The N a r r a t i v e F u n c t i o n o f F a i r i e s i n A Midsummer N i g h t
告Dream and The T e m p e s t
教 科 ・ 領 域 教 育 専 攻 百 語 系 ( 英 語 ) コ ー ス
木 元 愛
1.はじめに
妖精は、太古の昔から人々の心に深く根づい ており、様々な形で信仰されてきた。しかし、
現代では妖精と聞くと単純な想像上の生きもの だという考えが蔓延しており、彼らの本来の姿 は、すっかり弱められてしまった。
シェイクスピアのAMidsummer Night 50 Dream (以下MNDと略記)やTheTempestには、当時、
民間で信仰されていた妖精だけに関わらず、古 代ギリシアの思想や中世ロマンスに基づいた 様々な妖精像が描かれている。本論文の目的は、
シェイクスピアの作品に込められている信仰や 思想がどのようなものであるかを考察し、その 象徴として描かれている妖精が作品中で果たす 役割を検証するものである。
2.民間伝承の妖精とシェイクスピアの妖精 妖精は、イギリス文化にとって重要な存在と なっている。妖精信仰の起源は先史時代にさか のぼり、長い年月を経てギリシア神話やキリス ト教の思想、と融合しながら徐々に形成されてい った。イギリスには、他のヨーロッパの国々と 違い、独特の妖精信仰がある。アングロサクソ ン民族によってもたらされたElves、ケノレト民族 の思想を反映したFairiesがおり、お互いに融合 したり、変形したりしながらイギリス土着の妖 精となっていった。イギリスに生息するこれら の妖精は、家の掃除をしたり、穀物を挽いたり
指 導 教 員 向 井 清
といった家事を手伝い、人間に幸福を授ける親 切な守護妖精として人々に親しまれている反面、
幽霊や悪魔のように不気味で邪悪な存在として 扱われてきたこともある。 16世紀の魔術研究者 レジナルド・スコットは、妖精を魔女や小鬼な どの生きものと同列に置いている。それは恐ら く、親切な面よりも、子どもを盗む、呪いをか けるなどといった悪行の方が強調されたためで あろう。また、キリスト教の下では、異教の神々 として悪魔や魔女と混同されてきた。
シェイクスピアはこれらの民間伝承の妖精を 彼の作品に生き生きと取り入れた。本論文で取 り上げるMNDやTheTempestの他にも、数多く の作品で妖精に関する記述が見られる。これら の作品では、妖精はやはり接触したら命にかか わる危険な存在として描かれているが、人間に 幸せをもたらす守護妖精としても描かれている。
妖精の性質だけではなく、彼らの行動や季節な ども民間伝承に忠実に描かれており、、ンェイク スピアの作品がいかに民間伝承の思想を受け継 いでいるかがわかる。
3. A Midsummer Night会Dreamにおける異なる 妖精像の混在
λ1ND は、ンェイクスピアの初期の喜劇で、妖
f
青が登場する代表的な作品である。この作品に は、様々な起源をもっ複数の妖精像が混在してAq
門i
つ 山
おり、それぞれが影響し合いながら、この作品 の祝祭喜劇としての性格を強め、作品の構成を 重厚にしている。
大きく分けて、 MNDの妖精は三つのタイプ に分類できる。妖精王オベロンは中世ロマンス に、女王ティターニアはギリシア神話に由来す る。この作品で、最も重要な役割を果たしてい るパックは、イギリスの民間伝承の妖精を基に して描かれており、陽気でかわいらしい妖精で ある。いたずらを仕掛け本人がそれを楽しむ ことにより、作品中に喜劇的な雰囲気をもたら しているが、民間伝承と同様、幽霊のような不 気味な一面ものぞかせている。しかし、結婚式 を祝う祝祭喜劇であるため、不気味な面を強調 するわけにはし、かず、パックを侍従としてきら びやかな宮廷に入れることにより、民間伝承の 妖精がもっ不気味な性質が弱められている。
また、 λ1N
D
のタイトルが示すように、主題 のーっとして「夢と現実jとし、うものがある。この作品はアテネと郊外にある森というこ極構 成で成り立っているが、基本的にアテネは現実 の世界、森は夢の世界である。しかし、夢の世 界である森に、幻想的な妖精像と現実的な妖精 像が混在しているため、夢と現実の分離がし、っ そう唆味になっているD 彼らは、自分たちの喧 嘩が原因で天変地異を引き起こしたり、四十分 で地球を一周するといった非現実的な性質を持 っている反面、人間と直接のかかわりをもって いたり、人間のような感情を持っている現実的 な存在でもある。
4. The 先mpestにおける妖精の音楽的効果 シェイクスピアが単独で執筆した最後の作品 である TheTempestは、 λめTDと同様に妖精は重 要な役割を果たしているが、妖精だけに限らず、
音楽が作品構成上、不可欠なものとなっている。
唯一の表立った妖精エアリエルは、「妖精Jとし1
うよりも「天使」、「ダイモーン」に近い存在で あり、音楽の象徴として描かれている。
この作品の背景には、民間伝承の要素だけに かかわらず、古代ギリシアのプラトンやアリス トテレスの思想、オルフェウスの神話などがあ る。エアリエルによって奏でられている音楽は、
プラトンたちによって説明された「天球のハル モニア」を反映しているものであり、どんなに 邪悪な性格を持っている者までも感動させてし まう、オルフェウスのような音楽である。この 作品の主題として、混沌、不和から浄化、調和 への変移というものが挙げられるが、エアリエ ルの音楽によって、争いをしていた人々の聞に 調和がもたらされ、解決へとつながってし、く。
これまでの先行研究では、エアリエノレはプロ スペローによって抑圧され、存在感が弱められ た妖精として扱われてきたが、この作品を音楽 の観点から分析していくと、エアリエルは天の 音楽を奏でる神の使いのような存在であり、プ ロスペローでさえ、エアリエノレの音楽に抵抗で、
きないことが分かる。音楽によって、エアリエ ルの真の姿が表されているのである。
5.おわりに
現代では、民間伝承の妖精がもっていた本来 の姿はすっかり弱められてしまい、子ども向け の単純な妖精物語の中でしか生きていけないよ うに思われる。シェイクスピアのλ仇T[)や The Tempestなどの作品を研究していくと、妖精は決
して単なる想像上の生きものではないことが分 かる。彼らは、イギリスに古くから伝わる伝承 だけではなく、古代ギリシアの時代からある神 話や音楽思想、を反映した存在なのである。
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