要旨 ガレクチン-9 は,β-ガラクトシドに結合するガレクチン分子群の一つで,T 細胞のアポ トーシスや調節性 T 細胞の誘導など免疫調節能をもつ分子である。我々は,これまでの研 究で,ヒト単球様細胞株 U937細胞を用いた研究において,フコイダンは,レイシ抽出液や カテキンと異なり,TNF-α,IL-1β,IL-6 などの炎症性サイトカイン産生を増強する一方, IL-10, TGF-βなどの抑制性サイトカイン産生を阻害することにより効果的に免疫賦活作用 を示すこと,そしてこの過程に免疫抑制的機能を有するガレクチン-9 の発現低下が関与し ている可能性があることを報告した。 本研究では,単球,T 細胞,NK 細胞などの免疫担当細胞を含むヒト末梢血単核球 (PBMC)を用いて,フコイダンのガレクチン-9や炎症性 / 抑制性サイトカインの発現に及 ぼす影響について調べた。結果,フコイダンは,U937細胞同様,LPS 刺激時,PBMC のガ レクチン-9 の発現を低下をさせ,炎症性サイトカイン産生増強活性と同時に抑制性サイト カイン産生阻害活性を有することにより,強い免疫賦活性を示すことがわかった。またフコ イダンは,コンカナバリン A(ConA)など T 細胞幼若化因子の刺激による IL-4,IL-17産 生を増強し,Th2 細胞,Th17 細胞にも免疫賦活性を示すことがわかった。 Abstract
Galectin-9 is one of the galectin molecules which binds to β-galactoside and has immunoregulatory functions such as T cell apoptosis and regulatory T cell induction. In our previous studies using human monocyte-like cell line U937 cells, we reported that
海藻由来フコイダンのヒト末梢血単核球における
サイトカイン産生及びガレクチン分子
の発現に及ぼす影響
坂田 敦子
1)・當房 浩一
1),2)Effects of Seaweed-derived Fucoidan on Cytokine Production
and Expression Profile of Galectin Molecules
in Human Peripheral Blood Mononuclear Cells.
Atsuko Sakata
1), Hirokazu Toubou
1),2)1)
尚絅大学生活科学部栄養科学科 ・2)
fucoidan, but not lychee extract and catechin, effectively shows signs of immunostimulatory functions by enhancing production of proinflammatory cytokines such as TNF-α, IL-1β, and IL-6, while also suppressing the production of inhibitory cytokines such as IL-10 and TGF-β, and it was suggested there is a possibility that the decreased expression of galectin-9 might be involved in this process.
In this study, we investigated expression of galectin-9 and proinflammatory cytokine production in the presence of fucoidan by using human peripheral blood mononuclear cells (PBMC) which include multiple immunocytes such as monocytes, T cells, and/or NK cells. As a result, it was shown that fucoidan down-regulates expression of galectin-9 and demonstrates immunostimulatory functions effectively by enhancing production of proinflammatory cytokines while suppressing the production of inhibitory cytokines in PBMC stimulated by LPS just like it does with U937 cells. It was also suggested that fucoidan has immunostimulatory functions on Th2 cells and Th17 cells due to enhanced production of IL-4 and IL-17 in PBMC stimulated by T cell-mitogen such as concanavalin A (ConA).
キーワード
フコイダン,機能性成分,ガレクチン分子,免疫調節能,末梢血単核球(PBMC) Keywords
fucoidan, functional ingredients, galectin molecules, immunoregulatory function, peripheral blood mononuclear cells (PBMC)
緒言
食品は抗酸化能,免疫賦活作用,抗腫瘍活性など様々な機能性成分を含んでいることが知 られている。フコイダンは,硫酸多糖の一種でコンブやワカメ,モズクなど褐藻類の粘質物 に多く含まれる食物繊維であり,抗がん作用,免疫力増強作用,抗コレステロール作用など が報告されている1)2)。またレイシは,一般的にマンネンタケ科のキノコでβグルカンの多 糖類を含み,このβグルカンには強い抗癌作用があり,その他レイシには抗血液凝固作用, 免疫賦活作用などがあるといわれている3)。 我々は,ヒト単球様細胞株 U937 細胞を用いたこれまでの研究で,フコイダンが,レイシ 抽出液やカテキンと異なり,TNF-α,IL-1β,IL-6 などの炎症性サイトカイン産生を増 強する一方,IL-10, TGF-βなどの抑制性サイトカイン産生を阻害することにより効果的に 免疫賦活作用を示すこと,この過程に免疫抑制的機能を有するガレクチン-9 の発現低下が関与している可能性があることを報告した4)。ガレクチン(galectin)は,ガラクトースを 含む糖鎖構造(β-ガラクトシド)に結合する分子群で,ヒトでは10種類のガレクチンが知 られている5-8) 。ガレクチン-1,-3 が生体に比較的恒常的に発現しているのに対して,平島 らにより好酸球遊走因子として発見された分子であるガレクチン-99)は,好酸球や癌細胞, T 細胞のアポトーシスを誘導することにより自己免疫疾患などの免疫応答過剰状態を抑制す る一方,悪性腫瘍などでは免疫賦活作用を示すなど,免疫調節機能をもつ分子として興味深 い分子である10-12) 。 本研究では,免疫賦活作用を示すフコイダン及びレイシが,健常人ヒト末梢血単核球 (PBMC)においても U937細胞と同様に免疫調節能やガレクチン分子の関与がみられるか, について検討を行った。PBMC は,U937細胞株のように単一細胞ではなく,単球,T 細胞, NK 細胞などの免疫担当細胞および血小板を含んでいる細胞群である。これら免疫細胞は, 様々な刺激によって種々のサイトカインが産生され,免疫調節を担っている。炎症性サイト カインには,主にマクロファージから産生される TNF-α,IL-1β,IL-6,IL-8,IL-12 が ある。これらの炎症性サイトカインは細胞の増殖・分化を促進し,生体内における様々な炎 症症状を引き起こす。IL-6 は,マクロファージ以外に T 細胞,内皮細胞からも産生され, T 細胞と B 細胞の増殖・分化,急性期反応蛋白産生(CRP),血液幹細胞分化・増殖,血小 板産生誘導に作用し,IL-12 は,主にマクロファージ,樹状細胞,B 細胞から産生され, Th1 細胞への分化誘導などの作用をもつ。 一方,T 細胞のサブポピュレーションとして Th1,Th2,Th17,Treg 細胞がある。Th1 細胞からは,IFN-γ,IL-2 が産生される。IFN-γは他にも NK 細胞から産生され,マクロ ファージの活性化,Th1細胞誘導・活性化,MHC クラスⅠ,Ⅱ分子発現増強などに作用し, IL-2 は,T,B,NK 細胞の活性化,細胞傷害活性などを促進する。Th2 細胞は IL-4,IL-5, IL-6,IL-9,IL-13 などを産生する。これらのサイトカインは,B 細胞を抗体産生細胞まで 分化・増殖させる。抗体は細胞外寄生性病原体の防御に重要である。過剰な Th2 細胞応答 は,しばしば気管支炎などのアレルギーの原因となる。Th17 細胞は IL-17A,IL-17F を産 生し,G-CSF やケモカイン CXCL8(IL-8)の産生を誘導することで,好中球を集め,特に 細胞外寄生性病原体の感染早期の防御機構を担い,多発性硬化症や関節リウマチ,炎症性腸 疾患やアレルギーの病原体感染にも関与する。TGF-βと IL-6 が Th17 細胞の分化に必要な サイトカインである。Treg 細胞(制御性 T 細胞)は,胸腺で機能分化する。Naturally occurring Treg(nTreg)細胞と末梢でナイーブ T 細胞から分化する inducible Treg(iTreg) 細胞がある。TGF-βは Treg 細胞分化に必要であり,FoxP3 がマスター転写因子である。 TGF-βが FoxP3 と Th17 のマスター転写因子の RORgr の両方を誘導するが,IL-6 がない ときには,FoxP3 が優位となる。IL-10 は,ほかにもマクロファージから産生され,マク ロファージの IL-1β,IL-12 などの産生抑制,Th1 細胞の IFN-γなどの産生抑制,Th2 細
胞への分化を誘導する。 本研究では,ヒト PBMC に対するフコイダン及びレイシの炎症性サイトカイン産生,T 細胞(Th1,Th2,Th17,Treg 細胞)由来サイトカイン産生へ及ぼす影響,細胞増殖に与 える影響,免疫調節因子であるガレクチン-9 の発現に及ぼす影響について調べた。
実験材料及び方法
(1)試薬及び食品成分の調製 鹿角霊芝粉末(株式会社にが茶)0.2 g を DNase free D.W. に懸濁後,80℃で30分加熱, 冷却後,3,000 rpm,25℃,10分間遠心分離した。上清を0.22μm フィルターで濾過滅菌し, 10xPBS で等張化してレイシ抽出液を調製した。フコイダン(Dextra 社)は,10 mg/mL となるよう1xPBS に溶解し,0.22μm フィルターで濾過滅菌して用いた。また細胞刺激剤の LPS (lipopolysaccharide), ConA (concanavalin A),PHA(Phytohemagglutinin)は Sigma 社より,細胞増殖活性測定用の WST-8は,(株)同人化学より購入した。 (2)細胞調製および培養方法 本研究で用いたヒト PBMC は,ヘパリン加末梢血を Ficoll Paque PLUS(GEHealthcare 社)を用いた比重遠心法にて分離・調製した。 細胞培養は,1x106 cells/mL PBMC を6穴または96穴プレートに播種し,それぞれ PBS (無添加,control),フコイダン(最終濃度1, 10, 100, 500μg/mL), レイシ抽出液(最終濃度 1.65 mg/mL 相当量)を添加後24時間前培養し,10μg/mL LPS,10μg/mL ConA で刺激後 24時間または96時間培養し,上清中のサイトカイン産生測定,細胞増殖測定,細胞形態(凝 集)観察を行った。 (3)サイトカイン測定法 培養上清中のサイトカイン(TNF-α , IL-1β,IL-6,IL-12,IL-2,INF-γ,IL-4,IL- 17,IL-10,TGF-β)産生量は,各種サイトカイン測定キット(invitrogen 社)を用い, ELISA 法で測定した。 (4)RT-PCR によるガレクチン分子発現の検出培養細胞から QIAGEN 社 RNeasy Mini Kit を用いて total RNA を抽出し,total RNA 0.1 μg を Super Script Ⅲ Platinum one-step qPCR System (invitrogen 社)を用い,30 cycle で RT-PCR を行った後,アガロースゲル電気泳動とエチジウムブロマイド染色によりガレ クチン分子の発現を検出した。プライマーとして下記を用いた。
β-actin, 1,145bp
AS : tagaattcctagaagcatttgcggtggacg, ガレクチン-1, 346bp S : tggtcgccagcaacctgaatctca, AS : tagttgatggcctccaggttgagg ガレクチン-3, 374bp S : acccatcttctggacagccaagtg AS : cactgcaaccttgaagtggtcagg ガレクチン-9, 483/560bp S : gagaggaagacacacatgcctttc AS : gaccacagcattctcatcaaaacg (5)細胞増殖測定,細胞形態(凝集)観察 細胞増殖測定は,WST-8を用いた MTT 法により測定した。具体的には,96時間培養の 最終3時間前に WST-8を10μL/well となるようを加え,生じたホルマザンを OD450nm で測 定した。 (6)データ解析 実験結果は,平均値±標準偏差で示した。有意差検定は,各刺激における control 群に対 して,対応のある2群間の t 検定を行い,有意水準を5% または1% とした。 (7)生命倫理的配慮 本研究は,尚絅大学・尚絅大学短期大学部生命倫理審査部会による審査において承認を得 ている(承認番号 2019生倫06)。
結果及び考察
(1)フコイダンおよびレイシ抽出液のガレクチン-1,-3, -9, 発現に及ぼす影響 ヒト PBMC をフコイダン500μg/mL およびレイシ1.65 mg/mL 相当量で24時間前培養後, 無刺激,LPS 刺激を行った時のガレクチン-1,-3,-9 の発現を調べた。PBMC を無刺激,LPS 刺激後,total RNA を抽出し,one step RT-PCR (30cycle)によりガレクチン-1,-3,-9 の検 出 を 行 っ た。 ヒ ト ガ レ ク チ ン -1,-3,-9 の RT-PCR 産 物 は, そ れ ぞ れ1,346bp,1,374bp, 483/560bp として検出される。無刺激時,ガレクチン-1,-3,-9 はすべて発現しており,フコ イダンやレイシはこれらの発現に対して影響を及ぼさなかった(図1,左・右ゲル,lane 1 -3)。またガレクチン-1,-3 の発現は,LPS 刺激時,ほとんど変わらなかった(図1,右ゲル, lane 4-6)。一方,LPS 刺激時でも,control およびレイシ存在下でガレクチン-9 は検出された(図1,左ゲル,lane 4, 6)が,フコイダン存在下でガレクチン-9 は明らかに低下してお り,フコイダンによるガレクチン-9 の発現抑制活性が示唆された(図1,左ゲル,lane 5)。 既に我々は,レイシ抽出液,フコイダン,カテキンが,U937細胞において,無刺激および PMA + LPS 刺激時のガレクチン-1,-3の発現には影響を及ぼさないこと,レイシ抽出液, カテキンは PMA + LPS 刺激時のガレクチン-9の発現に対してほとんど影響を示さないが, フコイダンのみ,ガレクチン-9の発現を有意に低下させることを報告している4) 。 本実験結果から,フコイダンは,U937細胞同様,PBMC に対しても,広く普遍的に発現 しているガレクチン-1,-3 の発現にはほとんど影響を及ぼさないが,ガレクチン-9 に対して のみ,明らかな発現抑制活性を示すことが明らかとなった。 (2)フコイダンおよびレイシ抽出液のサイトカイン産生に及ぼす影響
ヒト PBMC の刺激剤として,TLR4 (toll like receptor 4)を介して強く単球/マクロ ファージを活性化する LPS,T 細胞幼若化因子である ConA を用いた。control(食品成分 無添加群),フコイダン500 μg/mL,レイシ1.65 mg/mL 相当量添加群における,それぞれ 無刺激(24時間後,96時間後),LPS 刺激(24時間後,96時間後),ConA 刺激(96時間後の み)の培養上清中の各種サイトカイン産生量を図2~4に示す。炎症性サイトカインは早期 に誘導されることから24時間後の結果,T 細胞由来サイトカインは96時間後の結果について 解析を行った。 1)炎症性サイトカイン産生に及ぼす影響 〈TNF-α〉
図
1 フコイダンおよびレイシ抽出液のgalectin‐1, ‐3, ‐9発現に及ぼす影響
図1 フコイダンおよびレイシ抽出液の galectin-1, -3, -9 発現に及ぼす影響24時間培養上清では,無刺激時の TNF-α産生量は,control,フコイダン,レイシ存在 下のいずれも検出限界(7.81 pg/mL)以下であった。LPS 刺激時の TNF-α産生量は, control,フコイダン,レイシ存在下で,それぞれ5284.63±394.768,3272.97±50.40,2373.93 ±173.06 pg/mL であり,control 群と比較すると,フコイダンおよびレイシ存在下では TNF-α産生が低下していた。フコイダン,レイシは,LPS 刺激による TNF-α産生を抑制 する傾向がみられ,その傾向は,フコイダンよりレイシのほうが強かった(図2.a)。 〈IL-1β〉 24時間培養上清の無刺激時の IL-1β産生量は,control,フコイダン,レイシ存在下で, それぞれ54.92±3.09,126.45±11.82,101.47±0.98 pg/ml であった(図2.b)。IL-1βは,無 刺激時でも若干の IL-1βが持続的に産生されており,これはフコイダンで約2.3倍,レイシ で約1.8倍増強されていた。しかし,LPS 刺激時の IL-1β産生量は,control,フコイダン, レイシ存在下で,それぞれ120.58±0.85,73.65±3.74,49.92±2.01 pg/mL であり,無刺激時 図2 フコイダンおよびレイシ抽出液の炎症性サイトカイン産生(24時間培養) に及ぼす影響 各実験結果は,平均値±標準偏差値で示した。有意差検定は,control に 対する食品成分存在下のサイトカイン産生量について,対応のある t 検定 を行い,有意水準を *:p<0.05 または⁑:p<0.01で示した。 LPS 無刺激 無刺激 LPS LPS 無刺激 LPS 無刺激
図
2 フコイダンおよびレイシ抽出液の炎症性サイトカイン産生(24時間培養)に及ぼす影響
a
b
c
d
* ** * * * * * * * * * * *と異なり,LPS 刺激の IL-1β産生は,フコイダン,レイシにより抑制された(図2.b)。IL- 1βは,TNF-αや後述する IL-6 と異なり,24時間後無刺激でもわずかな産生が認められた。 この spontaneous な産生はフコイダン前処理によって約2倍増強された。 〈IL-6〉 24時間培養上清の無刺激時の IL-6産生量は,control,フコイダン,レイシ存在下では, それぞれ検出限界(15.63 pg/mL)以下,572.09±41.30 pg/mL,検出限界(15.63 pg/mL) 以下であった。また LPS 刺激時は,control,フコイダン,レイシ存在下で,それぞれ 2,567.08±66.49,8,265.03±643.02,1,828.97±99.68 pg/mL であった(図2.c)。無刺激では, フコイダンが単独で IL-6 を産生誘導することがわかった。さらに,LPS 刺激においてフコ イダンは約14倍の強い IL-6 産生誘導活性を示した。これに対し,レイシは control に対し て約0.6倍と抑制がみられた。 〈IL-12〉 24時間培養上清における無刺激時の IL-12産生量は,control,フコイダン,レイシ存在下 では,それぞれ検出限界(7.81 pg/mL)以下,142.14±65.1 pg/mL,検出限界(7.81 pg/ mL)以下であった。また LPS 刺激時は,control,フコイダン,レイシ存在下では,それぞ れ792.73±96.71,1,725.17±143.19,433.76±29.11 pg/mL であった(図2.d)。LPS 刺激では, control とフコイダンを比べると,フコイダンが IL-12産生誘導を2.2倍増強していたが,レ イシは約0.55倍と抑制していた(図2.d)。IL-12は,IL-6同様,フコイダン単独で産生誘導 され,LPS 刺激による IL-6産生は,フコイダンにより約2倍増強されることがわかった。 これらの結果から,フコイダンは,LPS 刺激による炎症性サイトカイン産生の中でも, IL-6, IL-12産生に対して強い増強活性を示すが,TNF-α,IL-1β産生に対しては抑制傾 向がみられるなど,炎症性サイトカインの種類によって異なる作用を示すことがわかった。 このことは,PMA+LPS で刺激したヒト単球様細胞株 U937細胞において,フコイダンが TNF-α,IL-1β,IL-6の炎症性サイトカイン産生全てを増強した結果と異なっていた。 2)Th 細胞由来サイトカイン産生に及ぼす影響 Th1 細胞由来サイトカイン 〈IL-2〉 96時間培養上清でも,無刺激,LPS 刺激では IL-2 産生誘導はみられなかったが,ConA 刺激において,control,フコイダン,レイシ存在下の IL-2産生は,それぞれ712.71±38.77, 1633.95±3.37 pg/mL,検出限界(62.50 pg/mL)以下であった(図3.e)。ConA 刺激におい て,フコイダン存在下では control に比べ,2倍以上の IL-2 産生増強活性を示したのに対し, レイシは強い抑制活性を示した。
〈IFN-γ〉
96時間培養上清において,無刺激では,IFN-γ産生はみられなかった。ConA 刺激時の control, フ コ イ ダ ン, レ イ シ 存 在 下 の IFN- γ 産 生 は, そ れ ぞ れ16,989.37±309.21, 10,007.71±231.18,1,560.87±11.05 pg/mL であり,ConA 刺激による IFN-γ産生は,フコ イダンにより58.9%,レイシにより9.2%にまで強く抑制された(図3.f)。
フコイダンは, ConA 刺激による IL-2 産生を強く増強するが,IFN-γ産生には抑制を示 すなど,Th1 細胞由来サイトカインの中でもサイトカインの種類によって作用が異なるこ とがわかった。
Th2 細胞由来サイトカイン 〈IL-4〉
96時間培養上清では,ConA 刺激においてのみ IL-4 産生が認められ,control,フコイダ 図3 フコイダンおよびレイシ抽出液の Th 細胞由来サイトカイン産生(96時間培 養)に及ぼす影響 各実験結果は,平均値±標準偏差値で示した。有意差検定は,control に対す る食品成分存在下のサイトカイン産生量について,対応のある t 検定を行い, 有意水準を *:p<0.05 または⁑:p<0.01で示した。
図
3 フコイダンおよびレイシ抽出液のTh細胞由来サイトカイン産生(96時間培養)に及ぼす影響
e
f
g
h
* * * * * * * * * * * * * *図
3 フコイダンおよびレイシ抽出液のTh細胞由来サイトカイン産生(96時間培養)に及ぼす影響
e
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g
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* * * * * * * * * * * * * *ン,レイシ存在下で,それぞれ50.73±0.30,88.64±3.18,10.47±0.97pg/mL であった。フコ イダンは,ConA 刺激による IL-4 産生を約1.7倍に増強したが,レイシは約20.6%の強い阻 害を示した(図3.g)。
Th17 細胞由来サイトカイン 〈IL-17〉
96時間培養上清の ConA 刺激時の IL-17 産生は,control,フコイダン,レイシ存在下で, それぞれ検出限界 (15.63 pg/mL)以下,118.52±31.64 pg/mL, 検出限界(15.63 pg/mL)以 下であり,フコイダン存在下でのみ強い IL-17 産生誘導活性が認められた (図3.h)。 3)Treg 細胞由来サイトカイン産生に及ぼす影響 〈IL-10〉 抑制性サイトカインの IL-10 は,単球/マクロファージおよび Treg 細胞から産生される ことが知られている。本研究では,LPS 刺激により24時間後に産生される IL-10 は単球/ マクロファージ由来,ConA 刺激により96時間後に産生される IL-10 は Treg 細胞由来と考 えられる。24時間,96時間後の培養上清では,無刺激の control,フコイダン,レイシ存在 下いずれも IL-10 産生は認められなかった(図4.i)。LPS 刺激時,24時間培養上清中の control,フコイダン,レイシ存在下の IL-10産生は,それぞれ3,114.47±283.73,34.20±3.09, 3,162.91±136.95 pg/mL であり,フコイダンは,LPS 刺激による IL-10 産生を著しく強く抑 制したが,レイシにはそのような抑制活性は認められなかった。これに対して,ConA 刺激 時,control,フコイダン,レイシ存在下の96時間培養上清中の IL-10は,それぞれ266.89± 2.50,14.10±1.49,34.20±2.06 pg/mL であり,フコイダンおよびレイシはともに,ConA 刺 激による IL-10産生をそれぞれ5.3%,12.8% と強く阻害した(図4.i)。 LPS および ConA 刺激による IL-10産生は,フコイダン存在下で強く阻害された。一方, レイシ存在下では ConA 刺激による IL-10産生は強く抑制されたが,LPS 刺激による IL-10 産生の抑制はほとんどみられなかった。このことから,フコイダンは,単球/マクロファー ジおよび Treg 細胞由来,両方の IL-10産生を抑制するが,レイシは Treg 細胞のみに対し て IL-10産生抑制活性を示すと考えられた。 〈TGF-β〉 96時間培養上清において,ConA 刺激では,101.14±3.68 pg/mL の TGF-β産生がみられ たが,フコイダン存在下では検出限界(62.50 pg/mL)以下まで強く阻害された(図4.j)。 このことから,フコイダンは,ConA 刺激による TGF-β産生を検出限界以下まで強く阻害 することがわかった。
(3) フコイダンの細胞形態および細胞増殖に及ぼす影響 PBMC をフコイダン0,1,10,100μg/mL 存在下,無刺激,LPS(10μg/mL),T 細胞幼 若化因子 PHA(10μg/mL),ConA(10μg/mL)刺激後,24時間後の細胞凝集の状態を顕 鏡下(400倍)で観察した。結果を図₅に示す。無刺激時,96時間フコイダン0,1,10,100 μg/mL 存在下の PBMC の細胞凝集は,それぞれ-,±,±,-で,フコイダン1,10μg/ mL で僅かに凝集が見られたが,100μg/mL フコイダンでは凝集はみられなかった(図₅, 上段)。LPS 10 μg/mL 刺激では,フコイダンの各濃度における細胞凝集は,それぞれ+, ±,±,-で,LPS 刺激による細胞凝集をフコイダンは1,10,100μg/mL で濃度依存的に 抑制した(図₅,中上段)。PHA 10μg/mL 刺激では,フコイダンの各濃度における細胞凝 集は,それぞれ+,+,+,+で,PHA による細胞凝集は各濃度のフコイダンで抑制され なかった(図₅,中下段)。ConA 10μg/mL 刺激では,フコイダンの各濃度における細胞凝 集は,それぞれ±,+,+,⧺で,ConA 刺激による細胞凝集は,フコイダン1,10,100μ g/mL で濃度依存的に増強された(図₅,下段)。これらの結果から,フコイダンは無刺激 ではやや凝集促進活性を示し,ConA 刺激では濃度依存的に強く凝集促進する一方,PHA 刺激による細胞凝集には影響を与えず,また LPS 刺激による細胞凝集を濃度依存的に強く 抑制するなど , 刺激によって細胞凝集活性に対する影響が異なることがわかった。またフコ イダン1,10,100μg/mL 存在下の PBMC の細胞増殖に及ぼす影響では,無刺激時,フコイ ダンは高濃度(100μg/mL)で細胞増殖誘導活性がみられたが,LPS 刺激では,増殖誘導活 性はみられなかった。これに対し,PHA および ConA 刺激では,フコイダン 1~100μg/ 図4 フコイダンおよびレイシ抽出液の単球由来サイトカイン産生(24時間)培養 および Treg 細胞サイトカイン産生(96時間培養)に及ぼす影響 各実験結果は,平均値±標準偏差値で示した。有意差検定は,control に対す る食品成分存在下のサイトカイン産生量について,対応のある t 検定を行い, 有意水準を *:p<0.05 または⁑:p<0.01で示した。
図
4 フコイダンおよびレイシ抽出液の単球由来サイトカイン産生(24時間)培養
および
Treg細胞サイトカイン産生(96時間培養)に及ぼす影響
i
j
* * ** * *,
mL で濃度依存的な増殖誘導活性がみられた(図₆)。この顕著な増殖誘導活性は,PHA や ConA のような T 細胞幼若化因子の刺激による IL-2 産生をフコイダンが増強したためであ ると推定される(図3.e)。 以上のことから,ヒト PBMC では,U937細胞同様,広く普遍的に発現しているガレクチ ン-1,-3 の発現に対して,フコイダンおよびレイシ抽出液は影響を及ぼさなかったが,LPS 刺激時,ガレクチン-9 の発現に対して,フコイダンは明らかな発現抑制活性を示した。ガ レクチン-9 のリガンドの1つである Tim-3 は,Th1 細胞や Th17 細胞に発現しており,マ ウスによる実験で Th17 細胞上の Tim-3 はガレクチン-9 と共に Th17 細胞の発現と分化を 抑制し,Treg 細胞の誘導を促進することが報告されている13),14)。我々の研究結果からフコ イダンについて種々のサイトカイン産生に及ぼす影響とガレクチン-9 分子の発現結果を総 合的に判断すると,促進性サイトカイン産生とガレクチン-9 発現は逆相関にあり,またフ コイダンによる抑制性サイトカインの産生の抑制とガレクチン-9 発現の抑制は相関してい た。このことから,フコイダンは,抑制的調節機構を担うガレクチン-9 の発現をさらに低 下させることにより,細胞を強く活性化の方向へ誘導しているのではないかと推定された。 フコイダンの受容体として,これまでスカベンジャーレセプター15),セレクチン16,17),エラ 図5 細胞凝集に及ぼすフコイダンの影響
図
5 細胞凝集に及ぼすフコイダンの影響
スチンペプチド受容体18) などが報告されている。フコイダンは,ヒト PBMC に対しても, このような受容体を介してガレクチン-9 の発現低下や各種サイトカイン産生の調節作用を 誘導しているのではないかと考えられる。 炎症性サイトカインである TNF-α,IL-1β産生は,LPS 刺激時,フコイダンによる増強 活性はみられなかった。しかし,IL-6 産生は,U937細胞と同様,強く増強された。特に IL -6,IL-12 は無刺激でも,フコイダン単独で産生誘導され,LPS 刺激時では,約2~3倍と 強く増強されことから,フコイダンは細胞性免疫を強く増強する活性を有することがわかっ た。また Th1 細胞由来の IL-2,Th2 細胞由来の IL-4 は,96時間の ConA 刺激において, フコイダン存在下で約2倍に増強された。また IFN-γでは,そのような増強活性は認めら れなかった。Th17 細胞由来の IL-17 は,ConA 単独刺激では検出できなかったが,フコイ ダンと ConA 共存下でのみ明らかな IL-17 の産生誘導が認められた。このように,フコイ ダンは,Th1,Th2 および Th17 細胞を活性化することにより,早期免疫反応から細胞性免 疫,体液性免疫まで,免疫反応全般に亘り強い増強活性を示すことが示唆された。 一方,抑制性サイトカインについては,LPS 刺激による単球由来 IL-10 産生は,フコイ ダンで著しく強く阻害されたが,レイシ抽出液ではそのような抑制活性は認められなかった。 しかし ConA 刺激による Treg 細胞由来 IL-10 産生はフコイダン及びレイシ抽出液で,共に 強く阻害された。この刺激の違いによる差は,それぞれの産生細胞である単球または Treg 細胞のこれら食品成分に対する受容体や感受性が異なるためではないかと思われる。 本研究から,フコイダンは,ヒト PBMC に対して,炎症性サイトカイン産生を増強する と同時に,抑制性サイトカイン産生を強く抑制することで,効果的に免疫賦活作用を示すこ 図6 細胞増殖に及ぼすフコイダンの影響
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6 細胞増殖に及ぼすフコイダンの影響
μg/mLとがわかった。また,この過程に抑制サイトカインを誘導するガレクチン-9 の発現低下が 関与している可能性が示唆された。我々は,これまで自己免疫疾患におけるガレクチン-9 の役割に関する研究において,ヒト自己免疫性慢性炎症組織にガレクチン-9 の強い発現誘 導があること,ガレクチン-9 改変体が関節リウマチ患者由来滑膜細胞に強いアポトーシス を誘導しすること19) ,ガレクチン-9 がマウス自己免疫モデルや急性炎症モデル実験,免疫 複合体誘導関節炎において免疫炎症抑制物質として作用すること13,20)を報告している。また ガレクチン-9 投与により,免疫複合体刺激によるマウス腹腔マクロファージの TNF-α, IL-1βの産生低下と IL-10 の産生増強が認められること,これにはガレクチン-9 による Fc γRⅡb の発現増加と FcγRⅢの発現低下など Fcγレセプターの発現調節が関与しているこ と20)を報告した。本研究のヒト PBMC におけるフコイダンによるサイトカイン産生調節作 用にもガレクチン-9 及び Fcγレセプターの発現調節が関与している可能性が考えられる。 今後,ガレクチン-9 発現と炎症性 / 抑制性サイトカイン産生,Fcγレセプターの発現の相関 について詳細に調べ,食品機能性成分の免疫調節作用機序におけるガレクチン-9 の役割を 明らかにする必要がある。
総括
本研究では,免疫賦活作用,抗腫瘍作用,抗酸化作用などの機能性を有する食品成分であ るフコイダンおよびレイシ抽出液について,ヒト PBMC におけるガレクチン-1, -3, -9 の発 現と免疫系の調節を担っている各種サイトカイン産生に及ぼす影響について調べ,U937細 胞への影響との比較を行った。 結果,U937細胞とは異なり,炎症性サイトカインである TNF-α,IL-1β産生は,LPS 刺激時,フコイダンによる増強活性はみられなかった。しかし,IL-6 産生は,U937細胞と 同様,強く増強されることがわかった。特に IL-6,IL-12 は無刺激でも,フコイダン単独 で産生誘導され,LPS 刺激時では,約2~3倍と強く増強された。ConA 刺激において,フ コイダンは,Th1 細胞由来の IL-2 産生を約2倍に増強したが,IFN-γ産生に対しては抑 制活性を示した。また Th2 細胞由来の IL-4 産生は, 96時間の ConA 刺激において,フコイ ダン存在下で約2倍に増強された。また IFN-γでは,そのような増強活性は認められな かった。Th17 細胞由来の IL-17 は,ConA 単独刺激では検出できなかったが,フコイダン と ConA 共存下でのみ明らかな IL-17 の産生誘導が認められた。 一方,抑制性サイトカインについては,LPS 刺激による単球由来 IL-10 産生は,フコイ ダンで著しく強く阻害されたが,レイシ抽出液ではそのような抑制活性は認められなかった。 しかし ConA 刺激による抑制性 T 細胞由来 IL-10 産生は,フコイダン及びレイシ抽出液で 共に強く阻害された。この刺激の違いによる違いは,それぞれの産生細胞である単球または Treg 細胞の食品成分に対する受容体や感受性が異なるためと考えられる。また TGF-βは,ConA 刺激96時間培養で産生誘導されたが,これはフコイダンにより強く抑制された。 以上の結果から,ヒト PBMC に対してフコイダンは,炎症性サイトカイン産生,Th1, Th2,Th17 細胞由来サイトカイン産生を増強すると同時に,抑制性サイトカイン産生を抑 制することで,効果的に免疫を活性化していることがわかった。また,この過程に抑制サイ トカインを誘導するガレクチン-9 の発現低下が関与している可能性が示唆された。
謝辞
本研究に貴重なご助言を頂いた元香川大学医学部教授 平島光臣先生に厚く御礼申し上げ ます。また本研究に携わって頂いた尚絅大学生活科学部 酒井一樹先生及び坂田研究室の学 生の皆さんに感謝の意を表します。 本研究の一部は,文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(C)(一般)(課題番号 22500795,平成22-24年度)により実施した。参考文献
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