動性と周辺環境の観測的研究
著者 吉田 和輝
著者別表示 Yoshida Kazuki
雑誌名 博士論文本文Full
学位授与番号 13301甲第4930号
学位名 博士(理学)
学位授与年月日 2019‑03‑22
URL http://hdl.handle.net/2297/00054707
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
ガンマ線バーストにおける中心エンジンの時間的活動性と 周辺環境の観測的研究
(Observational study on temporal activity of central engine and circumburst medium in gamma-ray bursts)
金沢大学大学院自然科学研究科 数物科学専攻
学籍番号 氏名
主任指導教員 提出年月
1624012007
吉田 和輝
米徳 大輔
2019 年 1 月
ガンマ線バーストは(Gamma-Ray burst: GRB)は、明るいもので1054 ergものエネルギーをガンマ 線・X線放射として解放する宇宙最大の爆発現象である。激しい時間変動を伴い数ミリ秒から数百秒程度 輝くプロンプト放射と、それに続いて数時間から数日にかけて段々暗くなる残光が観測されている。プロ ンプト放射の継続時間が長いlong GRB (LGRB)の多くは赤方偏移z >1で発生しており、その明るさ を利用して、z >7の宇宙を探る光源として期待されている。また、継続時間が短いshort GRB (SGRB) は連星中性子星の合体が起源とされており、重力波天体の電磁波対応天体として非常に注目されている。
GRBはコンパクトネス問題から相対論的ジェットの存在が示唆されており、一般的には火の玉モデル が受け入れられている。しかし、放射のプロセスには未解明な点が残っている。プロンプト放射は、相対 論的ジェットの中で形成された衝撃波による加速を受けた電子のシンクロトロン放射を考えるモデルと、
光球面からの熱的放射を考える光球放射モデルが検討されている。近年、数値シミュレーションの発展に よって詳細なモデル計算が可能となり、光球放射モデルの詳細な計算が活発に行われている。そこからの 理論予想として、プロンプト放射のライトカーブの前半にはGRBの親星とそれを突き抜けるジェットの 相互作用の影響が、後半には中心エンジンの活動が現れるという研究結果が最近報告されている。
一方で、残光の観測事実を説明する理論モデルとしては外部衝撃波モデルが広く受け入れられている。
X線から可視・近赤外線帯域におけるスペクトルは、1つのべき関数、もしくは折れ曲がりのある2つの べき関数で再現される。実際の観測では視線上に存在する星間物質によるX線吸収と可視減光が起きる ため、スペクトル解析を行うことで、GRBの周辺もしくは母銀河のガスやダストの量を見積もることが できる。LGRBについてはよく調べられており、天の川銀河やマゼラン雲などのガス–ダスト比に比べ、
大きな比を示していることが分かっているが、その原因はまだ解明されていない。
本研究には2つの目的がある。1つは、GRBの観測データを用いて、プロンプト放射のライトカーブ の時間変動を調べ、理論的に予想された時間変動の兆候があるかどうかを観測的に検証する。さらに観測 事実と数値シミュレーションの結果を比較し、理論モデルに観測的な制限を加えることを目指す。そのた めのアプローチとして、GRBの静止系で議論を行うために、Swift衛星のBAT検出器に観測された赤方 偏移分かっている56個のGRBのデータを用いた。検出時刻を基準としてライトカーブを任意の時間で 区切り、パルス的な光子の増光の発生間隔の分布を調査した。その結果、有意な時間変化は無いことを示 した。また、パルス間隔は1秒程度の対数正規分布に従うことを示し、既存の理論モデルにおいてはその ような活動性を持つ中心エンジンが必要となること提示した。
2つ目の研究目的は、SGRBの残光のスペクトル解析によってガス–ダスト比を調査し、LGRBや典型 的な環境との比較検証を行うことで、GRBの周辺および母銀河の物質的特性の新しい知見を得ることで ある。そこで、可視・近赤外残光の観測が行われ、母銀河が同定されているSGRBとして、Swift衛星の XRT検出器のデータを用いて可視・近赤外線のデータと合わせて、残光のスペクトル解析を行った。そ の結果、SGRBの母銀河におけるガス–ダスト比は天の川銀河の典型的な値と近い値を示すことが分かっ た。この結果は、SGRBが天の川銀河の星間物質と似た性質を持つ物質環境下で発生していることを示 唆している。また、ガスの量が母銀河の星間物質で説明できるのであれば、その値は母銀河内における SGRBの空間分布の指標となり得ることを示した。
目次
概要 i
第1章 ガンマ線バースト 1
1.1 概要. . . 1
1.1.1 歴史的背景 . . . 1
1.1.2 ガンマ線バーストプロンプト放射 . . . 2
1.1.3 ガンマ線バースト残光 . . . 4
1.1.4 軟X線超過放射 . . . 6
1.1.5 マクロノバ/キロノバ . . . 7
1.1.6 ガンマ線バーストの母銀河. . . 8
1.1.7 ガンマ線バーストの親星 . . . 8
1.2 ガンマ線バーストの放射機構 . . . 10
1.2.1 コンパクトネス問題 . . . 10
1.2.2 火の玉モデル. . . 11
1.2.3 シンクロトロン放射 . . . 11
1.2.4 外部衝撃波モデル . . . 13
1.3 プロンプト放射の時間変動性 . . . 16
1.3.1 先行研究 . . . 16
1.3.2 光球放射モデルの数値シミュレーション . . . 16
1.4 ガンマ線バースト周辺と母銀河の物質環境 . . . 19
第2章 ガンマ線バースト観測衛星Swift 21 2.1 ミッション概要. . . 21
2.2 BAT . . . 22
2.3 XRT . . . 23
第3章 プロンプト放射のパルス解析 27 3.1 イベントセレクション . . . 27
3.2 解析手法 . . . 27
3.3 解析結果 . . . 28
第4章 残光放射のスペクトル解析 33 4.1 イベントセレクション . . . 33
4.2.1 可視・近赤外線データ . . . 34
4.2.2 X線データ . . . 34
4.2.3 スペクトル解析 . . . 35
4.3 解析結果 . . . 36
第5章 議論 41 5.1 プロンプト放射のパルス解析 . . . 41
5.1.1 超新星爆発が付随しているGRB . . . 41
5.1.2 中心エンジンの活動性 . . . 44
5.2 SGRBの母銀河における水素原子柱密度 . . . 45
第6章 結論 47
付録A 49
付録B 55
表目次
2.1 BATの仕様。 . . . 23
2.2 XRTの仕様。 . . . 24
2.3 4つの動作モードの特性。 . . . 24
4.1 SGRBのサンプルリスト。 . . . 33
4.2 スペクトル解析のフィッティング結果。. . . 36
5.1 GRBに付随している超新星の兆候の5段階評価。 . . . 42
5.2 超新星爆発が付随しているGRBのリスト。 . . . 42
5.3 追加で解析を行った20個のSGRBのリスト。 . . . 46
A.1 9個のSGRBの可視・近赤外残光の観測データリスト . . . 49
A.1 (Continued) . . . 50
A.1 (Continued) . . . 51
A.1 (Continued) . . . 52
A.1 (Continued) . . . 53
B.1 Results of spectral analysis for all model fit . . . 55
B.1 continued . . . 56
図目次
1.1 BATSEが9年間に観測したGRBの発生方向の天球面分布図。. . . 1
1.2 BATSEが観測したGRBのライトカーブの例。 . . . 2
1.3 BATSEが観測した1234例のGRBにおけるT90のヒストグラム。. . . 3
1.4 CGROが観測したGRB 990123のスペクトル。 . . . 4
1.5 GRB 970228のX線と可視残光。 . . . 5
1.6 GRB 991216の残光ライトカーブ。. . . 5
1.7 GRB 990510の可視残光ライトカーブ。 . . . 5
1.8 BATで観測されたGRB 050724とGRB 080503のライトカーブ。 . . . 6
1.9 XRTで観測されたGRB 080503のE.E.のスペクトル。 . . . 6
1.10 GRB 130603BとGRB 170817の可視・近赤外 線観測。 . . . 7
1.11 母銀河のサイズで補正したGRBの発生場所と銀河中心との距離の累積頻度分布 . . . . 8
1.12 VLTが観測したGRB 030329の可視残光とSN 2003dhのスペクトル。 . . . 9
1.13 GW 170817とGRB 170817Aの観測結果。 . . . 9
1.14 火の玉モデルの概念図。 . . . 11
1.15 左図はシンクロトロン放射の様子を示したもの。右図は単一エネルギーの電子から発せ られるシンクロトロン放射のスペクトル。 . . . 12
1.16 左図は電子のエネルギー分布を γe を用いて表したもの。右図はベキ型のエネルギー分 布をした電子からのスペクトル。 . . . 12
1.17 残光のスペクトルとライトカーブの理論モデル。 . . . 15
1.18 中心エンジンのエネルギー注入モデル。. . . 18
1.19 光球放射モデルの数値シミュレーション結果。 . . . 18
1.20 規格化された減光曲線。 . . . 19
2.1 Swift衛星(NASA/GSFC) . . . 21
2.2 Burst Alert Telescope (NASA/GSFC). . . 22
2.3 (左) X-ray Telescope (NASA/GSFC).(右) X線反射鏡. . . . 23
2.4 フラックス強度で自動的に変わるXRTの4つの観測モード。 . . . 25
3.1 抽出したピークとライトカーブの例。 . . . 29
3.2 パルス間隔∆tのヒストグラム。 . . . 29 3.3 トリガー時刻からある時間が経過したタイミングで分けたパルス間隔のヒストグラム。. 30 3.4 トリガー時刻からある時間が経過したタイミングで分けたパルス間隔の累積頻度分布。. 31
4.2 可視・近赤外線とX線のライトカーブ。実線はべき関数のベストフィット、破線は広帯 域スペクトルの基準時刻を示している。. . . 37 4.3 9個のSGRBの広帯域スペクトル。実線はX線の吸収と可視の減光を補正した残光放射
のベストフィットモデル、点線は吸収と減光を受けた残光放射のベストフィットモデル。 38 4.4 母銀河におけるガス–ダスト比。 . . . 39 5.1 GRB 080319Bのパルス間隔のヒストグラム。 . . . 43 5.2 トリガー時刻からT90の50%の時間経過で前後半に分けたパルス間隔のヒストグラムと
累積頻度分布。. . . 43 5.3 GRBの母銀河における水素原子柱密度。 . . . 45
第 1 章
ガンマ線バースト
1.1 概要
本説ではガンマ線バーストについて観測的事実を中心に概要を述べる*1。
1.1.1 歴史的背景
ガンマ線バースト(Gamma-Ray Burst: GRB)は、1967年にアメリカの核実験監視衛星VERAに よって発見され (Klebesadel et al., 1973)、その後1973年に発表された論文を皮切りに今日まで活発に 研究が行われている。 GRBは大量のガンマ線が非常に短い時間変動を伴い、数ミリ秒程度から1000秒 以上にわたって遠方宇宙から飛来する突発天体である。放出される総エネルギー量は1052 erg 以上に達 し、宇宙最大の爆発現象であると言える。CGRO (Compton Gamma-Ray Observatory)衛星*2に搭載 された検出器BATSE (Burst and Transient Source Experiment)が観測したGRB の発生方向の全天 マップを図1.1に示す。この図からも明らかなようにGRBは天球上に等方的に分布しており、観測頻度 から1日1回程度発生していることが知られている。
+90
-90
-180 +180
2704 BATSE Gamma-Ray Bursts
10-7 10-6 10-5 10-4
Fluence, 50-300 keV (ergs cm-2)
図1.1 BATSEが観測したGRBの発生方向の天球面分布図。9年間で2704個のGRBが観測され た。(https://heasarc.gsfc.nasa.gov/docs/cgro/batse/より転載)
*1本節は「シリーズ現代の天文学第8巻.ブラックホールと高エネルギー現象」(日本評論社)を参考にした。
*2https://heasarc.gsfc.nasa.gov/docs/cgro/
では赤方偏移z = 8.26のGRB 090423 (Tanvir et al., 2009)、測光観測ではz = 9.4のGRB 090429 (Cucchiara et al., 2011)が報告されており、今後もより遠方で発生したGRBの観測が期待されている。
z >7の宇宙では宇宙再電離や重元素合成等の現在の宇宙を決定づけた出来事が起きたと考えられてお
り、GRBを光源としてその時代の宇宙の調査を目的とした衛星計画が進行している(Yonetoku et al., 2014)。
一方で、継続時間の短いGRBは連星中性子星や中性子星–ブラックホール連星の合体によって発生す ると考えられている(1.1.7節)。2017年には連星中性子星合体由来の重力波がアメリカの重力波干渉計 Advanced LIGOにより観測され(Abbott et al., 2017)、それと同期してshort GRBと類似した現象が 観測された(Goldstein et al., 2017; Savchenko et al., 2017)。建設中の日本のKAGRAを含め世界の重 力波干渉計による観測ネットワークが構築され、重力波と電磁波の観測を組み合わあせたマルチメッセン ジャー天文学が始まっている。重力波源の電磁波対応天体の有力候補であるGRBの観測は重要性を増し ている。
しかし、GRBの発生環境や放射機構には未解明な部分も多く、観測的研究と理論的研究の双方で知見 を積み重ねていく必要がある。本研究では、GRBの中心エンジンの活動性と周辺環境の性質について観 測的に調べることを目的とする。
1.1.2 ガンマ線バーストプロンプト放射
BATSE Trigger 105
-2 0 2 4 6 8
Seconds Since Trigger (910421 : 33243.756) 0
1.0•104 2.0•104 3.0•104 4.0•104 5.0•104 6.0•104
Rate (counts s
-1)
Ch: (1: 4) Time Res: 0.064 s
BATSE Trigger 143
0 20 40 60
Seconds Since Trigger (910503 : 25452.651) 0
1.0•105 2.0•105 3.0•105 4.0•105
Rate (counts s
-1)
Ch: (1: 4) Time Res: 0.064 s
BATSE Trigger 1606
0 20 40 60 80 100 120
Seconds Since Trigger (920513 : 60779.114) 0
1.0•104 2.0•104 3.0•104 4.0•104
Rate (counts s
-1)
Ch: (1: 4) Time Res: 0.064 s
BATSE Trigger 7343
-50 0 50 100 150
Seconds Since Trigger (990123 : 35216.121) 0
2•104 4•104 6•104 8•104
Rate (counts s
-1)
Ch: (1: 4) Time Res: 0.512 s
BATSE Trigger 7548
-40 -20 0 20 40 60
Seconds Since Trigger (990505 : 28267.513) 8.0•103
1.0•104 1.2•104 1.4•104 1.6•104 1.8•104 2.0•104
Rate (counts s
-1)
Ch: (1: 4) Time Res: 0.256 s
BATSE Trigger 7549
-50 0 50 100 150 200
Seconds Since Trigger (990506 : 41010.937) 0
2•104 4•104 6•104 8•104 1•105
Rate (counts s
-1)
Ch: (1: 4) Time Res: 0.064 s
図 1.2 BATSE が 観 測 し た GRB の ラ イ ト カ ー ブ の 6 例 。NASA の デ ー タ ア ー カ イ ブ (https://gammaray.nsstc.nasa.gov/batse/grb/)より引用。
本説ではプロンプト放射のライトカーブとスペクトルについて観測的事実を述べる。1.1.3節で述べる GRBの残光に対して、単にGRBと言うときはGRBのプロンプト放射(prompt emission)を指すこと が多い。
プロンプト放射のライトカーブは多種多様な振る舞いを見せる(図1.2)。その形状に典型的なパターン は存在しないが、それぞれのパルスは急激に増光しゆっくり減光するFRED (Fast Rise and Exponential
Decay)型をしているものが多い。一方で放射の継続時間にはある特徴が見られる。図1.3はBATSEで
観測されたGRBの継続時間T90の分布を示しており、約2秒を境に2つのピークが見られる。T90は観 測された全光子数の最初と最後の5%を除いた90%の光子数を含む時間で定義される。この2つの分布 は継続時間が約2秒以上のlong GRB (LGRB)と約2秒以下のshort GRB (SGRB)という異なる種族 がいることを表している。
図1.3 BATSEが観測した1234例のGRBにおけるT90のヒストグラム。
GRBの光子フラックスのスペクトルは、式1.1に示したバンド関数(Band function)と呼ばれる経験 式で良く再現できる(Band et al., 1993)。図1.4 に観測されたあるGRBのスペクトルデータをバンド 関数でフィッティングした結果を示す(Briggs et al., 1999)。N(E)を単位時間、単位面積、単位エネル ギー幅あたりに検出される光子数(photons s−1 cm−2 keV−1)とすると、式1.1で表される。
N(E) =
A
( E 100 keV
)α
exp (
−E E0
)
(E ≤(α−β)E0), A
( E 100 keV
)β(
(α−β)E0
100 keV )α−β
exp(β−α) (E ≥(α−β)E0).
(1.1)
ここで、Aは規格化定数、E0はスペクトルが折れ曲がるエネルギー、αとβ は折れ曲がる前後それぞれ のべき指数を示している。E0、α、βはGRBごとに異なる値を持つ。GRBのスペクトルがこのような べき乗則に従うことは、GRBの放射機構が衝撃波加速された電子によるシンクロトロン放射のような非 熱的なものであることを示唆している。
図1.4下段のνFνスペクトルの頂点は、最も放射効率の良いエネルギーとしてE peak (Ep)と呼ばれ、
α ≥ −2かつβ ≤ −2のとき、式1.2で記述される。シンクロトロン衝撃波モデルを仮定すると、Epは 衝撃波加速された電子のエネルギー分布の指標となるため、GRBの放射機構を研究する上で重要な観測 パラメータである。
Ep= (α+ 2)E0 (1.2)
図1.4 CGROが観測したGRB 990123のスペクトル(Briggs et al., 1999)。上段は光子フラック ス、下段はνFν と呼ばれるエネルギースペクトル。
1.1.3 ガンマ線バースト残光
GRBの残光(afterglow)は、X線天文衛星BeppoSAX (Boella et al., 1997)に搭載されたWide FIeld Camera (WFC)のX線観測によって1997年に初めて検出された(Costa et al., 1997)。さらにNarrow
Field Instruments (NFI)による追観測によって数分角の精度で発生方向が測定され、その情報をもとに
行われた可視光望遠鏡による追観測では可視残光が発見された(van Paradijs et al., 1997)。図1.5にそ れぞれの観測画像を示す。これらの観測ではX線・可視光ともに数時間から数日にかけて時間のべき関 数にしたがって減光する様子が確認された。図1.6に示す通り残光は電波でも観測されており、X線から 電波にかけて多波長で減光する様子が観測されている(Frail et al., 2000)。
可視光によるGRB 残光の観測によって、GRBの発生方向を正確に測定できるようになり、多くの GRBについて母銀河が特定され、さらに可視光分光観測によって母銀河の赤方偏移が特定された。特 にGRB 970508は赤方偏移がz= 0.835 (約69億光年)と決定された初のGRBであり、この結果から GRBが銀河系外で発生していることが確実となった(Metzger et al., 1997)。
図1.7に示すGRB 990510残光のライトカーブは、4つのバンド(波長帯域)で同時に折れ曲がってい る。これはGRBの放射体が相対論的速度を持ち細く絞られていること(相対論的ジェットと呼ぶ)を示 唆している(Stanek et al., 1999; Harrison et al., 1999)。相対論的ジェットが前方の物質を掃き集めなが ら膨張する過程で、ジェットのローレンツ因子Γの逆数がジェットの開口角θo 程度まで小さくなると、
ジェット横方向の膨張が一気に加速する。ジェットの密度が急激に減少すると、相対論的ビーミングの 効果を受けている残光のフラックス密度も急激に減少し、結果として観測者の視線方向にやってくる残 光が急激に暗くなるように見える。この現象をジェットブレイク(jet break)と呼び、GRBが相対論的 ジェットからの放射であることの一つの証拠である。
図1.5 (上) BeppoSAXが観測したGRB 970228 X線残光の発生から約8時間後(左)と約3.5日 後(右)のX線画像(http://www.asdc.asi.it/bepposax/first/grb970228.html より転載)。(下) 可 視光望遠鏡で観測された可視残光の発生当日(左)と8日後(右)の写真(van Paradijs et al., 1997)。
図1.6 GRB 991216 の残光ライトカーブ(Frail et al., 2000)。
Fig. 2. from BVRI Observations of the Optical Afterglow of GRB 990510 Stanek et al. 1999 ApJL 522 L39 doi:10.1086/312219
http://dx.doi.org/10.1086/312219
© 1999. The American Astronomical Society. All rights reserved. Printed in U.S.A.
図 1.7 GRB 990510 の 可 視 残 光 ラ イ ト カ ー ブ (Stanek et al., 1999)。
15-25 keV 15-150 keV
Time since SGRB trigger (sec)
Count rate (photons/sec)
図1.8 BATで観測されたGRB 0507240とGRB 80503のライトカーブ(Kagawa et al., 2015)。 メイン(128ミリ秒ビン, 15–150 keV)、挿入図(8秒ビン, 15–25 keV)。15–25 keV帯域では100秒 程度放射が続いてる。
1.1.4 軟 X 線超過放射
SGRBの中にはプロンプト放射の直後に軟X線帯域で10–100秒程度光る軟X線超過成分(extended emission: E.E.)が観測されている(e.g., Norris & Bonnell, 2006; Sakamoto et al., 2011)。図 1.8は E.E.が観測されているGRBのライトカーブを表しており、一般的にプロンプト放射に比べて時間変動 は穏やかである。Kagawa et al. (2015, 2019)によると、E.E.のスペクトルはべき関数モデルで良く表さ れ(図1.9)、ライトカーブは指数関数的に減光している。その性質からE.E.はプロンプト放射や残光と は異なる放射起源を持つと考えられているが、放射が起きている場所や放射機構は未解明でる。
Time since SGRB trigger (sec) Energy (keV)
Counts/sec reduced χ2
図1.9 (左)XRTで観測されたGRB 080503のE.E.のスペクトル。黒体放射モデル(青)とべき関 数モデル(赤)でフィッティングを行っている(Kagawa et al., 2015)。(右)時分割したスペクトルに 対する2つのモデルフィットのreduced χ2分布。黒体放射モデルよりべき関数モデルの方が観測さ れたスペクトルを再現している。
1.1.5 マクロノバ / キロノバ
中性子星を含む連星が合体すると、中性子を大量に含んだ一部の物質は潮汐破壊により宇宙空間に撒 き散らされる(e.g., Rosswog et al., 1999; Tanaka & Hotokezaka, 2013)。中性子が過剰な環境では速 い中性子捕獲反応(rプロセス)により放射性重元素が合成され、不安定な原子核はガンマ線や電子等を 放出しながら崩壊する。そのエネルギーによって周りの物質が温められ、熱的放射により可視光や赤外 線で光ることが予想されていた(Li & Paczy´nski, 1998; Metzger et al., 2010)。この現象をマクロノバ (macronova)、もしくはキロノバ(kilonova)と呼ぶ*3。
放出された物質の総量をMej、典型的な速度をvej、典型的な光の吸収係数をκとすると、キロノバの最 大光度Lpeakと最大光度に達する時間tpeakは、近似的に以下の式で記述できる(Metzger et al., 2010)。
Lpeak= (0.5−1.0)×1042
( Mej
0.03M⊙
) (tpeak
day )−1.3
erg s−1 , (1.3)
tpeak≈
√ κMej
4πcvej
≈6
( κ
10 cm2 g−1 )1/2(
Mej
0.03M⊙
)1/2( vej
0.2c )−1/2
day . (1.4)
ここでκ= 10 cm2 g−1としたのは、ランタノイド元素が大量に作られ、光の吸収係数が大きくなること
を想定している(Barnes & Kasen, 2013; Tanaka & Hotokezaka, 2013; Tanaka et al., 2018)。ランタノ イドがそれほど作られない場合は、κ= 0.01 cm2g−1程度であると考えられている。
図 1.10 左に示すように、GRB 130603B では理論的に予想される時間、波長での増光現象が観測 され、キロノバの存在を示唆する初の観測結果となった (Berger et al., 2013; Tanvir et al., 2013)。
GRB 170817Aではキロノバと思われる放射を多波長で観測し(図1.10右)、概ね理論的な予想と整合性
が取れているFigure 2. from An r-process Kilonova Associated with the Short-hard GRB 130603B(Kawaguchi et al., 2018)。
Berger, Fong, & Chornock 2013 ApJL 774 L23 doi:10.1088/2041-8205/774/2/L23 http://dx.doi.org/10.1088/2041-8205/774/2/L23
© 2013. The American Astronomical Society. All rights reserved.
Figure 2. from Radiative Transfer Simulation for the Optical and Near-infrared Electromagnetic Counterparts to GW170817 null 2018 APJL 865 L21 doi:10.3847/2041-8213/aade02
http://dx.doi.org/10.3847/2041-8213/aade02
© 2018. The American Astronomical Society. All rights reserved.
図1.10 (左)可視光(青)・近赤外線(赤)で観測されたGRB 130603Bののライトカーブ(Berger et al., 2013)。点線は初期残光のモデルフィット、破線はキロノバの理論モデル曲線 (Barnes &
Kasen, 2013)を描いている。(右)GRB 170817 の可視から赤外線バンドのライトカーブ(Villar et al., 2017)。実線は数値相対論の結果に基づいた理論モデルを表す(Kawaguchi et al., 2018)。
*3rプロセスをエネルギー源としている放射を特にキロノバと呼ぶ傾向がある
1.1.6 ガンマ線バーストの母銀河
ガンマ線バーストの母銀河はLGRBとSGRBで違いが見られる。LGRBは比較的暗くて小さい星形 成銀河で発生している(e.g., Fruchter et al., 2006; Lyman et al., 2017)。一方でSGRBは、明るく巨大 な銀河で発生しており、星形成が不活発な銀河でも見つかっている(Fong & Berger, 2013; Fong et al.,
2013)。図1.11は母銀河のサイズで規格化したGRBの発生場所と銀河中心との距離の累積分布を表して
いる(Fong & Berger, 2013)。平均的にLGRBは銀河の有効半径(re)と同程度に位置しており、このよ うな領域は銀河の中でも紫外線で特に明るく、星形成が活発な領域である(Bloom et al., 2002; Fruchter et al., 2006)。一方SGRBは、平均的には銀河中心から1.5reの位置に分布しているが、どうのような発 生環境であるかは理解が進んでいない。
Figure 6. from The Locations of Short Gamma-Ray Bursts as Evidence for Compact Object Binary Progenitors Fong & Berger 2013 ApJ 776 18 doi:10.1088/0004-637X/776/1/18
http://dx.doi.org/10.1088/0004-637X/776/1/18
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図1.11 母銀河のサイズで補正したLGRBとSGRBの発生場所と銀河中心との距離(オフセット) の累積頻度分布(Fong & Berger, 2013)。reは有効半径と呼び、銀河の全光度の半分を含む半径であ る。矢印はそれぞれ種族のオフセットの中心値を示している。
1.1.7 ガンマ線バーストの親星
1.1.6節で述べたように母銀河の性質が異なることから、GRB の起源天体はLGRBとSGRBで異
なると考えられている。超新星が付随したLGRBが数例見つかっていることから、LGRBは大質量 星が崩壊しブラックホールが誕生する瞬間に生じる爆発現象であると考えられている(MacFadyen &
Woosley, 1999)。BeppoSAXが発見したGRB 980425では、可視光観測によってGRBと同じ位置に超 新星SN 1998bwが見つかっている(Galama et al., 1998)。また、X線突発天体探査衛星のHETE-2が
発見したGRB 030329でも、可視残光が減光するにつれて同じ領域に超新星(SN 2003dh)が発見された
(Hjorth et al., 2003)。特にこのGRBは、べき乗で表される可視残光が暗くなるにつれてSN 2003dhの 成分が見え始め、約1ヶ月後ではSN 1998bwのスペクトルと似た形をしている(図1.12)。
SGRBは連星中性子星および中性子星–ブラックホール連星の合体が起源であると考えられている (e.g., Eichler et al., 1989; Narayan et al., 1992)。そして2017年にこの説を支持するビッグイベントが
発生した。2017年8月に連星中性子星が衝突・合体する過程で発生した重力波(GW 170817)がアメリカ のAdvanced LIGOによって観測され(Abbott et al., 2017)、さらに重力波検出の約2秒後にはNASA のFermi衛星とESAのINTEGRAL 衛星によってGRB 170817Aが観測された*4(Goldstein et al., 2017; Savchenko et al., 2017)。
4000 6000 8000 10000
Observed Wavelength (Å) ï17.5
ï17.0 ï16.5 ï16.0 ï15.5
log fh (erg sï1 cmï2 Åï1 )
SN 1998bw after 33 d
GRB 030329/SN 2003dh
April 3.10 April 8.13 April 10.04 April 17.01 April 22.00 May 1.02
図 1.12 超 大 型 望 遠 鏡 VLT が 観 測 し た GRB 030329 の 可 視 残 光 と SN 2003dh の ス ペクトル。GRBの発生直後(黄色)では典型的 なGRBの残光成分が見えるが、1ヶ月後には SN 1998bw (黒線)と非常に似た構造を持つこと が分かる(Hjorth et al., 2003)。
Figure 2. from Gravitational Waves and Gamma-Rays from a Binary Neutron Star Merger: GW170817 and GRB 170817A null 2017 APJL 848 L13 doi:10.3847/2041-8213/aa920c
http://dx.doi.org/10.3847/2041-8213/aa920c
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図1.13 GW 170817とGRB 170817Aの観測結果。
上段2つはFermi/GBMの10−50 kevと50−300 keV帯域のライトカーブ。3段目はINTEGRAL/SPI- ACSの約100 keV-80 MeV帯域のライトカーブ。一番 下の段は重力波の周波数強度。
*4ただし、INTEGRAL衛星での検出有意度は3.2σである。
1.2 ガンマ線バーストの放射機構
1.2.1 コンパクトネス問題
ミリ秒程度の時間変動(∆t)が観測されているGRBの放射領域のサイズはRe ∼c∆t∼3×108cm程 度(cは光速)と見積もることができる。GRBのスペクトルではMeV以上の光子も観測されているため、
γγ→ e+e−の対生成反応における光学的厚さを検討してみる。光子の数密度は1 MeV以上の割合をfp
とすると、
n∼ fpEiso
mec2 × 1
R3e, fp= 0.01 (1.5)
と表せる。ここで、Eisoは等方的放射を仮定したGRBのエネルギー、me は電子の質量である。電子・
陽電子対生成に対する光学的厚さは、
τγγ ∼ 4πd2LSfpσT
mec2(c∆Tp)2 ∼1016 ( fp
0.01
)( dL
7 Gpc
)2( S 10−6 erg cm−2
)( δT 1 msec
)−2
(1.6) となり、非常に大きいことが分かる。ここで、σT はトムソン散乱断面積、dLは光度距離、Sはフラック スを時間で積分した値である。従って、ガンマ線が抜け出すことができず、観測されているような非熱的 な放射を実現できない。これは、コンパクトネス問題と言われているが、相対論的速度で運動する物質が 放射源であると考えればこの問題は解決される。
相対論的効果を取り入れた場合について考える。
1. 見かけの時間が短くなる効果
速度 β で運動する物質が点 A から光を放射し、Re だけ進んだ後に点 B から再び光を出すとす る。これら2つの光が観測者に到達する時間をそれぞれtA、tB としたとき、その時間差は
δT =tB−tA = (Re
βc +dL
c
)−(Re
c +dL
c )
= Re
βc(1−β)∼ Re
2cΓ2. (1.7) Γは物質のローレンツ因子で、Γ = (1−(v/c)2)−1/2。従って、Re ∼2cΓ2δT となるので、Γ2だ け放射領域の見積りに差ができる。
2. 青方偏移の効果(Lorentz Boost)
ガンマ線スペクトルがE−bに比例する場合、ローレンツブーストされた結果を見ているため、放 射体の静止系での MeV以上の光子はΓ−b倍だけ少ない。
3. 光学的厚さに関する補正
以上より、放射体の静止系における光学的厚さは τγγ ∝ MeV以上の光子数
R2e ∝ Γ−b
Γ4 = Γ−4−b (1.8)
だけ小さくなる。例えば、観測されるスペクトルのベキb=−2.5の場合、τγγ <1 となる条件は、
Γ∼100である。ここで、放射エネルギーは観測的に Erad = 1052 ergであるから、加速された質 量は M <10−5 M⊙ でなくてはならない。
このように、放射体が相対論的速度で運動している場合は、光学的厚さが変わるため、コンパクトネス問 題を解消できる。以上の理由から、GRBが相対論的速度を持った爆発現象であることが予想されている。
1.2.2 火の玉モデル
central engine
variable wind
internal shock
external shock (GRB)
(afterglow)
Inter Stellar Medium
図1.14 火の玉モデルの概念図。
前節の考察から、GRBを実現する標準的な理論モデルとして火の玉モデルが一般的に受け入れられて いる(Rees & Meszaros, 1992)。概念図を図1.14に示す。まず大質量星が崩壊してブラックホールを形 成する際に、相対論的速度のジェットを生成する。その中を伝搬する物質同士が衝突して衝撃波を作り (内部衝撃波)、加速された電子によってシンクロトロン放射で輝く。これがプロンプト放射である。続い て、1つに合体した物質流が星間物質を伝搬する際に衝撃波を作り(外部衝撃波)、同様にシンクロトロン 放射で輝くのが残光であると解釈されている。
1.2.3 シンクロトロン放射
一般にベキ型のスペクトルを持つ天体は非熱的放射を行なっており、黒体放射のような熱平衡状態から 発せられる光や、熱制動放射のように熱プラズマ中でボルツマンの速度分布に従う電子から発せられる光 とは区別される。火の玉モデルでは衝撃による粒子加速(フェルミ加速)を受けた電子のシンクロトロン 放射を考える。電子の振動数をγe、磁場のエネルギー密度をUB =B2/8πとすると、
⟨P⟩= 4
3cσTUBγe2Γ2, (1.9)
ν(γe) = qeB
2πmecγe2Γ (1.10)
である(Rybicki & Lightman, 1979)。
単一エネルギー電子によるシンクロトロン放射のスペクトルを模式的に表すと、図1.15に示すように ν <0.29ν(γe) の領域では∝ν1/3 に従い、ν >0.29ν(γe) の領域では∝exp[−ν/ν(γe)] となる。最大値 はPν,max∼ ⟨P⟩/ν(γe)程度である。
rg
γe
−1
γe−1 (1)
(2) θ ∼ D
observer
(γ )e
(γ )e
[−ν/ν ]
1/3 exp ν
ν,max
P
ν ν 0.29
図1.15 左図はシンクロトロン放射の様子を示したもの。右図は単一エネルギーの電子から発せられ るシンクロトロン放射のスペクトル。
次に複数の電子からのシンクロトロン放射を考える。電子のエネルギー分布が γe,min ≤γe ≤ γe,max
の間で N(γe)dγe∝γe−pdγe のようなベキ分布をしているときは、
Fνdν∝ ⟨P⟩N(γe)dγe ∝γe2γe−pdγe∝γe2−pdγe, (1.11) であるから、観測されるフラックスは
Fν ∝γe2−p(dγe/dν)∝γe2−pν−1/2∝ν(1−p)/2 [erg s−1Hz−1], (1.12) に従うベキ型のスペクトルとなる(図1.16)。シンクロトロン冷却が効いている場合、電子はエネルギー を失う。電子が最初に持っているエネルギーを放射パワー⟨P⟩で失うと考えると、その時間は
cooling time = γemec2
⟨P⟩ ∝ γe
γe2 ∝γe−1, (1.13)
なので、あるエネルギー γe に滞在する時間間隔は γe−1 に比例する。これはシンクロトロン放射のスペ クトルと時間変化を扱うときに用いる。
(γ )e
N
γe,min γe,max γe
γe−p
(γ )e
P
γe,min
( )
ν ν(γe,max)
ν1/3
(γ )e
[−ν/ν ] exp
ν ν(1−p)/2
図1.16 左図は電子のエネルギー分布をγe を用いて表したもの。右図はベキ型のエネルギー分布を した電子からのスペクトル。
1.2.4 外部衝撃波モデル
本説では残光の観測事実をよく説明できている理論モデルとして外部衝撃波モデルを示す。放出物質 は内部衝撃波を形成しながら多数の衝突を繰り返した後一つになり、まわりの星間物質(inter stellar
medium: ISM)中を伝搬していくときに発生すると考えられている。質量M、ローレンツ因子Γの放出
物質がISM中を伝搬する場合を考える。ISMの質量dmをかき集めた結果、ローレンツ因子は Γ +dΓ となったとする(dΓ<0)。このときエネルギー保存の式は
ΓM c2+dm×c2= (Γ +dΓ)[(M +dm)c2+dE]. (1.14) ここで dE は衝突によって作られた内部エネルギーを表す。また、運動量保存則は
M√
Γ2−1×c= (M+dm+ dE c2 )√
(Γ +dΓ)2−1×c, (1.15) であり、
dΓ
Γ2−1 =−dm
M , (1.16)
dE= (Γ−1)dm×c2 (1.17)
と書ける。ここで発生した内部エネルギーのうち、ϵdE が放射として逃げていくと考えると(1−ϵ)dE が質量増加分に関与することになる。放出物質の質量増加は
dM = (1−ϵ)dE
c2 +dm= [(1−ϵ)Γ +ϵ]dm (1.18)
ϵ= 0 ならば膨張は断熱的 (adiabatic)で dM = Γdmである。
初期条件E0= Γ0M0c2 を考えると、式(1.16), (1.17)は、
M M0
=
(Γ20−1 Γ2−1
)1/2
, (1.19)
m M0
= Γ
[(Γ20−1 Γ2−1
)1/2
−Γ0
Γ ]
. (1.20)
特に、Γ0≫Γ≫1 のとき、
m= M0
2Γ0
(Γ0
Γ )2
(1.21) である。ここから初期条件のエネルギーE0と比べて、式1.21程度の質量をかき集めると減速が効いてく ると解釈できる。球対称ならば、ISMの密度をnISMとすると、m∝R3nISMmp であるからR3∝γ−2 の関係になる。ジェットの座標系で測った時間はR/cで表され、これを観測者系に変換するときに必要 な因子を2Γ2とすると、
T ∼ R/c
2Γ2 ∝RΓ−2∝Γ−8/3. (1.22)
従って、おおよそΓ∝T−3/8,R∝T1/4 の依存性があると言える。
衝撃波下流での内部エネルギーは e2 = 4Γ2nISMmpc2、粒子数密度は n2 = 4ΓnISM である。この 内部エネルギーがある割合、ϵe とϵB で電子の加速と磁場の増幅に使われる。∫
γmN(γe)dγe = n2 と mec2∫
γmN(γe)γedγe =ϵee2より、典型的な電子のローレンツ因子は、
γe,min = p−2 p−1ϵeΓmp
me ∝Γ (1.23)
B 2
B = (32πϵBΓ2nISMmpc2)1/2∝Γ (1.24) となる。観測者系でのシンクロトロン放射は
νsyn = Γν(γe) = eB
2πmecγe2Γ, (1.25)
Tcool = 1
Γt′cool= 6πmec
σTγeB2Γ (1.26)
として求められる。シンクロトロン放射のスペクトルの特徴を表すエネルギー(break frequency)は電子 のエネルギー分布によって決まり、次の2種類が考えられる。
1. 典型的な振動数(γe,min)
電子の最小エネルギー γe,min は、放出物質の速度Γに比例するため、時間経過とともに小さく なっていく。したがって、シンクロトロン放射のν(γe,min)も時間経過によって小さくなる(低エ ネルギー側へ移行する)ことになる。
νm=ν(γe,min) = eB
2πmecγe,min2 Γ∝Γ4∝T−3/2 (1.27)
2. 冷却振動数(νc)
電子はシンクロトロン放射によって冷却され、そのエネルギーを失う。Tcool はγe−1 に依存するた め、高エネルギーの電子ほど冷却時間は早い。したがって、加速電子のエネルギー分布には冷却時 間に依存する構造が現われる。観測時間 T とTcool が同等となる電子のエネルギーを γe,c と定義 したとき、
γe,c = 6πmec
σTB2ΓT, νc= 18πmece
σ2TB3ΓT2 ∝Γ−4T−2∝T−1/2 (1.28) これは先のνm よりは時間発展が緩やかである。
ここで見た各周波数は時間依存性が異なるために、スペクトルの形は時間とともに変化する。これについ て少し詳しく見てみる。1 日後の時間をTd としたとき、
νm= 6×1015 HzE521/2ϵ2eϵ1/2B Td−3/2, (1.29) νc= 9×1012 HzE521/2ϵ−B3/2n−ISM1 Td−1/2, (1.30) νa= 2×109 HzE521/5ϵ−e1ϵ1/5B n3/5ISMTd0. (1.31) ここで、E52は1052 ergで規格化したエネルギーである。
νm∼νcとなる時間は、Td= 7×10−4 day E52 nISM ϵ2e,−1 ϵ2B,−2、 νm= 5×1014 Hzとなる時間は、Td= 5×10−2 day E521/3ϵ4/3e,−1 ϵ1/3B,−2、 νc= 5×1014 Hzとなる時間は、Td = 3×102 day E52−1n−ISM2 ϵ−B,3−2 である。
残光放射ではνm< νcの場合(slow cooling)を考える。シンクロトロン放射の自己吸収周波数をνaと すると、
Fν=Fν,max×
(νa/νm)1/3(ν/νa)2, (ν < νa), (ν/νm)1/3, (νa< ν < νm), (ν/νm)−(p−1)/2, (νm< ν < νc), (νc/νm)−(p−1)/2(ν/νc)−p/2, (ν > νc).
(1.32)
Fν,maxはシンクロトロン放射のパワーが最大(Pν,max)のときで、我々から見える領域に存在する電子の 総数 ( ¯Ne) に依存する。
Fν,max= Pν,max×N¯e
4πd2L (1
4θ2 )−1
, θ= Γ−1 (1.33)
ここから、特定の周波数帯域でのライトカーブを計算できる。例えば、slow cooling (νm< νc)ときは 式(1.27)と式 (1.28)を用いて、以下のように書ける。
Fνc<ν =Fν,max
(νc
νm
)−(p−1)/2(ν νc
)−p/2
∝T−(3p−2)/4ν−p/2 (1.34) 一般的にはFν ∝Tανβ と表現し、
α=−3p−2
4 , β =−p
2 (1.35)
として記述する。これまでの情報をまとめると、スペクトルとライトカーブは図 1.17 のようになる
(Piran, 1999)。モデルや物理的状況にも依存するが、一般的にプロンプト放射の時間帯は放射によって
効率良くエネルギーを解放する必要があるためfast cooling、残光フェイズではslow coolingと考えるこ とが多い。一般的にべきに現われるpは2.5程度と思われている。例えばprompt GRBのスペクトルを 記述するBandモデルは、図1.17 左上の図に対応し、α=−1.5、β =−2.25となる。
108 1010 1012 1014 1016 1018
100 102 104
ν2 A
ν1/3 B
ν−1/2 C
ν−p/2 D fast cooling
t<t 0
a
νa t−1/2 [t−4/5]
νc t−1/2 [t−2/7]
νm t−3/2 [t−12/7]
Flux (µJ)
108 1010 1012 1014 1016 1018
10−2 100 102 104
ν2 E
ν1/3 F
ν−(p−1)/2 G
ν−p/2 H
slow cooling t>t
0
b
νa t0
νm t−3/2
νc t−1/2
Flux (µJ)
ν (Hz)
10−2 100 102
101 102 103 104 105 106
t1/6 [t−1/3] B
t−1/4 [t−4/7]
C t(2−3p)/4
D [t(2−6p)/7]
t(2−3p)/4 H
high frequency ν>ν0 a
tc t
m t
0
Flux (µ J)
10−2 100 102
101 102 103 104 105 106
t1/6 [t−1/3] B
t1/2 F
t3(1−p)/4 G
t(2−3p)/4 H low frequency
ν<ν0 b
t0 t
m t
c
Flux (µ J)
t (days)
図1.17 球対称を仮定した外部衝撃波モデルのスペクトルとライトカーブ(Piran, 1999)。残光放射 のスペクトルは左下の状況だとを考えられている。