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体外式膜型人工肺にて救命しえた難治性気胸合併重症肺炎の 1 例

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Academic year: 2021

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(1)

緒  言

急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syn- drome:ARDS)をはじめとした急性呼吸不全患者にお いて体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxy- genation:ECMO)を導入することは治療の選択肢の一 つとしてあげられるが,その適応については慎重に判断 する必要がある.今回我々は,重症肺炎に対して人工呼 吸管理を開始したが,経過中人工呼吸器関連肺傷害

(ventilator associated lung injury:VALI)に関連した 気胸を合併したために呼吸状態が悪化した患者に対し て,ECMOを導入することで救命できた 1 例を経験した ので報告する.

症  例

患者:63 歳,男性.

主訴:発熱,呼吸困難.

既往歴,家族歴:特記すべき事項なし.最近の歯科受 診歴なし.

生活歴:喫煙 20 本/日×43 年,飲酒 ビール 1,000 

ml/日.

現病歴:2013 年 6 月上旬,発熱と頭痛を自覚したため 近医を受診し解熱薬を処方され帰宅した.受診 2 日後,

頭痛は軽快傾向にあったが解熱はせず,食事量低下や安 静時の息切れも出現したため当院救急外来を受診した.

来院時 40℃の発熱を認め,経皮的動脈血酸素飽和度

(SpO2)も酸素 2 L/min 吸入下で 92%であった.血液検 査では炎症所見の上昇を認め,胸部X線写真上は右側優 位に両側下肺野で浸潤影を認めたため,肺炎の診断で同 日加療目的に入院となった.

入院時現症:体温 40.0℃,血圧 75/45 mmHg,脈拍数 93 回/min,呼吸回数 24 回/min,SpO2 92%(酸素 2 L/

min 吸入下).両側下肺野で吸気時に coarse crackle を聴 取.そのほか頭頸部,腹部,神経学的所見で特記すべき 所見はなし.齲歯も認めなかった.

入院時検査所見(表 1):白血球数,C 反応性蛋白(C- reactive protein:CRP)の上昇,血小板数の低下を認め,

軽度の肝障害,腎障害も認めた.動脈血液ガス分析でも PaO2の低下を認めた.Systemic inflammatory response  syndrome(SIRS)score は 3 点.

入院時胸部 X 線写真(図 1a):両側下肺野で浸潤影を 認めた.

入院時胸部CT写真(図 1b):右下葉全体・右上葉S2・

左下葉 S9/10 に広範囲に air bronchogram を伴う浸潤影 を認め,肺炎の所見と考えられる.全体的に肺野は気腫 性変化が強く,肺尖部にはブラ(bulla)が多発している.

心エコー所見:左室駆出率 58%,壁運動は正常,下大 静脈はやや拡張しており呼吸性変動は乏しかった.疣贅 や弁膜症の所見なし.

●症 例

体外式膜型人工肺にて救命しえた難治性気胸合併重症肺炎の 1 例

河口 知允

,

    山本 悠造

,

    林谷 俊児

    小島 雅之

    出水みいる

,

要旨:症例は 63 歳,男性.肺炎の診断で入院となり,入院後呼吸不全が進行したため人工呼吸管理を開始 した.その後右気胸を併発し胸腔ドレナージを施行したが改善せず,呼吸状態が悪化したため体外式膜型人 工肺(ECMO)を開始した.ECMO開始後,呼吸状態は安定し肺炎も抗菌薬投与により改善したが気胸に関 しては胸膜癒着術を行うも改善せず,ECMO 装着下に外科手術を施行した.術後経過は良好で術後 ECMO を離脱し,人工呼吸器も離脱した.今回 ECMO により救命しえた難治性気胸合併重症肺炎の 1 例を経験し たのでここに報告する.

キーワード:体外式膜型人工肺(ECMO),難治性気胸

Extracorporeal membrane oxygenation (ECMO), Intractable pneumothorax

連絡先:河口 知允

〒806‑0034 福岡県北九州市八幡西区岸の浦 1‑8‑1

 独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)九州病院 呼吸器内科

福岡赤十字病院

九州大学大学院医学研究院付属胸部疾患研究施設

独立行政法人国立病院機構大牟田病院呼吸器科

(E-mail: [email protected]

(Received 14 Feb 2015/Accepted 10 Jul 2015)

(2)

入院後経過(図 2):入院後肺炎に対してはセフェピム

(cefepime)投与を開始し,血圧の低下も認めていたため 当直医の指示によりドパミン(dopamine)が開始され た.第 2 病日には酸素化が悪化し,血圧も低下した.敗 血症性ショックの合併を認めたため集中治療室(ICU)入 室後人工呼吸管理を開始するとともに,約 4,000 ml の輸 液とノルアドレナリン(noradrenaline)投与を開始して 呼吸・循環管理を行った.呼吸管理に関しては Puritan  Bennett 840(COVIDIEN JAPAN)を使用し,当初は SIMVモード,従圧式,FiO2 0.7,呼気終末陽圧(positive  end-expiratory pressure:PEEP)8 cmH2Oと設定し,補 助吸気圧は一回換気量が 8 ml/kg を超えないように適宜 調整し,最大吸気圧も 30 cmH2O 以下であった.この条 件下で PaO2/FiO2(P/F)比は 90 mmHg前後と Berlin 定義における severe ARDS の状態であった.同日夜間 には P/F 比が 70 mmHg台まで低下したため BILEVEL

モード,FiO2 1.0,PEEPhigh 27 cmH2O,PEEPlow 0 cmH2O へと変更した.このときの 1 回換気量は 6 ml/kg 以下で あり,最高気道内圧も 30 cmH2O 以下で推移した.肺炎 に対してはレボフロキサシン(levofloxacin)とドリペネ ム(doripenem)に変更し,その後入院時の血液培養で グラム陽性球菌が検出されたためリネゾリド(linezolid)

を併用したが,後に と判明

したためリネゾリドは中止した.第 3 病日目に右気胸を 発症(図 3)し,24 Frの胸腔ドレーンを挿入したが十分 な肺の拡張を得られず,エアリークは持続し酸素化も悪 化した.その後 2 本の 24 Fr ドレーンを同側に追加挿入 したが,肺の拡張は得られず皮下気腫も拡大した.第 4 病日には P/F 比が 55 mmHg にまで低下したため,人工 呼吸管理と胸腔ドレナージだけでは酸素化を保てないと 判断し ECMO 導入を検討した.血圧はカテコラミン使 用下で収縮期血圧 120 mmHg前後と安定しており,心エ 表 1 入院時検査所見

血算 生化学 免疫

WBC 9,400/μl TP 5.4 g/dl CRP 31.36 mg/dl

RBC 414×104/μl Alb 1.8 g/dl Procalcitonin >10 ng/ml

Hb 13.4 g/dl BUN 37.3 mg/dl

Plt 24.7×104/μl Cr 1.23 mg/dl 動脈血液ガス分析

T.Bil 0.51 mg/dl (O2 2 L/min, nasal cannula)

凝固系 AST 89 U/L pH 7.498

PT 60.6% ALT 74 U/L PaO2 64.2 mmHg

PT-INR 1.33 LDH 462 U/L PaCO2 24.8 mmHg

APTT 42.6 s ALP 200 U/L HCO3 19.1 mmol/L

Fibrinogen 594.8 mg/dl γ-GTP 13 U/L SaO2 92.7%

D-dimer 8.8 μg/ml Na 125.9 mEq/L ABE −2 mmol/L

K 4.86 mEq/L Cl 91.8 mEq/L Ca 8.2 mg/dl

a b

図 1 (a)入院時胸部 X 線写真.両側下肺野に浸潤影を認める.(b)入院時胸部 CT.両側下葉に気管支透亮像を伴うコンソリデーションと周囲の浸潤陰影を 認める.

(3)

コー検査上壁運動異常を認めず左室駆出率も 50%と比 較的保たれていたため,v-v ECMO を導入することとし た.両側大腿静脈を送脱血部位とし,19.5 Frのカニュー レをそれぞれ挿入しECMO(Terumo LX)を開始した.

ECMO 導入後の人工呼吸器設定は SIMV モード,従圧 式,補助吸気圧は 8〜10 cmH2O,PEEPは 8 cmH2Oに設

定した.この条件で P/F 比は改善し,ECMO 導入以降 は過度な気道内圧をかけずに呼吸管理を行うことができ た.ECMO の設定は当初血液流量 3.0 L/min としたが,

脱血不良となったため,翌第 5 病日に脱血部位を右大腿 静脈,送血部位を上大静脈に変更し,以降は 3.0 L/min の血液流量を保つことができた.肺炎に関しては抗菌薬 による治療を継続し,炎症所見・画像所見と改善を認め たが,経過中急性腎障害を併発したため血液透析(hemo- dialysis:HD)を計 6 回施行した.

気胸に関しては ECMO 導入後ドレーンからのリーク 量は減少した.第 5 病日,第 8 病日に胸部X線写真上肺 の拡張を得られたのを確認したうえで,50%ブドウ糖液 による胸膜癒着術を試みたが成功しなかった.また第 14 病日にはドレーンからのリークが自然に止まったた め,翌第 15 病日にクランプテストを行ったが再虚脱し た.内科的治療だけでは気胸の改善を得られないと判断 し,第 17 病日に ECMO 装着下で胸腔鏡下ブラ切除を 行った.手術後はリークも認めなくなり,第 18 病日に ECMOを離脱し第 22 病日に人工呼吸器を離脱,第 24 病 日に ICU を退室した.

考  察

本症例は重症肺炎に対する人工呼吸管理中に難治性気 胸を合併し ECMO の導入を行ったことで救命しえた 1 図 2 入院後臨床経過.

図 3 入院後第 4 病日の胸部 X 線写真.気管内挿管後.

胸腔ドレーンを右肺に 3 本挿入しているが右肺の虚脱 を認め,両側に著明な皮下気腫を認めている.胸水に よる両側下肺野の透過性低下を認める.

(4)

例である.

2009 年の CESAR study および H1N1pdm09インフル エンザ関連 ARDS 症例における ECMO の有用性が報告 されてから,急性呼吸不全に対して ECMO を導入した 症例は世界的に増加している1)2).ARDSに関しても 2012 年の Berlin 定義で治療管理の選択肢として ECMO が提 唱されている3)4).ECMO の適応については 2010 年に Extracorporeal Life Support Organizaiton(ELSO)のガ イドラインが改訂されており,導入にあたっての一つの 指標となっている.その内容は,① FiO2>0.9 で P/F 比 80 mmHg以下かつ Murray スコアが 3〜4 点,②喘息や 高二酸化炭素血症により PaCO2>80 mmHg となってい る症例(プラトー圧≦30 cmH2O),③重症エアリーク患 者(気胸,縦隔気腫,肺気腫)が ECMO の導入基準と されており5),このガイドラインに照らし合わせると本 症例のような難治性気胸により呼吸状態が悪化した症例 は ECMO 導入の良い適応と考えられる.

ARDS を含めた重症呼吸不全患者に対する人工呼吸管 理では酸素化を維持するために PEEP を高めに設定する 必要があるが,同時に VALI に注意を払う必要がある.

Gattinoni は ICU に入室した ARDS 患者のうち 48.8%で 気胸の合併を認め,気胸を合併しなかった群と比較して 死亡率も高値であったと報告しており6),ARDS におけ る気胸の合併は予後と関連があると考えられている.

Gattinoni は ARDS 患者における気胸と VALI の関連に ついて,PEEP 値,最高気道内圧,呼吸回数,一回換気 量などの人工呼吸器設定と気胸発症との間には相関はみ られなかったが,ブラの数とは相関を認めたと報告して いる.このことから今回の気胸の発症に関しては人工呼 吸器の設定そのものよりも,多発するブラの存在が大き く関与していたと考えられる.

報告例は少ないが,本症例と同様に人工呼吸管理中に 合併した気胸により呼吸不全が悪化した患者に対して ECMOを導入したことで救命できた症例7)8)や,難治性気 胸に対して ECMO 導入下で手術を行い救命できた症例 も認められており9)10),ELSOのガイドラインにもあるよ うに重症エアリーク患者は ECMO の導入の良い適応と 考えられる.本症例においても ECMO を導入したこと で P/F 比は 150 mmHg前後まで改善し,安定した条件 下で基礎疾患の加療を行うことができた.ECMOは,本 症例や先に述べた H1N1pdm09インフルエンザ関連 ARDS 症例などのように,人工呼吸管理だけでは酸素化 を保つことができない重症呼吸不全の患者において基礎 疾患の治療を行い呼吸障害が回復するまでの時間稼ぎを しつつ,VALI を最小限にすることがその臨床的な意義 であると考えられている11).今回,ECMO 導入を行った ことで酸素化が改善しただけではなく,人工呼吸器の設

定において最高気道内圧,プラトー圧,PEEP のいずれ も導入前より軽減することができ,その結果ドレーンか らのリークを減少させることができた.これは ECMO を導入することで酸素化が改善し,PEEP や補助吸気圧 を減少させる「lung rest」の状態を作り出すことができ たためと考えられる.今回はリーク減少に伴い胸膜癒着 術などの内科的治療を試みたが気胸は改善せず,肺炎改 善後に ECMO 導入下でのブラ切除術を必要とした.先 述した報告の 2 例は ECMO 導入後に保存的加療で気胸 の改善を認めており,ECMOの導入は酸素化の改善だけ ではなく,人工呼吸管理中に発生した難治性気胸の治療 という点からも臨床的意義があったと考えられた.

本論文の要旨は,第 71 回日本呼吸器学会九州地方会(2013 年 10 月,福岡)にて発表した.

著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容に 関して特に申告なし.

引用文献

1)Peek GJ, et al. Efficacy and economic assessment of  conventional ventilatory support versus extracor- poreal membrane oxygenation for severe adult re- spiratory failure (CESAR): a multicentre ran- domised controlled trial. Lancet 2009; 374: 1351‑63.

2)Australia and New Zealand Extracorporeal Mem- brane Oxygenation (ANZECMO) Influenza Inves- tigators; Davies A, et al. Extracorporeal membrane  oxygenation for 2009 influenza A(H1N1) acute re- spiratory distress syndrome. JAMA 2009; 302: 

1888‑95.

3)The ARDS Definition Task Force. Acute respirato- ry distress syndrome: the Berlin definition. JAMA  2012; 307: 2526‑33.

4)Niall DF, et al. The Berlin definition of ARDS: an  expanded rationale, justification, and supplementa- ry material. Intensive Care Med 2012; 38: 1573‑82.

5)Extracorporeal Life Support Organization. Guide- lines. http://www.elso.med.umich.edu/Guidelines.

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(5)

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11)市場晋吾,他.重症呼吸不全に対する extracorpo- real membrane oxygenation(ECMO).日集中医誌  2014; 21: 313‑21.

Abstract

A case of severe pneumonia complicated with intractable pneumothorax managed by using extracorporeal membrane oxygenation

Tomonobu Kawaguchi

a, b

, Yuzo Yamamoto

b, c

, Shunji Hayashidani

b

,   Masayuki Kojima

b

 and Miiru Izumi

b, d

aDepartment of Respirology, Japan Community Health Care Organization Kyushu Hospital

bFukuoka Red Cross Hospital

cResearch Institute for Diseases of the Chest, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University

dDepartment of Respirology, National Hospital Organization Omuta National Hospital

A 63-year-old man presenting with fever was admitted to our hospital with a diagnosis of pneumonia. How- ever, his respiratory condition worsened after admission, and he was intubated and put on mechanical ventila- tion. His condition was further complicated by a right-sided pneumothorax identified on the day following intuba- tion. Three chest tubes were inserted through the intercostal spaces; however, the pneumothorax did not  resolve, and the hypoxemia worsened. The patient was then placed on extracorporeal membrane oxygenation 

(ECMO), following which the hypoxemia improved. However, the pneumothorax did not improve, despite re- peated pleurodesis. We then performed an ECMO-assisted bullectomy. After the operation, the patient was  weaned from ECMO and mechanical ventilation. This case indicates that ECMO is an effective way to support  patients diagnosed with severe hypoxemia along with intractable pneumothorax who fail to respond to conven- tional ventilation strategies.

参照

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