に、世帯ベースのバランスシートの中で大きな影響を及ぼす住宅ロー ンをとりあげ、少し詳細にみてみたい。 (出典:貯蓄動向調査<総務庁統計局>) (図 9-1-7) 住宅ローン保有世帯のネット貯蓄 (図 9-1-8) 住宅ローン保有世帯の住宅ローン残高

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(2)住宅ローン イ)91 年と 97 年の 7−9 年目の数字が悪い 97 年時点での 7−9 年目というと 1988 (昭和 63) 年∼1991 (平成 3) 年に住宅を取得した層であ る。ちょうど、バブル期の地価高騰時と重なっており、当初のローン残高が高いため、現在の残高 も年収と比べると高くなっている、と考えられる。91 年時点での 7 年目も、1984 (昭和 59) 年の 地価高騰 (バブル期ほどではないが) 時にローンを組んだ層である。ちなみに、『93 年住宅統計調 査』(総務庁統計局) 上で、1988 (昭和 63) ∼1993 (平成 5) 年のバブル期に住宅を取得した世帯 を年齢別にみてみると、30∼40 代で全体の 2/3 を占めている。ただし、図 9-1-6 の住宅ローン保 有率のグラフにあるとおり、各世代とも1990 (平成 2) 年と 1995 (平成 7) 年を比較すると、住 宅ローン保有率は概ね横ばい、ないしは微減となっていることから、バブル期に住宅を取得した層 は、過去と比べて、絶対数としては少ないとみられる。 図 9-1-9 は各年の『貯蓄動向調査』から、「持ち家 勤労世帯の持ち家取得後経過年数別、土地・住宅 関係負債残高と年収との比率」をプロットしたも のである。なお、ここにはリフォームなどのため のローンも含まれている。 ここで特徴的なのは、下記の2 点である。 イ)1991 (平成 3) 年と 1997 (平成 9) 年の 7−9 年目での数字が6 年目までと比べ、悪化 ロ)97 年を他の時点と比べると、全体的に 悪化している中、特に1−5 年目までの 変化が顕著 この2 点について、簡単な分析を加えてみる。 図9-1-10 は、図 9-1-6 を過去 3 時点に絞って再掲 したものである。これをみると、1990 (平成 2) ∼1995 (平成 7) 年の間の住宅ローン保有率の変 化は 40 代以上の世代で減少しているのに対し、 30 代以下の世代では増加していることがわかる。 特に、30 代後半の増加幅が大きいのが目立つ。こ こから、住宅価格の高騰により、40 代以上の主に 一戸建てを中心とした 2 次取得需要が伸び悩んだ 反面、30 代以下の 1 次取得は過去と同じトレンド で発生したことがわかる。 (出典:貯蓄動向調査<総務庁統計局>) (出典:貯蓄動向調査<総務庁統計局>) (図 9-1-9) 経過年別住宅ローン残高 (図 9-1-10) 世代別住宅ローン保有率

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ロ)1997 (平成 7) 年時点での 1−5 年目の数字の悪化 97 年時点での 1−5 年目ということは、1992 (平成 4) 年から 1996 (平成 8) 年に住宅を取得した 層である。ここでの特徴は、バブル後の長引く不況により、バブル期に取得した土地の流動性が悪化 した結果、不動産会社が低価格を売り物にした 1 次取得者向けのマンションを大量に供給したことに 加え、記録的な金利の低下もあり、不動産購入者の裾野が広がったことにある。1995 (平成 7) 年と 1998 (平成 10) 年の住宅ローン保有率の変化を示したのが表 9-1-1 である。 20 後 30 前 30 後 40 前 40 後 50 前 50 後 60 前 95 年 14.9 18.7 37.3 36.7 42.7 42.6 38.0 29.4 98 年 14.8 24.1 35.2 50.4 42.7 39.3 31.4 19.0 差 ▲ 0.1 + 5.4 ▲ 2.1 + 13.7 + 0.0 ▲ 3.3 ▲ 6.6 ▲ 10.4 (出典:貯蓄動向調査<総務庁統計局>) ここからみて取れるとおり、30 代前半と 40 代前半両世代の住宅ローン保有率の増加が目立つ。ちな みに、この両世代の住宅ローン保有率は1980 (昭和 55) 年以降過去最高のものとなっていることか らも、足下の状況がちょっとした「ブーム」になっていることがうかがえる。 ここまでをまとめる。、 イ)バブル期は住宅価格の高騰により、2 次取得が中心の 40 代以上の需要が低迷したものの、1 次取得 の中心である30 代以下の層の需要は、30 代後半 (今日の 40 代前半) を中心に堅調に発生 ロ)近年の低価格マンションの大量供給により、30 代前半と 40 代前半の層の住宅取得が急速に進展 バブル期の取得による高い住宅ローン残高が高齢者の生活に与える問題は、彼ら (今日の 40 代前 半層) が 60 代となる 2015∼2020 年に問題となってくる。また、足下の低価格マンション取得の増 加による住宅ローン負債増は、これら1 次取得マンションをいくらで売って 2 次取得物件を購入する か、つまり、今後の住宅市況により、大きく状況が変わってくることとなるが、単純にいって、かつ てと比べて多くの層が住宅を取得し、住宅ローンを組んでいることから、彼らの老後に向けた貯蓄の 進捗は鈍るものと思われる。また、当然、年金の保険料負担能力も過去の同世代と比べ、住宅ローン 保有率が高まった分だけ、減少することとなると思われる。 (3)年齢別貯蓄高シミュレーション ここでは、住宅ローン保有世帯と非保有世帯の間の、貯蓄のストック・フローのデータを元に、今 日の各世代が 65 歳になったときの貯蓄高を計算してみる。なお、計算を単純化するために、下記の ような前提を置く。非常に単純な計算なので不備も多々あるが、1 つの尺度としてみてほしい。 (シミュレーション内容) 世代別の住宅ローン保有/非保有世帯それぞれにおける貯蓄残高と月々 の貯蓄繰り入れ額のデータに基づき、住宅ローン保有世帯のローン完済時の貯蓄高、および、債務残 がある場合の貯蓄高をそれぞれ住宅ローン返済期間を基準に、貯蓄を積み立ててゆく計算を行う。 (前提 1:持ち家比率と住宅ローン) ・世代別の持ち家率は、過去の実績から図9-1-11 内の数字のとおりに置く。なお、50 代以降は住宅 ローンの組みづらさを考慮し、横ばいとする ・世代間の持ち家比率の増分は、全て新規取得とし、その際に相続は考慮しない (表 9-1-1) 足下の世代別住宅ローン保有率の変化

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・新規の住宅ローン設定時の条件は、足下の都銀の標準設定条件に基づき、支払い期間 30 年、金利 は、足下の住宅ローン金利の実勢を考慮し3.5%、元利均等返済とする。ただし、支払い済年齢は 65 歳を上限とし、金利については全支払期間を通じた固定金利とする ・すでに住宅ローンを抱えている世帯の支払い残は、『1998 (平成 10) 年貯蓄動向調査』のデータか ら計算し、表9-1-2 のとおりとする ・住宅購入の際の貯蓄からの繰り入れ分は、『98 年貯蓄動向調査』のデータから、30 代:17%、 40 代:18%、50 代:14%とする ・一旦取得した住宅に生涯住むことを前提とし、買い替え、増築なども考慮しない ・住宅価格の変動は考慮しない。価格変動は物件選択で相殺されるものとする (前提 2:貯蓄繰入高) 世代別住宅ローン保有/非保有別の毎月の貯蓄繰り入れ額対月収比は、過去の実績を参考に、下の 図9-1-12 内の数字のとおりに置く。 ローン残高 月支払額 返済期間(月) 返済期間(年) 20 後 18,746 81 386.3 32.2 30 前 18,520 96 281.3 23.4 30 後 18,984 143 168.4 14.0 40 前 15,231 109 179.9 15.0 40 後 11,915 101 143.9 12.0 50 前 11,192 120 108.8 9.1 50 後 9,024 86 125.2 10.4 60 前 5,800 84 77.4 6.5 60 後 4,985 52 113.6 9.5 (図 9-1-11) 持ち家比率前提 (表 9-1-2) 世代別住宅ローン支払残前提 世代別住宅ローン支払残(1997 年、単位:千円) (図 9-1-12) 貯蓄繰入額月収比前提

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(前提 3:収入、貯蓄) ・加齢に伴う収入増は、過去の実績である実質+2.5%/年から、年功制賃金の廃止の流れを 考慮し、1.5%/年とする。 ・預金金利 (実質) は年 1.5%とする ・貯蓄高の出発点は、『98 年貯蓄動向調査』実績とする。 ・50 代後半以降の収入は、足元の実績から▲3.0%/年とする (結果) 図9-1-13 は、上述のシミュレーションに基づき、各年での 60 代前半の貯蓄高の分布を推計した結果 で、円の大きさは世代内での構成比を表している。また、点線の丸は 60 代前半に至るまでの各年齢 毎に住宅を取得する層の貯蓄高を示している。前提1 で、50 代後半以降の住居取得はないものと考え ているため、図中の点線の丸が示す層 (今後持ち家を取得する層) は、現在 50 代前半以下の世代に しかおらず、その数は、若い世代ほど多くなっている。上のグラフからは、「60 代前半の貯蓄の平均 は2015 年までは増加が続くが、それ以降減少に転じる」という傾向がうかがえる。一方で、所得の 伸びを年 2.5%と見こむと、2015 年以降の平均値の減少が緩和される一方、既取得者とそれ以外の差 (図 9-1-13) 各年における 60 代前半の貯蓄分布予測 (図 9-1-14) 各年における 60 代前半の貯蓄分布予測 (所得伸び+2.5%/年)

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がやや拡大する。(図 9-1-14 参照) 同様の手法を使って、高齢化社会のピークといわれる 2020 年時点の世代別の貯蓄分布を概算して みたのが図9-1-15 である。なお、ここでの円の大きさは、同一時点の横比較ということで、人数を表 している。 また、比較のため、1998 (平成 10) 年の住宅ローン有無別の世代別貯蓄分布を図 9-1-16 に載せた。 図9-1-16 の分布図からは低貯蓄層がいないような錯覚を与える恐れがあるため、参考として、所得分 位別の分布を図9-1-17 に載せる。図 9-1-17 はここまでの分布図と違って、住宅ローンの有無に関係 なく、全世帯を一括して載せたものである。貯蓄残高を7 つの階層に分け、その階層内での世帯数を 円の大きさとして表現している。また、世代間で同一階層内の貯蓄高が異なっているのは、それぞれ の世代毎に、階層内で中央値を円の中心としているためである。 (図9-1-15) 2020 年における世代別貯蓄分布予測 (図 9-1-16) 1998 年の世代別貯蓄分布 (住宅ローン有無別) (出典:貯蓄動向調査<総務庁統計局>)

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ここまででわかることは、下記の3 点である。 イ)2020 年時点の年齢別の貯蓄分布をみると、今日よりもさらに現役世代と高齢者との間の貯蓄高の 格差が拡大することが見こまれること ロ)高齢者人口の増加に伴い、マクロでみた貯蓄の高齢者への集中が一層進むこと ハ)今日の高齢者の高い平均貯蓄額は、貯蓄高の二極化の結果であり、今後もその傾向が継続すること が予想されるため、低貯蓄層への対策も不可欠であること

2 世帯の形態

第 8 章で、今日の高齢者の世帯類型として、「子供との同居」が以前と比べて減少していることを 述べた。 ここでは現状を分析した上で、今後はどうなってゆくのか、という点について検討してみたい。 データ源となる国勢調査の製本中に、70 年代の高齢者の世帯類型が載っていないため1、過去と比 較した現状分析が実施できない。そのため、一時点ではあるが、地域別という切り口から分析をして ゆく。 地域別の高齢者世帯類型を図示したのが次頁の図9-2-1 である。 1 より正確にいうと、「世帯主が 65 歳以上」という区分はあるが、世帯主が子供の場合が漏れることとなるため、正確な比較は不可能 である。 (図 9-1-17) 1998 年の世代別貯蓄分布 (貯蓄高階層別) (出典:貯蓄動向調査<総務庁統計局>)

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(出典:1995 (平成 7) 年国勢調査<総務庁統計局>) 地域別にグラフの基本的な形状は同じであるが、「子供と同居」「夫婦のみ」「単独」それぞれの数字 の水準が大きく異なっている。特徴的な事例として、「子供と同居」と「単独」をみてみると、大きく 「東日本型」と「西日本+北海道型」に分かれることがうかがえる (東日本でも関東は西日本に近い 形をしている)。 ここで、関東の同居比率が低いのは、他地域と比べて住宅事情が悪いということに起因していると 思われる。そこで、各都道府県別に、世帯当たりの住宅面積と、高齢者との同居比率についてみてみ よう。加えて、地域内人口における年齢構成の差と高齢者との同居との関係をみるため、高齢者比率 と同居比率についてもみてみる。

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図9-2-2 にあるとおり、全体としては、住居面積が広いほど、高齢者との同居比率も増加する傾向 があるものの、近似曲線の上下の都道府県をみてみると、概ね、東日本と西日本に分かれていること がわかる。 (図 9-2-2) 住居面積と同居比率 (出典:95 年国勢調査<総務庁統計局>) (図 9-2-3) 高齢者比率と同居比率 (出典:95 年国勢調査<総務庁統計局>)

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同居を阻害するもう 1 つの要因として、子供と親の居住地が子供の仕事の関係などで離れている、 ということが考えられる。そこで、同じく都道府県別に、25−64 歳の人口に対する 65 歳以上人口の 比率と、同居比率との関係を示したものが図9-2-3 である。ここでみることができるとおり、高齢者 人口比率と、同居比率との間には有意な相関はみられない。 また、第 8 章で、近年、配偶者と離死別した高齢者が単独世帯となる割合が大きいことを述べた。 下の図9-2-4 は、配偶者のいない高齢者の比率と、同居比率を都道府県別にプロットしたものである。 ここでの結果も、有意な相関はみられない。敢えていうと、負の相関、つまり配偶者のない高齢者 の比率が増えると、子供との同居比率が減少するような関係がうかがえ、第 8 章でみたように、配偶 者と離死別した高齢者が単独世帯となる傾向を示していると思われる。 もう 1 つ、高齢者の同居の要因として、高齢者の就業の有無が考えられる。健康上の理由などで退 職した後、日常生活面、金銭面で子供と同居する可能性である。そこで、高齢者の就業状況と、子供 との同居比率をプロットしたのが次頁の図9-2-5 である。 この結果をみる限り、高齢者の就業状況ともほとんど相関は認められない。 (図 9-2-4) 配偶者のいない高齢者比率と子供との同居比率 (出典:95 年国勢調査<総務庁統計局>)

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以上みてきた中では、残念ながら住居面積しか、高齢者との同居との関係に有意な相関がみられな かった。いうまでもないが、因果関係からいうと、住居面積は高齢者との同居を促進する決定的な要 因ではなく、親子の同居はあくまで親子間の意思の問題である。しかし、一方で現実問題として住居 面積が同居の促進/阻害要因とはなりうるため、住居面積について次にみてみる。 (図 9-2-5) 高齢者の有業比率と同居比率 (出典:95 年国勢調査、就業構造基本調査報告<総務庁統計局>) (図 9-2-6) 住居面積分布の推移 (出典:93 (平成 5) 年住宅統計調査<総務庁統計局>)

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全体として100m2以上の住宅数が増えている結果、住居面積は平均でも増加している。また、持ち 家かどうかをみてみると、100m2以上の住宅はほとんどが持ち家である。従って、高齢者の同居を住 居面積だけで語るとすると、現状では中規模以上の住宅がどれだけ増えていくかが、高齢者の同居の 増減に影響を与えるといえそうである。また今日、比較的大きな家はほとんどが持ち家である、とい う結果をみると、現状では中規模以上の物件は需要/供給ともに分譲が中心となっていると思われる。 消費者持ち家選択に関する嗜好が変わらず、比較的大きな家は今後も分譲を中心に供給される、とい う前提で考えると、高齢者の同居を促進するためには、いかに持ち家取得を促してゆくか、というこ とが重要になるともいえる。 また、今後の要研究課題として、図9-2-1、9-2-2 で示したとおり、一般的に住居面積に対して、東 日本は同居比率が高い反面、西日本が低いということについて分析を深めてゆくと、今後の高齢者の 子供との同別居を考える上で、もう少し興味深い事実が出てくることも考えられる。 残念なことに、手元の資料では、世帯主の年齢別の住居面積がわからないため、今後、高齢化社会 を迎えるにあたっての、親/子供それぞれの現在の住居の状況が不明である。そのため、分析不足な 点を残しつつも、住居面積と同居に関する分析はここまでとしたい。 同別居に関する意識面の変化については、第8 章 3 でみたとおり、現在の高齢者、および現役世代 の双方で、別居指向が高まっている。では、なぜそのようなことが起こっているのか、という分析も 今後必要になってこよう。

3 まとめ

第8 章で、今日の高齢者はかつての高齢者と比べて、 イ)全体としては貯蓄から負債を引いたネット貯蓄では豊かになっていること ロ)貯蓄の増加には、大卒を中心とした企業の退職金の支給増、および、産業構造の変化に伴う勤労比 率の増加により、退職金をもらう層が拡大したことの寄与が大きいこと ハ)高齢者が子供と同居する割合が減少しており、高齢単身世帯も増加していること。また、一方で、 親/子両世代において、別居指向が高まっていること ニ)生活面では、余暇時間は拡大する中で、「休息」や「テレビ視聴など」の時間が増加しており、レ ジャー活動に過ごす時間はあまり増加していないこと という点を明らかにした。 一方で、この章では、今後の高齢者の予想される姿として、 イ)過去と比べて大きな住宅ローン負担により、貯蓄の進展が今日の高齢者ほどは見こみずらいこと ロ)こうした状況が続くと、今後の高齢者の貯蓄高の平均値は 2015 年前後をピークに漸減傾向に入る ことが見こまれること ハ)子供と同居している世帯の比率は、全体的に東日本で高く、西日本で低いが、同居比率は住居の広 さと正の相関が認められるものの、その他の指標との相関は薄いこと という3 点を述べた。 高齢者が以上の特徴をもつということを考慮すると、単純にいうとかつてよりも豊かな現在の高齢 者に対し従来の水準の給付をする必要は薄く、 今後も2015 年前後までは平均貯蓄高は増加傾向にあ るため、年金の支給額を減額する、という見方も成立しうる。反対に、年金を「家族内扶養に対する

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代替物」と位置づけるとすると、親子別居世帯の増加傾向など、年取った親を子供などが扶養する形 態が減少することが見こまれる中では、むしろ年金を充実させるべきだ、という見方も成立しうる。 とはいえ、「家族内扶養が減少する中、年金の給付額を増やすべきだ」という意見は、 イ)高齢化社会の到来に伴う、現役世代の負担限界 ロ)「老後の生活費は自助努力でまかなうべき」(図 8-3-11 参照) という風潮の高まりに逆行している という2 点から不適当と考える。 また、先述したように親子の別居が増加する傾向にある中、全体的には家族内扶養の役割が減少し ているという状況で、高齢者の扶養という点について、国 (もしくは地方自治体など) と家族がそれ ぞれどれだけの役割を果たすか、という問題についても考えなくてはならない。 改めていうまでもないが、そもそも保険というものは、共同体の中の個人 (ないしは家族) に起こ りうるリスクを全体でカバーしよう、という発想から生まれている。今日、あるいはこれからの年金 問題は、共同体の中で長生きする人が増えてきた、という問題に加え、家族内扶養も減少してゆくこ とが見こまれている状況の中で、どこまで共同体としてそうしたリスクを負担できるか、という問題 である。ところが残念なことだが、なかには年老いた親の扶養のための費用は、できれば共同体に押 しつけようとする人もいる。共同体への依存の高さは、経済面では、世帯収入 (あるいは貯蓄) と扶 養のための費用とのバランスに依存する。つまり、簡単にいうと、相対的に貧しい人、ないしは扶養 に費用がかかる人 (寝たきりなど) の依存が高くなると思われる。また、経済面を除いても、親を扶 養することそのものに対するモラルが下がった場合にも、共同体への依存が高まる。 このような視点から、改めて第8、9 章の内容を整理し、今後の年金の役割を検討してみると、 イ)住宅ローンの負担増などにより、これから高齢者を支える世代は過去に比べて負債を多く抱えてい ること ロ)親子ともども別居指向が高まり、世帯内での扶養は減少傾向にあること といった点を考慮すると、年金という制度への依存は今後高まるようにみえる一方、 ハ)今日の高齢者は過去に比べて豊かであること ニ)老後の生活費として「自助努力」という回答も増加していること ホ)介護保険の設立や、高齢医療費改革の動きなど、曲がりなりにも高齢者扶養の費用 (負担) 削減 が進みつつあること ヘ)上記イ)の裏返しで、これからの高齢者を支える世代が以前の同世代と比べて豊かでなく、自分の親 の扶養に際して年金への依存が高い一方で、自らの保険料負担の余力が小さくなっていること という点を考えてみると、社会全体、あるいは家計の中での年金の役割をもう少し縮小する、という 選択が正しいのではないだろうか。

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[第 10 章] 公的年金制度に関する提案

1 本報告書の位置づけ

私たちの公的年金研究は、国民がわが国の公的年金制度のあり方を検討する際に役立つような材料 を提供できることを願って行われたものである。実際に、その目的が達成されたかどうかについては 読者に判断していただきたい。 9 つの章を通して、私たちの研究成果を述べてきた。本第 2 次報告書、『公的年金制度の考え方と抜 本改革の方向性』は、それに先立って、とくに1 階部分 (基礎年金) に絞って検討した第 1 次報告書、 『新たな基礎年金制度の構築に向けて』につづくものである。したがって、本報告書の内容は公的年 金制度全般 (1 階部分 (基礎年金) と 2 階部分 (報酬比例部分) の両方を含む) について論じており、 ここに締めくくりとして本第2 次報告書において私たちが示した提案をまとめておくが、ぜひ本報告 書の内容は第1 次報告書の内容と併せて理解してほしい。

2 1 階部分 (基礎年金) に関する提案

(1) 1 階部分 (基礎年金) と 2 階部分 (報酬比例部分) とを完全に分離させる。

すでに第1 次報告書の中でも提案したが、今後のわが国における公的年金制度のあり方としてまず 提案したいことは、1 階部分 (基礎年金) と 2 階部分 (報酬比例部分) の完全な分離である。役割も 異なっているのであるから、財源調達のあり方も完全に分離させて、別制度としてその違いを国民に 明確に示し、理解を求める必要がある。

(2) 1 階部分 (基礎年金) は賦課方式で、租税財源とする。

現在の原則保険方式を租税方式に切り替える。課税ベースとしては、所得と消費の選択が考えられ るが、選択の際に考慮すべき論点については、本文に記した。いくつかの問題を解決した上であるな らば、基礎年金目的税として消費を課税ベースにすることにも一考の余地はあるが、本報告書では所 得税を財源にすることを提案した。

(3) 給付は高齢期の生活費の基礎部分に相当するものとしてすべての高齢者に一律に給

付する。

一般には租税財源であることはすなわち公的扶助的なものであると考えられており、そうした制度 はミーンズテストを行い、一部の高齢者への給付を制限させるものであると考えられがちである。本 報告書の考え方は、そうした考え方とは異なり、租税方式に基づきながらも、高齢者全員に支給すべ きものと考える。同時に、拠出・給付の直接的対応を前提とする保険方式も否定する。高齢者に一律

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給付される基礎年金総額は、基礎年金目的税として負担能力 (所得で捕捉) に応じて負担してもらう。 したがって、人々には基礎年金とは高齢期になれば必ず一律に給付されるものだが、一方では負担能 力 (所得) に応じて負担もしなければならないというように、保険方式とは異なった間接的な対応関 係として意識してもらう。

3 2 階部分 (報酬比例部分) に関する提案

(1) 現在の賦課方式から積立方式へ移行させる。

著しく進展する少子・高齢化によって生じてくる問題を重視するゆえ、現行賦課方式のもとで行わ れている世代間所得再分配を問題視する。そこで、今後の2 階部分 (報酬比例部分) は積立方式で行 える範囲の不確実性 (リスク) 対応に限定させる。つまり、将来のある時点を境に 2 階部分を積立方 式に移行し、それ以降に払い込まれる保険料とそれに基づく給付は積立方式で行うこととする。

(2) 長生きのリスクへの対応は同世代内の所得再分配で対処する。

もしも長生きしてしまったときの2 階部分 (報酬比例部分) については賦課方式、つまり世代間所 得再分配で対処するのではなく、各世代ごとにその世代内部の所得再分配によってそのリスクへの対 応を行う。つまり、各世代ごとに平均寿命に基づいた保険料拠出・年金給付を行うこととする。した がって、世代全体で見るならば、拠出額と給付額とは割引現在価値で等しくなるが、同じ世代に属す る個人の視点で見るならば、早死にか長生きかに応じて、拠出額と給付額との関係は異なってくる。

(3) 2 階部分 (報酬比例部分) は積立方式で行うにしても、管理・運営は「公」で行う。

2 階部分 (報酬比例部分) のあり方を検討する際に考慮すべきリスクには、「インフレや一般生活水 準の上昇によるリスク」の他に、「資産運用機関の選択にともなうリスク」と「金融商品の選択にとも なうリスク」という2 つのリスクが考えられる。これら 2 つのリスクへの対応は社会が依拠する社会 観に依存する。それらを「自己責任」として片づけることもできるが、本報告書ではすべてを自己責 任に帰着させることに懸念をもち、管理・運営を「公」に委ねるべきであると提案した。

(4) 資産運用はできるだけ資金委託者に利するように民間運用機関に 委ねるのがよいと

した。

(5) 年金純債務の償却方法に関して提案を行った。

積立方式へ移行後もこれまでに約束した年金は支払わねばならず、その総額 (年金総債務) から積 立金を控除した年金純債務を処理しなければならない。本報告書では、その年金純債務を計算した。 いくつかの仮定の上で計算された数値ではあるが、2 階部分 (報酬比例部分) を積立方式に移行する 際の年金純債務は、201.9 兆円となった。

(19)

積立方式への移行が順調に行われるためには、この年金純債務の償却方法が示されなければならな い。そこで、本報告書では、その償却方法として以下の案を示した。将来のある時点を境に、それ以 降に払い込まれる保険料は積立方式で運営するが、積立方式を適用する (=自分の年金給付の財源と なる) 分の保険料に加えて、年金純債務の処理分として保険料の上乗せを求めるというものである。

4 今後の公的年金制度のあり方を考えるにあたって留意すべき点

(1) 総合的視点の必要性

第1 次報告書において、総合的視点の必要性を提言しておいた。第 2 次報告書の最後にもその点を 繰り返しておきたい。本章におけるこれまでの部分において、本第2 次報告書において提案した事柄 をまとめた。今の段階では、実際の公的年金改革がどのような方向に進んでいくかは分からないが、 私たちの提案がその道標の役割を果たすことになればと期待している。しかし仮に公的年金制度に関 して、順調に改革が進んだとしても、それだけでよいというものではない。公的年金制度のあり方は、 高齢者を取り巻く年金以外に行われている公的な社会保障制度の今後のあり方や、それにとどまらず に高齢者をめぐる課税のあり方などとの関連性も十分に考慮する総合的視点に立って定められねばな らない。

(2) 公的年金制度と家族内扶養

上記(1)において、総合的視点が重要であると述べた。そこで指摘したのは、高齢者をめぐる公的施 策における総合性であった。つまり高齢者問題は公的年金制度、高齢者医療保障制度、介護保険制度、 それに高齢者に対する課税制度といった諸制度をすべて考慮した上で総合的に考えていかなければな らないというものであった。ところで、総合的視点には、それよりも一段広い視点がある。公的施策 に留らずに、私的対応まで含めて考える視点である。 第1 次報告書において論じたように1、公的年金の位置づけは「高齢期の生活費の調達手段と高齢期 におけるリスク対応」全体の中で捉えられる必要がある。高齢期の生活費を調達する手段には公的施 策によるものだけではなく、私的によって行われる手段もある。また、高齢期におけるリスクへの対 応も公的施策によるものだけではなく、私的に対応されるものがある。そうした全体の視点から公私 の役割分担、公私の線引きを行うことが重要となってくる。これが、一段広い視点の総合性である。 高齢期の生活費を私的に調達する手段には、イ)当該高齢者が高齢期にも自ら働くことによって稼ぐ、 ロ)当該高齢者の家族等が扶助する、ハ)当該高齢者が高齢期以前に自ら資産形成をする、ニ)企業年金制 度、などがある。公的年金制度のあり方は、これらの私的対応 (イ)ロ)ハ)ニ)) との関係を考慮しながら 定められねばならない。ということは、次のことを意味している。公的年金制度のあり方の検討は、 裏側から見ると、高齢期の生活費の調達やリスクに関する私的な対応のあり方を問うことであり、さ らに細かく言うならば、家族内扶養のあり方を問うことにもなる。すでに第9 章において、経済的側 1 経済企画庁経済研究所編(1999) (第 1 次報告書)、第 2 章、とくに 53 頁の図 2-1 を参照されたい。

(20)

面や意識面から将来の高齢者像を把握してみた。そこで得られたいくつかの事柄を加味した上で、私 たちは公私の役割分担・公私の線引きを行う必要がある。構造変化していく経済・社会の進展にあわ せて、国民は「私的責任」「公的責任」をしっかりと意識した上で、自分の高齢期に備えて準備するこ と、身内の高齢者を扶養すること、同じ社会に住む他の高齢者のための支えを行うことをバランスさ せなければならない。 本当に必要な所得再分配であっても、なかなか私的に行われないとするならば、確かに公的に行う 根拠があるだろう。しかし、公的制度がある限度を越えて本来は私的に行われるべき所得再分配まで 行うようになるならば、問題をもたらすだろう。 ここで、とくに上記の私的対応のなかからロ)に注目してみよう。ロ)の家族内扶養とは家族内で行わ れる世代間所得再分配と捉えられる。また、賦課方式の公的年金制度を通して行われているものも世 代間所得再分配である。どちらも世代間所得再分配ということになる。では、両者の間で一体何が異 なるか。家族内で行われる世代間所得再分配は、扶養者と被扶養者との間に私的関係があり、強制力 をともなわずに自主的に行われている。それに対して、賦課方式の公的年金制度を通した世代間所得 再分配は、扶養者と被扶養者との間に私的関係がなく、強制的に行われる。後者の場合、後代世代は 家族ではないが同じグループ・社会に属している前世代の高齢者への給付のために公的制度によって 強制的に資金を徴収される。報告書の中で何度も述べてきたように、進展する少子・高齢化という人 口構成の変化は著しい。そのため、そこで行われる強制的な世代間所得再分配はいくつかの問題をも たらすようになる。だからこそ、公的制度を通した世代間所得再分配は、私的に行われる世代間所得 再分配とは異なり、定められた規準によって評価されなければならないのである。 私たちは、第1 次報告書の中で 3 つの規準をあげた2 (1)所得分配の公平性 (2)資源配分の効率性 (3)「私的責任」「公的責任」 公的制度を通した所得再分配はこれら3 つの規準から評価されなければならない。著しい人口構成 の変化が起こっている状況であるから、世代間所得再分配についてはとくに厳格に評価されなければ ならない。 検討結果として、次のように結論するに至った。1 階部分 (基礎年金) については、賦課方式を維 持し、公的年金制度を通した世代間所得再分配を認めた。2 階部分 (報酬比例部分) については、賦 課方式から積立方式へ移行させることを、つまり、当該制度から世代間所得再分配を排除することを 求めたのである。 公私の役割分担や公私の線引きという議論になると、両者の代替性ということが注目される。例え ば必要とされるある額の高齢期の生活費が公的年金によって保障されるならば、その分私的対応でも ってそれを用意する必要はなくなるゆえ、そういう意味で代替性が言われることは当然であろう。し かし、代替性だけに目を向けるのではなく、補完性にも目を向ける必要があるだろう。一方が保障す るから他方は保障する必要がないといった見方だけではなく、高齢期の生活費やリスクに向けて、公 私がいかに協調しながら対応していくべきかという道を探ることが大切である。本報告書は公的年金 制度のあり方に関してある提案を行ったが、報告書としては、それに留まらずに、国民に対して次の 事柄を熟慮することを求めたい。著しく進展する少子・高齢化のなかにあって、一個の成熟した人間 2 経済企画庁経済研究所編(1999) (第 1 次報告書)、39-52 頁、参照。

(21)

として、高齢に対してどのように関わっていくべきかということを。改めて「私的責任」と「公的責 任」ということを問いたい。

(22)
(23)

[補論 I ] 各国の所得税計算における課税単位の扱いについて

各国の所得税計算を簡略化したものを図示する。図I -2 を除いた図I -1 から図I -7 がそれである。 それらを用いて、各国が所得税計算において課税単位をどのように扱っているかを説明する。

1 日本の場合

1 日本は、所得税計算において、個人単位の課税方式を取っている。ただし、所得のない配偶者には 税制上の配慮がなされている。図I -1 を参照されたい。まず、同図の左上の「各種所得金額の計算」に 目を向けてほしい。各種所得金額とは、利子、配当、不動産、事業、給与、譲渡、一時、雑所得等の 各収入金額からその収入を得るのに要した費用を引いたものをいう。例えば、給与所得の場合には給 与収入から給与所得控除を引いたもの、事業所得の場合には稼得した収入から必要経費を引いたもの である。世帯のうちで、世帯主および配偶者それぞれにおける各種所得金額の計算を行い、課税標準 となる総所得金額を世帯主・配偶者それぞれ別個に求める。ただし、図 I -1 の注にあるように、総所 得金額を求める際に、所得に応じては、損益通算、純損失又は雑損失の繰越控除を行うことを留意さ れたい。 世帯主・配偶者の「総所得金額」がそのまま税率が課せられる「課税総所得金額」になるわけではな い。「課税総所得金額」は、「総所得金額」から各所得控除を引くことによって求められる。所得控除に は、次に示すような各控除がある。基礎、配偶者、配偶者特別、扶養、老年者、障害者、損害保険料、 生命保険料、社会保険料、医療費控除等である。 今述べたように、「課税総所得金額」を求めるために「総所得金額」から引かれる「控除」の中に「配偶 者控除」と「配偶者特別控除」があった。この2 つがわが国における配偶者に対する人的控除である。 いずれも配偶者の所得が一定金額以下ならば、世帯主の所得からそれぞれの控除額が引かれる。配偶 者特別控除には世帯主の所得による上限が設定されていて、その所得金額が 1,000 万円を超える場合、 適用することはできない。配偶者が非就労もしくは配偶者の給与収入が70 万円未満の場合には、世 帯主の「課税総所得金額」を計算する際に、配偶者控除と配偶者特別控除の合計76 万円が控除される。 配偶者の給与収入が70 万円以上 141 万円未満の場合には、配偶者控除、配偶者特別控除のいずれか、 あるいは両方が適用されるが、控除額は配偶者の所得が多くなるにつれて減少するようになっている。 配偶者の給与収入が141 万円以上ある場合には、配偶者控除、配偶者特別控除のどちらも適用するこ とができないようになっている。配偶者控除・配偶者特別控除に関する詳細は後述する。 図I -1 の一番下に示してあるように、これまでの所で説明してきた「課税総所得金額」に税率表に ある税率を乗ずることによって所得税額が求められる。1999(平成 11)年度税制改正によって、税率は 10、20、30、37%の 4 段階(個人住民税は別)となっている。なお、実際に納める税額は求められたそ の所得税額から税額控除(住宅取得控除等)を引くことによって算出される。 なお、独身者の場合、所得税計算の流れは、図I -1 の世帯主に当てはまるが、「総所得金額」から引 く所得控除における人的控除は独身者本人の基礎控除(38 万円)のみとなる。 1 近江修編(1998)、鈴木勝康編(1997)を参照されたい。

(24)

(配偶者控除・配偶者特別控除について

2

)

配偶者控除とは、納税者が生計を一にする配偶者を有し、その者の所得金額が基礎控除額 38 万円 以下である場合に納税者の方に控除が認められるものである。その控除額は 38 万円となっている (1999(平成 11)年度現在)。 配偶者特別控除とは、年間所得金額が1,000 万円以下の納税者が、生計を一にする配偶者で所得金 額が76 万円未満(給与収入の場合には給与所得控除額を加えた 141 万円)であるものを有する場合には、 その配偶者の所得金額に応じた一定額を納税者の所得から控除するものをいう。 配偶者特別控除は、いわゆる「パート問題」等に対処するために、1987 年(昭和 62)年 9 月の税制改正に おいて創設された。「パート問題」とは、パートで働く主婦の年間収入が一定額(当時は 90 万円、現行 は103 万円)を超えると、夫に配偶者控除(当時は 33 万円、現行は 38 万円)が適用されなくなり、夫の 税負担が増加するとともに、その主婦自身も独立した納税者となり、世帯全体の手取り収入が減少し てしまうという「手取りの逆転現象」のことをいう。 この配偶者特別控除は、配偶者の所得金額の増加に応じて逓減していく消失控除の仕組みがとら れている。図 I -2 を参照されたい。イ )パートで働く主婦の収入の増加に応じてなだらかに控除額が 減少し(現行では、パート収入 70 万円から控除額の消失が始まり、非課税限度額である 103 万円(給与 所得控除の最低保障額65 万円と基礎控除 38 万円との合計額)で消失がいったん完了し、控除額が 0 となる)、かつ、ロ)パート収入が非課税限度額である 103 万円を超えても(夫については配偶者控除が 受けられなくなり、また、その主婦自身が独立の納税者となる場合)、年間のパート収入が 141 万円 未満であれば、配偶者特別控除が適用される(103 万円を超えると消失した控除額が全額復活するとと もに、再び収入に応じた控除額の消失が始まり、141 万円で完了する)ようになっている。 配偶者特別控除が導入された結果、世帯全体の手取り収入が逆転するという「パート問題」は、税制 上解決されている。 現行の配偶者控除・配偶者特別控除を前提とした上で、日本の所得税制における扶養・被扶養につ いて整理してみよう。図I -2 を再び参照されたい。 配偶者の所得が基礎控除額の38 万円(給与収入の場合には基礎控除額 38 万円に給与所得控除 65 万 円を加えた103 万円)未満であるならば、配偶者は所得税を納める必要がないため、家計では被扶養者 とみなされる。一方、夫が扶養者とみなされるため、夫の方に一律の配偶者控除 38 万円が認められ ている。上記したように、配偶者特別控除が「パート問題」を解消するために導入されたとはいえ、扶 養・被扶養という概念で考えてみるとおかしい点もある。配偶者の所得が38 万円(給与収入の場合に は103 万円)を超えると、配偶者は納税者となり、被扶養者ではなくなるが、76 万円(給与収入の場合 には141 万円)未満であるならば、夫の方に配偶者特別控除が認められている。 ここに認められる配偶者特別控除は扶養・被扶養という概念ではもはや説明できないものである。 「パート問題」の解消という目的は理解できるが、この控除を支えている理念は一体何であろうか。 2 鈴木勝康編(1997)を参照されたい。

(25)

2 イギリスの場合

3 イギリスは、所得税計算において、個人単位の課税方式を取っている。日本と同じ図I -1 を参照さ れたい。 まず、同図の左上の「各種所得金額の計算」に目を向けてほしい。イギリスの各種所得金額とは、雇 用、利子、配当、譲渡所得等の各収入金額からその収入を得るのに要した費用を引いたものをいう。 例えば、雇用所得は、雇用収入から実際に支出した経費を控除したものである4。世帯のうちで、世帯主 および配偶者それぞれにおける各種所得金額の計算を行い、課税標準となる総所得金額を世帯主・配 偶者それぞれ別個に求める。 「課税総所得金額」は、「総所得金額」から各所得控除を引くことによって求められる。所得控除には、 基礎控除、夫婦者控除、私的年金掛金、住宅ローンの利息、寄付金等がある。このうちの「夫婦者控除」 がイギリスにおける配偶者に対する人的控除である。これは、結婚し夫婦となっている世帯に控除が 認められるものである。この控除は、夫と妻のどちらから控除してもよい。あるいは、夫と妻とで控 除額を分割することも可能である。また、配偶者が働いているどうかに係わりなく控除の適用がされ る。この控除額は、65 歳未満 1,830 ポンド、65 歳以上 75 歳未満 3,185 ポンド、75 歳以上 3,225 ポ ンドとなっている(1998(平成 10)年現在)。 図I -1 の下に示してあるように、これまでの所で説明してきた「課税総所得金額」に税率表にある税 率を乗ずることによって所得税額が求められる。税率表は1 つで、税率は 20、23、40%の 3 段階と なっている。なお、実際に納める税額は求められたその所得税額から税額控除(配当に係るタックス・ クレジット、源泉所得税、外国税額等)を引くことによって算出される。 独身者の場合、所得税計算の流れは図I -1 の世帯主に当てはまるが、「総所得金額」から引く所得控 除における人的控除は独身者本人の基礎控除(65 歳未満 4,045 ポンド、1998(平成 10)年現在)のみと なる。

(1990 年 4 月以前のイギリスの所得税計算について

5

)

イギリスの課税単位は、1990(平成 2)年 4 月以前には夫婦単位で、合算非分割課税をとっていたが、 次に揚げるような問題点が指摘され、その解消のため、1990(平成 2)年 4 月 6 日以降、上記の個人単 位課税に移行した6。 ○ 既婚女性の税務におけるプライバシーと独立性の欠如 妻の所得は、夫の所得と合算して課税されるため、妻は夫に対し、自分のすべての所得(給与、貯蓄、 年金その他)を詳細に開示する必要があり、税務上、妻のプライバシーと独立性が保証されていない。 ○ 結婚に対するペナルティー 夫婦の所得が合算され、累進課税が適用されることから、結婚により税負担の増加が生じていた。 3 監査法人トーマツ編(1998)、86-95 頁、を参照されたい。

Commerce Clearing House(1998-1999)、を参照されたい。

4 これを実額控除といい、日本のような給与所得控除は存在しない。 5 監査法人トーマツ編(1998)、72-81 頁、を参照されたい。

(26)

合算非分割課税での所得税計算の流れを把握するために図I -3 を参照されたい。まず、同図の左上 の「総所得金額の計算」に目を向けてほしい。総所得金額とは、図I -1 における各種所得金額の合計で ある総所得金額と同じである。世帯主と配偶者の総所得金額を合算することにより課税標準である「合 算総所得金額」が求められる。「課税総所得金額」は、「合算総所得金額」から所得控除を引くことによっ て求められる。所得控除には、基礎控除(妻帯者 4,375 ポンド、独身者 2,785 ポンド)、私的年金掛金、 住宅ローンの利息等がある。妻帯者と独身者との間で、基礎控除額に差があるので、妻帯者の基礎控 除に配偶者に対する人的控除が含まれていると考えられる。また、配偶者が所得を得ている場合には、 配偶者の所得に対する控除として追加の人的控除(2,785 ポンド)が認められる。 「課税総所得金額」に税率表にある税率を乗ずることによって所得税額が求められる。税率表は1 つ で税率は 25、40%の 2 段階となっている。なお、実際に納める税額は求められたその所得税額から 税額控除(配当に係るタックスクレジット、源泉所得税、外国税額等)を引くことによって算出される。 独身者の場合、図I -3 の課税標準を計算する上での「総所得金額」の合算はない。また、「課税総所 得金額」を計算する上で「総所得金額」から引く所得控除における人的控除は独身者本人の基礎控除 (2,785 ポンド)のみとなる。

3 アメリカの場合

7 アメリカの所得税計算では、夫婦世帯の場合、世帯主と配偶者の所得を合算し、所得税計算を行う 「夫婦合算申告」と、世帯主・配偶者それぞれ別々に所得税計算を行う「夫婦個別申告」のどちらかを選 択することができる。まず、「夫婦合算申告」を選択したときの所得税計算を説明する。図I -4 を参照 されたい。 最初に、「総所得金額の計算」に目を向けてほしい。世帯主・配偶者のそれぞれの「総所得金額」 (( a )( b ))とは、給与、利子、配当、自由業事業所得、年金、一時所得等の各収入金額からそれを得る のに要した費用等を引いて(これは各種所得金額)合計したものである。世帯主と配偶者の総所得金額 を合算することによって課税標準である「合算総所得金額」( c )が求められる。「課税総所得金額」( e ) は、「合算総所得金額」( c )から各所得控除( d )を引くことによって求められる。所得控除には、医療費 控除、諸税金控除、支払利子控除、人的控除、扶養控除等がある。その人的控除には、配偶者に対す る人的控除が含まれる。人的控除額、扶養控除額は、納税者自身、配偶者、扶養家族各 1 人につき $2,750(1999(平成 11)年)となっている。図 I -4 の場合、人的控除額は、世帯主と配偶者で$2,750+ $2,750 で$5,500 となる。配偶者に対する人的控除、すなわち配偶者控除は、配偶者の所得の有無 にかかわらず、適用される。 これまで説明してきた「課税総所得金額」( e )に税率表にある税率( f )を乗ずることで、「所得税額」 ( g )が求められる。アメリカの適用税率表には、「夫婦合算申告」、「夫婦個別申告」、「独身」、「特定世 帯」の4 種類があり、それぞれの世帯の状況に応じて選択することができる。夫婦世帯の場合、「夫婦 合算申告」、「夫婦個別申告」のいずれかの選択となる。税率表については、「夫婦合算申告」の税率ブラ ケットが「夫婦個別申告」の税率ブラケットの2 倍の大きさに設定されている。税率は 15、28、31、 36、39.6%の 5 段階(1999(平成 11)年 1 月 1 日現在、州、郡、市等の地方消費税は別)となっている。

(27)

なお、実際に納める税額はその所得税額から税額控除(扶養税額控除、子女世話費税額控除等)を引 くことにより算出される。 次に、「夫婦個別申告」を選択したときの所得税計算を説明する。図I -5 を参照されたい。 世帯主、配偶者それぞれ別々に「総所得金額」を求め、そこから各々所得控除を引いて「課税総所得 金額」を求める。この場合の所得控除における人的控除は、世帯主、配偶者それぞれの人的控除(基礎 控除、$2,750、1999(平成 11)年)のみである。また、例えば、配偶者の総所得が 0 で、他の納税者の 扶養でない場合、課税総所得金額の計算において、世帯主の総所得金額から配偶者の人的控除(基礎控 除、$2,750)を引くことはできない。 各々の「課税総所得金額」に対し、夫婦個別申告用の税率表にある税率を乗ずることによって所得税 額が求められる。 高額所得者には、人的控除・扶養控除は全額認められてはいない。控除額は、調整総所得が増える にともない段階的に減額し、一定額の調整総所得を超えると消滅する。調整総所得が次の金額を超え ると、$2,500 増加するごとに人的控除・扶養控除の 2%分が減額される。 (調整総所得) 独身:$121,200、夫婦合算申告:$181,800、 夫婦個別申告:$90,900、特定世帯主:$151,500(1997(平成 9)年の金額) つづけて、独身者の場合の所得税計算について説明する。この場合は図I -5 の世帯主に当てはまる が、引かれる人的控除は基礎控除($2,750)のみとなる。また、「課税総所得金額」に乗ずる税率表の適 用は扶養家族の有無によって異なる。独身者で扶養家族がいる世帯は「特定世帯」とみなされ、特定世 帯用の税率を適用することが可能で、適用される税率は扶養家族のいない独身者よりも低くなってい る。

4 ドイツの場合

8 ドイツでは、所得税計算において課税単位は夫婦単位、個人単位のどちらかを選択することとなっ ている。 最初に、夫婦単位課税を選択したときの所得税計算について説明する。図I -6 を参照されたい。ま ず、「総所得金額」(( a )( b ))の計算を行う。「総所得金額」(( a )( b ))とは、農林業、営業、独立的・非独立 的労働から生ずる所得、資本財産、賃貸より生ずる収入等からこれらの収入の稼得、維持、保管のた めに発生した必要経費を引いて(これを各種所得とする)合計したものをいう。次に課税標準の計算に あたり、世帯主、配偶者の「総所得金額」の合算を行う。それが「合算総所得金額」( c )である。 次に、「合算総所得金額」( c )から所得控除( d )を引き、それを半分にして、「課税総所得金額」( e )が 求められる。所得控除には、夫婦の人的控除である基礎控除(26,134 マルク、1999 年(平成 11)年現在)が 含まれる。「課税総所得金額」( e )に税率( f )を乗じ、そこに求められた税額を 2 倍して、「所得税額」( g ) が計算される。ドイツの所得税計算における夫婦単位の課税方式は、「二分二乗制」ともいわれている。 次に、個人単位課税を選択したときの所得税計算について説明する。ドイツで個人単位課税を選択 した場合、所得税計算の流れは、アメリカの個別申告を選択した場合と同様であるので図I -5 を参照 されたい。まず、世帯主、配偶者の各種所得金額をそれぞれ合計することにより「総所得金額」を求め

(28)

る。これが課税標準となる。次に各々の「総所得金額」からそれぞれの所得控除を引くことにより「課税 総所得金額」が計算される。この所得控除には世帯主、配偶者それぞれの人的控除(基礎控除、13,067 マルク、1999(平成 11)年)がある。さらにそれぞれの「課税総所得金額」に対し、独身用の税率表を適 用することにより「所得税額」が算出される。 ドイツの課税で特徴的なのは、配偶者に対する人的控除、つまり配偶者控除という制度はないとい うことである。 独身者の場合、個人単位課税扱いとなり、所得税計算の流れは、図I -5 の世帯主に当てはまるが、 所得控除における人的控除は基礎控除(13,067 マルク、1999(平成 11)年)のみである。この控除額は夫 婦単位の課税を選択したときの夫婦の基礎控除額の2 分の 1 となっている。課税総所得金額に独身者 用の税率表の税率を乗ずることにより所得税額が求められる。54 マルク毎に税率が決まっている9

5 フランスの場合

10 フランスの所得税計算における課税単位は家族数を考慮した単位となっている。図 I -7 を参照され たい。 まず、「総所得金額」(( a )( b ))の計算を行う。「総所得金額」とは、給与所得、役員報酬、事業所得、 非営利活動から生ずる所得、農業所得、利子・配当所得、不動産所得、譲渡所得等から生ずる各収入金 額からその収入を得るのに要した費用を差し引いて、それを合計して算出したものである。例えば、 給与所得の場合、給与収入から給与所得控除を引いたものである。 課税標準となる「合算総所得金額」( c )は世帯主・配偶者の「総所得金額」(( a )( b ))を合算して(子供の 所得については合算することも合算しないことも可能である)求める。次に、「合算総所得金額」を家 族数を考慮した単位数( d )で割る。そこに得られる額から所得控除等(e)を差し引くことによって「課 税総所得金額」が計算される。所得控除には、両親、祖父母あるいは独立した子供に対して支払う生活 費等がある。ドイツと同様に、人的控除としての配偶者控除制度は存在していない。 ところで、家族数を考慮した単位数については次のようになっている。独身者は 1、夫婦は 2、夫 婦子供1 人は 2.5、夫婦子供 2 人は 3、夫婦および 3 人目以降の子供は 3+1 である。 「所得税額」( h )は、「課税総所得金額」( f )に税率( g )を乗じ、それに前記の家族数を考慮した単位数 ( d )をかけることによって求められる。 税率表は1 つで、税率は 7.5、21、29、37、43、48.5%の 6 段階(1999(平成 11)年度)で累進的と なっている。なお、実際に納める税額は求められたその所得税額から税額控除(生命保険料控除、子供 の養育費控除等)を引くことによって算出される。これらの流れからフランスの所得税計算における夫 婦単位の課税方式は「N 分 N 乗制」といわれる。 独身者の場合の所得税計算の流れは図I -7 における世帯主の総所得金額が課税標準となる。家族数 を考慮した単位の計算において、扶養家族の有無によりその単位数が異なり、所得税額が変動する。 例えば、大人1 人子供 1 人の家族数を考慮した単位数は 2 で、大人 1 人子供 2 人の家族数を考慮した 単位数は2.5 となる。 9 税制調査会(1998)、8 頁、を参照されたい。

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図 I−1 日本、イギリスの課税標準および課税所得金額、所得税額の計算について 世 帯 主 配 偶 者 (注) (注) 税率適用 税率適用 (注) 総所得金額は、各種所得をただ単に合算するのではなく、損益通算や純損失、 雑損失の繰越控除等を行うことにより計算される。 課税標準の計算において、譲渡、山林、退職所得等の分離課税は除いている。 各種所得金額 の 計 算 各種所得金額 各種所得金額 総所得金額 課税標準の計算 課税総所得金額 課税総所得金額 課 税 総 所 得 金 額 の 計 算 所得税額 所得税額 所 得 税 額 の 算 出 所得控除 所得控除 税率適用 税 率 適 世 帯 主 配 偶 者 総所得金額

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配偶者特別控除は、 イ ) 妻のパート収入の増加に応じてなだらかに控除額が 減 少し (現行では 、パート収入 70 万円から控除額の消 失 が 始まり、非課税限度額である 103 万円で消失が いった ん完了する )、かつ、 ロ ) パート収入の非課税限度額 103 万円を超えても (す な わち 、妻が独立した納税者となっても )、年間のパート 収入 が 141 万円までは控除が適用される (103 万円 を 超 えると消失した控除額が全額復活するとともに 、 収入に 応じた消失が始まり、 141 万円で完了する ) ようになっている。 この結果、世帯の手取り収入が逆転するという意味で の「パート問題」については、税制上、配偶者特別控除 が導入されたことにより解決 されてい る。 ( 出典 ) 税制調査会・基本問題小委員会『課税問題ワーキンググループ中間とりまとめ』 ( 出典 ) 1998 年 (平成 10 年 )10 月 27 日「参考資料 」、 59 頁。 図 I− 2

配偶者特別控除の仕組み

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図 I−3 1990 年 4 月以前のイギリスの課税標準および課税所得金額、所得税額の計算について 世 帯 主 配 偶 者 所得控除 総所得金額 の 計 算 総所得金額 総所得金額 合算総所得金額 課税標準の計算 課税総所得金額 所得税額 課税総所得 金額の計算 所得税額の 算 出 税率適用 世 帯 主 配 偶 者

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図I−4 アメリカにおいて夫婦合算申告を選択した時の 課税標準および課税所得金額、所得税額の計算について 世 帯 主 配 偶 者 (d)所得控除 ( f )税率適用 総所得金額 の 計 算 (a)総所得金額 (b)総所得金額 (c)合算総所得金額=(a)+(b) (e)課税総所得金額=(c)−(d) (g)所得税額=(e)×( f ) 課税標準の計算 課税総所得 金額の計算 所得税額の 算 出

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図I−5 個別申告を選択した時のアメリカ、個人単位課税を選択したドイツの 課税標準および課税所得金額、所得税額の計算について 世 帯 主 配 偶 者 所得控除 所得控除 税率適用 税率適用 総所得金額 の 計 算 総所得金額 総所得金額 課税総所得金額 課税総所得金額 所得税額 所得税額 課税総所得 金額の計算 所得税額の 算 出

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図I−6 合算課税を選択した時のドイツの課税標準 および課税所得金額、所得税額の計算について 世 帯 主 配 偶 者 (d)所得控除 ( f )税率 総所得金額 の 計 算 (a)総所得金額 (b)総所得金額 (c)合算総所得金額=(a)+(b) 課税標準の 計 算 (e)課税総所得金額=((c)−(d))÷2 (g)所得税額=(e)×( f )×2 課税総所得 金額の計算 所得税額の 算 出 世 帯 主 配 偶 者

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図I−7 フランスの課税標準および課税所得金額、所得税額の計算について 世帯主 配偶者 (d)単 位 数 (e)所得控除 (g)税率 総所得金額 の 計 算 (a)総所得金額 (b)総所得金額 (c)合算総所得金額=(a)+(b) ( f )課税総所得金額=((c)÷(d))−(e) (h)所得税額=( f )×(g)×(d) 課税標準の 計 算 課税総所得金額 の 計 算 所得税額の 算 出

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参照

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