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学位論文の内容の要旨
論 文 提 出 者 氏 名 佐藤 雄哉
論 文 審 査 担 当 者 主査 田中 真二 副査 三宅 智、明石 巧
論 文 題 目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer
(論文内容の要旨) <要旨>
Insulin-like growth factor (以下 IGF)はチロシンキナーゼレセプターである Insulin-like growth factor -1 receptor (以下 IGF-R)に結合し、腫瘍細胞の増殖や分化、新生を促す。 Insulin-like growth factor binding protein 7 (以下 IGFBP7)は様々な悪性腫瘍において、 IGF-dependent pathway を介して腫瘍増殖を抑制することが報告されている。一方で腺癌におい ては IGFBP7 の発現と、その腫瘍増殖、生存率との関連は報告により異なる。本研究では胃癌にお ける IGFBP7 と臨床病理学的因子、予後との関連についての検討を行った。
当院で、原発性胃癌に対して胃切除を受けた 219 人の患者を対象とし、手術検体における IGFBP7 のタンパク発現を免疫染色にて調べた。また、その中の 24 症例に対し Real-time quantitative reverse transcription PCR (以下 qRT-PCR)法を用いて mRNA の発現量を調べた。それぞれの発現 と臨床病理学的因子、予後との比較を行った。 IGFBP7 のタンパク高発現は腫瘍深達度(P<0.001)、リンパ節転移(P=0.002)、遠隔転移または 再発(P<0.001)、pStage(P<0.001)との相関を認めた。また、IGFBP7 のタンパク高発現群は低 発現群と比較し疾患特異的生存率が有意に低く(p<0.001)、Cox-Hazard 法による多変量解析にて IGFBP7 高発現(HR 4.8、95%CI 2.1-10.6、P<0.001)が疾患特異的生存率に対する独立した予後 因子であった。また、IGFBP7 の mRNA の発現量は進行癌(vs. 早期癌(P=0.002))、リンパ節転移 陽性(vs. リンパ節転移陰性(P=0.002))、遠隔転移あるいは再発あり(vs. 遠隔転移あるいは再 発なし(P=0.019))で有意に高値であった。 以上の結果より、IGFBP7 の高発現は胃癌の進行に関与しており、有意な予後不良因子であった。 胃癌において IGFBP7 は腫瘍増殖に関与していることが示唆された。 <緒言> 様々なチロシンキナーゼレセプターが胃癌の浸潤や転移に関与していることが報告されてきた が、その中でも HER-2 レセプター拮抗剤のみが胃癌の分子標的治療薬として承認されている。し かし、胃癌患者の中で HER-2 陽性であるのは 12%程度であり、化学療法に HER2 レセプター拮抗 薬を併用しても生存率は 16 カ月に過ぎない。今後胃癌に対する新しいバイオマーカーの探索は重
- 2 - 要な研究課題である。
Insulin-like growth factor (以下 IGF) (IGF-I, IGF-II)はチロシンキナーゼレセプターであ る Insulin-like growth factor -1 receptor (以下 IGF-R) (IGF-1R, IGF-IIR)に結合し、腫瘍細 胞の増殖や分化、新生を促す。Matsubara らは IGF-1R の発現が進行胃癌患者において有意な予後 不良因子であることを報告している。IGF の働きを促進的、または抑制的に調節する物質として Insulin-like growth factor binding protein(以下 IGFBP) (IGFBP1-7)が報告されている。その 一つのサブタイプである IGFBP7 は IGF-1 が IGF-1R に結合するのを阻害することで、腫瘍増殖を 抑制することが報告されている。一方で腺癌においては、IGFBP7 は IGF-dependent pathway とは 別の経路で腫瘍増殖を促進することが報告されている。本研究では。胃癌における IGFBP7 の発現 と臨床病理学的因子との関連についての検討を行った。
<方法>
2003 年 1 月から 2007 年 12 月まで、当院胃外科で原発性胃癌に対して胃切除を施行された 219 人を対象とした。免疫染色のための一次抗体は以下のものを使用した。IGFBP7(マウスモノクロ ーナル抗体、Santa Cruz Biotechnology、U.S.A.)、免疫染色は一次抗体に結合する二次抗体 (Histofine Simple Stain MAX PO, Nichirei)を用い、ジアミノベンジジンを用いて発色した。
免疫染色の評価は、染色強度(Staining intensity)を 3 段階(0、1、2)と染色範囲(Staining extensity)を 4 段階(1、2、3、4)とし、それらの和が 4 以上で高発現、4 未満で低発現と定義 した。
また、その中で 24 症例に対し Real-time quantitative reverse transcription PCR (以下 qRT-PCR)法を用いて mRNA の発現量を調べた。 <結果> IGFBP7 の高発現は 131 例(59.8%)に認めた。IGFBP7 の高発現は深達度(P<0.001)、リンパ節 転移(P=0.002)、遠隔転移または再発(P<0.001)、pStage(P<0.001)との相関を認めた。IGFBP7 の高発現群は低発現群と比較し疾患特異的生存率が有意に低く、Cox-hazard 法を用いた多変量解 析において、IGFBP7 高発現は疾患特異的生存率において独立した予後因子であった。(HR 4.8、 95%CI 2.1-10.6、P<0.001) IGFBP7 の mRNA の発現量は進行癌(vs. 早期癌(P=0.002))、リンパ節転移陽性(vs. リンパ節 転移陰性(P=0.002))、遠隔転移あるいは再発あり(vs. 遠隔転移あるいは再発なし(P=0.019)) で有意に高かった。 <考察> 今回の結果から、IGFBP7 のタンパク、mRNA の高発現は胃癌の進行に関与しており、予後不良因 子であることが示唆された。同様に、食道癌(腺癌)、大腸癌といった腺癌においても腫瘍増殖に 関与することが報告されている。一方で、同じ腺癌である膵癌や大腸癌において、IGFBP7 が腫瘍 抑制効果を示すと報告する論文も見られる。このような相反する結果の原因として IGFBP7 の発現 が同一の癌腫内で異なることがあげられる。Adachi らは、大腸癌においては腫瘍先進部で IGFBP7
- 3 - の発現が高いことが多く、同じ癌腫内で不均一な発現を示すことを報告している。 また、IGF-dependent pathway を介して腫瘍増殖を抑制する以外に、腫瘍の増殖を促す経路が あるのではないかと考えられている。 Adachi らは IGFBP7 の高発現を腫瘍内とその付近の小血管に認めることから、腫瘍増殖に伴う 血管新生に関与するのではないかと報告している。
Liu らは IGFBP7 のタンパク、mRNA の低発現が胃癌の進行を抑制し、予後不良因子であるという、 我々の研究とは反対の結果を示している。これには前述の理由以外に、いくつかの理由が考えら れる。胃癌がもともと不均一な性質を持っている。実際、チロシンキナーゼレセプターのタンパ ク発現が単一の癌腫内で異なるという報告が散見され、本研究でも免疫染色において不均一な発 言を認めた。また、qRT-PCR の primer や免疫染色に用いた IGFBP7 の抗体、染色方法が異なるこ とが挙げられる。また、Liu らの報告に比べ本研究の対象症例では早期胃癌の占める割合が高く、 進行度の分布に違いがある。 <結論> 本研究の結果より、IGFBP7 の高発現は胃癌の進行に関与しており、予後不良因子であることが 示唆された。
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論文審査の要旨および担当者
報 告 番 号 甲 第 号 佐藤 雄哉 論文審査担当者 主 査 田中 真二 副 査 三宅 智、明石 巧 (論文審査の要旨) 1.論文内容本論文は胃癌におけるinsulin-like growth factor binding protein 7 (IGFBP7)の発現と臨床病理学的 因子との関連についての論文である。
2.論文審査
1)研究目的の先駆性・独創性
IGFBP7 は IGF-dependent pathway を抑制する以外に 間質反応等を介して腫瘍増殖を促進すること が報告されており、申請者は IGFBP7 発現について、胃癌 219 症例における免疫染色所見と臨床 病理学因子、予後との関連について解析を行っており、その着眼点は評価に値するものである。 2) 社会的意義 本研究で得られた主な結果は以下の通りである。 1. 2003 年 1 月から 2007 年 12 月まで、当院胃外科で原発性胃癌に対して胃切除を施行された 219 人を対象とした。 2. IGFBP7 の高発現は 131 例(59.8%)に認めた。IGFBP7 の高発現は深達度(P<0.001)、リ ンパ節転移(P=0.002)、遠隔転移または再発(P<0.001)、pStage(P<0.001)との相関を 認めた。 3. IGFBP7 の高発現群は低発現群と比較し疾患特異的生存率が有意に低く、Cox-hazard 法を用 いた多変量解析において、IGFBP7 高発現は疾患特異的生存率において独立した予後因子で あった。(HR 4.8、95%CI 2.1-10.6、P<0.001) 4. IGFBP7 の mRNA の発現量は進行癌(vs. 早期癌(P=0.002))、リンパ節転移陽性(vs. リ ンパ節転移陰性(P=0.002))、遠隔転移あるいは再発あり(vs. 遠隔転移あるいは再発な し(P=0.019))で有意に高かった。 以上のように申請者は、IGFBP7 が胃癌の疾患特異的生存率の独立規定因子であることを明ら かにしている。これは臨床的にも極めて有用な研究成果であると言える。 3)研究方法・倫理観 研究には本学医学部附属病院で根治切除がなされた原発性胃癌 219 症例が用いられ、切除標本 の IGFBP7 免疫染色所見と臨床病理学的因子の相関を調べている。十分な病理組織学的知識、
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( 2 ) 技術、臨床的知見のもとに遂行されており、申請者の研究方法に対する知識と技術力が十分に 高いことが示された。また、本学医学部倫理審査委員会の承認を得ており、本研究が十分な準 備の上に行われてきたと考えられる(831:消化器癌および胃癌の発生と進展、治療効果、予後 に関わる因子の解析)。 4)考察・今後の発展性 申請者は、本研究結果によって IGFBP7 が胃癌の根治切除後の予後予測バイオマーカーのひと つとなる可能性を考察している。これは先行研究と照らし合わせても極めて妥当な考察であり、 今後の研究にてさらに発展することが期待される。 3. その他 特記事項なし 4.審査結果 論文審査の内容を踏まえ、本論文は博士(医学)の学位申請に値する十分な価値があるものと 認められた。