算数・数学教育における問題解決の指導
平 岡 忠
(1985年11月5日受理)
算数・数学教育の指導の多くは,児童・生徒が授業当初に教師から提示された学習課題を解決して いく形で進められている。しかし,これが児童・生徒にとっての真の問題解決学習になるようにする にはどのようにすればよいであろうか。この算数・数学教育における問題解決の指導について,本論 では,問題解決指導の動向,問題解決の意味と様相,問題解決指導の意義,問題解決の指導上特に重 視していきたい点などについて考察することにする。
1.問題解決指導の動向
問題解決については,心理学や教育学の分野からも,例えば,連合心理学やゲシュタルト心理学の 立場からのソーンダイク(E.L.Thcrndike)やケーラー(W. Kδhler)をはじめ,機能心理学的 立場からのデューイ(J・Dewey)などの研究,また,新しい学習理論からのガニエ(R・MGagnさ)
による問題解決のより高次の学習としての位置づけ,さらには,これらの諸説へのハーロー(且.F.
Harlow)の学習の構え論,ヘッブ(D・0・Hebb)の学習論,ピアジェ(J・Piaget)の発生的認 識論の立場からの研究などと,多くの研究がなされてきている。
算数・数学についてみれば,わが国では,古い黒表紙教科書時代の 四則応用問題 などは計算中 、
Sであったが,次の緑表紙や水色表紙の教科書時代には, 電色々ナ問題 などとして児童の生活面か らの具体的問題も扱われ,数理思想の開発という考えのもとに自ら問題を解決していく面も強調され
た。
第二次世界大戦後は,前述のデューイ流の影響の濃い「問題解決」というものが算数教育の指導内 容として位置づけられて扱われた。其の後,系統学習が重視されるようになり,暫らくは 文章題 の扱いが関心をもたれていたが,澗題解決 という用語そのものは表面からは薄れていった。
ところが,近年また,問題解決という語が話題になることが多くなってきている。その原因の一つ には,アメリカの全国数学教師協議会(NCTM)の下記の勧告にもかかわりがあると思われる。世界 の主要国では1950年代頃から算数・数学の現代化運動が展開されたが,その際,指導に導入された新 内容などが児童・生徒に消化しきれないとか,他方で,社会の急激な変化への教育への対応などとい った背景から,「基礎に返れ(Back to Basics)」ということが強調された。そして,計算などが重 視されると,計算はできても問題は解けないというような現象もみられるようになった。こうした,
度び重なる振幅の大きな揺れからの反省として,NCTMは1980年にr活動のための計画書』(An Agenda for Action)1)の中で8つの勧告を示したが,その筆頭に「問題解決は1980年代の学校数学 の焦点(focus)でなければならない」を挙げた。そして,この勧告の線に沿って熱心に活動に取り 組んでいることは,1983年のNCTMのr活動報告書』(The Agenda in Action)2)にもよく現われて
いる。
わが国では,昭和33年や34年の学習指導要領から,算数科や中学校数学科の目標として 数学的な 考え方 という用語が用いられてきているが,この用語の中には児童・生徒が主体性をもって創造的 な活動をすることを通して問題解決をしていくということも含められていると解することができる。
したがって,わが国の算数・数学教育では,この問題解決による指導をこれまでも重要視してきたと
いえる。
2.問 題 解 決
(1)課題と問題
平生の授業においては,授業当初の段階に児童・生徒に提示
した,次のようないわゆる導入課題の解決を目指していくこと (ア} (イ)
が多い。
「右の2つの図形(ア)と(イ)はどちらが広いでしょうか。」
「4=22,9=32となるが.5=口2となる口にあてはまる数はあるだろうか。」
● ● ● ● ●
上例のようなものは,児童・生徒が(教師から)学習活勤に向けて課せられたものであるという意 味で,ここでは学習課題(簡単に課題(task))と呼ぶことにする。このような学習課題に対して,
● ● ●
児童・生徒が よし,やってみよう と意欲的に自らの問題として真剣に受けとめて(問題意識をも
o ● ● ■ ● ● o ● ■ ●
って)取り組むとき,その課題はその児童・生徒にとって学習問題(問題(problem))になったとい う。したがって,同一の課題が与えられても,それが問題になるかならないかは,その児童・生徒に 3)
謔驍ニいえる。.このことに関して,篠原助市氏も次のようにいっておられる。
「問題につき教育上特に注意すべきは,凡て問題とする所は人により異なり,甲に対して問題とす るに足らざる者も,乙に対しては問題たる事あり。故に問題の提出に際しては常に生徒の個々の経 験界を眼中に置き,且其の解決が生徒の理解力の及ばざる如きものなるべからず。」
なお,この課題や問題という語に関しては,上述とは異なる(時には逆の)解決や意見もあるかと 思われるが,本論では,そうした用語の区別にこだわることは本意ではなく,児童・生徒がそれを自ら のものという意識(問題意識)をもって主体的に受けとめて取り組もうとしているか否かという点に 着目することが大事であるということを強調したかったわけである。
② 真の問題
竭閧フことを英語ではふっうprobl emといっているが,このprd)lemという語はギリシャ語のπρo とβ詑減ε レから成っており,πρ6はbeforeでβをλλαツはto cast という意味であるから,
prob】emは「解決されるべく,前に置かれた或るもの」という意味であるξ)
このことに関連して,クルーリック(S.Krulik)とルドニック(J.ARudnick)は,ある事柄がそ の児童・生徒にとって問題となるためには,次の3っの基準が満足されなければならないといってい
5)驕B
1.容認(Accept ance):その個人がその問題を認める。そこには,相手,親や教師等の圧力な どの内発的動機づけや外発的動機づけとか,単にその問題を解くことの喜びを経験したいという ような種々の理由からくる個人的なかかわりがある。
2 障害(Blockage):その個人の解決における最初の試みが実を結ばない。自分の習慣的な反応
や攻略のパターンが役に立たない。
3.探求(Exploration):1で容認された個人的なかかわりが,新しい攻略の方法を探求するよう その個人に強いる。
つまり,課題に対して,児童・生徒が前に述べたような単なる問題意識をもって取り組むというよ うな段階に留まらず,そこでの目標到達を目指して,そこで気づいたり直面したりした困難や障害を 克服や除去して解決しようとする方法を探求しながら,解決活動を進めていくとき,その課題はその 児童・生徒にとって真の問題(真の学習問題)になったということができる。
(3)問題解決
前の②で述べたような,児童・生徒が真の問題として受けとめた事柄に対して,そこでの疑問や未 知などを解消して精神的に安定した状態になること,つまり,問題の疑問・未知や困難・障害などを 解消・除去・回避しようとしても,その方法がすぐには明らかにならなかったり,従来のありきたり のやり方では出来なかったりした状態に直面したとき,手段・目的的な関係を探索して見出し,その 状態の解決を図ることが問題解決(problem solving)である。
ここで, われわれがなんらかの形で課題解決を要求されるような状況に直面し,しかもそれを習 慣的手段によって解決し得ないような場合には,手段の探索が行われ,その変形が生じ,あるいは手 段体系の新しい構成が生じる。このような課題状況に対処する精神機能を思考という ①ということ
からすれば,問題解決は思考(thinking)に密接しているものであることがわかる。
この問題解決というときも,例えば方程式を解いたり作図題を行ったりして目標に到達する(所求 の結果を得る)いわゆる狭義の問題解決を指していることもあれば,学習内容に関連した問題をつく
ったり具体的な場面・事象から算数・数学的な問題をつくったりする問題設定を指していることもあ り,また,学習内容をより発展させた問題を考えたり問題を具体的な立場に応用したりする扱いとし ての問題発展や問題応用を指していることもあるというように,いろいろな様相として現われる場合が あろう。問題解決というと,とかく,問題を解くという狭義の問題解決の意味に解しがちであるが,問題 を解く,問題をつくる,問題を発展させる,問題を応用するなどのことを含めて広く解釈していきたい。
ブランカ(N.A. Blanca)は,問題解決には次の3種のタイプがあるといっている1)
①Problem Solving as a GoaL ②Problem Solvi㎎as a Process.
③ Problem Solving as a SkilL
3.問題解決指導の意義
算数・数学の授業の多くは問題解決的な形で行われているということは前にも述べた。したがって,
このことからも,算数・数学教育における問題解決指導の意義は大きいことがわかるが,本論では問 題解決指導の意義を次のように述べておこう§)
① 自己教育力の育成に役立っ。
課題を問題意識をもって真の問題として受けとめるには,その児童・生徒に自主的・主体的な態度
ややる気としての意欲がなければならない。さらに,その問題の積極的な解決を目指して努力をして
いく必要がある。このとき,問題の単なる解決ということばかりでなく,身の周りの事象や学習内容
などから自ら主体的に問題をとらえる問題設定の能力も身につけていくようにする。このことは,こ
れからの変化の激しい時代を生きていく力として大切な璽璽自己教育力 の育成にも役に立つ。石川忠 雄氏もこれからの時代の教育の基本的な課題の一つとして「人間の歴史や現代の生活の中で,いろ
いうな問題を発見し,それを考えていく力,そういう力を作ることが教育の大きな仕事であろう」と いっておられる3)
② 学習内容の理解・習得や定着をしやすくし,学習への童欲・興味や成功感・充実感をもたせや
すい。
算数・数学の授業の多くが問題解決的形式で進められていることからも,児童・生徒の学習内容の 理解・習得や定着・習熟を図るのに問題解決の指導が有効であることはいうまでもない。しかも,効 果的な問題解決指導を目指す学習課題は,そのときの指導のねらいに即したものを工夫し構成するの で,そこでの問題解決の過程を通して,学習内容の理解・習得や定着・習熟などもしやすくすること ができる。そればかりでなく,その学習課題や解決過程は児童・生徒の実態を考慮して工夫するので,
彼らの学習への興味・関心・意欲や成功感・充実感・満足感などをもたせやすくすることができる。
③ 数学的な考え方や創造性を育成しさらにそれを伸長させるのに効果的である。
算教・数学教育の目標は児童・生徒に数学的な考え方を育成し伸長することであるともいえるが,
問題解決の学習を通して,既習内容の活用,アイデアの発現,性質・関係の発見,筋道立った考え方 の使用,種々の算数・数学的方法の駆使や習得などを通して,さらに,これらのことをより洗練さ せることも可能になる。そればかりか,事象を数理的にとらえたり,それを発展させたり,いろいろ な角度から多様に見たり,柔軟に考えたり,新しいものを生みだしたりする創造的な能力や態度の育 成伸長にも大いに有効になる。
④ 学び方を身につけるのに重要である。
問題解決の指導を通して,児童・生徒に主体的な問題のとらえ方・問題設定の仕方,問題解決の手 順や方法,結果の吟味の仕方,さらには,問題の発展のさせ方や応用の仕方などを身につけることが できる。特に,問題解決の手順・方法にかかわる解決過程においては,当面する問題を解決するため に有効なストラテジーの選択や活用する能力を身につけることも大事である。このような問題解決の 方法は, 学び方 の一っとして,さらには前述の自己教育力とも関連して,児童・生徒のこれから の社会における生き方の基礎づくりという意味からも重視していく必要のある大切なことである。
4.問題解決の指導
問題解決の指導といっても,問題解決はそれをみる観点によっていろいろな様相としてみることが できるので,ここでは,前の2(3)で述べた,問題設定, (狭義の)問題解決,問題発展,問題応用の 指導にっいて述べることにする。
(1)問題設定の指導
問題解決の指導では,児童・生徒に単に問題を解決させるだけでなく,自ら問題をつくる(設定す る)能力や態度を身につけることも重視していかなければならないと前にもいった。
この問題設定は,以前からいわれてきていることではあるが,以前にはどちらかというと,児童・
生徒が問題を解くのに問題の理解や把握をしやすくするために問題づくりをさせることも役に立っ,
というような意味からいわれていた面が大きい。しかし,これからは,いまのような意味に加えて,
いやそれ以上に,児童・生徒自らが主体的に問題をとらえる能力や態度を身につけることが算数・数 学の指導を通していっそう重視していかなければならない重要なことであるという立場から問題設定
を強調していく必要がある。
我が国のこれまでの教育ではいま述べたことの強調が少なかった憾みがある。今道友信氏も「与え られた問題を処理するのに必要な情熱と知能に関する部分は,我が国の知的教育の卓れた面であろう かと思われるが,自ら問題を作り出し,問い直すという反省的知識に関する教育は,私の見るところ では,日本の教育が最もこのんでおろそかにして来たやうである」と嘆いておられる。10)
そこで,算数・数学の指導においては,児童・生徒に次のような視点に着目させて問題をつくらせ るのもよいと思われる。
①教科書の問題や他の問題を真似・修正・発展させて問題をつくらせる。 ②絵・図・表・グラフ などを示して問題をつくらせる。 ③数値・数量・図形などの素材を与えて問題をつくらせる。 ④ 概念や用語・記号などを与えて問題をつくらせる。 ⑤場面を示して問題をつくらせる。時にはrea1 worldからの問題をつくらせる。
② 問題解決の指導
問題解決の指導というと,この②で述べるものを指すことが多い。このいわゆる問題を解決する指 導では,特に,問題解決の過程の指導を重視して丁寧に扱っていくことが大事になる。
問題解決の過程といえば,例えば,デューイが反省的思考の5つの様相として挙げている次はよく 知られていようま1)
暗示(Suggest ion),知的整理(lntellectualization),仮説(Hypothesi s),推論(Reasoning),
行動による仮説の検証(Testing the Hypothesis by Action)
また,ポリア(G・Polya)がrHow to solve it』の中で示している,次の4段階も有名であるま2)
i問題を理解すること(Understanding the P roblem), ii計画を工夫すること(Dev珀ing a Plan), Iii計画を実行すること(Carrying Out the Plan), iV振り返ってみること(Looking Back)
問題解決の指導では,ポリアの例でいえば,これらの4つのどの段階も重要であるが,これからの 算数・数学教育の動向を展望するとき,特にiiの段階を重視して丁寧に扱っていきたいように思う。
それは,計画を工夫していくことは,機器というよりは人間が本来やるべきこと,またやらなければ ならないことであるからである。
さて,上のiでは,問題の場面とか既知のものと未知のものやそれらを結びつけている条件に着目 させて,それらの間の関係や問題の意味を的確にとらえさせ,問題の構造を把握させることが大事に なる。i}は特に重視していかなければならないといった。ここでは,既習の事項をいかに活用して新
しい事柄の獲得や困難の解消に挑戦していくかに努力させる。このとき.操作的活動を活用した り,図・グラフ・表・式などの効果的な表現を利用したり,類推・帰納・単純化・置き換えなどによ る考えとか見通し・見積りの考えなどの駆使,適当なモデルの使用などと,当面する問題を解決する のに効果的なストラテジーを選んで活用するようにさせることが重要になる。また,この段階では,
はじめは下手な解き方でもよいからとにかく自分の力で何とか解く方法を工夫させてみるようにする
ことが大切である。iiiはiiの計画を実行していくわけであるが, iiの計画をうまく工夫できるような
能力をもった児童・生徒ならば,この爾も進められるのがふつうなので,而では確実に間違いなく実
行していくようにさせることを強調したい。最後のivは,得られた結果が題意に適して妥当である か否かを吟味させる。これは単に結果が正しいか否か合っているかどうかをみるというばかりでなく,
何事であれ自分で行った行動に対して自ら反省して責任をもつという態度の育成という人間形成の面 からも重視して指導していかなければならないことである。
(3)問題発展の指導
この③では,(1)でつくったり(2)で解決したような問題やその他の問題を,一般化したり,拡張したり,
あるいは統合したりすることによって,問題をより発展させていくことを学習させる。問題をつくる という立場からは(1)に含めて考えることもできないわけではないが,発展させるという大切な教育的 価値を生み出す学習活動なので,ここでは,③を(1)に含めないで考えることにした。
このような問題を発展させる発習活動場面においては,児童・生徒に問題を発展させるには,どん なところに着目してどのような見方・考え方や方法を使えばよいかという視点やアィデァとともに,
それらの視点やアイデアを生かすことができるようなふさわしい方法を工夫し,活用させるようにす ることが大切である。したがって,このような場面の指導においては,多様な見方・柔軟な見方の現 われやすいオープン・エンドの問題を扱ったり,条件過剰や条件不足の問題を扱ったりすることも効 果的であろう。
二十世紀初頭に,今世紀をかけて世界の数学者達に解決を迫って23個の未解決な問題を提示したヒ ルベルト(D.Hilbert)は,「科学の分野が豊富な問題を提供する限り,それは生命に満ちあふれて いる。問題の欠乏は死を,すなわち独自の発展の停止を意味する」といったが13),問題を発展させ,
よい問題をつくり,それを解決しようとしていくことは,児童・生徒の算数・数学的な活動を活性化 するのにも極めて重要な働きをなすといえる。
(4)問題応用の指導
上の③では,問題解決の中でも,どちらかといえば,たぶんに教育的価値を生み出す面に重みがか けられていたといえるが,この(4)ではいまの教育的価値と同時に実用的価値にも相当の重みを置いて いるところに特徴がある。
つまり,既習の知識・技能・見方・考え方などを駆使して,具体的・実際的な問題の解決に役立て ようとするわけである。習得した知識・技能・見方・考え方などが十分身についたといえるためには,
それらが適当な場面に転移できて活用や応用ができなければならないからである。もちろん,具体的・
実際的な場面では,単なる知識や技能を用いるだけでなく,そこでは,考察対象を理想化したり,抽 象化したり,形式化したり,記号化したり,教量化したりして,それを算数・数学の舞台にのせて,
さらには,概数・概量・概形として見積りや見通しを行ったり,概算で処理するなど,種々の算数・
数学的な見方や方法が総合的に応用されることになる。
既習の経験が生きた力となるためには,それが具体的・実際的場面に応用できてそこでの問題解決 を可能にする能力とならなければならないし,また,そのように自ら応用した知識や技能は忘れにく
く長く保持され定着される。まさに,「数学を学ぶ最良の方法は,数学をやることである(The 14)
b?唐煤@way to learn mathematics is to do mathematics)」という言葉の通りである。
いつも完壁なほど人工的に理想化されて作成された学習課題についてばかり学習させていたのでは,
真に生きて働く力を身につけるには十分とはいえない。
5.問題解決指導において重視して扱っていきたい事項
児童・生徒が問題解決の学習を効果的に進めようとするため,指導上重視していきたい点を述べる。
問題解決の指導においても,次の①〜③はいわば前提条件のように大切になる。
① 本時の指導の目標を達成しやすいように指導計画を作成し指導方法を工夫する。
本時の問題解決学習を通して,児童・生徒が習得するものは知識か技能か見方・考え方かあるい はそれらの複合されたものかいろいろであろうが,いずれにしても本時の目標達成にふさわしい指 導の計画や方法を慎重に立案し工夫していくことが大事であることはいうまでもない。
② 基礎的・基本的事項を十分身につけさせておくようにする。
問題解決による学習は,児童・生徒の既習の知識・技能・見方・考え方・方法などが総合的に応 用される場合が多い。この点からも,既習の基礎的・基本的事項は特に必要に応じていつでも活用 できるように定着や習熟を図っておくようにすることが重要である。このとき,基礎的・基本的事 項というと,しばしば,計算や測定などの技能面のものを考えがちであるが,基礎的・基本的なも のは知識・技能・見方・考え方・方法などのどの分野にもみられる。「無からは何も生じない」と いわれるように,基礎的・基本的なものがなければ応用のしようもないからである。
③ 数学的な考え方を育成しさらには伸長するようにする。
算数・数学教育では,児童・生徒が自ら主体的に学習課題に取り組み,既習の経験を生かし,ア イデアを発現し,性質・関係・きまりを発見したり,より手際のよい処理の仕方を考え出したりす る創造的活動をさせる一言い換えれば数学的な考え方を育てる一ことが,人間形成の立場からも極 めて大事であるということは,これまでも繰り返して述べてきた通りである。したがって,問題解 決の指導も,単なる興味のある学習課題に取り組ませるというような安易な姿勢からではなく,児 童・生徒に算数・数学の本質を感得させ,彼ら自らが算数・数学をつくっていくというような気持
ちを味わわせるような体験をもたせるようにしていきたい。
以上はいわば問題解決の指導をよりよくするための前提条件ともいえるものであるが,ここでは,
問題解決の指導を効果的にするために特に重視していきたい点として,さらに,次を挙げておくこと
にする。
④ 十分に考えさせるようにして進める。
前の2③でも述べたように,問題解決の精神機能は思考と密接しているので,児童・生徒に真の 問題解決学習をさせるには,彼らに十分考えさせるようにしなければならない。それには,適当な 考える場面や考える時間を設ける必要がある。しばしば,考えさせることを重視するといってただ
「考えなさい」といっているだけで,児童・生徒は何をどう考えてよいかわからずうろうろしてい るような授業をみることがある。よく考えさせるには,それにふさわしい学習課題を工夫したり,
彼らの心をゆさぶるゆさぶりの発問をかけることも有効である。単に結果を尋ねる質問を繰り返し ているようなだけでは,問題解決の指導とは似て非なるものになってしまう。
⑤ 指導にふさわしい学習課題を工夫し作成する。
問題解決の指導においては,そこで用いる学習課題として,本時のねらいに即し,児童・生徒の 実態にマッチしたよい学習課題を工夫して使用することは,大きなウエイトをもつことになる。こ の学習課題の場面や素材を選択する場合に,次のような視点から工夫することも大切である。15)
1生活経験に密接していて親近感が持てる。 H操作的活動を誘う。iii疑問や不思議さを感じさ
せる。 iv興味や関心をそそる。 V適度の困難さがあり解決への意欲をかき立てる。 viいろ いうな解決の仕方が期待される。 Vliゲーム的要素を含んでいる。
⑥ 自力解決・比較検詞の過程を重要視して指導する。
授業は集団で学習する形をとっているが,学習するのは児童・生徒の個人個人である。したがっ て,彼らの一人一人がとにかく自力で問題の解決に挑戦していく段階を丁寧にやらせる。そして,
そうして得られた結果を,友達どうしで相互に比較検討させて,友達から学び友達によって自らを 磨いていき,よりよい結果に気づくようにrefineしていく。この自力で解決を工夫していく過程や 得られた結果をふり返ってみる過程では,考察対象や方法にっいての見当をっけたり見通しを立て たりしていくことも大いに活用していくよう重視して指導していきたい。もちろん,問題解決に際 しては,演算決定の判断をどうするかとか,既習事項をどう生かして進めたらよいかという既習事 項の生かし方などにっいても,特に,平生から重視して身につけさせていくように指導していく。
⑦ 問題解決のストラテジーを選択活用できるようにする。
問題の解決には,前述のデューイやポリアが示しているような一般的な解決の過程も大切なスト ラテジー(strategのであるが,解決のある過程でのより細かいタクティックス(tactics)ともい える種々のストラテジーをよく理解させ,効果的なものを選んで活用できるように指導しておくこ とが大事である。このストラテジーについては,例えば,ショーエンフェルド(A・N・Schoenfeld)
は,前記のポリアの4段階を修正した次の5段階からなるストラテジーについて・各段階をさらに 16)
レしく示している。
分析(Analysis),計画(Design),探求(Exploration),実行(lmplement ation),
検証(Verification)
⑧個人差に応ずるようにする。また,つまずきを生かしていくようにする。
問題解決学習では,児童・生徒の一人一人が個性や能力に応じて多様な反応を示す。そこで,児 童・生徒の中の遅れている者や進んでいる者という個人の実態に応じて,課題や発問などの質と量 の両面から考慮して,知識・技能がよりよく習得され,成就感も持たせられるようにしていくこと が大事になる。
また,問題解決においてみられるつまずきも,個人にみられるつまずきや集団の傾向としてみら れるつまずきなどに応じて,それぞれ適切に注意や助言を行って指導していく。っまずきはそれを 指導に生かしていくような形の扱いで指導していきたい。特に,つまずきがくせになると,その矯 正は容易でないので注意して指導していかなければならない。
以上のような諸点を重視して,児童・生徒にとっての充実した問題解決学習が展開できるよう指導 に努力していきたい。
参 考 文 献 1)NCTM:「An Agenda for Action」, NCTM,(1980),p.1.
2) NCTM:「The Agenda in Action」,NCTM Yearbook,(1983).
3)篠原助市:「増訂教育辞典」,宝文館,(1943),p.916.
4)前掲書3),p.916.
5) S.Krulick and J.ARudnick:「Problem Sdving A Handbook for Teachers」, Allyn
and Bacon, 1nc. (1980), p.3.
6)下中邦彦編:「哲学事典」,平凡社,(1965),p.492.
7)NCTM:「Problem Solving in School Mathematics」, NCTM Yearbook,(1980), pp。3〜6.
8)平岡忠:問題解決の意義とその指導,中島健三編「数学的な考え方と問題解決[コ」,金子書房,(1985),
pp.40〜41.
9)石川忠雄:これからの社会と教育,「初等教育資料」,(1984),No.455, p.9.
10)今道友信:美と人間形成,「初等教育資料」,(1974),10月号,p.2.
11)J.Dewey:「How We Think」, D. C. Heath&Co.,(1933),pp.107〜115.
12)G.Polya:「How to Solve It」, Princeton U. P.,(1945), p,i
13)D。Hilbert/一松信訳:「数学の問題」,共立出版KK,(1970), p.1.
14)O.Ore:「Graphs and Their Uses」, Random House,(1963), p. V.
15)文部省:「小学校算数指導資料 指導計画の作成と低学年の指導」,大日本図書KK,(1980),p.59.
16)A.N.Schoenfeld:Teaching Problem−Solving Skills, Amer. Math. Monthly,(1980),
Vol.87. No.10, p.800.