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諫早湾調整池における有毒アオコ(Microcystis aeruginosa)の発生に関わる環境要因およびアオコ毒(ミクロシスチン)の環境動態

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Academic year: 2021

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(1)論 文 要 旨 論文題目 諫 早 湾 調 整 池 に お け る 有 毒 ア オ コ (Microcystis aeruginosa) の 発 生 に 関わる環境要因およびアオコ毒ミクロシスチンの環境動態. 氏 名. 梅原 亮. はじめに 人間が利用可能な淡水は,地球上の総水量のわずか1%にも満たないが,このような淡水域 (例えばダムや調整池) では,近年,富栄養化に伴い,アオコの大発生が数多く報告されてきて いる.アオコの大発生は,底質への有機物負荷やその有機物分解に伴う貧酸素水の発生などの 問題だけではなく,Microcystis 属などの有毒なアオコが産生する毒素によって,貴重な水源を 汚染するという問題も抱えており,飲料水および生活用水としての淡水の利用を制限されるこ とがある. Microcystis 属などの有毒アオコは,ミクロシスチン類 (MCs) というきわめて高い毒性を有す る物質を産生する.このMCsは,物理化学的に非常に安定な物質であり,哺乳類の肝臓に対して きわめて高い毒性を示す.これまでに,MCsが水や食べ物に混入することによる事故が世界各地 から多数報告されてきており,WHOは,MCsの中でもっとも毒性が高いMC-LRについて,飲料 水基準 (1 µg L-1),および耐容一日摂取基準 (0.04 µg kg-1 day-1) を定めている. そうした経緯から,アオコが発生する水域においては,有毒アオコの発生を抑制することが 重要な課題であり,有毒アオコの発生を制御する環境要因および有毒アオコのブルーム維持機 構の解明が急がれる.また,下流域や沿岸域などの有毒アオコ発生水域の外における,MCsの拡 散および蓄積に関する報告は,極めて限られている現状にある. 沿岸域における人為的な環境の改変の一つとして,潮受け堤防によって湾を締切り,堤防の 内側に干拓地と調整池を造成する複式干拓事業が挙げられる.このいわゆる複式干拓により造. 1.

(2) 図 1 複式干拓によって造成された諌早湾調整池.. 成された調整池では,塩分低下に伴う海の二枚貝類,多毛類,甲殻類,魚類などが死滅し,富 栄養化の進行やそれに伴うアオコの大発生が懸念される.このような複式干拓事業は,日本に おいても過去に岡山県の児島湖や秋田県の八郎潟などで行われてきており,それらの水域では, 慢性的な富栄養化に伴い,毎年有毒アオコが発生している. 本研究の調査地である諫早湾は,九州の有明海奥部の西岸に位置しており,元来,約1,550 ha の広大な泥質干潟を有し,多様な生物が豊富に棲息する生物生産性に富んだ場所であった (図1). しかしながら,1960年代以降,九州農政局は営農のための農業用地の造成および台風や多降雨 による洪水の防止を目的として,国営諫早湾干潟干拓事業を進めてきた.諌早湾の奥部では, 約7kmの潮受け堤防が諫早湾を横断するように造成され,1997年4月,潮受け堤防に建設された 2ヶ所の排水門が閉め切られることで,広大な泥質干潟及びそのすぐ沖合は,約800 haの農地と 約2,600 haの汽水化した調整池となった.干拓事業により造成された調整池では,干潟の持つ水 質浄化作用の消失により水質が悪化し,2007年頃より,児島湖や八郎潟と同様に有毒アオコが 毎年大発生するようになった. また,この調整池では,堤防内側の湾岸および干拓地の洪水防止として,堤防外の諫早湾の 平均潮位を約1m下回るように水深が調節されているため,諫早湾に頻繁に排水を行わなければ ならない.そのため,年間約4億トンの調整池の水が諫早湾へ排出され,その排水とともに, 増殖したアオコも同湾に排出されていて,アオコ由来の物質の湾や沿岸の生態系への影響も懸. 2.

(3) 念される.日本では今なお,沿岸域の水生生物を水産資源として多く利用しているため,海域 の諫早湾へ流出したMCsが蓄積した生物を摂取することによる,人の健康へのリスクも懸念され る.しかしながら,有毒アオコが産生したMCsの系外 (諫早湾) における拡散および蓄積に関し ては,過去に研究例を見ない.. 本研究の目的 本研究では,諌早湾干拓地の調整池,隣接する諫早湾ならびのその外側の有明海奥部を研究 対象地とし,以下の4つを目的とした. 1) 諫早湾干拓地の調整池における長期的な水質モニタリングを通して,調整池の水質,増殖 する浮遊藻類の特徴,および有毒アオコの発生条件を明らかにし,有毒アオコの発生を制御す る環境要因について考察する. 2) 諫早湾干拓地調整池における長期的な水質モニタリング結果をもとに,有毒アオコがブル ームする夏季に,調整池に流入する一級河川の本明川および調整池において連続的な水質調査 を実施し,調査期間における本明川からの淡水流入に伴う栄養塩の供給量および底質からの有 機物の分解に伴う栄養塩の溶出量,調整池における Microcystis 属のアオコによる栄養塩消費量 を推定し,調整池の栄養塩収支と有毒アオコによる栄養塩消費と増殖の関係について考察する. 3) 調整池で有毒アオコによって生産されたMCsが排水とともに諫早湾へ排出され,その後の 諫早湾およびその外側の有明海奥部への輸送,拡散過程や,海底堆積物への蓄積の有無を明ら かにするために,有毒アオコを含む夏季の調整池の排水の諌早湾における動態を追跡する調査 を実施した.諫早湾における海水中のMCs濃度の水平断面および鉛直断面の時間変化,および海 底への堆積に関する調査結果を報告し,調整池からの排水に伴う諫早湾におけるMCsの移流およ び残留性について考察する. 4) MCsの諫早湾外への輸送が確認されたため,諫早湾およびさらに外側の有明海奥部海域に おいて実施した海底環境および底生生物に関する調査結果をもとに,堆積物表層のMCs含量の空 間分布および底生生物のMCs含量の季節変動を明らかにして,諫早湾から沿岸域へのMCsの広域 的な拡散過程と,堆積物および底生生物へのMCsの蓄積の関係について考察する.. 結果のまとめ 1) 5年間 (2008年. 2013年) の水質モニタリングにより,有毒アオコは,きわめて低い透明. 度 (ca. 0.24 m),低塩分 (0.09. 1.68),および豊富な栄養塩 (濃度の最高値,DIN:194 µM,DIP:. 7.17 µM) が流入する調整池において,水温が11 ℃以上に上昇する春季. 秋季に毎年ブルーミン. グを起こし,23 ℃以上の高水温時では,水中のMCs濃度が大きく上昇した (濃度の最高値 14 µg L-1).調整池において有毒アオコの増殖を制御する要因は,11 ℃以下の低水温および有毒アオコ の消費によるDINの枯渇であることが示された.. 3.

(4) 2) 水中で有毒アオコが利用する栄養塩の供給源を明らかにするために,調整池に流入する一 級河川の本明川および調整池において,夏季に3時間間隔で24時間の観測を行った.当日の栄 養塩収支の結果から,本明川からの流入量および底質からの溶出量が,調査開始時の調整池水 中の現存量および有毒アオコによる消費量に比べてきわめて少なかったことから,調査前の大 雨に伴う河川水の流入量の一時的な増加によってもたらされた栄養塩が,有毒アオコのブルー ミングを支えていることが明らかとなった.また,調整池において底質から溶出する栄養塩の 水中の一次生産に対する寄与が低かった理由として,水中での Microcystis による一次生産量が 多かったこと,および生物擾乱の影響が少ないことで底質から水中への栄養塩回帰量が少なか ったことが示された. 3) 有毒アオコ発生水域外へのMCsの流出を明らかにするために,調整池で有毒アオコが大発 生する夏季に,諫早湾への排水が実施される日に合わせて,諌早湾において調整池から排水の 動態を追跡する調査を1潮汐間実施した.諫早湾へ排出されたMCsは,諫早湾底に一部堆積し (堤防付近の堆積物表層 0. 1 cmのMCs含量が約5倍増加),残りはさらに外側の有明海奥部へ移. 流していたことが明らかとなった.調査期間に実施された排水よりも以前に排出されたであろ うMCsを含む水がパッチ状の水塊となり,調査期間中に潮汐により諫早湾を出入りしていたため, 沿岸海域に排出されたMCsは,少なくとも10日程度は大きな分解を受けずに広域に拡散している と考えられる. 4) 堆積物および底生生物へのMCsの蓄積を明らかにするために,調整池,諫早湾およびさら に外側の有明海奥部において多地点採泥調査を実施した.調整池,諫早湾および有明海奥部の すべての調査地点の堆積物表層から年間を通してMCsが検出された.諫早湾および有明海奥部に おいては,排水日により近いほど堆積物表層のMCs含量が増加する傾向があり,また,両海域に おいてMCs含量が同レベルであったことから,調整池からの排水は比較的短時間に有明海奥部ま で広域に拡散し,沈降堆積していると考えられる.また,海底へ堆積したMCsは,堆積物表層に 棲息する一次消費者のマクロベントスに取り込まれ,生体内に濃縮して蓄積しており,有意差 は認められなかったものの,肉食性および雑食性の二次消費者においてMCs含量が多い傾向にあ ったことから,食物連鎖を通したMCsの高次消費者への濃縮の可能性が示めされた. 諫早湾調整池において有毒アオコの発生を防ぐためには,水温の上昇および降雨に伴う流域 からの豊富な栄養塩の流入を抑制しなければならないが,これらを制御することは現実的に不 可能である.しかしながら,複式干拓により造成された調整池は,元来,河口域であったため, 排水門から池内に海水を再導入し,塩分を上昇させることで有毒アオコの発生を抑制すること が可能である.諫早湾では,複式干拓によって湾を堤防で締め切り,その内側に汽水域を造成 することで有毒アオコが発生し,生態系にMCsが拡散・蓄積しているため,MCsが蓄積した生物 の摂取による人の健康への被害が懸念される.. 4.

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