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立法論としての「準契約」 : 中国・民法草案への 3つの改正提案

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(1)

3つの改正提案

著者 加藤 雅信

雑誌名 静岡法務雑誌

巻 11

ページ 411‑425

発行年 2019‑08‑16

出版者 静岡大学地域法実務実践センター

URL http://doi.org/10.14945/00026781

(2)

国際学術シンポジウム

目次

1 はじめに

2 中国民法典草案における「準契約」

   ――際だつ「不法行為」の取扱いの特異性と、中国民法の体系性の問題

3 「準契約」とは何か(1)フランス民法の「準契約」と、中国民法草案の「準契約」

(2)「準契約」概念の言語的射程――事務管理の「準契約」的性格

(3)不当利得は「準契約」的性格を有しているのか?

  ① フランス民法の「非債弁済・準契約」は、半面の真理・半面の過誤   ② 中国民法草案と日本民法典の不当利得規定のパラレル性

  ③ 不当利得の「衡平説」と「類型論」

  ④ 不当利得は「準契約」か、そもそも「不当利得法とは、なにか」

     ――「法体系投影理論」と「箱庭説」

  ⑤ 結論:不当利得は、「準契約」といえるのか 4 中国・民法草案への3つの改正提案

   ――微修正案・小規模修正案・中規模修正案 5 結論

(1)これらの「修正案」によって実現されるもの

(2)中国民法典の独自性論と、「人格権論」

立法論としての「準契約」

 ― 中国・民法草案への3つの改正提案 ―

加 藤 雅 信

名古屋大学名誉教授    名古屋学院大学教授   

(3)

1 はじめに

 中国民法があと1年、2020年3月には制定されようとしている。それを見据えたシ ンポウジウム「中国における民法典整備の最新動向」が本年2月に開催され(主催者・

静岡大学)、中国全人代代表・中国社会科学院教授の孫憲忠氏が現段階の構想を、ア メリカ・ワシントン大学准教授の臧東升氏がアメリカ側の見方を、慶應義塾大学教授 の北居功氏が日本側の見方をそれぞれ発表し、私がコメンテイターを務めた。オーガ ナイザー兼通訳は静岡大学教授の朱曄教授であった。また、通訳には立命館大学准教 授の小田美佐子氏もあたり、司会は静岡大学教授・弁護士の山下善弘氏が行った。

 私は、参加者の報告と、中国民法典草案をみて、次の5点をコメントしたいと考え た。第1点は、中国民法が「準契約」という用語を民法典の「標題」として取り入れ ようとしていることの是非、第2点は、「債権概念」を欠いていることの是非、第3 点は、中国民法典が「人格権」を独立の編としておこうとしていることの是非、第4 点が「不法行為」を独立の編としておこうとしていることの是非、第5点が「法典化」

をいかに考えるかであった。第1点から第3点までは孫報告がとりあげた問題で、北 居報告も言及しており、第5点は北居教授がとりあげた問題であった。ただ、私は、

これまで、第2点は「物権・債権峻別論」ないし「パンデクテン論」(1)との関係で、

第3点は「中国人格権論」(2)にそくして、第5点は「法典論」(3)として多少論じてき たので、時間の制約がある今回のコメントでは、まだ活字で検討したことがない第1 点を――「立法論としての『準契約』論」として――中心的にとりあげることとし、

他の4つの論点はそれとの関係で言及することにした。

 なお、私は、シンポジウム最後のこのコメントで中国民法典草案に対する3種の改 正提案を提示した。その後、孫憲忠教授が、この改正提案内容の中国語訳(訳者:呉 彦氏)を全人代へ取り次いでくださると、おっしゃってくださった。もとより外国人 からの改正提案であり、最終的にはたして受け入れられるか否かはわからないが、今 後の動向を見守っていきたいと考えている。

      

1加藤雅信「法典化・再法典化の時代――2016年モンゴル国会シンポジウムを契機として」

国際商事法務45巻8号(2017年)1098頁。

2加藤雅信「ニュース速報 中国民法典、『人格権編』を独立編として民法典に編入か」民事 判例17 2018年前期88頁。人格権についてのより一般的な分析として、加藤雅信「人格権 論の展開――日本・中国・東アジアの法を中心に」加藤一郎追悼 変動する日本社会と法(有 斐閣、2011年)173頁以下。

3加藤・注1)引用「法典化・再法典化の時代――2016年モンゴル国会シンポジウムを契機 として」国際商事法務45巻8号1094頁以下。

(4)

2 中国民法典草案における「準契約」

   ――際だつ「不法行為」の取扱いの特異性と、中国民法の体系性の問題  孫報告は、中国民法典契約編草案は3つの分編――第1分編:契約総則、第2分編: 契約各論、第3分編:準契約――からなることを紹介している。朱曄教授が「第3分 編:準契約」の条文の翻訳を私に送って下さったが、それによれは、第3分編には「28 章 事務管理」(763条~766条)と、「29章 不当利得」(768条~772条)の2種の債 権が規定されている。

 「準契約」は、ローマ法に由来する概念で、非契約・非不法行為債権をさす(4)。ド イツ民法典も日本民法典も「準契約」概念を採用していないが、それらに先立って制 定されたフランス民法典は、「準契約」を民法典上の概念として規定した。フランス 民法の「第3編:財産取得編」は、第3章に契約等を規定し、第4章の「合意なくし て成立する義務」に「第1節:準契約」、「第2節:不法行為及び準不法行為」を規定 したのである。

 このようにみると、中国民法は、①「準契約」という概念を法典概念とした点では フランス民法型であるが、②その体系的位置づけという点では非フランス民法型であ る。フランス民法は、「契約」と「合意外の義務」とを並置して、「合意外の義務」の なかに「準契約」と「不法行為」を含めたが、中国民法は「不法行為」をまったく別 個にとりあつかっていて、民法の独立した一編として、民法典草案の後ろのほうに規 定しているからである。ちなみに、日本民法典は、周知のように、債権各論として、

「契約・事務管理・不当利得・不法行為」を並置し、ドイツ民法は、債務編のなかに

「個々の債務関係」という章をおき、そのなかで――日本風にいうのであれば、ほぼ

――契約各論ともいうべき節を25ほど規定した後に、最後の2節を「不当利得」と「不 法行為」にあてている。要するに、フランス民法・ドイツ民法・日本民法が契約から 不法行為までを一体性を有するものとしてとりあつかっているのに対して、中国民法 は「不法行為」をそれらから切り離した独立編としている点が特徴的である。

 これに、「人格権編」が独立編として加わりそうであること、――しかも条文案の 内容は決してそうではないが――「人格権の市場化」を説き、「流通財としての人格権」

を観念しようとする立場までが存在することを考えると、中国民法の体系性が奈辺に あるのか、それが問題となってくる。

 北居報告は、「民法典の体系化には……2つの方式しかない」として、フランス法

      

(4)ローマ法では、準契約概念は中国民法典草案が規定しようとしている事務管理・不当利得 以外――後見・偶然の共有・遺贈――もカバーしているが、現在はそれらを「準契約」と する考え方が主張されてはいないので、もはやその点を検討する必要はないであろう。

(5)

型のインスティトゥツィオーネン体系とドイツ型のパンデクテン体系をあげた。た だ、近代民法典でも「体系化」にこだわらないものもある。そのような例について、

私は次のように述べたことがある。

 非常に独特なのは、オランダ民法で、その構成は、以下のようである。「第一編:

人法および家族法、第二編:法人法、第三編:財産法総則、第四編:相続法、第五編:

物的権利、第六編:債務法総則、第七編:各種契約、第八編:運送法、第九編:工業 財産法および知的財産権法、第一〇編:国際私法」。最初の第一編の内容は、フラン ス民法にも似たインスティトゥツィオーネン体系を想起させるが、財産法について第 三編に総則がおかれていることは、ドイツ法に似たパンデクテン体系を想起させる。

また、民商二法統一を超えた、知的財産等までを含むという意味では、私法総合法典 という性格を有している。また、第一編から第一〇編までを並べてみると、1つの法体 系を形成しているというよりは、ユスティニアヌス法典の学説彙纂や法学入門とも無縁 で、ローマ法の影響から脱している。私個人には、オランダ民法はいろいろな法分野を 体系にとらわれることなく合体させたルーズリーフ方式の法典のように思われる(5)  このような法典があることを念頭におきながら、不法行為編と人格権編を独立の編 とし、かつ、「物権」と対置されるはずの「債権」概念を正面からは規定しない中国 民法草案の体系は、私にはパンデクテン体系とルーズリーフ型法典の中間にあるよう にみえる。もっとも、体系論は観念の産物で、実務的にはインデックス機能があれば じゅうぶんであるという立場もあり、オランダ民法は後者の視点にたっているように 私にはみえるので、中国民法草案のように半分は体系を崩すという選択肢もありうる とは思うが、現在の草案のまま推移すれば、中国の民法はかなり独特な民法典になる 可能性が強いと、個人的には評価している。

3 「準契約」とは何か

(1)フランス民法の「準契約」と、中国民法草案の「準契約」

 体系論を離れ、「準契約」の規範内容を考えてみよう。フランス民法典の「準契約」

は、最初の条文が「準契約の意義」(1371条)、次が「事務管理」(1372条以下)、最後 が「非債弁済」(1376条以下)となっている。

 ただ、フランス民法を考えるさいに注意しなければならないことは、フランス不当 利得法の内容が日本法やドイツ法とはまったく異なっていることである。フランス民 法典には、不当利得の一般原則を規定した条文――日本民法703条、ドイツ民法812条、

中国民法典契約編草案768条に対応する条文――は、存在していない。フランス民法       

5以上、加藤雅信「世界と日本における民法典の編纂と改正」判例時報(2016年)5頁。

(6)

の不当利得の一般原則は判例法によって形成されたが、それは、ドイツ法や日本法の 視点から見れば転用物訴権についての判例法である(6)。その結果、日本やドイツで は不当利得の典型的な事例とされる、売買契約が無効な場合の給付物の取戻し等は、

非債弁済の規定によるものとされている(7)

 そうであれば、フランス民法典の「準契約」が「事務管理」と「非債弁済」を規定 し、中国民法典契約編草案の「準契約」が「事務管理」と「不当利得」を規定してい ることは、――条文の文言自体は異なるとしても――機能的にはほぼ対応した内容に なっていることになる。

(2)「準契約」概念の言語的射程――事務管理の「準契約」的性格

 契約は、合意によって成立する。ただ、事務管理についてこの図式が成立しないこ とは、フランス民法の「準契約」の節が「合意なくして成立する義務」と題されてい る章に規定されていることからも明らかである。

 しかしながら、問題は単純ではない。かつて私は、「事務管理は、準契約的である」

として、次のように述べた。

 「契約は申込みと承諾によって成立する。事務管理の成立要件はそれと異なるが、

事務管理者が本人のためにする意思をもち、かつ、本人の意思に反するものでないこ との2点が、事務管理の成立要件の一部とされる。これらの要件は、契約における申 込みと承諾とは異なるものの、比喩的に表現すれば、本人のためにする意思、という いわば事務管理者からの“茫漠とした申込み”と、本人の側からのその許容、ないし は、本人の意思に反するものではない、という“茫漠とした承諾”とみることも可能 なのであり、このような“茫漠とした申込みと承諾の合致”によって事務管理が成立 する、と考える余地もありうるであろう。/しかも、事務管理の法的効果は、委任の 規定の一部が準用されているため、委任契約と似た内容となっている」(8)

 このような「事務管理は、準契約的である」という見方は私だけのものではなく、

来栖三郎(9)やユング(10)等もとっているところである。それどころか、ドイツ民法で

      

(6)フランス法における不当利得法理の全体的な分析については、『加藤雅信著作集 第3巻不 当利得』(信山社、2016年)710頁以下(初出は、加藤雅信『財産法の体系と不当利得法の 構造』〔有斐閣、1986年〕741頁以下)。

7フランス法における非債弁済の規定の機能については、前注引用『加藤雅信著作集 第3 巻 不当利得』730頁(初出は、『財産法の体系と不当利得法の構造』761頁以下)

(8)加藤雅信『新民法大系Ⅴ 事務管理・不当利得・不法行為 第2版』(有斐閣、2005年)6頁。

9来栖三郎「民法における財産法と身分法3」法学協会雑誌61巻3号(1943年)354頁。

10 Jung, Erörterungen zum deutschen bürgerlchen Gesetzbuch und zu den Zivilgesetzentwürfe Ungarns und Bulgariens, Iheriengs Jahrbücher Bd.69, S.67.

(7)

は事務管理は典型契約が連続的に規定されているなかで委任契約の次に規定されてお り、スイス法でも類似の取扱いがなされている。これらにおいては、事務管理は典型 契約に準じた位置づけがなされているといってもよい。さらに、前述したフランス民 法では事務管理が「準契約」として位置づけられていることをも考えあわせると、中 国民法草案の事務管理の取扱いは、世界の潮流から完全に首肯しうるものである。

 

(3)不当利得は「準契約」的性格を有しているのか?

① フランス民法の「非債弁済・準契約」は、半面の真理・半面の過誤

 では、中国民法草案が不当利得を「準契約」として位置づけられていることはいか に評価されるべきか。その点を次に検討しよう。

 前述したように、フランス民法では「第4章 第1節:準契約」のなかに「非債弁済」

の規定が存在している。そして、その前の第3章に契約等が、次の第4章2節に不法 行為等が規定されている。この体系的位置づけを前提とすると、「非債弁済」の規定 は、

 1 契約債務がないのになされた弁済の返還  2 不法行為債務がないのになされた弁済の返還

 の双方に適用されることになる。1は「準契約」と位置づけてもそれほどおかしく はないが、2は契約と無関係で「非準契約」的である。フランス民法における「非債 弁済・準契約」という性格づけは、的を射ている場合と的をはずしている場合の双方 を含んでいることになる。

 

② 中国民法草案と日本民法典の不当利得規定のパラレル性

 次に、中国民法草案の「不当利得・準契約」論の是非を検討するが、その前に、中 国民法草案に規定されようとしている不当利得論そのものを検討する必要がある。

 中国で不当利得の原則規定となる中国民法草案768条は、「法律の根拠なく」不当な 利得を得た者の不当利得返還義務を規定している(11)。これまで、中国法には不当利 得の規定が存在していなかったので、この規定がどのように運用されるのか、とりわ

      

11第二十八章 不当得利

第七百六十八条 得利人没有法律根据取得不当利益的,受损失的人可以请求得利人返还获 得的利益,但是有下列情形之一的除外:

(一)为了履行道德义务进行的给付;

(二)债务到期之前的清偿;

(三)明知无给付义务而进行的债务清偿。

第七百六十九条 得利人不知道并且不应当知道获得的利益没有法律根据,获得的利益已不 存在的,不承担返还该利益的责任。

(8)

け、中心的な要件となることが予想される「法律上の根拠なく」の判例法の展開は将 来に委ねられており、現段階では明らかではない。

 しかしながら、この点をめぐる中国における将来の判例法の展開を予見することが 不可能ではない。なぜなら、日本民法がほぼ類似の不当利得の原則規定をもっている からである。日本で不当利得の原則規定となる日本民法703条は、「法律の原因なく」

利得を得た者の不当利得返還義務を規定している(12)。ここでは、中国民法草案の「法 律上の根拠なく」とほぼパラレルの「法律の原因なく」という文言が要件とされてい るので、中国民法草案768条の「法律上の根拠なく」についての判例法の展開は、日 本民法703条の「法律の原因なく」についての判例法の展開から予測できると思われ るのである。そして、日本には、明治期に民法が制定されて以来の民法703条の「法 律の原因なく」についての判例・裁判例の状況を網羅的に研究したモノグラフィが存 在している(13)。日本の法律学研究でも、法律制定以来の判例・裁判例の状況を網羅 的に研究することは一般的ではない。そこで、日本の判例状況を具体的に紹介する前 に、なぜこのような研究が行われなければいけなかったのか、世界の不当利得研究の 状況を簡単に紹介しておこう。

 

③ 不当利得の「衡平説」と「類型論」

 不当利得はローマ法の「コンデクチオ(condictio)」に端を発するが、今回の中国 民法草案の「不当利得」の規定がモデルとした統一不当利得法の歴史は、比較的新し い。

 一般不当利得法を規定した法典等をみると、最初が1883年に施行されたスイス旧債 務法(1881年公布)で、それに続いて一般不当利得法を規定したドイツ民法第二草 (14)が連邦参議院に提出されたのが1895年であって、このドイツ民法第二草案の不 当利得法規定の影響のもとに制定された日本民法が1898年に、ドイツ民法が1900年に 施行された(公布は、日独両法とも1896年)。このように、一般不当利得法が法制度 化されたのは19世紀末のことであり、その約100年前に成立したフランス民法典には、

――非債弁済の規定はあっても――不当利得の規定は存在していないのである。

 ただ、1世紀余り前にできた一般不当利得法については、いかなる法制度であるか

      

12日本民法703条:「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために 他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存す る限度において、これを返還する義務を負う。」

(13)注7)引用『加藤雅信著作集 第3巻 不当利得』221頁以下(初出は、加藤雅信『財産法の 体系と不当利得法の構造』231頁以下)

14ドイツ民法第一草案は、個別コンデクチオ体系を採用していた。

(9)

の理解はさまざまで、定説が確立することがないままに(15)、無内容であるがゆえに 破綻をきたさない「衡平説」――不当利得とは衡平を目指す法制度である、との見解

――が有力になっていった。そして、この無内容さに飽き足らなかったケメラーが20 世紀半ばに「不当利得の類型論」を主張すると、類型論が世界的な潮流となった。

 しかし、この世界的な潮流となった類型論は、致命的な欠陥を抱えていた。それは、

ケメラーの説をはじめどの学説も、提唱した諸類型が不当利得の一定の部分しかカ バーしていなかったのである(16)。要するに、既存の類型論は、不当利得の部分理論 でしかなかったことになる。

 不当利得についての有力な2学説のうち、衡平説は無内容、類型論は部分理論でし かなく、それ以前の学説はすべて説得力に欠けるとしたらどうすべきか。実は、不当 利得は私の処女論文のテーマであったが、私はすべての不当利得事例を愚直に洗い出 し、そのすべてをカバーしうるだけの帰納主義的な実証的な理論を立てるしかないと 考えた。そこで、私は、日本民法703条の「法律の原因なく」についての明治以来の すべての判例と裁判例を網羅的に検討する研究を開始したのである。

 では、この検討結果がいかなるものであったのかを紹介することが、――中国民法 草案768条の「法律上の根拠なく」の文言が日本民法703条の「法律の原因なく」との 文言ほぼパラレルである以上――将来の中国の不当利得の判例法の姿を予見すること になるであろう。

 

④ 不当利得は「準契約」か、そもそも「不当利得法とは、なにか」

   ――「法体系投影理論」と「箱庭説」

 では、日本民法703条の「法律の原因なく」の内包――とりもなおさず、予見され る中国民法草案768条の「法律上の根拠なく」の内包――を考えた場合に、不当利得 を「準契約」といえるのか否かを具体的に考察してみよう。図表1は、日本の不当利 得の裁判例を網羅的に分析した結果を表のかたちにまとめたものである。説明の便宜 上、表の中程から解説を始めたい。

      

15 19世紀末からのドイツでは、債権関係説、主観的法律原因説、権利説、相対関係説、正法 説、(不法行為者の)信託責任説、侵害利得論等の不当利得制度本質論についての新説が 爆発的な勢いで次々と主張されていったものの、どの説も学界を説得するにはいたらな かった。

(16)類型論のなかで、もっとも多くの類型をうちだしたのはケメラーであるが、そのケメラー の類型論が現実の不当利得がカバーしている場のどの部分をとらえており、どの部分を見 逃しているかを分析したものとして、注7)引用『加藤雅信著作集 第3巻不当利得』276 頁以下(初出は、加藤雅信『財産法の体系と不当利得法の構造』288頁以下)

(10)

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(11)

 ここに掲げた図表の上から三分の一ぐらいの【1】Ⅰ③に「契約」という文言があ る。1これは、多くの裁判例をみると、契約給付のつもりで財貨等を「給付」したも のの、その契約が――無効・取消し・不成立等によって――存在していなかった場合 に、その給付されたものは不当利得によって返還されなければならないことを意味し ている。この不当利得は、契約絡みのものであり、「準契約」的である、といってよ いであろう。

 しかしながら、図表の同じ列の右端には、「不法行為」と記されている。2裁判例 には、犯罪嫌疑で警察に留置された者が、留置から免れるために“犯罪被害者”と目 される者に不法行為にもとづく損害賠償金を支払って留置所から出所した後、実際に は「不法行為にもとづく損害賠償義務が不存在であった」ことを裁判で立証すれば、

支払った“損害賠償金”は不当利得として返還しなくてはならない、としたものがあ る。さらに、その列をみていくと、3事務管理の費用償還請求権にもとづき金員を支 払っても、実際には「事務管理の費用償還請求義務が不存在であった」場合には、支 払った金員は不当利得として返還しなくてはならない、とされることがわかる。それ のみならず、4不当利得――ここでは、「第一の不当利得」という――として財貨を 返還しても、実際には「第一の不当利得返還義務が不存在であった」場合には、いっ たん返還した財貨を、給付元に再度返還しなくてはならないという、第二の不当利得 が成立する。以上の4点の順序を並べ変えると、「契約・事務管理・不当利得・不法 行為」となり、債権各論のすべてがカバーされる。したがって、14は、財貨移転 を基礎づける「債権関係不存在」の場合には、不当利得が成立するとまとめることが できる。

 さらにその上の1Ⅰ②の行をみてみると、5小作料を受領した“所有者”に実際に は「所有権がなかった」場合には、支払った小作料は不当利得として返還しなくては ならない、6“地上権者”として他人の土地を利用したが、設定したはずの「地上権 が無効であった」場合には、他人の土地を利用した利得相当額を不当利得として返還 しなくてはならず、7“抵当権者”として他の一般債権者に優先して弁済をうけたと ころが、設定したはずの「抵当権が無効であった」場合には、優先弁済を受けた金員 を不当利得として他の一般債権者に返還しなくてはならない、とされる。57の事 例を「所有権・用益物権・担保物権」としてまとめれば、物権各論が基本的にカバー されており、財貨移転を基礎づける「物権関係不存在」の場合には、不当利得が成立 するという図式が成立する。

 8民法総則についても同じことがいえ、無権代理人の責任にもとづき金員の支払い を受けても、実際には「無権代理人の責任が不存在であった」場合には、支払いを受 けた金員を不当利得として返還しなくてはならない。

 9親続編についても同様であり、“養子縁組”のもとに“養親”を看病その他のか

(12)

たちで扶養した者は、その「養子縁組が無効であった」場合には、その扶養によって

“養親”が得た利得相当額を不当利得として返還請求することができる。

 

10相続続編についても同じことがいえ、遺産分割によって一定の財貨を取得した者 は、その「遺産分割の協議が無効であった」場合には、取得した財貨を不当利得とし て返還しなくてはならない。また、相続権がない“藁のうえからの養子”が、自分が 実子であると信じて相続によって受けとった財産については、「相続権の不存在」を 理由に、不当利得が発生する。

 以上、民法5編――総則・物権・債権・親族・相続――にまたがる法律関係を検討 してきた。これらを総括すれば、1

10の内容は、財貨移転を基礎づける「民法上の 法律関係が不存在」の場合には、不当利得が成立するとまとめることができる。ただ、

問題は「民法」に限られない。紙幅の制約もあるので、ごく簡単にみていくこととし よう。

 

11商法上の法律関係に目を転じよう。株主でないのに利益配当金を受領すれば、「株 主関係の不存在」を理由とする不当利得が成立する。偽造等で手形・小切手が無効な 場合には、それらの手形・小切手にもとづいて受領した金員は不当利得となる。

 

12民事訴訟法についても似たことがいえるのであって、印紙の追徴を命じる裁判が 無効であれば、印紙相当額の不当利得が成立する。仮執行宣言付判決にもとづき債務 額の支払いをしても、上級審で仮執行宣言付判決が失効すれば、いったん支払った金 員は不当利得として返還させることができる。

 

13行政法上の法律関係に目を向ければ、課税処分にもとづき徴収された税金は、そ の課税処分が取り消されれば、不当利得として取り戻すことができる。また、年金と して受領した金員は、年金支給裁定の取消しがあれば、不当利得として返還しなくて はならない。

 以上、1

13まで、財貨移転を基礎づける法律関係が――無効・取消し、その他で

――存在しない場合に、「法律上の原因なく」の要件が充足されて、不当利得返還請 求権が成立する、と述べてきた。これは、「逆もまた真なり」であって、一定の財貨 移転があった場合に、一方当事者がその財貨の移転は不当利得あるとして返還を請求 しても、1

13までの法律関係が存在しているときは、「法律上の原因」があるとし て、その請求は認められないのである。

 最後に、

14刑法ですらも、民法の不当利得と無縁ではなく、罰金として支払った金 員を国から取り戻したいと考えても、罰金の支払いを命じた刑事判決が有効であれ ば、それが不当利得における「法律上の原因」とされ、不当利得返還請求権は成立し ないのである。

 以上、1

14の内容を総括すれば、財貨移転を基礎づける「全実定法体系上の法律 関係の存否」が、「法律上の原因」の有無の判断基準となり、不当利得返還請求権の

(13)

成否を決定するとまとめることができる(17)。これが、①「法体系投影理論」とか②

「箱庭説」――①不当利得の「法律上の原因」には、財貨移転と関係する全実定法体 系が投影されている、②不当利得の「法律上の原因」は、財貨移転と関係する全実定 法体系の箱庭である――と呼ばれる、私の不当利得理論である。

 

⑤ 結論:不当利得は、「準契約」といえるのか

  以上のように考えると、不当利得法がカバーしている1

14にあげた実定法体系 のなかで、「契約」と関係する部分はごくごく僅かにすぎず、1だけである。不当利 得がカバーしているそれ以外の2

14は、「契約」と無関係である。そうであれば、

――「非債弁済」に着眼したフランス民法では、「非債弁済・準契約論」は「半面の 真理」でありえたかもしれないが――不当利得の一般原則を中国民法草案768条に規 定しようとしている中国民法にとっては、「不当利得・準契約」論は極小の真理にす ぎず、不当利得のほとんどの分野で空振りなのである。

 そうであるとすれば、この点で、中国民法草案は改められる必要がある。その点を 次に検討してみたい。

4 中国・民法草案への3つの改正提案

   ――微修正案・小規模修正案・中規模修正案

 中国民法の制定があと1年に迫っているなかで、現在の中国民法草案の条文案を大 幅に書き改めるような「大規模修正案」を考えるのは非現実的である、というべきで あろう。そうであれば、現在提案されている中国民法草案の条文案の文言をできるだ け活かしながら、民法典草案の構成を変更するだけ、とりわけ「題名」を変更するだ けであれば、これまでの努力の成果を基本的に維持できるので、現実的な改正提案に なりうるのではないかと考える。

 このような観点から、以下に、[Ⅰ]微修正案・[Ⅱ]小規模修正案・[Ⅲ]中規模 修正案を提案してみたい。外国人が他国の法律の制定に口をだすことの非礼は、心か ら詫びたいと思うが、学問に国境はないことを考え、より良い中国民法典ができあが ることを願っての提案であり、非礼についてのご寛容を乞う次第である。

      

(17)本文では、「全実定法体系上の法律関係の存否」という視点のみを述べた。ただ、「法律関 係の存否」以外にも、「物権の債権に対する優先的効力」「扶養義務の順位」「判決の既 判力」等々、さまざまな法理論が、実は、不当利得の「法律上の原因」の判断に投影され ている。それは、掲載した図表の「【2】 不当利得の応用型」に示されている。本稿では そこまで立ち入らないが、それらを知りたい向きは、注13)引用文献を参照されたい。

(14)

[Ⅰ]微修正案

  ①現在の 「第二编 合同」という標題を 「第二编 合同」に変える   ②現在の 「第3分編:準契約」のなかから、「第28章 不当得利」を削除する        結果として、「第3分編:準契約」には、事務管理のみが残る。

  ③現在の草案に、「第4分編:不当得利」を追加する

[Ⅱ]小規模修正案

  ①現在の 「第二编 合同」という標題を 「第二编 債権」に変える

②現在の 「第1分編:契約総論」を 「第1分編:債権総論及び契約総論」に変 える。

③現在の 「第3分編:準契約」のなかから、「第二十八章 不当得利」を削除する    結果として、「第3分編:準契約」には、事務管理のみがのこる。

  ④「第二编 債権」に、「第4分編:不当得利」を追加する

[Ⅲ]中規模修正案

  小規模修正案の①~④の修正を行う。

  ⑤「第二編 債権」に、「第5分編:侵害責任」を追加する。

   結果として、現在の草案の「第6編 侵害責任」は、第2編の「分編」になる。

5 結論

(1) これらの「修正案」によって実現されるもの

 以上、3つの改正提案をしたが、いずれの提案も、現在提案されている草案の条文 の文言変更をともなうような大規模修正を含むものではない。[Ⅰ]、[Ⅱ]の「微修 正案」と「小規模修正案」はともに「編」や「分編」の名称変更提案にすぎない。[Ⅲ]

の「中規模修正案」は、名称変更に加えて、「侵害責任」の移動をともなうので条数 の変更が必要となるが、それとて大した時間を要するような改正提案ではない。

 では、このような3つの改正提案によって実現される内容――すなわち、改良点――

はなにか、という点を次に述べておこう。

 まず、微修正案をとると、3の⑤に述べた「準契約」の破綻を回避することができる。

 次に、小規模修正案をとると、「物権・債権」の対置構造を法典上確保でき、中国 民法の法体系構造が明確になる(本稿414頁に、現段階の「中国民法草案の体系は、

私にはパンデクテン体系とルーズリーフ型法典の中間にあるようにみえる」と述べた が、この小規模修正案をとれば、ルーズリーフ的性格はかなり弱くなり、法典の体系 性がかなり回復される)。

(15)

 最後に、中規模修正案をとれば、中国民法はパンデクテン体系を完結させたものと なり、中国民法典の体系的完全性が確保される。

(2) 中国民法典の独自性論と、「人格権論」

 では、このような改正提案が受け入れられたとして、制定される中国民法典はどの ような特色を有するものになるのか。いうまでもなく、「パンデクテン体系+人格権 編」となるので、「編」のかたちで「人格権」を規定したことが中国民法の最大の特 色となろう。

 実は、私自身、他の研究者とともに、日本民法の財産法編の全面改正提案を行って おり、その総則部分は中国語に翻訳されている(18)。そこでは、人格権は、2個所で 登場する。最初は、総則編の第2条で、「(物権を中心とする)財産権・人格権・債権・

家族法上の権利」として、権利を並置するかたちで「権利の総論的な言及」がなされ ているなかの一つとして、「人格権」があげられている(19)。次に「人格権」がでてく るのは債権編の末尾の不法行為の章の「第1節 損害賠償」と「第2節 差止め等」

においてである(20)

 以上の叙述からわかるように、私たちの改正提案では、――総則編の第2条が示す ように――「人格権」は、既存の権利である「物権・債権」の概念のなかに解消され てはおらず、独自の権利としての性格を与えられている。しかし、法技術的な意味で の「人格権の法的効果」は「損害賠償・差止め」に限定されるので、不法行為の個所 に――物権侵害・人格権侵害・(一定の要件のもとでの)債権侵害等」が「損害賠償」

と「差止め」という効果を発生させる、と規定しているのである。要するに、「人格権」

が「独自の権利」であることを総則編の最初の部分で一般論として承認しつつ、その 法的効果を「不法行為法の法的効果」に限定して、民法典上の「人格権の権利として の存在」を控えめに規定していることになる。

 このような立法提案を行っている私からみると、独立した「人格権編」を規定した 中国民法草案は――個人的には――大げさに思える。しかし、それは、中国の立法者 も私も「人格権が独自の権利であること」をともに承認したうえでの、「独自性」の 程度の評価の差異にとどまるであろう。

      

18民法改正研究会(代表加藤雅信)=朱晔 / 张挺译『日本民法典修正案Ⅰ第一编总则』(北 京大学出版社、2017年)

(19)民法改正研究会(代表 加藤雅信)『日本民法典改正案Ⅰ 第一編 総則――立法提案・改正 理由』(信山社、2016年)6頁の条文案と240頁以下の解説を参照されたい(前注引用・中 国語訳7頁、208頁以下参照)

20民法改正研究会(代表・加藤雅信)『民法改正 国民・法曹・学界有志案』(日本評論社、

2009年)228頁、232頁。

(16)

 ただ、ここで留意しておきたいのは、しばしば耳にする「中国民法典の独自性」と いう視点である。前にも述べたが、世界の民法の在り方に大きな影響を与えたのはフ ランス民法典とドイツ民法典であった。しかし、私がかつて法典論を論じたさいに指 摘したように、1804年に制定されたフランス民法典より10年早い1794年にプロイセン 一般ラント法が施行されており、1900年に施行されたドイツ民法典よりも90年近く前 の1812年にオーストリア一般民法典が施行されている(21)。では、独仏民法典よりも 早く出現したこれらの法典が現在それほど高い評価を受けていないのはなぜなのか、

この点を考える必要がある。周知のように、フランス民法は、ナポレオン諸法典と呼 ばれる五つの法典――民法典、商法典、民事訴訟法典、刑法典、刑事訴訟法典――の 一つで、これに憲法を加えれば、現代の六法につながる。これに対し、プロイセン一 般ラント法は公法・私法の総合法典で、条文数が2万条近いもの――正確には、1万 9194条――で、体系化という観点からははなはだ不完全な「総合法典」であった。そ のうえ、そのなかには農民・市民・貴族という身分関係ごとの規定が含まれており、

身分体制に基礎をおく封建制の時代を反映した法典でもあった。その結果、身分制の 廃止、市民の平等という近代啓蒙思想を反映し、かつ、現在の六法につながるような 体系を採用したナポレオン諸法典のほうが圧倒的に法規範の透視性に優れていたので ある。また、ドイツ民法典はパンデクテン体系を明確に打ち出し、債権と物権とを二 つの編に対置させて規定したが、オーストリア一般民法典は物権と債権を同一の編で 規定していた。ドイツ民法典のほうが民事規範の体系化という点で、圧倒的に法規範 の透視性に優れていたのである。

 日本民法典も中国民法典も含め、すべての法典は歴史の審判を受ける。法典は、単 に作ればよいというものではない。「法典の規範内容を容易に把握し、理解しやすい もの」にしてはじめて、その法典が社会のなかでよりよく機能し、長い生命力を保つ ことができるのである。ルーズリーフは、作成した内容を記憶している作成者自身に は便利であっても、他人には使いやすいものではない。この点からは、「物権・債権 の対置構造」を崩すことで、法典の独自性を追求しようなどとは考えないほうがよい。

自分自身の改正提案にこだわっていうわけではないが、前述した微修正から中規模修 正までを行いさえすれば、中国民法典はパンデクテン体系の完全性を確保でき、かつ、

「人格権」を独立編としたことで、「中国民法典の独自性」はじゅうぶんに確保できる と思われる。私は、40年前の1979年に文化大革命終了後間もない中国を訪れて以来、

20回前後この国を訪れている中国の長い友人として、中国が来年には素晴らしい民法 典をもつことを願ってやまない。

      

21加藤・注1)引用「法典化・再法典化の時代――2016年モンゴル国会シンポジウムを契機 として」国際商事法務45巻8号1095頁。

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