− 227 −
韓国における多文化家族
一政府支援策と世論の変遷ー 教科・領域教育専攻
社会系コース
長 瀬 多 絵
現代社会では、世界的な人口移動が増加し、
世界各地で多文化社会が形成されている。隣国 である韓国もまた多文化社会となった国の一つ であり、多文化家族に対する政府支援政策が充 実している。しかし、支援が充実する一方で、
韓国国内の多文化家族に対する受容度は低いと いう調査結果がある。本稿では、こうした政策
と国民意識の事離の原因や、政府支援策の問題 点を明らかにすることを目的とし、韓国の主要 紙である「朝鮮日報」を分析した。
第一章では、世界の多文化社会の現状を整理 すると共に、韓国の多文化社会の背景や現状に ついて確認した。世界の多文化社会については、
多文化先進国とも言えるカナダを事例とし、言 語政策を中心に整理した。大統領が積極的に多 文化を推進していることや、多文化を受け入れ る市民意識の高さから、カナダの多文化政策は 一定の成功を収めていると考えられる。
韓国の多文化社会については①韓国が急速に 多文化社会へと変化した背景②結婚移民女性の 増加③「多文化家族」が抱える問題の三つの視 点で整理した。
韓国が急速に多文化社会へと変化したのは、
移民が急増したためである。1980年代後半以降、
韓国では経済発展に伴う労働力不足が深刻とな った。それまで労働力を他国へ輸出する「送出 国」で、あった韓国だが、労働力不足を補うため に外国人労働者を輸入するようになり、「受入 国」となった。また、農村部から都市部へ人口
指 導 教 員 山 本 準
が集中するようになり、地方の特に農漁村地域 における嫁不足問題が深刻化した。この問題を 解決するために増加したのが結婚移住女性であ る。結婚移住女性が増加した要因は嫁不足問題 の他にも、発展途上国の女性が社会的向上を目 指して韓国人との結婚を利用していることや、
韓国の深刻な少子化問題などがある。
韓国では 1990年代以降、結婚移住女性が急 増した。結婚移住者と韓国人によって形成され る家庭を含む、将来韓国籍の子どもを育てる可 能性のある家庭は「多文化家族」と定義される。
結婚移住女性の増加に伴って急増した「多文化 家族Jは家庭内暴力や就労・就学の問題、人身 売買まがいの結婚仲介業者の横行など多くの問 題を抱えており、支援を必要としている。
第二章では、多文化家族に対する民間団体や 政府による支援状況を整理した。韓国の多文化 家族支援は、政府主導の支援が始まるよりも早 くから、民間団体によって盛んに行われていた。
民間団体による支援活動としては「韓国女性 人権センターJIソウル移住女性ディディムトJ
「光州移住女性支援センターJを例に挙げ、支 援施設設立の動機や支援内容について整理した。
政府主導の支援活動としては「多文化家族支 援センター」における支援を中心に整理した。
支援の基本となる法整備についても確認し、
2006年以降急速に法整備が進んだことを明ら かにした。ここでは、多文化家族支援の根拠と して最も大きな範囲を担う「多文化家族支援法J
− 228 − についても概観している。
第三章では、韓国国民の多文化受容性につい て整理した。多文化家族支援法に基づいて3年 に一度行われる「国民多文化受容性調査jでは 国民の多文化受容性が調査され、数値化されて いる。調査結果からは、年齢や学歴、多文化教 育の経験の有無によって受容性が異なることが 明らかとなっている。また、 2012年から 2015 年にかけ受容性の向上が見られることから政策 が一定の成功を収めていることがわかる。
一方、ドイツの iInterNationsJによる外国 人の住みやすさを調査した報告書では、韓国国 民の多文化受容性の低さが明らかとなっている。
圏内で意識の向上が確認されているとはいえ、
国際社会から見た韓国の多文化受容性はまだま だ低く、多文化支援政策の充実と国民の多文化 受容性との聞に事離が生じている。
第四章では、韓国の主要紙の一つである 「朝 鮮日報」を分析、考察した。「多文化Jという用 語を含む記事が増減する時期からは、①2006 年に多文化家族支援に関する公的な用語として
「多文化Jという言葉が用いられ、それによっ て「多文化」という言葉が一般に広まったとい うこと②多文化家族やそれに関わる支援政策が 2013年以降に社会に定着したことの 2点が明
らかになった。
また、読者からの投書や社説が掲載される「世 論読者面」の論調からは、国民の意識変容を妨 げる原因と考えられる、 三つの問題点が明らか となった。
一つ目は、結婚移住女性に対する根強い差別 意識があることである。多文化家族は韓国の少 子化問題を解決するとともに将来の経済発展の 可能性を高める層として認識されており、結婚 移住女性の価値を「子どもを産み育てる存在J
としてのみ評価する風潮が存在している。 二つ目は、多文化家族やその子女が犯罪者予 備軍として認識されている点である。将来的に 多文化家族の子どもが反社会勢力にならないた めの対策として、韓国への統合政策が推奨され ており、外国人に対する偏見の強さが窺える。 三つめは、多文化家族支援が政党や企業の「人 気獲得戦略」として定着しつつある点である。
多文化家族や国家予算の実態を考慮せずに次々 と政策が打ち出され、予算不足が深刻化してい る。また、経済的に豊かな多文化家族が支援を 受けられる一方で韓国人貧困層が支援を受けら れないとしづ逆差別も生じており、政策や多文 化家族に対する国民の不満が高まりつつあると 考えられる。
こうした問題を解決するためには、政府の支 援体系を見直す必要がある。多文化家族の世帯 の経済力に基づく指標などを用いて支援の対象 者を明確に区分し、資金や業務の無駄を減らす 努力が必要である。また、多文化家族に対する 偏見や差別を無くすため、多文化理解教育をよ り活発化させる必要がある。多文化理解教育を 受ける機会が少ない人々には、多文化家族と直 接関わり、交流を深めることのできる機会を提 供しなければならない。地域の祭りや多文化に 関するイベントのボランティアなどを通じて機 会を確保できるよう、自治体が主体となって取
り組むことが必要である。
本研究では、分析対象を保守的な論調の朝鮮 日報一社に絞ったことにより、分析に偏りがあ った可能性は否定できない。しかし、これまで に研究されてこなかった国民の世論という視点 から分析を行い、政策や国民意識の問題点につ いて指摘することが出来た。今後も多文化家族 支援について意識を向けていきたい。