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会社法の検証(1)

土 井 勝 久

日本の会社組織に関する法律について、明治23年に旧商法が初め て創設され(明治23年4月26日法律32号第一編第六章公布、商事会 社等については明治26年から大正12年まで施行)、その後、明治32 年に新商法が施行された(明治32年3月9日法律48号による公布、明 治32年6月16日勅令133号による施行)。そして、会社法が2006(平 成18)年5月1日に施行されるまでの約107年間、度重なる商法改正 と言う形で、会社組織に関する規定・法律が、適用・運用されてき た。 会社法の創設により、従来の会社垢に規定する諸規定に比較し

て、総ての規定が相当複雑となった。その為、教師側からは総ての

規定を網羅的に講義したいし、学生側からは興味の沸き且つ理解し やすい規定を中心に学習したいし、実務者側からは実務上のトラブ ルが多く発生する清算・破産の組織再編等に力を入れて学習して欲 しい等の思惑があることに対して、教育という観点から、どの程度 の内容と構成の講義本が必要か、悩むところである。

このような中、昨年、法制審議会は、社外取締役や組織再編等に

関する会社法の60項目以上の大幅な追加改正を提案し、現在弁護士 会等に対しパブリックコメントを求めている。 そこで、改正事項も考慮しつつ、どのような講義本を作成するの が良いのか、会社法の内容と各規定を検証する。 −127−

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会社法概論 日次 第一編 会社法総論 第一章 会社の存在目的 第二章 会社の概念 第三章 会社の能力 第二編 株式会社法 第一章 株式会社の特徴 第二草 株式会社の設立 第三章 株式と株主権 第四章 株式の分割 第五章 株式の併合 第六章 株式の消却 第七草 株式譲渡 第八草 株式譲渡制限 第九章 新株予約権 第十章 株主平等の原則 第十一章 株券 第十二章 株主名簿 会社法概論 はじめに 商法及び商事関連法規は、明治23年に初めて我が国に制定されて 以来、日本経済の実態に強く影響され、たび重なる改正を実施して きた。このことは現在でも変わらない。 法務省法制審議会商法部会は、2000(平成12)年9月6日に、会社 法の大改正の為の審議を開始した。その理由と目的は、1991年の野 村証券や日興証券等の暴力団への株の損失補填問題、1992年のイト ーヨーカ堂、1997年の野村・大和・日興・山一等の各証券会社、 第一勧銀、味の素、三菱自工、松坂屋等の総会屋への利益供与問 題、および1993年の清水建設、ハザマ、飛島建設等のゼネコン汚職 問題、1995年の大和銀行の米国債不正取引問題、1996年の高島屋の 暴力団への利益供与問題、住友商事の銅不正取引問題、1998年の

NEC・富士重工の防衛庁納品に関する背任事件問題、1999年の住

友金属鉱山の東海村臨海事故問題等々1990年から2000年の10年間 に、日本の主要な企業が多くの社会的な問題を惹起してきたことに

ある。その解決の為には、商法における、コーポレートガバナンス

(企業統治)の実効性の確保、企業の資金調達手段の改善実行、高 度情報化社会への法的対応、企業活動の国際化への対応等は不可欠 であり、その為の商法改正や整備に迫られたのである。そればかり か、主要先進国と同様に会社法の制定・整備が急務となったのであ

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る。 そこで、2001(平成13)年には、主要な項目だけ見ても、(∋金庫 株の解禁、(診単元株制度の創設、(釘額面株式の廃止、(弧閉鎖会社 (非公開会社)の株式発行規制見直し、(9議決権制限株式の拡大、 (むトラッキングストック(高株価又は高配当を目的にした会社の業 績優秀な特定の業務部門又は業績優秀な子会社だけで配当可能利益 の算出ができる業絞連動型株式)の全面解禁、⑦ストックオプショ ン(新株予約権)の拡大、(参会社経営と電子化の利用規定の拡充、 ⑨証券取引法の改正、⑩監査役の機能強化、⑪取締役の会社に対す る責任の軽減、⑫株主代表訴訟制度の合理化等々多くの点が改正さ れた(「商法等の一部を改正する等法律」法律79号、平成13.6.29公 布、同10.1施行、「商法等の一部を改正する法律」法律128号、平 成13.11.28公布、平成14.4.1施行、「商法及び株式会社の監査等に関 する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律」法律149号、 平成13.12.12公布、平成14.4.1施行)。 さらに、2002(平成14)年には、主要な項目だけでも、①種類株 主による取締役監査役の選・解任権、②株券失効制度の創設、③所 在不明株主の株式売却制度等の創設、④端株等の買い増し制度の創 設、⑤株主提案権の行使期限の繰り上げ等、(む株主総会の特別決議 の定足数の緩和、⑦株主総会の招集手続きの簡素化等、⑧(取締役 会専決事項の迅速な決定実行の為の)重要財産委員会制度につい て、⑨大会社以外の株式会社の会計監査人監査について、⑩(業務 執行の迅速な決定実行の為の)委員会設置会社に関する特例、⑪計 算関係規定の省令委任、⑳大会社の連結計算書類の導入、⑬現物出 資の価格の証明、⑭資本減少手続きの合理化、等々近年にない大改 正をした(「商法等の一部を改正する法律」法律44号.平成14.5.29 公布、平成15.4.1施行)。 しかし、商法の改正では、株式会社に関する経済のグローバル化 と会社関連法の整備に不十分なこともあり、我が国に初めて、会社 法が2006(平成18)年5月1Elに施行された。 −129−

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その後、2008年(平成20年)秋のリーマンショックによる世界経 済の同時不況および2011年(平成23年)3月の東日本大震災等が発 生し、これらは我が国の政治経済及び会社法とその関連法に影響を 与えてきた。

第一編 会社法総論

第一章 会社の存在目的 第1節 会社の経済的・法律的機能 会社は、現在の経済社会において、利潤の追求とその為の社会参 加(社会貢献)とを目的にした重要な組織体である。つまり、経済 的側面からのみ捉(とら)えると会社自体および社会全体の価値の 増殖を目的にした組織体である。会社はこの目的を達成する為に資 本と労働力を合体させ組織体として法律上効率の良い行動をとれる ように配慮されている。 経済社会においては、個人の事業活動においても資本と労働力と を合わせ効率のよい活動を展開することができる

。しかし、個人の

場合だとその事業活動に限界がある。例えば、事業資金の調達に関

しては、原則として金銭消費貸借によるため、営業成績に関係無

く、利益がなくても約定利息(やくじょうりそく)を支払わなけれ ばならず個人事業者に負担となる。反対に、個人事業者が高収益を あげている場合、単なる融資をしただけの者は一定の利息以上の経 済的利益を享受(きょうじゅ)できないので、融資行為に対してう

ま味がない。事業の危険負担に関しては、個人事業者は、株式会社

や合資会社の有限責任社員と異なり、常に債権者に対して無限の責 任を負担しなければならないので、事業の執行や拡張が自ずと制限 される。企業の永続性に関しては、営業主の交替は信用減退行為と なり企業の成績やイメージにマイナスになる場合が多い。さらに、 租税負担においては個人よりも法人組織の方が優遇されている。そ の他、従業員の雇用とその労働意欲の高揚等多くの点で、会社の場

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合に比較して個人事業はその事業活動において限界があるといえ る。 これに対して、会社制度は、法律上個人事業の限界を超越する為 に考案された制度である。例えば、多人数による出資(大規模な資 本の集中)ができるように工夫されたり(出資においても出資者の 責任が有限の場合と無限の場合とがあり出資者の便宜が図られてい る)、社員権の譲渡による会社企業の継続性を認めたり、機関を認 め会社企業の所有と経営とを分化するなど、企業規模の拡大発展の 為に必要な要素を法的に多分に網羅(もうら)しており、個人の企 業形態よりも有利に事業活動が展開できる企業形態になっている。 換言すれば、会社は社会の経済的機能を果し、社会の利潤分配と

活性化のために認められた団体である。したがって、会社は、経済

社会における経済秩序を構成する重要な要素であるともいえる。 第2節 会社の社会的機能 会社は、自然人の存在と参加が大前提になっている組織で、会社 自体が現実の社会の構成要素であるから、利潤追求が主目的である ものの、それだけではなく個人を越えた社会の構成要素としての義

務を果す責任がある。つまり、会社の経済活動において、利潤追求

と同程度に社会性や公共性を重視する必要がある。時代の進展と共 に、この社会性や公共性を認識するようになってから、「企業の存 在意義ないし理念」の問題が検討されてきた。これに関して、企業 は会社内部における私的利益の矛盾を調整したり、組織の維持発 展の為に充実されるべきであるとする理念と、企業活動が国民経済 活動に相当な割合を占めているので、企業の存在目的は社会性及び 公共性を重視せざるを得ないとする理念(主唱者ラテナウ)等があ る。 現在の経済社会において、会社は利潤獲得を目的にした法律上の 組粒体である。しかし、利潤獲得の為ならば何をしてもよいという

のではなく、まず、会社は社会のルールに従って行動し(法令遵

−131−

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守compliance)、社会秩序を乱すものであってはならないのであ

る。次に、国民経済の観点から会社の目的を検討すると、商品やサ

ービスの提供あるいは労働の場所の提供を通じて、社会に貢献しな ければならないということになる。つまり、会社の目的は健全な社 会を創出する為の「社会参加(社会貢献)」でもある。さらに、会 社は研究・技術開発を通じて、国民に文化の向上換言すれば社会的 利益をもたらすものでなくてはならない。さらに、社会貢献の一パ ターンとして、会社が獲得した利潤の一部を公益に提供する「フ ィランソロピーphilanthropy(人類を愛するというギリシャ語が語 源)」という思想が先進国にはある。 さらに、2010(平成22)年には、プロボノバブリコ(pro bo・ nopub・1ico<ラテン語>公共の善の為に)という活動が増加してき

た。古くからボランティア活動や福祉活動はあった。しかし、この

活動は、NPOへ専門的技術を無料で提供することにより、一層の 機能強化を図り、NPOが効果的な団体になるだけでなく、参加社 貞のモチベーションをあげたり、企業の価値を再発見し、社会体験 を通じて働きがいを発見する相乗効果を期待する活動である。

労働者は、企業が巨大化し、政治・経済社会に閉塞感が漂うと、

労働意欲を失う者が増加する。このような時代に、自主的に自己の 専門技術を社会に還元すると、社会で評価されるので自己を再発見 し、人間性を取り戻すのである。もともと、医師、弁護士、会計士

等が1カ月に数時間、無償で、自分の専門を必要な人や団体に提供

したのが始まりである。現在は、銀行マン、システムエンジニア、

デザイナー等あらゆる種類の人が、紹介団体に登録し、受入れ希望 団体に出向き、効果的な活動をしている。アメリカではこの活動を 支援する企業が多い。 第二章 会社の概念 会社とは、営利を目的にした法人である(会3)。 *一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 参照

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第1節 会社の社団性と民法上の組合 会社は観念的には個人と異なり社団である。社団とは、共通の目 的を有する複数人の結合体で、ドイツ語のVerein(団体、団結、

結社等の意味)に由来する。つまり、人の集合体が、個々の構成員

を超えた独立の単一体として存在しかつ活動する組級体になってい るものをいう。したがって、社団は多人数の構成員による事業形態 に向いている。 しかし、会社法は旧商法と異なり、会社に社団性を問題にするま でもないこと、及び事業形態の多様化に伴う法整備の整合性(一人 会社の項参照)の観点から、「本法二於テ会社トハ南街為ヲ為スヲ 業トスル目的ヲ以テ設立シタル社団ヲ謂フ」(旧商52Ⅰ)の規定を 設けなかった。 民法上の組合は、複数人が出資をして共同事業を行うための団体 である(民667以下)。これは一瞥(いちべつ)すると社団と大変 よく似た団体である。しかし、組合契約は各組合員が出資をして共 同の事業を営む約束をすることによって成立する。これは出資義務 と共同事業経営とが組合員(社員)相互の対価関係にある事を意味 するから(例:民667・670Ⅲ・674・675)、多人数の共同事業形態 には向かない。さらに契約の性質は有償双務の諾成契約である。つ まり、組合は個々の組合員を超えた独立の単一体としての独自性を 持っていない。各組合員は組合員相互間の組合契約によって結合し ている(民667Ⅰ)のであり、各組合員を凌駕(りょうが)した団 体の構成員になるのではない。したがって、組合は構成員を超えた 独立の単一体として存在する社団とは異なる。 社団と組合の比較 組織効果(社団)構成員の数+アルファ (組合)構成員の数=組合員の数 契約関係(社団)会社対各社員 (組合)組合員対残りの他の組合員 旧商法68粂が会社の内部関係については組合の規定を準用すると −133−

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規定しているのは、人的会社が社会学的及び実質的な背景におい て人的信頼関係を重視した制度として作られた為に、法律的に組合 的処理をするのが適していることを認めたものであって、人的会社 が組合になるということではない。このことは組合規定の「準用」 ということからも類推できる(鈴木「会社の社団法人性」商法研究

Ⅱ、松本・日本会社法論、志田・日本商法論、松田・会社法概論、

上柳「会社の社団性と法人性」商法の争点(第2版)等)。 以上より、実質的には、構成員の数が多くその個性が希薄な団体

を社団といい、そうでない団体を組合という。また、形式的には、

構成員が団体を通じて間接的に結合する社員関係に立つものを社団 といい、構成員が相互の契約関係(社員対他の全社員の関係)にな るものを組合という。 第2節 一人会社 社団とは複数人の団体である。しかし、法律上、株式会社は、合 名会社や合資会社と異なり、社員が一人の場合でも成立し、かつ存 続できる(会26・471・641)。つまり、法律上「一人会社」(いち にんがいしゃ)の存在が可能なので、社団理論との関係が問題にな る。 この点に閲し、株式会社には社員が一人になった場合に解散しな ければならないという具体的な規定がないこと(会471)、および 株式の再譲渡による社団性の復活が可能であること等を理由に、一 人社員の場合でも社団性の理論に反しないと解されていた。つま り、一人社員の場合には「社団性が一時潜在化している」と解する のである。 さらに、民法は、社団法人の解散原因に「社員ノ欠乏」(民68 Ⅱ)を規定しており、会社法も今回の改正で持分会社の解散原因に 「社員が欠けたこと」と規定した(会641④)。このことからも社 団法人においては、社員の不存在の場合には解散しなければならな いと解されるが、社員が一人になった場合、当然に解散しなければ

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ならないというものではないと解される。つまり、社員が一人以上 存在する団体は、社団性の一時的潜在化を根拠に社団として理論上 認められると解されているのである。 これに対して、会社設立時から会社の存続期間中ずっと一人社員 を予定しているような場合も考えられるので、社団理論における一 人社員の解釈について、本質的には「社団性の一時的潜在化」と解 し得ないと思われる場合もある。しかし、一般にこのような現象は 株式会社形態の本来目指す形態ではなく、例外的または病理的現象 であると解されている。そして、無期限の一人社員状態は、「社団 性の潜在化」論を否定するに足るだけの理由とは解し難いとされて いる。 しかし、一人会社の設立を認めた現行法の目的(旧7人の最低発 起人数への数合わせの為の一人発起人による塊偏〈かいらい〉設立 の回避、発起人一人による企業分割の便利性等)を検討すると、最 初から社員が一人でもよいとする一人会社の設立は病理的な現象と は解し難い。しかも、これらは社団性の潜在化論を否定するに足る 重要な論拠になると解する。なぜならば、一般論が一 人会社ないし 一人社員を例外的ないし病理的現象であるというならば、条文上に は、一人会社ないし一人社員の設立を是正するように明記すべきこ とが優先されるべきであると解されるからである。病的現象を排除 しないと本来の会社設立形態が誤った方向に向かうと解せられる。 したがって、一人会社を認めた以上、商法から会社の社団規定 (旧商52Ⅰ)を削除したり、一人会社の場合に選任する取締役の数 を最低一人でもよいとする、あるいは社員が一人しかいない場合 の会社の存続期間を限定する等商法の規定の整備が必要と考える (拙著「株式会社の一人会社に関する問題」札幌法学3巻2号57頁以 下)。 この点に関して、2006(平成18)年の会社法の制定に於いて、会 社は法人である(会3)と規定するだけで、社団性については規定 せず、この間題を解決した。 −135−

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第3節 法人性

第1款 法人の意義

*cf.一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成柑年6月2 日法律48号・公布) 我国においては、会社は総て法人である(会3)。しかし、外 国においては、会社が総て法人であるとは限らない。例えば、日 本の合名会社に相当する会社は、a generalpartner−Ship(米)、

anunlimited partnerShip(英)、die Offene Handelsgesellschaft

(独)であり、合資会社に相当する会社は、alimited partnership (米・英)、die Kommanditgesellschaft(独)と言われており、 これらは法人と認められていない。これに対して、フランスでは組 合にも法人格が認められる傾向にある(山本『フランス企業法序 説』) 。このように団体に対する法人格の付与は各国の立法政策に よって異なっている。 法人とは「権利義務あるいは法律関係の帰属点」(川島武宜「企 業の法人格」F田中先生還暦記念・商法の基本問題』196頁)と解

されている。つまり、これは、社団に対しあたかも自然人と同様に

権利義務を認めることにより、法律関係を合理的に処理する為のも

のである。そして、権利義務の単一的帰属、社団と構成員との権利

義務および財産関係の区別等に近代的法人の意義があるとする。 第2款 法人学説 法的主体としての「法人の本質は何か」という問題に関しては、 中世の教会法学より今日に至るまで論じられている。そこで、主な ものを大別すれば以下の通りである。 1 法人擬制説 主にサヴイニー(Savigny)によって主張された。この説による と、法的権利の主体は自然人だけであるという基本的観念を前提

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に、便宜上自然人以外の団体にこれを認めるとしても、それは実在 しないものをあたかも実在するごとく法が法人を自然人に擬制する だけであるとする。法人の存在を擬制するのは、現実の取引社会に いろいろな人的結合体があり、個人とは別の独立した共同体利益の 存在が認められるので、この個々人を越えた共同体利益の帰属者を 認める必要があるからであるとする。したがって、法人とは法によ って自然人のごとく認められた共同体利益の帰属者であるとする。 法人は、取引社会に於ける共同体利益または団体の利益を前提に認 められるものであるから、無の中に単純に擬制されるのではない。 この考え方は、国家と個人の間に団体の存在を認めようとしなかっ た時代には有力視されたが、団体が一つの意思や行動の主体と考え られるようになってからは採用されなくなった。ただ、イギリス会 社法においては法人に機関という観念は認められないので、会社が 法人格を有するのは法人擬制説によるとする(武市春男『イギリス 会社法』328頁)。したがって、この説によると企業活動は取締役 という代理人によってなされることになる。 2 法人否認説 法人擬制説を分析し実証的に法人の存在を否認した説である。こ の考え方の主なものをあげると以下のとおりである。 目的財産説→これはプリンツ(Brinz)の考え方で、法人の本体 は一定の目的の為に捧げられた財産であるとする。 享益者主体説→これはイェーリングの考え方で、法人の本体は法 技術を通じて利益を享受する多数の個人であるとする。したがっ て、法人の独白の利益の帰属者はいないので、法人は否認される。 管理者主体説→これはヘルダー(HUlder)やビングー (Binder)の考え方で、法人の本体はその財産を管理する看であ るとする。つまり、共同財産の利益享受の為に財産管理人はいる が、この者の行為は個人の取引行為とは異なるものの共同財産の管 理行為であるから、法人とは共同財産の管理人のことであるとす −137−

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る。現代社会においては、法人格に関係無く、自然人以外にその構

成員とは別個の機能を有する団体が実態として存在する以上、法人 否認説のように、法人を本体の無い観念的な存在として捉えること はできない。 3 法人実在説 法人は実在すると考えるもので、これは有機体説と組織体説と社 会的作用説の3つに大別できる。

①有機体説→これはギールケ(Ottovon Gierke)が唱えた説であ

る。個人の団体的結合は、多数の個人が1つになることで、法人と

は自然的有機体たる個人と同様に社会的有機体として一つの意思と 組織を有するものであり、この実体こそが法人の本質であるとす る。この実体には各個人の主体性を超越する主体性が認められるの

で、多くの賛同を得ている。しかし、団体が自然人と同様に意思を

有し実在体であるとしても、法人格を有すべきか否かは別問題であ り、この点の説明が不十分との非難がある。

②法人組織体説→これはミシュー(Michoud)やサレイユ

(Saleiyu)が説く説である。法人とは、法律上権利主体として把 握することのできる組織された実在体であり、その意思は自然意思 でなく法的組織によって形成された意思であるとする。つまり、法 人とは法的創造物である。 ③社会的作用説→これは法人の実在を前提にした上でさらにその機

能に着目し本質論を展開するものである。つまり、法人とは、自然

人と同様に社会におけるいろいろな作用を担当し、権利能力の主体 として社会的に価値あることが、法人に権利能力を認められる所以 であるとする。昭和45年6月24日に最高裁判所が「八幡製鉄政治献 金事件」でこの説を採用して以来、現在の法人論における我国の通 説となっている。 第3款 法人と権利能力なき社団について

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設立中の会社その他法人と同様の組粒体を有していても未だ法人 格を取得していない社団と法人との関係を検討する。 権利能力なき社団は、財産の登記および契約書の署名を社団の名 前だけですることはできないが、ほかの点については権利能力なき 社団も法人と同じように扱える(我妻『新訂民法稔則』)。あるい は登記や署名においても両者を区別する必要は無い(星野『論集一 巻』)等の考え方があり、法人と法人格なき社団との差異が無くな ってきつつある。しかし、法人格は「権利義務の帰属主体」あるい は「法律効果の統一点」と言われており、法人格があることによ り、社団であることの主張ないし立証を自らする必要が無く、また 権利義務の帰属点を明瞭にするといった意義がある。 第4節 法人格否認の法理 第1款 意義 法人格否認の法理とは、会社制度がその趣旨をはみ出て、法人と して殆ど実態が無いにも拘らず法人格の存在を根拠に会社の形式的 独立性のみを主張する事により、正義・衡平の理念に反するような 場合、会社の解散手続きにより全面的に会社を否定するのではな く、会社としての存在は認めながら、特定な事案の法的処理におい て、会社の法人格を否認し、実体の無い会社の問題としてではなく 会社の背後にいる株主の問題として、その解決を図ろうとする法理 である。 これは、1920年代の米国の判例に起源を求められる「法人擬制又

は法人格の否認」(disregardofthecorporatefictionorcorporate

personality)または「法人被衣の剥奪」(piercing the veilof

corporate entity)と表現されていた(参考.大隅『会社法の諸問

題』)。日本においては、大隅健一郎、松田二郎両博士が最初に導

入・紹介された後、昭和31年から昭和35年頃の下級審判決に応用さ れ、昭和44年2月27日に最高裁判所でも採用された(民集23巻2号 511頁)。 −139−

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【具体的事実:昭和44年2月27日に最高裁判所でも採用された(民 集23巻2号511頁)】 地主Ⅹは、Y会社(実質はAの個人企業)と5年間の期間を決め て店舗賃貸借契約を締結した。契約締結時、Ⅹは当該店舗が個人企

業か会社組織か、明確に確認せず、直接契約依頼をしてきたAと契

約した。その後の経過は、(∋Ⅹは期限が来たのでAに店舗の明け渡 しを求めた。②Aは期限までに明け渡すとの念書を提出した。③A は期限が来ても明け渡さない状況が続いている。④ⅩはAを被告と

して店舗明け渡し訴訟を提起した。⑤当該訴訟継続中に、ⅩA間の

和解が成立した。⑥和解成立後、和解当事者はAだから、A使用部 分は明け渡すが、Y使用部分は明け渡さないと主張した。⑦ⅩはY を被告として、再度訴訟を提起した。 【判旨ポイント】 ①法人と個人とは別個の人格者である。①法人格の付与は立法政 策によるものである。③法人格の形骸化や濫用の場合には、法人格 は否認されるべきである。(む理由は、会社は準則主義により容易に 法人格を取得できることから、会社形態が藁人形に過ぎず、会社別 個人または個人別会社の現象を生じる。(Dこのような場合、相手方 の保護を優先すべきとなる。その為、会社という法的形態の背後に いる個人に迫る必要がある時は会社名義の取引であっても、法人格 がないのと同様に対応し、責任追及をすることができる。(む個人名 義でされた場合であっても、相手方は商法504条(商行為の代理: 非顕名主義)によることなく、その行為を会社の行為と認めること ができる。(DYはA個人だから、ⅩはA個人に対して、明け渡し訴 訟を提起できる。⑧しかし、訴訟法上の既判力については別に検討

しなければならない。つまり、A個人が店舗明け渡し判決を受けて

も、その判決の効力はYには及ばない。⑨同様に、Ⅹ・A間の和解 は、A個人名義であっても、Yの行為と解しうる。 *即(スナワチ・そのまますぐに)、則(スナワチ・もしそうなら

ば)は、会社別個人、会社即個人共に正解である。

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*既判力とは、同一事件(訴因ではなく公訴事実の同一性・単一 性)において、裁判確定後は再び争わない為の法的効果をいう。つ

まり、蒸し返し禁止の意味を持つ。一事不再理とも言う。しかし、

刑事法と異なり、民事法では事情変更や派生問題の範囲が広いこと からこの既判力をどう扱うか問題がある。訴訟法説(既判力につい ては後訴の裁判官が先訴の確定判決の内容を尊重して同一事項は同 一に裁判するという考え方)が通説判例であり、新訴訟法説では一 事不再理説の再構築(訴えの利益の有無の効果ではなく、既判力自 体の法的効果として、あとからの同一公訴事案は不適法と)すべ きとする。既判力の及ぶ同一事件が公訴されたら免訴となる(刑訴 337①)。 第2款 法理の適用 この法理の適用に閲し、学説上、肯定説と否定説とがある。通説 や多数説は、この法理が当然に認められるとするものの、既存の法 理ないし法規の解釈によって同一の効果を期待できるかぎり、それ によって問題を解決するのが先で、安易に法人格否認の法理に頼る べきではないとする。この法理の根拠が民法1条3項の権利の濫用禁 止という一般条項にある以上、当然のことである。したがって、具 体的な問題に対して権利の濫用禁止の規定を適用した場合に疑義を 生ずるなど不都合がない限り、安易にこの法理を利用すべきではな い。特に、単純な会社組織の形骸化の場合を考えてみると、解散原 因が規定されており(会471・641)、これに該当しない場合には、 社会的に望ましい形態でなくても会社と認められる限り、その法人 の権利能力は広く認められるべきであるからである。 また、我国は制定法主義を採用しているにも拘らず、当該法理が 具体的に規定されていないことにより、法規適用順の面から見て も、まず現行法規の適用と解釈が優先されるのは当然のことであ る。 これに対し、否定説は「会社法人格の否認は公権力を以て画一 −141−

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的・対世的に行われるべきで、当事者が個別的に否認の効果を主張 すべきではない」(西原『商事法研究』三巻13頁)としている。否 定説といえども、法人格の法理自体を否定するのではなく、当事者 間で窓意的な法人格の否認をすべきではないと主張しているのであ る。 以上より、通説(多数説)・判例ともにこの法理の適用を肯定し

ているが、その適用の場合については若干相違している。つまり、

多数説が法人格の濫用の場合にこの法理を適用できるとするのに対

し、判例は法人格の形骸化の場合に適用できるとしている。さら

に、大隅博士はこの法理を適用すべき場合として具体的に4つの場 合を列挙されている。 すなわち、 ①会社制度の濫用 ②社団に関する法規の目的が侵害される場合 ③会社と社員との業務および財産の混同がある場合 ④当事者が事実上別人であることを前提とする法規の解釈が問題と なる場合等である(大隅「法人格否認の法理の一適用」『商法の諸 問題』138頁)。 その他、「意思表示等に関する規定の解釈および契約に関する解 釈の問題として処理すべき場合を丹念に洗いだし、法人格否認の法 理によるほかない場合を浮き彫りにする努力」をすべきであるが、 いまだに不十分で当該法理の定説はない(森本「いわゆる法人格否 認の法理の再検討」法学論叢89巻3・6号)とするものや、法人格の 形骸化のような仮装理由の背後にある実質的理由を突き止め、会社 法固有の利益衡量に基づく問題と一般私法的な問題など従来混同さ れがちであったものを明確に区別することによって再整理する着実 な作業が行われている(龍田■ジュリスト商法の判例6頁)とする

ものなどがある。結局、法人格否認の法理が適用される範囲は、会

社形態の濫用の場合であるとするものの、中でも法人格の濫用の場 合だけであると主張する者が多く、定説としてこれよりも明確でよ

(17)

り具体的な適用範囲を限定するに至っていない。 第3款 法人格否認の法理の適用要件 会社の背後にいる社員が会社を懇意に経営できる状態にあればよ いとする考え方(実質的支配説)と、社員の実質的会社支配(主観 的な濫用目的を立証する必要はない)と、社員と会社の財産区分の

欠如、社員の生活と会社業務活動の区分不明確、会計区分欠如、会

社機関の実質的不存在の一部が併合してこの法理を適用できるとす る考え方(形式的形骸化説)とがある。前者は漠然としているのに 対し、後者の方が具体的基準を明確にしているので、この法理の適

用要件としては、妥当性を有する。さらに、判例は「‥・株式会社

形態がいわば単なる藁人形に過ぎず、会社即個人であり、個人即

会社であって、その実質が全く個人企業と認められるが如き場合 を生じるのであって、このような場合、これと取引する相手方とし ては、その取引がはたして会社としてなされたか、または個人とし てなされたか判然としないことすら多く、相手方の保護を必要とす るのである」とし、人格の存在を不明確にした主体の取引活動に対 し、この法理の適用が可能であることを示している。 第4款 この法理の主張者 会社との法律行為において、会社から不法な行為を受けている者 である。例えば、債権者やこれに準ずる債権譲受人等である。ま た、判例(仙台地判昭和45・3・26判例時報588号52頁)の中に「子 会社に対する関係で受動的立場にある債権者についてのみ、親会社 の責任を負わせるべきだ」として、受動的立場にある債権者のみが この法理を援用できるとしたものがある。 第5款 適用の効果 特定な問題の法的処理の為、会社としての存在を認めながら、他 方特定な事案に関してその会社の法人格がないものとされ、法人と しての会社の背後にいる社員個人の責任を追及することにある。し −143−

(18)

たがって、会社がその法人格を否定され権利能力なき社団になるの ではなく、法人格を潜在化させた状態で、具体的な問題の処理を図 ることができるのである。 *訴訟法上の既判力の主観的範囲について、民事訴訟法201条1項・

2項は、当事者またはその承継人を意図していることから「社員

(個人)またはその支配する会社のいずれかに対する債務名義をも って、直ちに当事者でない他方に対して強制執行をすることは許さ れない」(奥山『実務民事訴訟講座』5巻167頁)とされるので、こ の法理が適用された時の強制執行に関しては、会社または社員(個 人)の一方に対してのみ既判力が及ぶことになる。この訴訟法の規 定に従うと法人格否認の法理の効果を得るのに手続上煩雑である。 そこで、この法理を適用できる場合には、当該規定の承継人の範囲 について、背後者たる社員を口頭弁論終結後の承継人に含めると考 える人が多くなっている。 第三章 会社の能力 第1節 権利能力 会社は原則として自然人と同様に「人」と見なされる。つまり法 人(会3)であるから、権利義務に関しては、原則として自然人と 同様な扱いを受ける。 さらに、現在、法人は自然人の場合と異なり、準則主義や許可主 義(民33、会社25・26、一般社団法人及び一般財団法人に関する法 律10)に基づきその設立が認められるので、法人の意思無能力や行 為無能力はあり得ない。つまり、会社は設立と同時に原則として意 思能力と行為能力とを併有するのである。かつて、法人擬制説が法 人を自然人に擬制し無能力者(又は制限能力者)として扱い、法人 の代表機関をその法定代理人と解して、その法定代理人の行為を法 人の行為とした考えの下では「法定代理人」の意思能力や行為能力 を問題にする論理的必然性があったが、現在は法人実在説がとら れるので法人の意思能力や行為能力を論ずるその必然性がない(服

(19)

部・株式の本質と会社の能力126頁)。会社は機能的な組織を有し 社会的に活動をする実在体であるから、会社の代表者の行為は自然 人たる個人の行為ではなく会社の機関の行為つまり会社自体の行為 となるのである。 しかし、自然人と法人には本質的な若干の相違点があるので法人 の権利義務に関しては以下の制限がある。 第1款 性質上の制限 法人は実在する「人」と認められているが、自然人のような肉体

を持つものではない。したがって、法人は、肉体を基礎とした自然

人的特性である生命や身体に関する権利義務および親族法上の権利

義務等を持たない。しかし、名誉や人格権はあると解する(通説、

五十嵐清r人格権論』19頁)。

第2款 法令上の制限

1 会社法上の制限 旧商法上「会社はその事業目的を問わず他の会社の無限責任社員 になることができない(旧商55、旧有4)」と規定されていた。こ の規定は明治明年の商法改正において新設されたものであり、以下 の通りその論拠が幾つか挙げられるが、近年の社会・経済状況から その論拠に問題があり、無用の議論を回避する意味で、今回の会社 法新設に当たり当該規定は削除された。 以下は旧法の「会社は、その事業目的を問わず、他の会社の無限 責任社員になることができない」に関する反対論拠を参考までに掲 げたものである。 (1)無限安住社員の性質を理由とした説 「無限責任社員は人的信用を基礎とするものであり、それは社員 の手腕とか技能を含めて人そのものの信用を重視するということを 意味するから、会社はその性質上無限安任社員になりえない」(岡 野『会社法講義案』16頁)。これに対し、無限責任社員の人的信用 −145−

(20)

とは、個人の手腕や技能の問題ではなく財産的信用の意味であると 解した上で、現行法上、制限能力者である未成年者は無限安住社員 になることができると規定した私法(民6、商4・5)との関係から すると、会社も未成年者と同様に無限責任社員となり、その法定代 理人である取締役を通じて意思と行動を取ることができる(片山義 勝「会社は会社の社員たることを得るか」法学新報15巻13号59頁、 松本『商法改正法評論』21頁)といった批判がある。 (2)会社の独立性を理由とした説 会社が他の会社の無限責任社員になると、場合によっては他の会 社の事業に対して全責任を負担させられる事もあり、本来の会社の 事業の遂行に好ましい結果をもたらさない事が想定できる。したが って、会社は他の会社と運命共同体関係に入るような事は許されな いと説く(田中誠二『再全訂会社法詳論上』71頁、西原『会社法j 19頁)。これに対し、改正前商法55条(現行法では削除、会社ハ他 ノ会社ノ無限責任社員卜為ルコトヲ得ズ)が、会社財産は定款規定 の事業目的の為にのみ使用すべきであるとの趣旨とすれば、自社と 同じ事業目的を有する他の会社の無限責任社員になることまで禁止 する理由はないし、会社財産を他社に出資する事を禁止する趣旨な ら他社の株式取得も禁止しなければならないし、他人の事業への無 限責任の負担を禁止する趣旨ならば他社の債務保証につき金額を制 限すべきであるし、他の会社と民法上の組合契約を締結すれば無限 責任社員になったのと同じ法的効果が生じ、容易に当該規定を潜 説できる等の理由により、他の会社の無限責任社員になることを禁 止しただけでは当該規定を設けた趣旨に不十分であるとする(松本 『商事判例批評録』84事件、竹内『会社法講義上』51頁)。 (3)会社事業の遂行人がいなくなることを理由とした説 会社が他の合名会社の無限責任社員になると、この会社の事業遂 行者である人的要素を欠くことになる(田中耕太郎『改正会社法概 論』109頁)。しかし、無能力者(制限能力者)は法定代理人に代 わってもらって無限責任社員として権利行使をすることができるの

(21)

で、会社は代表機関を通じて業務執行をすることが可能であるし、 定款による業務執行者の限定ができる(商70)。したがって、本条 を規定する論拠にならない(上柳「会社の能力」『株式会社法講 座j 一巻87頁)。 (4)無限責任負担者の欠鉄を理由とする説 有限責任社員からだけで成り立つ株式会社には無限責任を負う者 がいないので、会社は無限責任社員になれないと解する(ドイツの かつての学説)。これは無限責任社員たる自然人が僅かの財産しか 所有しない場合、結果的に無限責任社員であっても有限責任しか負 担できない場合と同じであって、経済的観点からは本条の論拠たり えない。 2 その他の法令による制限 以下にあげる制限は、権利能力による制限というよりも、政策的 な取締規定と解される(竹内・同52頁)。 (1)独占禁止法上の制限 ①事業支配力が過度に集中する会社の設立禁止(独禁9)……国内 において、株式(含.持分)を所有することにより事業支配力が過 度に集中する事となる会社を設立してはならない。 ②会社の株式保有の制限(独禁10)……一 定の取引分野の競争を実 質的に制限することになる場合には、株式の取得又は保有をして はならない。また、不公正な取引方法による株式取得または保有は 禁止される。③金融会社(銀行・保険等)の株式保有の制限(独禁 11)……金融会社は、他の国内の会社の議決権をその総株主の議決 権の100分の5(保険業を営む会社は100分の10)を超えて、取得ま たは所有してはならない。但し、予め公取委の認可を受けた場合は この限りにあらず。 (2)銀行法、保険法上の制限 銀行や保険会社は法令に指定された業務以外の業務を営むことが できない(銀行12、保険3・97・98)。 −147−

(22)

(3)農地法上の制限……株式会社中の公開会社は農業生産法人にな れない(農地2Ⅶ)。 第3款 目的による制限 法人は定款又は寄付行為に規定された目的の範囲内において権利 義務を有する(民34、通説)ことから、会社においてもその権利能 力は定款に規定された目的の範囲内に限定される(通説・判例、会 27・576・911Ⅲ)。この論拠について、通説に於いては、法人は一 定の目的の為に設立された組織であるからその目的の為にのみ権利

能力を有するのが自然であると解している。さらに、判例は、会社

の政治献金が会社の目的の範囲内に入るか否かの判断において、 「会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有する わけであるが、目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自 体に限定されるものではなく、その目的を遂行するうえに直接又は 間接に必要な行為であれば、総てこれに包含されるものと解するの を相当とする。そして必要なりや否やは、当該行為が目的遂行上現 実に必要であったかどうかをもってこれを決すべきではなく、行為 の客観的な性質に即し、抽象的に判断されなければならない」(最 判昭和45・6・24民集24巻6号625頁)として、法人の権利能力は定 款記載の目的の範囲に当然限定されるし、目的の範囲内の行為か否 かを判断する場合の判断基準も示している。 これに対して、会社の権利能力は定款に規定された目的によって 制限されないという説がある。その論拠は、旧民法43粂(民34)が 公益法人に関する規定であるから営利法人である会社には適用さ れないと解するのである(大阪高判昭和35・4・7高民集13巻4号379 頁)。 さらに、会社の目的は登記をするが、第三者は登記を見て取引を する訳ではないから、この登記自体が第三者の取引に対し不利益を 与える恐れがある。つまり、会社が目的による能力別限外の不利益 な取引をした場合に「当該行為は会社の責任ではない」との責任回

(23)

避の口実を与えることになる。したがって、会社の能力に「目的に よる制限」をしない方が良いと考えるのである。 しかしながら、改正後、民法34粂が存する以上、会社の能力は無 制限なのか、あるいは会社の目的に関する規定は必要か等の問題が 残るのである。この点に閲し、 ①会社の能力は定款記載の目的によって制限されず、営利目的によ って制限されるのみで、定款記載の目的は内部的に会社の機関の権 限を制限するだけであると解する考え(大隅=今井『新版会社法論 上』28頁)や、 ②定款規定の目的は会社の能力を制限するものではなく代表機関の 権限を制限するだけであるとする考え(大森『新版会社法講義』19 頁)や、 ③定款記載の目的は会社の能力や代表機関の権限を制限するもので はなく、会社機関の行動範囲についての義務を規定したものである とする考え(上柳「会社の能力」『株式会社法講座』−一巻94頁以 下)等に説が分れる。 通説や判例に反対の立場である「会社の権利能力は定款に規定さ れた目的により制限されない」との立場からは③にメリットがある が、これを批判する説もある(竹内・前掲書56頁)。 究極的には、通説・判例の見解が正当である。 →→→ 会社の政治献金について ←←← (事件の概要) 八幡製鉄株式会社(現在は新日本製鉄に社名を変更している) は、昭和35年3月14日、自由民主党に政治資金として350万円を寄付 した。これに対し、株主が同社の2人の代表取締役に損害賠償請求 の代表訴訟を提起した。 訴訟提起の理由は、①代表取締役のなした当該行為は、当該会社 の定款第2粂に規定する事業目的「鉄窮の製造及び販売並びにこれ に附帯する事業」の範閉外の行為であるから、定款違反であり、さ −149−

(24)

らに事業外の行為をしたことは取締役の忠実義務(旧商254ノ3に、 現会社法355)に違反する。②当該会社はこの政治献金によって350 万円の損害を被った。(卦当該株主は、会社に対し、代表取締役への 当該損害賠償の責任を追及すべき訴訟提起を要求したが、無視され たので、本件訴訟の提起になった。 (第一審判決)東京地判昭和38年4月5日(下民集14巻4号657頁)原 告勝訴 非取引行為は、営利の目的に反するから、その会社の事業目的の

如何を問わず、当然に事業目的の範囲外の行為である。ただ、総株

主の同意が期待される社会的義務行為(非取引行為)の場合には、 例外的に取締役の責任発生原因にはならない。しかし、政治資金の 寄付は、特定宗教への寄付と同様、社会的義務行為と解されないの

で、取締役の責任を生ずる。よって、代表取締役は会社に損害賠償

をしなければならない。 (控訴審判決)東京高判昭和41年1月31日(高民集19巻1号7頁)被 控訴人(原告)敗訴 会社は、個人と同様社会的に存在するから、社会に有用な行為は 定款記載の事業目的に拘らず行うことができ、それは会社の目的か つ権利能力の範囲内の行為である。そして、政治献金は社会にとり 有用な行為である。さらに、不法な動機のない浄財の寄付は無効と すべきでない。したがって、政治献金が、献金の目的、会社資本の 規模、経営実績、社会的地位などからみて応分と認められる限度を 超えていなければ、取締役は政治献金によって忠実義務違反を問わ れることはない。 (上告審判決)最判昭和45年6月24日大法廷(民集24巻6号625頁) 上告人(原告)敗訴 ①定款に記載のない政治献金は会社の権利能力外の行為であるとの 主張について 会社は、定款に規定した目的遂行の為に、直接必要な行為ばかり でなく、社会的実在であるから社会的作用の負担として、社会通念

(25)

上期待ないし要請される行為即ち会社の円滑な発展をはかる為に相 当な価値と効果を有する間接的な行為を行うことができる 。会社の 相当程度の寄付は社会通念上当然のことで、株主の利益を害するも のではない。さらに、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素 であるから、政党の発展に協力することが当然期待され、政治資金 の寄付も客観的抽象的に見て会社の社会的役割を果す為のものと認 められる場合定款所定の目的の範囲内(会社の権利能力内)の行為 である。 ②政治献金が(自然人に参政権を認めた)憲法および民法90条に違 反するとの主張について 会社は、自然人と同様納税の義務を負い、憲法第三章(10条∼40 条)の国民の権利義務は内国法人にも適用され、納税者として国や 政党の政策への意思表示や支援行動をする自由を有する。政治資金 の寄付はこの自由の一環であり、政治献金の弊害があるとしてもそ れは立法政策に待つべきで、会社といえども政治資金の寄付の自由 を有する。そして、政治献金が違憲でない以上、民法90粂違反につ いてはその前提を欠き主張できない。 (参政治献金が取締役の忠実義務に違反するとの主張について 商法254条ノ2(現・会355)の規定は、同254条3項(現・会330) や民法644条の善管義務を敷街(ふえん)し一層明確にしただけで ある。通常の委任関係による善管義務とは別な高度な義務と解せな い。取締役が会社を代表して政治資金の寄付をなすにあたっては、 その会社の規模、経営実漬その他社会的経済的地位および寄附の相 手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内において、その金 額等を決すべきであり、これを越えて不相応な寄附をすれば忠実義 務違反と言えるが、本件の場合忠実義務違反に該当しない。 【少数意見】 松田二郎裁判官及び大隅健一郎裁判官・…‥結論に賛成するもの の、会社の権利能力は営利的活動においては広く解し、寄附に関し ては個別的具体的に狭く解すべきであるとされている。 −151−

(26)

第2節 当事者能力、訴訟能力、その他の能力

会社は、法人である(会3)。つまり、若干の制限はあるものの

権利能力者である(民34・36)。したがって、自らの権利を主張し

たり保護するために裁判上の当事者能力や訴訟能力を有する(民訴

28・45、刑訴27)。その他、特定の公法上の権利(訴権や言論の自

由権等)をも有する。さらに、納税の義務を有する。

第3節 不法行為能力 自然人と同様に、会社は法人であるから、会社の代表者(代表機 関)がその職務執行上他人に損害を加えたときは、法律上の不法行 為を犯したことになり、会社はその損害賠償責任を負わなければな らない(会350代表取締役等が職務執行上第三者に損害を与えた時 賠償する責任を負う、会487・596業務執行社員に任務僻怠があれば

持ち分会社に連帯して損害賠償責任を負う、通説)。さらに、不法

行為を行った代表者自身も、会社と共に、不法行為上の責任を負

う。 〔代表者と会社とは、不法行為について主観的共同関係がないの

で、被害者に対して不真正連帯債務を負う。従って、原則として代

表者と会社との間に各債務の負担部分はなく、双方の間に負担部分

の存在が前提である求償権もない。つまり、特別な約束がない限

り、双方は一括平等負担で、どちらかが弁済すれば他方は免責にな

る。不真正連帯債務の例として、業務遂行中、従業員Aが第三者甲

に損害を与えた場合、Aが不法行為責任を負担するだけでなく、使

用者も使用者責任を負担しなければならない。このAと使用者との 賠償債務の関係は甲に対する不真正連帯債務である。〕 これは、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第111条・ 117条(改正前民法44条1項の準用)によるものであり、以下の要件 を満たすものでなければならない。 ①会社の代表機関の行為であること。通説は一般社団・財団法人に

(27)

関する法律第111粂の等の「理事」の語句を「会社の代表機関」と している(一般社団・財団77Ⅰ)。使用人の不法行為については、 会社は使用者賓任を負う(民715)。 *役月等の一般社団法人に対する損害賠償受任は、役員等がその任 務を憐怠した時に負う(一般社団・財団111Ⅰ)。

*役員等の第三者に対する損害賠償賓任は、役員等に、悪意又は

重過失があった時に負わなければならない(一般社団・財団117 Ⅰ)。 ②職務上の行為または直接職務上の行為でなくても職務を行うにつ き不可欠の行為であること。

③不法行為の一般的要件を備えていること。つまり、法人として

の責任だけでなく、代表機関は個人として民法709条の責任を負う (大判昭7・5・27民集11巻1069頁)。故意又は過失によって他人の 権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じ た損害を賠償する責任を負う(民709)。

他方、通説判例は会社の犯罪能力を否定している。犯罪は、法人

の機関に就任している自然人が起こすものであるから、その自然人 を処罰すれば良いとするからである。

第二編 株式会社法

第一章 株式会社の特徴 株式会社とは、もともと多数の出資者を募り、巨大な資本による 私的事業の遂行を目的にした組織である。したがって、この組織は 多数の出資者を募るために社員権の細分化とその簡易な譲渡及び有

限責任制度を骨子としている。つまり、株式会社とは、社員の地位

が細分化された割合的単位である株式に表彰され、社員たる株主 が、会社に対し引受価額を限度とする出資兼務を負担するだけで、 会社の債権者に対しては何の責任も負担しない会社をいう。 社員が会社の債権者に対して自己の引受価額を限度とした責任し −153−

(28)

か負担しない(このことを債権者に対する株主有限責任という)の で、換言すれば株主は出資完了後には債権者に対し何の責任も負わ ないので、債権者にとり会社の財産のみが弁済の担保になる。した がって、会社は会社自身と債権者の為に一定の財産を確保すること が必要になる。 このように、一般には会社自身と債権者の為に会社は一定の財産 を確保するが、この一定の確保された財産を株式会社の資本とい

い、この金額は、債権者担保の為の基準金額を意味しており、登記

と貸借対照表等により公示されている(会911Ⅲ⑤・亜5)。この資 本は、営業成績や物価の変動に伴い日々刻々と変動する「会社の財 産」とは別個の観念であり、事業遂行の為に株主が拠出した資金の 総額または配当や内部留保金等(会445・446・447等)を決める為 の計算上の基本数額である。

他方、日本の株式会社の現実においては、全株式会社中資本金1

億円以下の株式会社は約98%〔1990年の全株式会社数を約100万と

して(法人企業統計調査356頁)、平成18年5月1日会社法の施行

により有限会社が株式会社化したので、この数値はもっと高い〕 で、株式会社は中規模ないし大規模会社を想定した会社制度である ものの、現実の数字上から見る限り、株式会社制度といえども中小 規模会社に多く利用され、必ずしも法の理念どおりにはなっていな い。 以上から、株式会社の基本理念と現実の相違に起因し、株式会社 組織自体が大変複雑な構造を有するものとなっているが、基本的に は「株式」と「有限責任」と「資本」とにその特徴を見いだすこと ができる。 第1節 株式

株式とは株式会社の社員の地位(社員権)のことである。そし

て、株式が有価証券に化体したものを株券という。さらに、これら の所有者を株主という。

(29)

株式会社組織はその理念において不特定多数の者から巨大な資本 を収集できるように考案されたものである。したがって、株式はこ の理念を実現するために細分化された割合的単位の形式を採ってい

る。さらに、細分化された割合的単位の形式を採ることにより、会

社における権利行使の簡易化と株式譲渡の容易性が実現されてい る。株式会社においては、各自の社員権の大きさが一株を基準に発 行済株式総数に対する割合で示されるので、株式のことを割合的単 位と称する(会188・199V)。この割合的単位としての株式数の増 減と会社財産の増減とは必ずしも一致しないので注意する必要があ

る。例えば、会社の財産を一定にしたまま、株式の無償交付(株主

の持株数に応じて一定の割合で無償交付する株式のこと)、株式配 当(利益配当の代わりに新株式を配当すること)、株式分割等を行 えば、株主の持株数は増加するが会社財産は増加しない。 株式会社では、社員権が細分化された割合的単位の形式を採る為 に、基本単位となる一株の権利内容は均一でなければならず、均一 であるからこそ株主は複数の株式を容易に持つことができ、その出 資比率に応じた株式数により見返りを得るのである。 第2節 有限責任Iimitedliability(会104) 株式会社の株主(会社成立前は株式引受人)は、自己の引受けた 引受価額(出資額)を限度として、会社に対し(対内的に)出資義 務または(対外的に)出資責任を負うだけである(会104)。この ことを「株主有限責任の原則」という。この株主有限責任の原則 は、定款の規定や株主総会の決議により変更または削除ができな いので、強行性を有するものである。現行法においては、昭和23年 以前と異なり、株主になろうとする者は、会社設立前または新株発 行前に、その出資義務全部の履行をしなければならない(全額払込 制)ことになっている(会34・63・208)ので株主になった時点で は会社に対しいかなる義務や責任も負担しなくてよいのである。

もっとも、発起人と会社設立当時の取締役は、会社に対して、現

−155−

(30)

物出資等において、著しい不足額がある場合には、財産価額填補責 任を負う(会52)。他方、株主は、会社の債権者に対し何の義務や 責任も負わないのである。このことから、「株主有限責任の原則」 というけれども、本来株主になった後は「株主無責任の原則」の意 味である。しかし、会社債権者の唯一の担保が株主の出資した会社 財産だけであるという意味で、換言すれば債権者が社員に対し責任 を追及できるのは会社財産を通じてだけであるという意味で、なお 「株主有限責任の原則」と称されている。 合資会社の有限責任社員は、(未払込額がある場合)自己の出資 価額を限度として、直接会社債権者に会社の債務を弁済する義務を

負うので、株式会社の株主の有限責任とは異なる。つまり、会社の

債務に対し、株主は(会社財産だけを充当する)間接的な有限責任 を負担するのに対し、合資会社の有限責任社員は未払込額がある場 合それを直接充当する直接有限責任を負担する。 なお、持分会社(合資会社)の有限責任社員が会社に対し出資義 務の一部又は全部を履行している場合、会社債権者との関係におい て、当該部分について当該社員の責任は消滅する(会580Ⅲ)。し たがって、合資会社の有限責任社員が会社に対し出資義務の全部を 履行し、出資の払戻し等を受けていなければ、この限りにおいて法 的には株主の間接有限責任と同じ状態になる。他方、出資の払戻し あるいは利益が無いのに配当を受けた場合には、その額を履行済出 資額から控除して出資額(債権者に対する負担債務額)を計算する (会623)。さらに、出資減少後と錐もその登記前に生じた会社の 債務に対して有限責任社貞は責任を負わなければならない(会583 Ⅱ)。現物出資の登記後に定款記載額と時価との間に相当な差があ る場合にその填補責任を有するか否かについて争いがあるが、多数 説・判例はその填補責任があると解している(上柳他『新版注釈会 社法(1)』641頁∼642頁、江東憲治郎)。 合同会社の社員は、間接有限責任を負う(会576Ⅳ・578)。出資 対象物は金銭又は現物であり(会578)、他の社員全員の承諾があ

(31)

ればその持分を譲渡できる(会585)し、持分の払い戻しもできる (会611)。業務執行と会社代表は各社員に執行権と代表権がある が、業務執行社員と代表者を決めてもよい(会590・591・599)。

第3節 資本 capital,Capitalstock,StOCk

第1款 概念 株式会社は、出資価額を限度とする有限責任社員だけで構成する 法人である。つまり、株主はいかなる債権者からも会社債務の履行 を請求されることはない。このように社員有限責任制度の下では、 債権者は株主と関係を持つことがなく、会社債権者の担保は会社財 産だけとなる。したがって、会社の健全経営の為と債権者の利益を 保護する為、一定の会社財産を確保することが必要になる。 社員有限責任制皮の下での資本とは、会社の事業を遂行する為の 基金であると同時に、その活動における債権者の担保となる会社の 財産を確保する為の基準金額である。したがって、法定の手続(新 株発行、準備金の資本組入れ、資本減少等)によらないとその増減 変更ができないようになっている。このように厳重な法的規制を有 するのは、資本が、会社自身の経済的内部充実ないし配当や残余財 産等の分配に関する基準数額(会445・461・454・450・504等)と しての意味を持つことと、他方において会社の債権者を保護する為 の観念的な「数倍」の意味を持つからである。

資本の額は、原則として、発行済株式の発行価額の総額である

(会445)。・【例外として、剰余金を資本に組入れて新株を発行し ない場合がある(会450)。つまり、株主給会決議で剰余金の全部 または一部を資本に組み入れることができるが、新株を発行しない のである。この場合剰余金の組入れ前に比べ発行価額は同じでも一 株当たりの株価は増加している。反対に、本来は配当すべき利益で 株式を消却する場合(会178)がある。通説(上柳他『新版注釈会 社法(3)』菅原294頁、同『新版注釈会社法(8)』久保108頁)は 株式は消滅しても資本は減少しないと解している。さらに、資本滅 −157−

(32)

少の場合(会現7)等がある。】 資本は、貸借対照表の資本勘定(貸方…勘定式簿記では右側をい う)に資本金として固定数字で記載されるが、会社の事業を遂行す るために社員が醸出した営業の為の基金であるから、現実にはその 営業基金の活用として具体的な現金・預貯金・備品・土地建物・商 品等の勘定科目として資産勘定(借方…勘定式簿記では左側をい う)に記帳される。したがって、一般に資本金という現金又は預貯

金が存在する訳ではない。しかも、資本金は、その活用として資産

項目に分散されるが、会社の一定の財産を確保するための基準数額 であることから、営業の成績(損益)や物価の変動によって変動 する会社の現実の財産(資産)とは別個の観念である。つまり、貸 借対照表等式で示すと、会社の財産は、資産=負債十資本の構図に なっており、営業活動の結果の期末評価において、利益が出ている (資産の増加の)場合には、資産=負債十(期首)資本十純利益と なる。 つまり、期末資本一期首資本=純利益(財産法による利益の算 出)より、期末資本=期首資本十純利益となり、純利益に加えるの は期首資本であり、加えられたものが期末資本になる。反対に損失 が出ている(資産の減少の)場合には、資産十損失=負債十資本と なる。

第2款 授権資本 authorizedcapital(会37・113・119・200)

現行法においては、株式会社の設立時、定款に「資本」を記載す

ることはない。ただ、株式会社の設立の登記の際には、「資本金の

額」を記載しなければならない(会911Ⅲ⑤)。その代わり、定款 には「発起人が割り当てを受ける設立時発行株式の数」等を記載し なければならない(会32Ⅰ)だけでなく、株式会社が発行すること の出来る株式の総数の規定を設けなければならない(会37)。これ は会社が発行を予定している株式(発行予定株式)の総数である。 株式会社はその設立時に発行予定株式の総てを発行する必要がなく

参照

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