株式会社は、出資価額を限度とする有限責任社員だけで構成する 法人である。つまり、株主はいかなる債権者からも会社債務の履行 を請求されることはない。このように社員有限責任制度の下では、
債権者は株主と関係を持つことがなく、会社債権者の担保は会社財 産だけとなる。したがって、会社の健全経営の為と債権者の利益を 保護する為、一定の会社財産を確保することが必要になる。
社員有限責任制皮の下での資本とは、会社の事業を遂行する為の 基金であると同時に、その活動における債権者の担保となる会社の 財産を確保する為の基準金額である。したがって、法定の手続(新 株発行、準備金の資本組入れ、資本減少等)によらないとその増減 変更ができないようになっている。このように厳重な法的規制を有 するのは、資本が、会社自身の経済的内部充実ないし配当や残余財 産等の分配に関する基準数額(会445・461・454・450・504等)と
しての意味を持つことと、他方において会社の債権者を保護する為 の観念的な「数倍」の意味を持つからである。
資本の額は、原則として、発行済株式の発行価額の総額である
(会445)。・【例外として、剰余金を資本に組入れて新株を発行し ない場合がある(会450)。つまり、株主給会決議で剰余金の全部 または一部を資本に組み入れることができるが、新株を発行しない のである。この場合剰余金の組入れ前に比べ発行価額は同じでも一 株当たりの株価は増加している。反対に、本来は配当すべき利益で 株式を消却する場合(会178)がある。通説(上柳他『新版注釈会 社法(3)』菅原294頁、同『新版注釈会社法(8)』久保108頁)は 株式は消滅しても資本は減少しないと解している。さらに、資本滅
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少の場合(会現7)等がある。】
資本は、貸借対照表の資本勘定(貸方…勘定式簿記では右側をい う)に資本金として固定数字で記載されるが、会社の事業を遂行す るために社員が醸出した営業の為の基金であるから、現実にはその 営業基金の活用として具体的な現金・預貯金・備品・土地建物・商 品等の勘定科目として資産勘定(借方…勘定式簿記では左側をい う)に記帳される。したがって、一般に資本金という現金又は預貯
金が存在する訳ではない。しかも、資本金は、その活用として資産
項目に分散されるが、会社の一定の財産を確保するための基準数額 であることから、営業の成績(損益)や物価の変動によって変動 する会社の現実の財産(資産)とは別個の観念である。つまり、貸 借対照表等式で示すと、会社の財産は、資産=負債十資本の構図に なっており、営業活動の結果の期末評価において、利益が出ている(資産の増加の)場合には、資産=負債十(期首)資本十純利益と なる。
つまり、期末資本一期首資本=純利益(財産法による利益の算 出)より、期末資本=期首資本十純利益となり、純利益に加えるの は期首資本であり、加えられたものが期末資本になる。反対に損失 が出ている(資産の減少の)場合には、資産十損失=負債十資本と なる。
第2款 授権資本 authorizedcapital(会37・113・119・200)
現行法においては、株式会社の設立時、定款に「資本」を記載す
ることはない。ただ、株式会社の設立の登記の際には、「資本金の
額」を記載しなければならない(会911Ⅲ⑤)。その代わり、定款には「発起人が割り当てを受ける設立時発行株式の数」等を記載し なければならない(会32Ⅰ)だけでなく、株式会社が発行すること の出来る株式の総数の規定を設けなければならない(会37)。これ は会社が発行を予定している株式(発行予定株式)の総数である。
株式会社はその設立時に発行予定株式の総てを発行する必要がなく
(会37Ⅲ)、会社設立時には発行予定株式総数の4分の1以上の発行
(「4分の1を下ることができない」とはその数字を含んだ「4分の1 以下」という意味ではない)をすればよい。残余の未発行株式は、
会社の成立後に、定款の変更を必要とせず、取締役会の決議(募
集事項の決定は株主総会であるが取締役又は取締役会に委任でき る)により新株発行、株式配当(会450)、吸収合併の際の新株発 行(会749(参)等という形で随時発行できる(会199]・200Ⅰ)。しかし、発行予定株式稔数を超えて発行した場合には、5年以下の
懲役又は500万円以下の罰金を課せられる(会966)。このように、株式会社において、残余の未発行株式の発行権限を株主総会、取締 役、取締役会(取締役会設置会社)に授けている(会199Ⅱ→会200
Ⅰ)ことから、この発行予定株式総数のことを授権資本という。そ の効果として、公開会社は定款変更によって発行予定株式総数を発 行済株式稔数の4倍まで増加することができる(会113)。
反対に、定款に株式の譲渡制限を規定している会社(非公開会 社)では、平成13年の商法改正において、資金調達の機動性を高め
る必要から授権資本に関する制限が撤廃された(会37Ⅲ但書)。こ れは、非公開会社が定款変更により発行可能株式総数を増加する場 合にも適用される(会113Ⅲ但書)。もともとこの制限は、取締役 会による窓意的な新株発行を抑制したり、新株を引き受けられない 既存株主の持ち株比率の低下による不利益を回避することが目的で あった。しかし、ベンチャー企業や最近の起業振興策の為の資金調 達の迅速性の必要性から、非公開会社の場合に限って、規制援和を しても既存株主に不利益は生じないと判断し、規制凄和をしたので ある(会113Ⅲ但書)。
昭和25年に授権資本制度が採用され、株式会社の資本は定款の記 載事項ではなくなった(その結果、資本の増加となる新株発行のつ
ど定款変更の為の株主総会を開催しなくてもよいことになった)。
しかし、会社の財産が唯一の担保である債権者の為には、会社設立 の登記事項として「資本金の額」を登記しなければならない(会
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911Ⅲ⑤)。なぜなら、現行法の株式制度には、会社成立後、社会 や会社自体の経済状態を勘案し自由に発行価額を決定して資本調達 ができる長所がある。反対に、改正法以前の額面均一主義の下での 額面株式のように、発行済株式総数との関係で資本総額を一目瞭然
に把握できない短所がある。したがって、現行法の下では、発行済
株式総数だけで資本の額を把握することができない。つまり、授権 資本制度と現行株式制度においては、発行済株式総数と資本の額と の関係は切断されているので、債権者に対する担保財産の明示の為 にも「資本金の額」は必要である。第3款 資本に関する原則
会社法は、株式会社の社員の責任を間接有限責任にすることによ り社員数の増加期待と巨大資本の収集を可能にしている。したがっ て、債権者の唯一の担保物が会社の財産であることから、その根拠 となる資本の具体的存在に対して、以下の原則がある。
(1)資本充実の原則
これは出資を確実に履行すること、換言すれば引受けられた出資 額全額の履行と給付を要求する原則である。例えば、全額払込制の 採用(会34Ⅰ・63Ⅰ・208Ⅰ)、現物出資の全部給付(会34Ⅰ)、
現物出資の検査と厳格な履行(会46・33・93・96・207)、発起人 や取締役の引受・払込担保責任(会213)、出資者が会社に対して 持っている権利と払込(義務)とを相殺する形態の出資払込の禁止
(会208Ⅲ)等がある。
(2)資本維持の原則
株式会社は営利行為を行う法人であるからその損益が日々変動し ている。この変動が直接資本の増減に影響しないように、また配当 等の利益処分後の会社の財産が資本額未満になることを防止すると いう原則である。前者の具体的な例としては法定準備金の制度があ る(会445Ⅲ・同Ⅳ・448)、後者の例としては配当等の制限(会 461)がある。
資本は原則として株式の発行価額の総額により構成される(会 445Ⅰ)。しかし、例外として発行価額の2分の1を超えざる額は資 本に組入れなくてもよい(会445[)。法定準備金は、資本準備金 と毎決算期に一定額の積立が強制される利益準備金とからなり、
資本の欠損の填補以外には使用できないことになっている(会
448)。つまり、法定準備金は資本を補強するものであり、資本と 共に、配当可能利益算出の基本控除項目となっている(会454)。欠損が少ない場合には法定準備金の取り崩しにより対応できる
(会448)が、欠損が多額で法定準備金の取り崩しだけでは対応で きない場合、資本減少の手続(447以下)によらなければならな い。しかし、安易な資本減少をしないように厳格な手続が規定され ている(会449)。何故ならば、減少資本は欠損に充当するので、
その期の会社の資産は社外に流出しないが次期以降は資本が少額 になった分だけ会社資産の社外流出を容易にするからである。【参 照、資本概念の項1
(3)資本不変の原則
これは定款上に確定された資本を自由に減少してはならないとい う原則である。会社の債権者の唯一の担保が会社の財産であること から資本充実・維持の原則が要求されてきたが、資本不変の原則は これらの原則をさらに強固にする観念である。資本は、債権者にと り担保になるものであるから、増加の場合には問題にならず、この 不変の原則が問題になるのは減少の場合だけである。したがって、
資本の増加は、取締役会の決議により授権資本の範囲内で自由に新 株を発行して行える。但し、非公開会社ではその会社の性質上各棟 主に不公平にならないことから新株発行における授権資本の四分の 一利限を受けない(会37Ⅲ)。また、授権された新株発行枠を費消 した場合には定款を変更し、授権資本を拡大した後、新株発行によ り資本を増加できる。
この原則があるからといっても、全く資本を変更できないのでは なく、著しい欠損のため長期にわたって利益を回復することが不可
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