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勤労者における身体活動と抑うつ症状との関連性に関する研究 [ PDF

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背景 日本の内閣府自殺対策推進室の調査によると,2014 年の自殺者数は25,427 人であるが,うち,有職者は 9,485 人,そのうち,うつ病による自殺者数は1,656 人(17.5%) であることが報告された.特に男性有職者における自殺 率は高く,1,656 人の有職自殺者のうち男性は 1,206 人 であり,有職者の72.8%を占めており,特に勤労者にお いて,うつ病の対策は急務である.うつ病は糖尿病,肥 満,高血圧,脳卒中のリスクを高めることが報告されて いる.さらに,うつ病は経済にも大きく影響を及ぼす. 2010 年の厚生労働省の報告によれば,うつ病や自殺に限 定した日本の経済損失額が,2009 年単年度で約 2.7 兆円 に達している. 抑うつ症状とは,抑うつ気分と興味・喜びの喪失に加 え,体重・食欲の著しい変化,睡眠,精神運動性の障害, 易疲労性,罪責感,集中困難,自殺念慮や自殺企図とい った複数の心身の症状が併存した状態と定義される.先 行研究では,仕事ができないほど重度のうつ病にかかっ ている社員よりも,出社はできるものの抑うつ症状を有 する社員の方が生産性低下に大きな影響を与えていると 述べた.以上のことから,日本の勤労者における抑うつ 症状の予防は重要な公衆衛生学的課題であると考えられ る. 身体活動は2 型糖尿病や心血管疾病の発生率,がんの 発生率を減少させると報告された.さらに客観的に評価 した座位時間は心疾患・代謝関連因子,腹部肥満,総死 亡と有意な正の関連があることが報告され,近年では抑 うつ症状の予防・改善策として,身体活動と座位時間が 注目されている. 日本人の勤労者を対象とした縦断研究によると,余暇 時の運動量と抑うつ症状の関連は U 型関係であること を報告した.アメリカの市民を対象に行った横断調査の 結果,客観的評価による中高強度身体活動(Moderate to vigorous physical activity; MVPA)を行う時間が最も長 い群において,抑うつ症状の発生リスクは有意に低いこ とが報告された.成人における身体活動と抑うつ症状の 関連性についは様々な測定方法を用いて,世界各国で報 告されているが,対象者の異なる文化,生活背景および 身体活動を測定する異なる測定方法が存在することから, 一致した見解は得られていない. アメリカ住民を対象とした横断研究では,余暇時のテ レビ視聴に伴う座位時間が長い群の方が抑うつ症状の発 生リスクが高いことが報告している.日本人成人を対象 とした研究では,3 軸加速度計を用いて評価された座位 時間と抑うつ症状との間には有意な関連が認められなか った.これまで座位時間の測定はテレビ視聴や余暇時の パソコンの操作時間が中心であった.勤労者を対象とす るにあたり,長時間の座位による業務に就いている場合 もあることから,仕事中の座位時間を考慮することが重 要であると考えられる.さらに,日本国内外において, 勤労者を対象として座位時間の内容と抑うつ症状との関 連を検討した研究は極めて少ない. 加速度計を用いた場合と,質問紙を用いた場合では, 強みと限界に以下に示すような違いが挙げられる.3 軸 加速度計を用いて評価した客観的な測定方法は,行動を 正確に評価することはできるが,行動の内容(例えば仕事 場における身体活動あるいは余暇時の身体活動)につい て分からない.質問紙を用いて評価した主観的な測定方 法は行動の内容(例えば仕事場あるいは余暇時の行動)に ついて明確にすることはできるが,思い出しのバイアス がかかるなど,異なる測定方法にはそれぞれの限界があ る.客観的及び主観的方法の両方を用いて,勤労者にお けるMVPA,座位行動と抑うつ症状との関連性を検討す ることは,主観的評価による思い出しのバイアスや客観 的評価による行動の内容の不明などの短所を克服するこ とができると考えられる.しかしながら,勤労者を対象 としたそのような研究はまだ行われてない.また,身体 活動と抑うつ症状との関連性には性差が含まれている点 や,日本人の勤労者のうち,多くの割合を示している男 性勤労者を対象として,客観的に評価した総MVPA,座 位行動と主観的に評価した仕事中や余暇時のMVPA,座 位行動を併用し,それらと抑うつ症状との関連を検討す ることは,男性勤労者の抑うつ症状の予防・改善に貢献 できる,重要な研究課題である. 目的

勤労者における身体活動と抑うつ症状との関連性に関する研究

キーワード:日本人男性,中高強度の身体活動,座位行動,客観的な測定方法,主観的な測定方法, 行動システム専攻 全 福花

(2)

本研究では,男性勤労者を対象として,客観的に評価 したMVPA,座位行動に加え,主観的に評価した仕事中 と余暇時のMVPA・座位行動と抑うつ症状との関連を明 らかにすることを目的とする. 方法 (1) 研究デザイン 本研究は,CRC グループ(福岡県)と両備グループ (岡山県)の前向きコホート研究から,2009 年のベース ライン調査のデータをもとに行われた横断研究である. 調査は各グループ会社が毎年行う健康診断の時期に合せ て実施した.なお,質問紙および活動量計による身体活 動量測定は,健康診断後に自主的な行動変容が起きる可 能性が想定し,健康診断の2 週間前までに全対象者に郵 送し,健康診断当日に回収した. (2) 対象者 本研究の調査対象者は1,519 名(CRC グループ研究の 対象者 395 名,両備グループ研究の対象者 1,124 名)で あった.そのうち会社が実施した定期診断を受診し,本 調査に同意する者は 1,351 名(同意率 88.9%)であった. うち,性別の欠損45 名,女性 289 名,抑うつ症状(CES-D) 欠損10 名,加速度計身体活動データ欠損 65 名,質問紙 による身体活動データ欠損337 名,各調整変数の欠損 25 名を除き,最終的に577 名を解析対象とした. (3) 測定項目 ① 抑うつ症状 抑うつ症状は,抑うつ状態自己評価尺度(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale,CES-D)日本 語版(島他 1985)を用いて評価した.CES-D は疫学調査 で抑うつ症状を評価する際に用いられる代表的な尺度の 1 つであり,これまでにその信頼性および妥当性が示さ れている(島他 1985,Radloff 1977, Roberts et al. 1990). 項目の合計点(0~60 点)を算出し,CES-D の得点が 16 点以上の者を抑うつ症状があると判断し,16 点未満(島 1985)の者を正常とした.

② 身体活動量の測定については,3 軸加速度計(Active style Pro HJA-350IT,オムロンヘルスケア株式会社)を 用いて,10 日間連続装着を対象者に依頼した.本研究で は,加速度計を腰部に装着し,睡眠時,水中活動時を除 いて起床時から就寝時まで装着するように指示した.デ ータ記録間隔は60 秒とし,検出閾値以下の活動強度で 0 カウントとみなされる時間が 60 分以上継続した時間は 未装着時間とした.1 日あたりの装着時間が 600 分以上 かつ4 日以上のデータを採用した (Healy et al. 2011). 得られたデータから,1.5 メッツ以下を客観的な座位行

動(Sedentary behavior, SED),3 メッツ以上を客観的な MVPA と定義し,1 日あたりの客観的な SED は時/日, 客観的なMVPA は分/日で算出した.

③ 自己申告による仕事中および余暇時の座位行動,身 体活動時間は身体活動量質問紙(Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study Physical Activity Questionnaire: JALSPAQ)を用いた.本質問紙は仕事,歩行運動,家事, 睡眠時間,余暇時身体活動を含む 14 問から構成されて いる.仕事中のSED は 1 週間に働く合計時間のうちほ とんど座っている時間を算出した.余暇時の SED は 1 日にテレビ視聴,新聞や読書,音楽鑑賞,将棋や囲碁, パソコン操作などに使う時間について回答してもらった. 仕事中の MVPA は仕事中に立っている時間,歩いてい る時間,10kg 以上の荷物を持ち上げたり,運んだり,同 じ程度の強さの力仕事をする時間の合計として算出した. 余暇時のMVPA は月 1 日以上かつ月合計 60 分以上の頻 度の運動の内容,頻度,強度と運動以外の余暇活動の内 容,頻度についての回答を求め,その中から3 メッツ以 上の身体活動を行った時間を算出した. ④ 人口統計的および経済的因子 性別,年齢に関しては調査時に各社から提供を受けた. 最終学歴に関しては質問紙により調査時の状況について 回答を求めた.6 つの選択肢(中学校卒,高等学校卒,専 門学校卒,短期大学卒,4 年生大学以上(大学院)卒,およ びその他)から評価した.同一生計の世帯人数は自分を含 めた人数で,世帯収入は同世帯内の合計収入について 8 つの選択肢(200 万円毎に,200 万円未満~1400 万円以 上)から評価した.身長,体重は健康診断の際に保健師 が検査を行った. ⑤ 健康関連因子 喫煙状況は現在の喫煙の有無について評価した.血圧, 血糖は健康診断の際に保健師が検査を行った.Body mass index (BMI) は体重(kg)を身長(cm)の 2 乗で除し て求め,肥満はBMI が 25 以上を,高血圧は収縮期血圧 が130mmHg 以上あるいは拡張期 85mmHg 以上,ある いは高血圧薬の服用がある場合として,高血糖は血糖値 が 110mg/dL,あるいは糖尿病薬服用がある場合として 分類した. (4) 統計解析 全ての統計解析はSAS ver.9.3 を用いた.最初に対象 者の抑うつ症状による特性を示すために,抑うつ症状保 有群と非保有群に分け,連続変数は平均値±標準偏差, カテゴリ変数は割合で示した.客観的に評価したMVPA と抑うつ症状との関連を検討するために客観的に評価し たMVPA を 3 分位し,ロジスティック回帰分析を行っ

(3)

た.モデル 1 は年齢を調整し,モデル 2 はモデル 1 に加 え喫煙,教育歴,同一世帯人数,世帯合計所得,客観的 な座位時間,3 軸加速計装着時間を調整し,モデル 3 は モデル2 に加え肥満,高血圧,高血糖を調整した.同様 に,仕事中・余暇時のMVPA に関してもそれぞれ 3 分 位し,各モデルと抑うつ症状との関連についてロジステ ィック回帰分析を行った.モデル1 は年齢を調整し,モ デル2 はモデル 1 に加え喫煙,教育歴,同一世帯人数, 世帯合計所得を調整し,モデル3 はモデル 2 に加え肥満, 高血圧,高血糖を調整した. 客観的な座位時間と抑うつ症状との関連を検討する ために客観的な座位時間を3 分位し,ロジスティック回 帰分析を行った.モデル1 は年齢,モデル 2 はモデル 1 に加え喫煙,教育歴,同一世帯人数,世帯合計所得,客 観的に評価したMVPA,3 軸加速計装着時間,モデル 3 はモデル2 に加え肥満,高血圧,高血糖を調整した.さ らに,仕事中・余暇時の座位時間をそれぞれ 3 分位し, 各モデルと抑うつ症状との関連についてロジスティック 回帰分析を行った.モデル1 は年齢を調整し,モデル 2 はモデル1 に加え喫煙,教育歴,同一世帯人数,世帯合 計所得を調整し,モデル3 はモデル 2 に加え肥満,高血 圧,高血糖を調整した. 結果 本研究の分析対象者は577 名であり,平均年齢は 43.8 ± 8.5 歳であった,BMI の平均値は 23.4 ± 3.2,抑うつ症 状の得点平均値は9.7 ± 6.6 で,全体の 17.3%が抑うつ症 状を保有していた. 抑うつ症状非保有群と比較して,保有群がより有意に 若く,教育歴,世帯収入が低かった.また同一世帯人数, 職種,雇用形態,配偶者の有無,喫煙の有無にも有意な 差が認められた. ロジスティック回帰分析を用いて,各MVPA と抑うつ 症状との関連について検討した.その結果をtable 1 に 示している.客観的に評価した MVPA については,す べての調整因子および客観的な評価による SED を調整 した後,両者には有意な関連は認められなかった(モデル 3).仕事中および余暇時の中高強度身体活動時間につい ても,すべての予測される交絡因子を調整した結果,抑 うつ症状と有意な関連は認められなかった(モデル 3). 各SED と抑うつ症状との関連について検討した結果を table 2 に示している.客観的に評価した SED について は,すべての調整因子および客観的な評価によるMVPA を調整後も,客観的な座位時間が最も長い群は,低い群 と比較して,2.5 倍の抑うつ症状リスクを保有する.

MODEL 1 MODEL 2 MODEL 3

OR 95%CI OR 95%CI OR 95%CI Objectively-measured MVPA time T1(ref) 1 1 1 T2 0.59 0.35 - 0.996 0.63 0.36 - 1.08 0.63 0.37 - 1.09 T3 0.52 0.30 - 0.89* 0.66 0.35 - 1.25 0.67 0.35 - 1.27 Self-reported MVPA time at occupation T1(ref) 1 1 1 T2 0.81 0.45 - 1.49 0.75 0.40 - 1.38 0.74 0.40 - 1.38 T3 0.96 0.54 - 1.72 0.73 0.40 - 1.33 0.72 0.39 - 1.32 Self-reported MVPA

time at leisure time

T1(ref) 1 1 1

T2 0.91 0.54 - 1.56 0.98 0.57 - 1.68 1.0 0.57 - 1.69 T3 0.71 0.41 - 1.23 0.81 0.46 - 1.42 0.81 0.46 - 1.41

*P < 0.05

age. Model 2 was adjusted for the same variables in Model 1 plus current smoking, education, live alone, household

Table 1.Logistic regression analysis for objectively-measured and self-reported MVPA time with depressive symptoms

Note: ST: Sedentary time; MVPA: moderate to vigorous physical activity OR: odds ratio; CI: condidence interval

Indicate the relationship between objectively-measured MVPA time and depressive symptoms, Model 1 was adjusted for income, objectively-measured ST, accelerometer wear-time. Model 3 was adjusted for the same variables in Model 2 plus obesity, hypertension, hyperglycemia.

Indicate the relationship between self-reported MVPA at occupation, leisure time and depressive symptoms, Model 1 was adjusted for age. Model 2 was adjusted for the same variables in Model 1 plus current smoking, education, live alone, household income. Model 3 was adjusted for the same variables in Model 2 plus obesity, hypertension, hyperglycemia.

MODEL 1 MODEL 2 MODEL 3

OR 95%CI OR 95%CI OR 95%CI Objectively-measured ST T1(ref) 1 1 1 T2 0.98 0.56 - 1.74 1.29 0.69 - 2.40 1.26 0.67 - 2.35 T3 1.48 0.87 - 2.51 2.56 1.22 - 5.35* 2.51 1.20 - 5.27* Self-reported ST at occupation T1(ref) 1 1 1 T2 0.70 0.40 - 1.23 0.93 0.52 - 1.66 0.93 0.52 - 1.67 T3 1.35 0.80 - 2.28 1.81 1.04 - 3.16* 1.84 1.05 - 3.21* Self-reported ST at leisure time T1(ref) 1 1 1 T2 0.93 0.48 - 1.80 0.93 0.47 - 1.81 0.92 0.47 - 1.82 T3 1.14 0.66 - 1.97 1.04 0.59 - 1.83 1.03 0.59 - 1.82 *P value < 0.05

Table 2.Logistic regression analysis for objectively-measured and self-reported ST time with depressive symptoms

Note: ST: Sedentary time; MVPA: moderate to vigorous physical activity

household income. Model 3 was adjusted for the same variables in Model 2 plus obesity, hypertension, hyperglycemia. OR: odds ratio; CI: condidence interval

Indicate the relationship between objectively-measured ST time and depressive symptoms, Model 1 was adjusted for age. Model 2 was adjusted for the same variables in Model 1 plus current smoking, education, live alone, household income, plus obesity, hypertension, hyperglycemia.

Indicate the relationship between self-reported ST at occupation, leisure time and depressive symptoms, Model 1 was objectively-measured MVPA time, accelerometer wear-time. Model 3 was adjusted for the same variables in Model 2

adjusted for age. Model 2 was adjusted for the same variables in Model 1 plus current smoking, education, live alone,

(Odds ratio: OR, 2.51, 95% Confidence Interval: CI, 1.20 - 5.27, P < 0.05)(モデル 3).場面別の座位時間につ いては,仕事中の座位時間が最も長い群は,最も低い群 と比較し,約 1.8 倍抑うつ症状を示す割合が高かった (OR: 1.84, 95%CI: 1.05 - 3.21, P < 0.05).しかしながら, 余暇時の座位時間と抑うつ症状には有意な関連は認めら れなかった.(モデル 3). 考察 本研究の目的は男性勤労者を対象として,客観的に評 価した MVPA・SED と主観的に評価した仕事中と余暇 時の MVPA・SED と抑うつ症状との関連を明らかにす ることであった.本研究の主な結果としては男性勤労者

(4)

において,客観的に評価した MVPA および主観的評価 による仕事中・余暇時の MVPA はいずれも有意な関連 が見られなかった.しかしながら,客観的に評価した座 位時間および主観的に評価した仕事中の SED が長い群 では抑うつ症状を保有している者が多かった.また,主 観的に評価した余暇時のテレビ視聴やパソコンスマート フォンの利用および音楽鑑賞,将棋などによる SED は 抑うつ症状と有意な関連を示さなかった. 日本の成人を対象とした研究では,客観的に測定した MVPA は抑うつ症状と負の関係があることが示された. しかしながら,本研究ではすべての調整因子を調整した 後,客観的に評価した MVPA と抑うつ症状とは有意な 関連が認めなかった.本研究は先行研究と異なる結果が 得られた.その原因に関しては,まだ詳細に分からない が,異なる対象者や異なる職種によって受ける仕事のス トレスレベルが異なることなどが原因であろうと考えら れる.また,主観的に評価した MVPA と抑うつ症状と の関連性に関する先行研究では,アメリカ男性における 仕事中および余暇時の MVPA とうつ病は有意な関連性 が認められなかったが,オーストラリアの成人女性を対 象とした研究によると,余暇時にMVPA を 210 分/週以 上行う群はそうではない群より抑うつ症状のリスクを低 下させることが報告された.しかしながら,本研究にお いては主観的な評価による仕事中・余暇時の MVPA と 抑うつ症状とは有意な関連が認められなかった.本研究 の対象者の余暇時の MVPA の平均時間 (10.04±15.67 分/日) が短いことが有意な関連性が認められなかった 原因だと考えられる. SED と抑うつ症状との関連についての先行研究を要 約すると,日本人成人を対象とした研究では客観的に評 価した SED と抑うつ症状の関連が認められなかった. 本研究では客観的に評価した SED が最も低い群と比較 して,最も長い群での抑うつ症状の発生リスクは約 2.5 倍高かった.我々が知る限り,本研究の結果は男性勤労 者を対象として,客観的および主観的に評価した SED と抑うつ症状との関連性を検討した初めての研究である. また,仕事中と余暇時の SED からみると,主観的に評 価した仕事中の SED が短い群と比較して,最も長い群 での抑うつ症状の発生リスクは約1.8 倍高かった.この 結果は,主観的に測定された仕事中の SED が抑うつ症 状のリスクを高めるという先行研究と同様な結果を得ら れ,仕事中の SED が抑うつ症状に対する悪影響を明ら かにすることができた.仕事中の SED と抑うつ症状と の関連に関しては,「職業性ストレスの反応」が大きく 影響すると考えられる.そこで,我々は「職業性ストレ スの反応」と仕事中の座位時間の関連について分析を行 った.結果,仕事中のSED が低い群と比較し,SED が 長い群の方が職業性ストレスが高いことが判明された. つまり,仕事中の SED が長くなるほど,仕事によるス トレスが高くなり,最終的に抑うつ症状を起こすと考え られる.職業性ストレスなど心理的ストレスが感知され ると,視床下部-下垂体-副腎系が 活性化し,副腎皮質 からコルチゾールが分泌される.また,余暇時の SED と抑うつ症状との関連については,本研究では主観的に 評価した余暇時の SED と抑うつ症状の関連は認められ なかった.日本人成人を対象とした研究では,テレビ視 聴に伴う SED と抑うつ症状は有意な関連が認められな かったが,パソコンやスマートフォンの利用に伴うSED は抑うつ症状と有意な正の関係があると報告された.そ の原因としてはテレビ視聴やパソコンの利用によって, 自分を他人との社会交流がなくなることが原因だと考え られる.しかしながら,パソコンを利用してチャットをす るなど,交流を行う場合はパソコン利用による SED と 抑うつ症状は負の関係があることが報告された.本研究 で測定した余暇時の SED にはテレビ視聴,パソコン操 作,音楽鑑賞,将棋や囲碁など個人の趣味や他人と一緒 にする将棋や囲碁を含まれていていることなどの理由か ら両者の関連性が検出しにくくなることが推察される. 本研究の限界点として,得られた成績は横断的調査で あるため,因果関係について言及することができない. また,本研究の対象者は2 つの会社で実施しされている ため,研究で得られた結果を一般化することが困難であ る.今後の課題として,縦断研究を行うことによって, 客観的に評価したMVPA・SED,仕事中および余暇時の MVPA・SED と抑うつ症状との因果関係を明らかにする ことと,対象者の選択バイアスが結果に対する影響を考 え,対象者選択をランダム化し,勤労者における両者の 関連を深く調べる必要があると考えられる. 主要引用文献 島悟他, (1985),精神医学, 27,717-723.

Radloff, L. S., (1977), Appl. Psychol. Meas, 1, 385-401. Roberts, R. E., et al. (1990), J. Consult. Clin. Psychol, 2,

122-128.

参照

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