第一節 ストレス緩和効果を有するアロマオイルの検討
第一節 PBMC における whole cell lysate の Nrf2 発現量に及ぼすアロマテラピーの影響 アロマテラピー前後
のPBMC における Nrf2 発現量変化を、 whole cell lysate にて 確認した。その結 果、PBMC において
Nrf2 が発現していることが明らかとなったが、 アロマテラピー前後における変化は認められなか った(Fig.3)。しかし、アロマテラピー実施前後に おけるwhole cell lysate、cytosol 画分、核画分を用 いてNrf2 発現量をウエスタンブロット法にて確 認した結果、核画分において著しいNrf2 発現量 の増加が認められた(Fig.4)。 第二節 PBMC における核画分の Nrf2 発現量に及ぼすアロマテラピーの影響 第一節より、PBMC における核内の Nrf2 発現量を比較することが最も有用であると考え、PBMC に おける核内のNrf2 発現量をアロマテラピー前後で比較した。その結果 13 例で、アロマテラピー後に 核内Nrf2 発現量の有意な上昇が認められた(Fig.5)。また、アンケート調査に基づく主観的評価 6 項 目全てにおいて、有意なストレスの低下が認められた(Fig.6)。さらに脈波解析による自律神経バラン ス測定では、心拍数の有意な減少、交感神経の活性を反映するHF 占有率、Ln(HF)の増加、交感神経の 活性を反映するLn(LF/HF)の減少がそれぞれ認められた(Fig.7)。 Nrf2 β-actin
Fig.3 PBMCにおけるwhole cell lysate画分のNrf2発現量変化
アロマテラピー開始前と終了直後に採血を行い、PBMCにおけるNrf2発現量の変化をウエスタンブロットに て確認した。その結果、全検体においてNrf2変化率に変化が認められなかった。**変化率>1.25 前 後 1 前 後 3 前 後 2 前 後 4 前 後 5 前 後 6 前 後 8 前 後 7 Fig.4 短期アロマテラピー前後にのPBMCにおける各画分のNrf2発現量変化 Whole Cytosol Nucleus
前 後 前 後 前 後
第二節 治療後の予後が不良な症例のPBMC における Nrf2 発現量変化の検討 治療効果が不良、もしくは治療後6 か月以内に再発した治療後の予後が不良であった NHL 患者 4 症例 の PBMC にける Nrf2 発現量の変動をウエスタンブロットにて確認した。その結果、3 症例において PBMC における Nrf2 の過剰発現、及び増加傾向が認められた(Fig.9)。 【総括】 本研究により、アロマテラピー後の唾液中s-IgA 濃度の上昇、及び PBMC における核内 Nrf2 発現量 の増加が確認された。s-IgA は局所免疫を担っていることから、アロマテラピーによる局所免疫の賦活 化が期待される。また、正常細胞におけるNrf2 発現量の増加は細胞保護に寄与し、化学療法による酸 化ストレス軽減による末梢神経障害等の副作用を軽減させる可能性がある。今後はがん患者において 同様の検討を行い、アロマテラピーの有効性を検討する必要がある。正常細胞内におけるNrf2 発現量 の増加は、がん化学療法に伴う副作用の予防及び軽減に寄与することが期待される一方、がん細胞に 対しては治療効果の低下につながる可能性がある。本研究においても、予後不良症例で予後良好症例 よりもNrf2 の発現量が高いことが示唆され、Nrf2 発現量と化学療法の治療効果には関連性があると考 えられる。したがって今後、アロマテラピーを補完代替医療として臨床応用するためには、アロマテ ラピーによるNrf2 発現量の増加作用が及ぼす化学療法への影響を詳細に検討する必要がある。 【研究成果の掲載誌】
1. J Pharm Health Care Sci. 14;5:18. ( 2019) 2. 応 用 薬 理 Vol. 99 No. 5/6 ( 2020) Fig.8 治療後の予後が良好な4症例におけるNrf2発現量 a.症例1 Nrf2 β-actin Nrf2/β-actin 1コース day7 3コース day1 4コース day1 5コース day1 5コース day15 6コース day1 CHOP療法 n.a / n.a / 0.07 / 0.03 / 0.1 / 0.02 b.症例2 1コース day1 1コース day9 2コース day1 3コース day1 4コース day1 5コース day1 R-CHP療法 6コース day1 7コース day1 8コース day1
0.02 / n.a / 0.21 / n.a / 4.36 / 0.03 / 0.04 / n.a/ 0.23
c.症例3 R-CHOP療法 1コース day1 1コース day6 1コース day9 2コース day1 3コース day1 4コース day1 5コース day1 6コース day1 0.05 / 0.02 / 0.04 / 0.03 / 0.09 / 0.07 / 0.06 / 0.06 d.症例4
n.a / n.a / 0.04 / 0.01 / n.a / n.a / n.a/ n.a / n.a / n.a / n.a/ n.a
R-CHOP療法 1コース day-1 1コース day5 2コース day-1 2コース day6 3コース day-1 3コース day6 4コース day-1 4コース day6 5コース day-1 5コース day6 6コース day-1 6コース day6 治療後の予後が良好な4症例のPBMCにおけるNrf2発現量を測定した結果、症例1,3,4においてNrf2のわずかな発現を認め、症例2 においては2コース目day1, 4コース目day1, 8コース目day1においてNrf2/β-actin>0.1の過剰発現を認めた。
Fig.9 治療後の予後が不良な4症例におけるNrf2発現量 Nrf2 β-actin Nrf2/β-actin 1コース day7 1コース day10 2コース day-1 2コース day6 3コース day1 5コース day1 R-CHOP療法 a.症例5 6コース day1 0.02 / 0.04 / 0.02 / n.a / 0.07 / 0.12 / 0.09 1コース day1 1コース day4 3コース day1 4コース day1 5コース day1 R-CHOP療法(50%) b.症例6 0.07 / 0.12 / n.a / n.a / 0.38 R-CHOP療法(70%) d.症例8
n.a / n.a / n.a / 0.03 / 0.01 / 0.06 / 0.02 / 0.04
論文審査の結果の要旨
近年がん化学療法の進歩は著しいものの、副作用に伴う身体的及び精神的ストレスは大きく、 特に精神的ストレスは疼痛コントロール不良、再発リスクの上昇などの悪影響を及ぼすと考えら れている。一方、アロマテラピーはストレス軽減を目的に近年注目を集めている補完代替医療の 1 つであるが、客観的な評価方法やエビデンスが確立されていないため、医療現場での導入は進 んでいない。アロマテラピーはストレス緩和効果に加えて、局所免疫力の向上や抗酸化作用の促 進などが報告されており、これらの効果には転写因子NF-E2-related factor 2(Nrf2)が関与し ている可能性があるが、その関連性については十分に検討されていない。 そこで本論文では、ストレスマーカーを指標としたアロマテラピーの有効性と健常者の末梢血 単核球(PBMC)における Nrf2 発現量とアロマテラピーの関連性について論じられた。一方で Nrf2 の過剰発現は、がん治療において予後不良因子として認識されており、固形がんに加えて、 血液がんにおいてもNrf2 の過剰発現が報告されている。化学療法によって Nrf2 発現量が変化し ている可能性があるものの、がん細胞のNrf2 発現量測定には侵襲性の高い生検が必要となるため、 一般的に治療効果の指標としては応用されていない。そこでさらに本論文では、化学療法中に頻 回に行われる血液検査の検体より分離される PBMC に着目し、化学療法中の PBMC における Nrf2 発現量を測定することで、治療効果との相関性について論じられた。 第一章では、検体採取の侵襲が低い唾液に着目し、唾液中分泌型免疫グロブリンA(s-IgA)濃 度を測定し、アロマテラピーの有効性を論じた。各種アロマオイルを用いて有効性を比較し、ス トレス軽減効果が最も高いと考えられたラベンダーオイルを用いて、唾液中 s-IgA 濃度に及ぼす 影響とアロマテラピーが唾液中 s-IgA 濃度に変化を及ぼす機序を解明する目的で血漿中ノルアド レナリン(NA)濃度を測定し、両者の相関性を論じた。 第二章では、抗酸化物質発現量の増加や酸化ストレスの軽減作用があるアロマテラピーが及ぼ すNrf2 発現量への影響を検討する目的で、健常者 PBMC における Nrf2 発現量がアロマテラピ ーによりどのように変化するのかを論じた。アロマテラピー前後のPBMC における Nrf2 発現量変化をWhole cell lysate にて確認した。その結果、PBMC において Nrf2 が発現していることが
明らかとなったが、アロマテラピー前後における変化は認められなかった。しかし、アロマテラ
ピー実施前後におけるwhole cell lysate、cytosol 画分、核画分を用いて Nrf2 発現量をウエスタ