末梢血単核球由来 Nrf2 発現量を指標とした
がん治療への臨床応用に関する研究
2020 年度
略語一覧 本論文中に使用した略語は以下のとおりである。
CHOP cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, prednisone DTT dithiothreitol
ELISA Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay GST Glutathione S-transferase
HF High Frequency HO-1 Heme Oxygenase-1
HPA hypothalamic pituitary adrenal system Keap1 Kelch-like ECH-associated protein 1 LF Low Frequency
NA noradrenaline
NHL non-Hodgkin's lymphoma NP-40 Nonidet P-40
Nrf2 NF-E2-related factor2
PBMC peripheral blood mononuclear cells PMSF phenylmethylsulfonyl fluoride QOL quality of life
R-CHOP rituximab, cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, prednisone R-GDC rituximab, gemcitabine, dexamethasone, carboplatin
SAM sympathetic nervous adrenal medullary system SDS sodium dodecyl sulfate
SDS-PAGE SDS-polyacrylamide gel electrophoresis s-IgA secretary immunoglobulin A
2
3
4 第一章 アロマテラピーの補完代替療法としての有用性に関する研究 ≪背景≫ 化学療法はがん治療において重要であるが、治療効果が高い一方で副作用も強く、患者の身体 的及び精神的ストレスは大きい。発がんには遺伝的因子や環境因子など、複数の因子が関わって おり、精神的ストレスの関与も明らかとなっている[2]。現在、がん治療において精神的ストレス は疼痛コントロール不良、再発リスクの上昇、QOL の低下などの悪影響を及ぼすと考えられてい る[3]。ストレスを反映する生体内物質(ストレスマーカー)としてコルチゾール、カテコールア ミン、アミラーゼ及び分泌型免疫グロブリンA(s-IgA)などがある[21][22]。ストレスマーカーは 自律神経系や免疫系に関連するものが多く、粘膜上に分泌される s-IgA はインフルエンザウイル スやレオウイルスに対する感染防御に関与している[23][24]。s-IgA はストレスが長期的にかかる 状態では継続して低下し、ストレスが取り除かれた後も低下状態が継続することが報告されてお り[25][26][27]、がん患者においても s-IgA は長期間にわたり低下していると考えられる。 ストレスを軽減するために近年注目を集めているのが補完代替療法である[28][29]。補完代替療 法はNational Center for Complementary and Integrative Health(アメリカ国立補完代替療法センター) において『a group of diverse medical and health care systems, practices, and products that are not generally considered part of conventional medicine.(現段階では通常医療とみなされていない、様々な医学・健 康管理システム、施術、生成物など)』と定義されている[4]。補完代替療法には現在様々な方法が あり、そのうちの1 つにアロマテラピーがある(Table 1.)。アロマテラピーは日常生活においてリ ラクゼーション法として取り入れられており、導入に対する抵抗感の低いことが長所であるとと もに、使用方法による個人差も少ないとされている。アロマテラピーは補完代替療法として古く から欧州において実施されており、現代では日本やアメリカなど多くの国において、抗ストレス 作用や抗不安作用を期待してアロマテラピーが緩和療法と共に行われるようになっている。さら にがん患者においては、ラベンダーやバラのアロマオイルを用いたアロマテラピーにより睡眠の 質が改善された報告がある[6]。また、健常人や妊婦に対して短期間アロマテラピーを行うことで、 ストレス負荷がかかった際にも唾液中s-IgA の上昇がみられることが報告されている[30][31]。外 分類 補完代替療法 天然産物を使用したもの (Natural Products) アロマテラピー、ハーブ(ボタニカル)、 栄養補助食品、 サプリメント(ビタミン・ミネラル) 等 心身医療
(Mind and Body Medicine)
瞑想、ヨガ、鍼灸、催眠療法、気功、太極拳 等 ※アーユルベーダ医療(インド伝統医学)や
中国伝統医学の概念が背景にあるもの 手技療法と身体技法
(Manipulative and Body-Based Practices) マッサージ療法 等 その他の補完療法
6 ピーによるストレス緩和作用は、ストレス反応系におけるSAM 系にも影響を与え、唾液中 s-IgA 濃度の変化などの効果を発揮していると考えられる。そこで第二節では、血漿中 NA 濃度を測定 し、ストレス軽減作用におけるs-IgA の分泌機構を検討した。 ≪実験方法≫ 被験者 第一節:基礎疾患を持たない健常人ボランティア 81 人(男性:40 人、女性:41 人、年齢: 24.0±2.4)に対してインフォームドコンセントを実施し、書面による同意を取得して研究を行っ た。 第二節:基礎疾患を持たない健常人ボランティア 21 人(男性:13 人、女性:8 人、年齢:22.4±0.9) に対してインフォームドコンセントを実施し、書面による同意を取得して研究を行った。 アロマオイルの吸入 第一節:アロマオイルをカット綿に3~5 滴滴下し、就寝時枕元に置いて就寝中にアロマオイル を吸入した。この際、就寝時間には特に制限を設けなかった。コントロールには蒸留水を用い、 アロマオイルにはNatural Touch Aromatherapy 社のグレープフルーツオイル: Citrus pradisi 、ラベ ンダーオイル: Lavandula angustifolia 、ローズマリーオイル: Rosmarinus officinalis 、ティートリー オイル: Melaleuca alternifolia を用いた。
第二節:Natural Touch Aromatherapy 社のラベンダーオイル: Lavandula angustifolia を用いて第一 節と同様にアロマオイルの吸入を行った。 唾液採取 被験者の多くが学生であり、起床時の唾液採取がストレス因子になり得ると考えられたため、 第一節では午後 2 時に唾液を採取した。しかし、唾液中 s-IgA 濃度測定は、日内変動を考慮する と起床時に唾液を採取することが望ましい。そこで、第二節のラベンダーオイルによるストレス 緩和効果の検討では、日常活動中に受けたストレスによる唾液中 s-IgA 濃度の変動を避けるため、 唾液採取時刻を起床時に設定することがストレス因子とならない被験者を選択し、唾液を採取し た。唾液採取前には口腔内を均一にするためにうがいを行い、唾液採取用チューブ(サリソフトⓇ 株式会社アシスト)を用いて唾液を採取した。被験者は90 秒間チューブ内のスポンジを口の中に 入れ、唾液を浸み込ませ、遠心機H-103N(株式会社コクサン)で 3000×g で 5 分間遠心して唾液 を抽出した。唾液は-80℃で冷凍保存し、測定時に室温に戻した。 唾液中s-IgA 濃度測定
Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)を原理とする IgA ELISA Quantitation Kit®(Bethyl Laboratories 社)を用い、Varioskan Flash 多機能マイクロプレートリーダー®(Thermo Scientific 社)
及び LP-PLATE manager2013®(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)により吸光
7 採血及び血漿の分離 唾液採取と同日にベノジェクト®II 真空採血管(テルモ社製)を用いて、血液 5mL を採取した。 採血は午前中にかかるストレスの影響を考慮し、午前 9 時に行った。採血後、遠心機 H-103N(株 式会社コクサン)にて 1200×g で 20 分間遠心分離し、血漿部分を採取した。血漿は-80℃で冷凍保 存し、測定時に室温に戻した。 血漿中NA 濃度測定
血漿中 NA は ELISA を原理とする Noradrenaline ELISA Fast Track Kit®(BET 社)を用い、Varioskan
Flash 多機能マイクロプレートリーダー®(Thermo Scientific 社)及び LP-PLATE manager2013®(サ
ーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)により吸光度(450nm)を測定し定量した。
統計処理
アロマテラピー開始前(0 週)の唾液中 s-IgA 濃度及び血漿中 NA 濃度を 1(基準)とし、各週 において得られた唾液中s-IgA 濃度、血漿中 NA 濃度を用いて変化率を求めた。0 週と各週の 2 群 間でMicrosoft Excel 2016®を使用し、Student’s t-test を行った。また試験中の交互作用の比較には
PASW Statistics 17.0®(日本IBM 社)を使用し、分散分析を行った。いずれの統計処理も両側検定
16 アロマオイルの吸入 90℃以上の湯(180mL)にアロマオイル 5~7 滴を加えた口径 8 ㎝の耐熱容器を枕元に置き、30 分間仰臥位を取り安静にすることでアロマオイルを吸入した。アロマオイルを吸入中の行動は、 仰臥位を取り安静にすること以外はストレスがかからないよう、制限は設けなかった。なお本研 究では、第一章で行った研究結果より、ストレス緩和効果 が最も期待できる Natural Touch Aromatherapy 社のラベンダーオイル: Lavandula angustifolia を用いた。
アロマテラピーは日中に受けるストレスの影響を排除する目的で、午前9 時 30 分から行った。
自律神経バランス測定
アロマテラピーの実施前、実施15 分後、終了直後(30 分後)の計 3 回、自律神経バランスの測 定を行った。自律神経バランスの測定には、非侵襲性測定器である Pulse Analyzer Plus View (TAS9View:株式会社 YKC 製)を用いた。測定では左第二指の指尖部にセンサーを装着して脈 波を2 分 30 秒間記録した。得られた脈波から得られる心拍数変動のデータを周波数解析し、低周 波成分(Low Frequency:LF:0.04~0.15Hz)と高周波成分(High Frequency:HF:0.15~0.4Hz)に 対数変換した。副交感神経機能の指標としてHF 占有率の変動及び LnHF を、交感神経機能の指標 としてLn(LF/HF)をそれぞれ用いた。 アンケート調査 アロマテラピーによる主観的なストレス緩和効果を同時に検討するため、既報を参考に [61][62][63]、 “「イライラする」、「心配事がある」、「気が張り詰めている」、「緊張している」、「不 安を抱えている」、「憂鬱である」”の 6 項目をアロマテラピー前後で最大値を 10cm とした VAS 方 式によるアンケート調査で評価した。また、香りの嗜好とストレス緩和効果との関連性を比較す るため、アロマテラピー前にはハーブ、フローラル、柑橘類、森林浴、その他の中から被験者が 日常生活で好む香りの種類について調査した。さらに、アロマテラピー後には本研究で用いたラ ベンダーオイルの香りを不快に感じていないかを確認した。 採血及びPBMC の分離 ベノジェクト®II 真空採血管(テルモ社製)を用いて、アロマテラピー実施前後で血液 5mL を 採取した。この際、アロマテラピー実施前では採血後 10 分以内にアロマテラピーを開始し、アロ マテラピー実施後では終了後 10 分以内に採血を行った。採血後、既報[64]に準拠し PBMC を分離 した。
以後の操作は全て4℃にて行った。PBMC 分離液(Lympholyte®:Cedarlane Laboratories Ltd.)に
17 Whole cell lysate の調製
PBMC 分離後、既法[65]に準拠し whole cell lysate の調整を行った。PBMC に RIPA buffer(150 mM NaCl、1.0% Nonidet P-40(NP-40)、0.5% sodium deoxycholate、0.1% sodium dodecyl sulphate(SDS)、 50 mM Tris-HCl(pH 8.0)、Protease Inhibitors)を 50µL 加えて攪拌し、1 分間超音波処理を行った。 その後、遠心分離機H-103N(株式会社コクサン)で 10,000×g で 10 分間遠心分離し、得られた上 清をwhole cell lysate とした。
核画分の調製
PBMC 分離後、既法[65]に準拠し核画分抽出を行った。PBMC に hypotonic buffer(10 mM HEPES (pH 7.9)、10 mM KCl、0.1 mM EDTA、0.5% NP-40、1 mM dithiothreitol(DTT)及び 0.5 mM phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF))を 200 µL 加えて撹拌した後、15 分間氷冷した。氷冷後、 遠心分離機H-103N(株式会社コクサン)にて 10,000×g で 3 分間遠心分離し、得られた上清を細 胞質ゾルとした。さらに、残渣にextraction buffer(20 mM HEPES(pH 7.9)、400 mM NaCl、1 mM EDTA、10 mM DTT 及び 1 mM PMSF)を 100 µL 加え撹拌した後、30 分間氷冷した。氷冷後、 10,000×g で 10 分間遠心分離し、得られた上清を核抽出画分とした。
ウエスタンブロット
ウエスタンブロット法は、既法[65]に準拠し行った。すなわち、試料タンパク質を、polyacrylamide gel を 用 い た SDS-polyacrylamide gel electrophoresis ( SDS-PAGE ) に よ り 分 離 し た 。 な お 、 polyacrylamide gel は 7.5%及び 10%(w/v)のものを使用した。SDS-PAGE 後、電源付ブロッティン グ装置(ATTO WSE-4115PoweredBlot Ace)を用いて Standard(12V)で 1.5 時間通電してゲル上の タンパク質をnitrocellulose 膜に転写した。タンパク質を転写した nitrocellulose 膜を 0.1% Tween、 3 mM KCl 及び 150 mM NaCl を含む 20 mM K2HPO4-KH2PO4 buffer(PBS-T)に溶解した市販のス
18
アロマテラピー前を基準としてアロマテラピー前後でNrf2 発現量の変化率を算出した。第一節 におけるPBMC の whole cell lysate では、Nrf2 発現量の標準誤差が 0.25 であったため、1.25<変化 率を増加群とし、0.75≦変化率≦1.25 を未変化群、変化率<0.75 を減少群と定義した。また、第二 節における PBMC の核画分における Nrf2 発現量は、標準誤差が 0.15 であったことから、1.15< 変化率を増加群とし、0.85≦変化率≦1.15 を未変化群、変化率<0.85 を減少群と定義した。
統計処理
アンケート調査より得られたVAS データ、及び脈波解析より得られた自律神経バランス測定デ ータは、項目ごとにMicrosoft Excel 2020®を使用し、アロマテラピー前後でStudent’s t-test を行っ
た。いずれの統計処理も両側検定でp<0.05 を有意差ありと定義した。
倫理的配慮
本研究はヘルシンキ宣言に基づき、被験者に対して倫理的配慮を行い、東京薬科大学ヒト組織 等を研究活用するための倫理委員会の承認(第19-15 番)を取得して実施した。
≪結果≫
第一節 PBMC における whole cell lysate の Nrf2 発現量に及ぼすアロマテラピーの影響
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Fig. 7. PBMCにおけるWhole cell lysateのNrf2発現量変化
アロマテラピー開始前と終了直後に採血を行い、PBMCにおけるNrf2発現量の変化を ウエスタンブロットにて確認した。その結果、8人全員においてNrf2発現量に変化が認め られなかった。 **:変化率>1.25 Nrf2 β-actin 前 後 1 前 後 3 前 後 2 前 後 4 前 後 5 前 後 6 前 後 8 前 後 7 Nrf2 β-actin 検体番号 変化率 2 1.24 未変化群 7 1.19 8 1.13 1 1.12 4 1.05 5 0.98 6 0.97 3 0.76
22
Nrf2 は全ての細胞において常に合成されているが、同時に Keap1 に捕捉された後にユビキチン 化されプロテアソームにて分解される経路をはじめに、複数の経路にて分解されることで核内移 行が抑制されている[49][50]。一方、細胞が酸化ストレスに曝露されると Nrf2 は Keap1 から遊離 及び活性化し、核内に移行して抗酸化物質や薬物代謝酵素を誘導することで細胞保護機能を発揮 する[67](Fig. 6)。本節での whole cell lysate では細胞内全体の Nrf2 発現量を確認しているため、 Keap1 に捕捉されている Nrf2 か、活性化された Nrf2 かの判別は困難である。したがって、アロマ テラピーによりNrf2 が担う細胞保護機能が上昇したかを判断することはできず、核内に移行し活 性化されたNrf2 発現量を測定し、比較検討する必要があると考えられた。そこでアロマテラピー 実施前後におけるwhole cell lysate、cytosol 画分、核画分それぞれの Nrf2 発現量をウエスタンブロ ット法にて確認した(N=1)。その結果、whole cell lysate、cytosol 画分においては Nrf2 発現量に 変化は認められなかったが、核画分においてはNrf2 発現量の上昇が認められた(Fig. 10)。 以上の結果より、アロマテラピーによる PBMC における Nrf2 発現量変化を検討するには核内 におけるNrf2 発現量を比較することが有用であると考え、第二節においてはアロマテラピーを第 一節同様に実施し、PBMC における核内の Nrf2 発現量をアロマテラピー前後で比較した。 第二節 PBMC における核画分の Nrf2 発現量に及ぼすアロマテラピーの影響 第一節と同様、健常人ボランティア(N=21)にアロマテラピーを実施し、アロマテラピー前後 でPBMC における核内の Nrf2 発現量を比較した。その結果 13 人でアロマテラピー後に Nrf2 発現 量の有意な増加が認められた(Fig. 11 and Table 4.)。また、アンケート調査の結果より、アロマテ ラピーにより6 項目全てにおいて VAS 値の有意な低下が認められた(Fig. 12)。同時に行った脈 波解析による自律神経バランス測定では、心拍数の有意な減少、副交感神経の活性を反映する Ln(HF)の有意な増加が認められた。また、有意な差は認められなかったが副交感神経の活性を反 映するHF 占有率の増加傾向、交感神経の活性を反映する Ln(LF/HF)の減少傾向が認められた(Fig. 13)。さらに、香りの嗜好に関する調査で、最も好まれていたのは柑橘類であった(Table 5.)。一 方、ラベンダーオイルによるアロマテラピーを不快に感じていたかを調査したところ、VAS 値は 0.33±0.13cm であった。 Fig. 10. 短期アロマテラピー前後にのPBMCにおける各画分のNrf2発現量変化 アロマテラピー開始前と終了直後に採血を行い、PBMCにおけるNrf2発現量の変化を whole cell lysate、cytosol、核画分をそれぞれ用いてウエスタンブロットにて確認した。 その結果、核画分においてNrf2発現量の増加が認められた。
**:変化率>1.25
Whole Cytosol Nucleus
前 後 前 後 前 後
30 そこで本研究では、比較的侵襲性が低く頻回に検査が可能である末梢血に着目した。末梢血中 に含まれる血球は、NHL 細胞と同じく造血幹細胞から分化する。化学療法は全身に作用すること から、化学療法による酸化ストレスの蓄積及び遺伝子障害等に伴う造血幹細胞ならびにNHL 細胞 核内のNrf2 発現量は、造血幹細胞から分化する PBMC における Nrf2 発現量と類似しているもの と推測される(Fig. 15)。 以上より、本章ではNHL 患者の PBMC における Nrf2 発現量を測定し、PBMC における Nrf2 の 経時的発現量の変化と、化学療法の治療効果、抵抗性、及び副作用発現との関連を検討した。 ≪実験方法≫ 被験者 武蔵野赤十字病院 血液内科及び腫瘍内科において CHOP 療法を始めとしたアントラサイクリ ン系薬剤を含むレジメンが施行された20 歳以上の NHL 患者を対象に患者を抽出し、インフォー ムドコンセントを実施し書面による同意を取得した後、東京薬科大学薬学部臨床薬剤学教室にて 患者登録を行った。なお、本研究において、既往歴や併用薬による除外基準は設けなかった。 検体採取及びPBMC の分離 主治医の指示による通常診療の中で行われる採血に伴い生じた余剰血液を恵与いただき、測定 検体とした。検体の回収後、既報[64]に準拠し PBMC を分離した。
以後の操作は全て4℃にて行った。PBMC 分離液(Lympholyte®:Cedarlane Laboratories Ltd.)に
31
血液を積層し、遠心分離機H-103N(株式会社コクサン)にて 800×g で 25 分間遠心分離し、1×PBS 3mL を用いて PBMC 分離液を完全に除去し PBMC を採取した。
Whole cell lysate の調製
PBMC 分離後、既法[65]に準拠し whole cell lysate 調整を行った。PBMC に RIPA buffer(150 mM NaCl、1.0% NP-40、0.5% sodium deoxycholate、0.1% SDS、50 mM Tris-HCl(pH 8.0)、Protease Inhibitors) を50µL 加えて攪拌し、1 分間超音波処理を行った。その後、遠心分離機 H-103N(株式会社コク サン)にて10,000×g で 10 分間遠心分離し、得られた上清を whole cell lysate とした。
ウエスタンブロット
ウエスタンブロット法は、既法[65]に準拠し行った。すなわち、試料タンパク質を、polyacrylamide gel を用いた SDS-PAGE により分離した。なお、polyacrylamide gel は 7.5%及び 10%(w/v)のもの を使用した。SDS-PAGE 後、電源付ブロッティング装置(ATTO WSE-4115PoweredBlot Ace)を用 いてStandard(12V)で 1.5 時間通電してゲル上のタンパク質を nitrocellulose 膜に転写した。タン パク質を転写した nitrocellulose 膜を 0.1% Tween、3 mM KCl 及び 150 mM NaCl を含む 20 mM K2HPO4-KH2PO4 buffer(PBS-T)に溶解した市販のスキムミルク(5% w/v)で室温にて 1 時間振盪
し、ブロッキングを行った。その後、nitrocellulose 膜を PBS-T で 10 分、5 分、5 分の順に計 3 回 洗浄し、スキムミルク(1% w/v)に一次抗体を加えて 4˚C で 24 時間インキュベートした。一次抗 体として用いたNrf2 antibody(Novus biologicals)及び anti-β-actin antibody(PGI Proteintech Group, Inc)は、2,000 倍希釈及び 3,000 倍希釈して使用した。次いで、nitrocellulose 膜を PBS-T で 10 分、 5 分、5 分の順に計 3 回洗浄し、スキムミルク(1% w/v)に溶解した二次抗体を加えて 1 時間イン キュベートした。なお、一次抗体としてNrf2 antibody 及び anti-β-actin antibody を用いたものには、 それぞれに対応した二次抗体として horseradish peroxidase conjugated goat anti-rabbit IgG または Peroxidase-conjugated goat IgG fraction to mouse IgG(whole molecule)を 10,000 倍希釈して使用し た。その後、nitrocellulose 膜を PBS-T で 10 分、5 分、5 分の順に計 3 回洗浄した。検出は Amersham™ ECL Select™ Western Blotting Detection Reagent を用いた化学発光にて、Luminescent Image Analyzer LAS-3000(FUJIFILM)を用いた chemical laminography により行った。Chemical laminography より 得られた画像はImage Studio™ Lite Software ver.5.2 を用いて解析した。
32 倫理的配慮 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、被験者に対して倫理的配慮を行い、東京薬科大学ヒト組織 等を研究活用するための倫理委員会の承認(第18-09 番)、及び武蔵野赤十字病院倫理委員会の承 認(27012)を取得して実施した。 ≪結果≫ 第一節 治療後の予後が良好な症例のPBMC における Nrf2 発現量変化の検討 武蔵野赤十字病院 血液内科及び腫瘍内科において NHL と診断され、治療を受けた患者を対象 に、治療に伴う採血時に生じた余剰検体を恵与いただいた。治療効果が良好で寛解状態を長期維 持している対象患者4 症例(Table 6.)の検体を用いてウエスタンブロットを行い、化学療法の施 行によりPBMC における Nrf2 発現量に変化が認められるかを検討した。
その結果、4 症例全例で PBMC における Nrf2 の発現が確認された(Fig. 17 and Table 7.)。この うち、症例1 においては R-CHOP 療法中盤に Nrf2 及び β-actin の上昇が認められたが、β-actin に 対するNrf2 発現量は 0.1 以下であり過剰発現は認められなかった(Fig. 17 a and Table 7.)。同様に、 症例3 及び症例 4 でも治療期間全体を通して Nrf2 発現量の低い状態が保たれていた(Fig. 17 c, d and Table 7.)。しかし、症例 2 においては、R-CHOP 療法 2 コース目から 4 コース目にかけて Nrf2 の発現量上昇が認められ、β-actin に対する Nrf2 発現量も 0.1 以上を示した(Fig. 17 b and Table 7.)。
40 ≪考察≫
44
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≪研究成果の掲載誌≫
1. Evaluating the effect of aromatherapy on a stress marker in healthy subjects. Chiaki Takagi, Saori Nakagawa, Naoto Hirata, Shin Ohta and Sadahiko Shimoeda Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences, 2019 Aug 14;5:18.